【 I'm loving you. 追憶
】 7話
男女の年配者は 私の前で深々と頭を下げ
案内されてきた黒い衣の人に挨拶をし その者は立ち去った。
彼女の祖父母だった。
墓地の管理者から連絡がいったらしい。
毎日墓前に1日中 男の人が通ってきているという連絡が入り
もしやと思い来たと話した。
おもに祖父が話 その横でず~っと涙する祖母。
祖母は話し出すと声にならず
私も何度もこらえきれず涙が目から流れだした。
娘を見送りその上 孫までも…
旅立つのは私たちから
…
見送るのは娘たち
…
神様もルールは守ってくれずこんなむごいことを私たちにと嘆いていた。
間で 管理事務所の方から折りたたみの丸椅子と
簡易テーブル お茶と少しのお茶菓子が運ばれてきた。
これは野外での便利グッズだと思った。
多分 墓前での法要で使われるものだろ~
一日 数時間というのはあるが 毎日1日中というのははじめてで
先祖代々の檀家様で手違いがあってはと
報告を兼ね連絡を入れたと弁明していた。
祖母の目線があ目玉に行っているのに気がつき
私は彼女が折った折り鶴の裏に書かれた文字を思い浮かべた。
「
あの時あげればよかった。」
瓶からお皿に出していたあ目玉を黙って祖父母の前に差し出した。
祖父母はお互いに顔を見合わせ
祖母は赤いイチゴ味 祖父は黄色いレモン味。
ひとつずつ口に入れた。
あ目玉を口に収め しばらくは話が途切れたが その後も話は尽きない。
長く積み重ねた人生を過ごし歩んできた月日を
古い順番にひも解いていくかのように 一定のリズムで静かに語られていく。
私はただ黙って聞き入っていた。
気がつくとまわりは薄暗くなり
祖父母がその場をあとにする前に花がらの数冊のノートが手渡たされた。
最初の告知から綴られているとつけくわえられ
ノートは 祖父母のもとに戻さなくていい。
読まれても読まれなくても私に始末をお願いしたいと言い残した。
先ほどまで同じ方かと思うぐらい凛とされ 祖父が私に向かって
「
このように孫の事を忍んでまた大切な貴重なお時間を
なんて申していいやらありがたい限りです。
しかし、われわれは過ぎた時間(とき)を思い
なつかしがり過ごす日々
あなた様はまだまだこれからのお方。
誰も知りえない 輝かしい時間(とき)が刻まれていくでしょ~
今回の夏休みをすべて孫にいただいた時間を最後にと願っています。
是非そうしていただきたい。
本当にありがと~ 」
と、 私の手を包み込み 深々と頭を下げられた。
その時は さみしい気持だけが重くのしかかったが、
祖父母の後姿を見送りながらありがたい言葉に変わった。
そうだな~ 今すぐでなくても考えてみよ~ と …
墓地の入口までお見送りをさせていただこうか
それともこの場を早く切り上げ
車でお送りさせていただこうかと迷ったが
少しでも多くの時間を共にすればするほど
別れがつらくなると思い 彼女の前で見送った。
祖父母の後ろ姿が見えなくなるまで見送った私は
すぐにその場をあとにすることができなかった。
ただ、何を考えるということもなく呆然と …
タバコに火をつけ数本吸い
すっかりあたりは暗くなり我に返り携帯を取り出した。
今から急いでもフラワーショップの閉店の時間には間に合わない。
少し戸惑ったが今日はいけそうのないと告げた。
何かを悟ったのか 店のシャッターは下ろしているが
中で片づけや明日の用意をしている。
外から電話をかけてくれればと言ってもらえた。
ありがたくそうさせてもらうことにした。
やはり閉店時間より1時間近く過ぎて店の前から電話を入れた。
すぐにシャッターが開けられ 代金は明日一緒でいいと
忘れな草の花束を渡された。
車のエンジンをかけ 店の前で見送る彼女に会釈した。
発進しかけたがエンジンを止め 車からおり
再び彼女が立っている店先に …
仕事は終わられましたか? お食事は
… と声をかけた。
仕事は終わっていた。
食事はまだだった。
私もまだだから今から知人のレストランに寄るが一緒にと誘った。
少し戸惑っている様子が伝わってきた。
私と二人ではない。 気さくな友達も一緒です。
と、 つけくわえた。
すぐには返事が返ってこなかった。
私も言ったもののい心地が悪くなり、どうしたらいいものか
戸惑っていたら、
彼女が帰り仕度をし、戸締り等をしてくるから
しばらく車で待っていてほしいと言い残し店に入って行った。
彼女は自分の車で 私の車の後ろからついてきた。
時々ミラーに映る彼女に目が行った。
今まで真正面から眺めるということがなかった。
フラワーショップの店内で会うから彼女だとわかるが
街中であってもすぐには彼女だとわからないだろ~
ミラーの中のフラワーショップの彼女を眺めていると
後ろから彼女が運転してついてきているかのように錯覚した。
よくよく考えるとどこかしら雰囲気が彼女に似ているように
…
愛想うもよくない 色白で線の細い
しかし自分というものを持っているような感じが彼女と重なった。
車の中から先輩に電話入れた。
少しお遅くなったという詫びと
今晩はひとりではなく お世話になっている方を
お連れすると連絡を入れた。
レストランの駐車場に到着し車からおり
後ろからついてきた彼女を迎えた。
少し彼女の様子がおかしいように思えた。
店の外の明かりは薄暗くなっていた。
最終オーダーが終了した段階でクローズの札を出し
最後のお客様が帰られたら時点で閉店していると 昨夜聞いた。
薄暗い店内に入ると店員が ライトアップされた中庭に面した
明るく照らされているテーブルに案内された。
ただいまオーナーが来られますのでと言い残し店の奥に入った。
「
おお~ 来たか。
」
と 少し離れたところから手をあげ 声をかけてきた。
私は中庭を背に先輩に手を上げ少し口元をゆるめた。
彼女に目線をやるとやはり落ちつかない様子で
明らかにおかしい?
先輩がテーブルに近づき
私が席を立つと彼女もうつむき加減で席をたった。
先輩が私の横の席の横に立った瞬間 フラワーショップの彼女を見て
「
どうして君が … 」
と 驚いている様子だ。
先輩のその言葉で私も驚いた。
どうして?
先輩とこの女性が知り合い?
しかし、 先輩らしくない。
そわそわし 頭に手を
…
なんだか二人がおかしい?
すると私の横にいた先輩が
「
まあ~ とにかく すわろ~ 」
と 私の横の席ではなく彼女の横の椅子に座った。
驚くのはそれだけではなかった。