【 I'm loving you. 追憶
】 9話
彼女は弱弱しい声で
「
ありがとうございました。」
彼女の言葉に驚いた。
先輩が
「
どうしてありがとうなの? 」
彼女はそのあとに他界した彼女の名前を口にした。
私はどうして
…?
目の前にいる女性が彼女の名前を
…
私は絶句した。
私の様子で 彼女は口にした名前に私が反応を示し
確心したのか静かに語りだした。
「
いとこなんです。
いとこが他界して 最近やっと祖父母と私で
荷物の整理をしかけました。
私たちは ここ数年 ただかわいそうにと嘆くばかりでした。
しかしいとこはそうではなかったのですね。
本当にありがとうございました。」
その時は頭を下げたが それまでの彼女は私に視線をむけ
その視線が私には耐えがたいものだった。
私はテーブルに両ひじたて 両手のひらを顔にあてがえたり
指を組み口もとへ
…
そんな動作を繰り返しながらうなじを垂れていた。
「
他界する直前まで書き込まれてた数冊のノートが残されていました。
いとこが呼んでいたように 『 先生
』 と呼ばせていただきます。
本当に数週間前にいとこと先生のこと知りました。
それでは今日ひょっとして祖父母達が …
」
私は2-3回うなずき
「 はい
… 」
とだけ答えた。
「
私たちの母親が姉妹で
いとこの母親は離婚して祖父母のところへ帰ってきました。
私の家族 両親と私は 祖父母の家と隣接していて
いとことは姉妹のように過ごしました。」
彼女は先輩にむかって
「
こちらのお店にいつも二人で食事にきていたあの … 」
「
えっ!」
先輩には彼女とのことは詳しく話していない。
まわりまわり私がつらい立場にいることは
それとはなしに耳には入ってはいたらしい。
今回の振る舞いで先輩はさらりと受け止め
私が夏休みをとり こういう行動に出たということは
それなりの結論を私なりに出したと理解して
先輩のやり方で私への思いやりがありがたかった。
しかし、 オーナーである自分の店にお客様として
いや他のお客様とは違い好意を持ったお客様の相手私の
…
そのうえ横に座るその女性が …
明らかに先輩はパニック状態!
「
あの女性がお前の … 君の
… えっ! … 」
先輩は姿勢を変え人差し指を私と彼女を行ったり来たりさせ
「
えっ! ああ~ そうなの~ 」
指は下ろされひと口お水を飲み
「
ず~っと気になっていたんだ。
いつも引っかかっていたんだ。
いつのころからか君達もこの店で食事しなくなったし
…
あの女性がお前の … 」
「 いとこの知人から
『
あなたが気にいるお店見つけてあげたよ。
是非いきなさい。』
度々行ったかと聞かれ、
とにかく1度行こうと私を誘い それからご存じのように
…
遅い時間帯 女性同士でも安心して食事ができ
くつろげるところってなかなかなかったので
…
忙しい、 いとこが仕事を終え フラワーショプに立ち寄ると
必ずこちらへ行こうとどちらともなく楽しみでした。
お料理も雰囲気も
いとこは特に
耳触りのいい音量で流れる
BGM の選曲も気に入っていたようです。
あの日はいとこの49日法要のあと
祖父母が親しくしていた老舗の料亭で席が用意されていました。
そのお店に行く道中 このお店の前を通り
私といとこがこちらに来ていた事を話しました。
いとこのお気に入りのお店だったと話すと
急遽用意されていた席をキャンセルしてこちらへ
…
その後も 法事のあと必ずこちらにと話は出るのですが
私がお得意先でもあるしお店にご迷惑をかけるからと
理由にならない理由をつけて
… 」
彼女は淡々と話しているが
やはり胸を突き上げる物があるのか
言葉の語尾が聞き取れない。
「
そんな気を使わないでください。
次からはお店を使ってください。
分かりましたね。 いいね。」
と 先輩は念押しして
「
こいつも仕事が仕事だからあてにはできないが
時間が空いていたらきっと参加しますよ。 なあ~ 」
と 私に問いかけた。
「
私にはもう少し時間が必要のようです。
親戚のものとこちらのお店でいとこがいないディナーは
…
でも今日はこちらでお食事という事をしらないで
お店の前に車が停車した時には一瞬迷いました。
でも、先ほどまでは 1度もいとこのことは思いだすことなく
楽しく おいしくいただかせていただくことができよかったです。」
先輩と彼女の話声が
遠くで話されているような感じで聞こえ上の空だった。
私の車の後ろからついてくる彼女をミラー越しに彼女を意識した時
何度も彼女と重なり合ったのはそういうことだったのかと
今回こうして席を共にしたのも先輩を含め
彼女が引き合わせたのだと感じていた時
「
偶然ではなく いとこが引き合わせたのですね。」
と 彼女が口にした。
先輩も少し興奮気味に
「
そうだ。 そうだよ! おかしいよ~
最初にも話したが二人の性格は僕がよく知っている。
君たちの行動にしてはおかしいと思った。 」
先輩にしては珍しく動揺した口調で話った。
それぞれの思いが巡るなかで長く沈黙が続き
先輩が
「
飲も~ 」
そう言って前に並んだ食器を手に持ち席を立った。
私と彼女は席を立たなかった。
立つことができなかった。
食事のあとのように食器は多くはなかったが
先輩が何度かテーブルとキッチンを行き来した。
ワインとグラスをテーブルに
…
それすら私も彼女もただ眺めているだけで
先輩がそれぞれの手にグラスを持たせ
先輩のグラスがそれぞれのグラスに
軽くふれたが私はそのグラスをテーブルに戻し
「
すまない。 これで失礼するよ。」
後ろから先輩の声が
…
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