【 I'm loving you. 追憶
】 1話
あの場所にもあれ以後 足を運ぶことはなかった。
その代りいつからか屋上に
…
月日も流れ夜空を仰ぎながらふとあの場所が気になりだしていた。
それから数日後 手術が終わりエレベーターに
…
珍しく誰も乗っていない。
乗り込み屋上の階ボタンの上で指ががとまった。
指が移動し1階の階ボタンを押していた。
自動販売機でコーヒーを買い うつむき加減にゆっくり足を運んだ。
その場所が視界に …
足が止まった。
人影はなかった。
ゆっくりたどりつくまでに もしかして彼女がと
…
2-3回 軽く横に首を振り重い足を運んだ。
彼女の指定席の前にしばらくたたずんでいた。
私の指定席に腰をコーヒーをひと口。
冷めていた。
以前はコーヒーを飲みほしてから煙草に火をつけたが
ベンチにコップを置きたばこに火をつけた。
次々と
…
千代紙の裏に書かれた文字を …
彼女の病室で過ごした静かな時間
…
を 頭を駆け巡った。
交わした会話は少なかった。
私が彼女に話したというのは あ目玉がらみの話ぐらいだ。
小学校入学前まで のどにつかえてはと小さくくだかれ食べていたこと。
小学校入学がまじかになったある日もう小学に通うのだからと
…
数か月は口の中であ目玉との格闘の話をすると彼女はくすくす笑った。
雨の日に母とよく縁側であ目玉を食べたこと。
広めの縁側で雨の日 私はよく外を眺めていた。
その姿を見ると母はきまったようにお盆にあ目玉の入ったガラス壺をのせ、
「
あ目玉食べようか?
」
と、 声をかけてきた。
母はいまだに勘違いしたままだと思う。
私が雨で外に出かけられないから気落ちして外を眺めていたのだと
…
そうではなかった。
私は雨の日は嫌いではなかった。
心が落ちついた。
好きかといわれると微妙だが、
行動が制限されるから落ちつくからかもしれない。
縁側に面した庭の景色が好きだった。
木々の葉の汚れを奇麗に生まれ変わっていくようで
…
雨が木々や地面に跳ね返り地面にできた小さな水たまり。
木々の葉にたまった雨が満タンになりこぼれゆく様子。
時として小さな生き物の訪問者も
…
ある日、 いつものようにベットの端にふたり並び
ガラス越しに明かりが徐々に少なくなる景色を見ながら
彼女は、ゆっくりしたテンポで身の上話を
…
私はガラス越しの景色をただたまって眺め
時々 外に目線をむけて淡々と語る彼女の横顔を
ちらっと眺め聞いていた。
彼女が小学校に上げる前 医師である父は ほとんど家に帰ってこなかった。
父の仕事が理解できない母が彼女を連れて実家に帰ったらしい。
実家に帰った母はほとんどを床に伏せる生活が続き
気分のいい日にはいつも編み物をしていたと話た。
何を編むということではなく 魔物に取りつかれたように
ただひと目ひと目毛糸を針に絡ませ編む動作を
…
彼女に編み方を教えながら 口数は少なかったが
話しをながら並んで編んでいた日々もあったようだ。
そんな月日はあまり長く続かなかったと
…
ず~っと食事もしないで編み続けるようになったらしい。
いろいろな色の毛糸を祖母が揃え与えていたが、おかしな行動に気づいた。
毛糸がある限り義務感のように編み続けているのではと
…
その後は、 1日ひと玉づつを与えていたという。
その頃の母は、精神的に壊れていたのだと語った。
そんな日々が1年余り続き
体力も低下し、高熱が続き回復しないままに他界したそうだ。
それ以後編み物をすることはなかったらしいが、
この病気で母から習った編み物がまさか役に立つとは思わなかった。
と、 苦笑していた。
祖父母は健在だが今回の彼女の入院でひとまわりもふたまわりも
小さくなりその姿に胸が痛むと涙しながら話した。
祖父母も医師で彼女の病状は把握していただけに
必死で耐え忍んでいるのがよくわかると
…
私は、胸が張り裂ける思いで込み上げてくるものをおさえた。
母の葬儀にも姿を見せなかった父との再会は
彼女が医大に入り父の講義で14-5年ぶりに会ったらしい。
父が彼女に気が付いていたかはいまだ定かでは
…
父の講義を受ける時は後ろの片隅に席をとったといっていた。
講義はほとんど耳に入らず父のちょっとしたしぐさを見逃さなかったという。
あとで知ったのだが、彼女の父は私の尊敬する恩師で
医師としての技術 生きざまを多く教えられた。
縁というか運命を感じた。
忘れなぐさの花は庭に咲いていたものらしい。
彼女と母が父と暮らした家を出る時に
庭に咲いていたものを植木鉢で持ちかえり庭に植えかえたものらしい。
私が一度忘れな草を差し入れした時
気がつあなかったがすでに部屋にはあったようだ。
それ以後庭に咲いている花が欠かされることがなくいつも飾られていた。
気がつくと足元にはかなりたばこの吸い殻が
…