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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 13 HIT数 7689
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 10 愛してるだけじゃだめなんだ 後編
本文

   秘密 10  愛してるだけじゃだめなんだ 後編

 

 

 


「優ーー! 久しぶり~! 元気だった?・・・少し痩せたんじゃない?

 それに、真っ白・・。かわいそー、海にも行けなかったの? 

 大変ね、女優さんは。」

 

9月になって最初の大学での受講日だった。

久しぶりに会った友人の北城奈美が賑やかに声をかけてきた。


「奈美は日に焼けてるわね。 どこか旅行でもしてきたの?」

優は眩しそうに奈美を見た。


「そ、彼と・・・沖縄に行ってきた! 

 海がきれいだったから、ずっとビーチで寝転んでいて

 そしたらこんなに日に焼けちゃって。 ああ、シミができたらどうしよー!」

奈美は大げさに叫ぶと両手で顔を覆った。


「・・いいな、奈美は 彼と旅行なんてーー。 羨ましい・・。」

優はそう言うと微笑んだ。


「何言ってるのよ! その彼がね、頼りなくって・・。

 もっとしっかりした大人だと思ってたのよ。

 それが・・何だか甘えん坊で・・。

 朝もなかなか起きないし・・食べ物の好き嫌いが多くて・・

 もう幻滅よ! 同じ歳の男の子なんてまだまだ子供なのよねーー!」


奈美の話が面白くて、優はくすくす笑い出した。


同じ二十歳の女の子なのに 

どうしてこんなに違う夏休みを過ごしたのだろう。

 

「文句ばかり言ってても 好きな人と一緒に過ごせたんだからいいじゃない?」

優の言葉に奈美は目を丸くする。


「でもねーー。わたしはもっと頼れる大人の彼がいいのよ!

 ・・・あ・・・噂をすれば・・すご~く頼れそうなオトナの男性が歩いてきたわ・・

 でもちょっと年上過ぎるかな。

 
 ・・・深沢先生! おはようございまーす!」

 

優ははっとして顔を上げた。


前方から潤が歩いてくるのが見えた。


白いシャツとベージュのジャケット・・相変わらず清潔で颯爽としている彼に

優は胸の高鳴りを抑えることができなかった。

 

二人の視線がぶつかる。


・・・がすぐに 潤はそっと目をそらすとうつむき加減に静かに言った。

 

「・・・おはよう・・・。」

 

潤はそのまま振り返ることもなく歩いて行った。

 


その後姿を見送っていた奈美は呟いた。


「・・・ふ~、相変わらずクールねーー!・・大人ってカンジだわ~!

 ね・・優は 年上の男ってどう思う?

 優・・?・・どっ、どうしたの! あなた、顔が真っ青よーー! 

 気分でも悪いの?」

 

「う、ううん。・・何でもない・・・大丈夫。

 ・・・何だか日差しが暑くて・・・・。」


優はそう言うと黙ったまま歩き出した。

 


    ・・・胸が・・速くて・・痛い・・・。

 


   ・・・やだ・・。潤先生の顔を見ただけなのに・・・

 
                

 

優は胸の鼓動を沈めようとぎゅっと手で押さえた。

 


     でも・・先生は・・顔色も変えなかった・・。

 

     わかってる・・。 潤先生は大人なんだものね・・。

 


優は立ち止まるとふいに空を見上げた。


悲しいくらいに澄み渡った青空だった。

 

 

     潤先生・・・。  わたしは・・いつまで考えればいいの?


       どんなに考えても 潤先生への思いは変わらないのに・・。


        先生は・・わたしと離れてても平気なの?

 

        ・・わたしたちは・・このまま終わってしまうの・・・?

 

          そんなの・・・絶対・・いやよ・・・・!

 

 

 

 

   ――――――――

 

 

 


「・・あなたは・・優のマネージャーの・・。」

潤は突然の訪問客に驚いた。

 

「・・桐原です。突然、お伺いして申し訳ありません、深沢先生。」

恭子はそう言うと小さく会釈をした。

 

「いえ、どうぞお座りください。」

潤がソファの方に手を差し伸べると、恭子は背筋をピンと伸ばし脚を揃えて座った。

グレーのタイトスカートからすらりとした脚が覗いている。

 

「・・コーヒーでもいかがですか?」

 

「いえ、どうぞお構いなく。すぐ失礼しますから。」

 

「ちょうど今、飲もうと思っていたところなんです。

 だから付き合ってください。」


潤の落ち着いた低い声が 押し付けることなく静かに心地良く響いてくる。

 


大学の研究室の窓から夕日が差し込んでくる。


部屋の中に入り込んだ翳りを帯びた光は潤を照らし 

彼の髪をオレンジ色に縁取っている。

はっとするほど端正な横顔は少しうつむき加減にどこかを見ている。

 


     ・・・・・・・・・・・・・


            ・・・・・・・・・・

 


   ・・・これは・・・その辺の俳優よりずっといけてるかも・・

        それに・・知的だし・・何と言っても品があるわ・・・。

 

職業柄、恭子の視線は人を惹きつける潤の容姿に注がれていた。


手元にカメラでもあれば、思わずシャッターを切ってしまいそうだった。

 

ぼんやりとその美しさに見とれてしまいそうになった恭子は

慌てて自分を奮い立たせて口を開きかけた時だった。

 

 

「・・・あなたも今日は仕事が休みなんですか?」

恭子が言おうとする前に潤が聞いてきた。             

 

「え・・・?」

 

「・・優が・・彼女が大学に来ていたので。」

 

「ええ、そうです。 優と一緒にわたしも久しぶりに休暇を取りました。

 優は・・今月からは大学の方を優先したいと・・

 そのために夏休み中ずっと仕事をしてましたから。

 でも・・それだけではないわ。

 まるで何かを忘れようと必死に仕事をしてました。

 見てるこちらが辛くなるくらい・・無理をして・・。」


恭子はつい皮肉めいた口調になる。


潤は黙って恭子を見ている。


「・・それに比べて・・深沢先生はやはり・・大人ですわね。

 きっと以前と変わりなく平然と過ごしてらっしゃったのでしょう?」

 

「・・・そんなことありませんよ。」

潤は静かに答えた。

 

「そうかしら? あなたは落ち着いていて

 今日、優に会っても平静でいられたのでは?」

 

「・・いえ、そんなことは・・。

 
 ・・・白状すると・・。 ・・実は今朝、久しぶりに優に会った時

 思わず駆け寄って彼女を抱きしめたいと・・そんな衝動に駆られました。

 その時 僕は周囲のことも、ここが大学だということも忘れていました。

 でも・・何とか自分を抑えて思い止まりました。

 ・・・平静を装うのは大変でした。」


潤はそう言うと少し照れたように笑った。

 

「・・え・・・?」

恭子は潤の意外な言葉に驚いた。

 

「・・でも、あなたはおかしな人ですね。

 ・・あなたは 優と僕のことを反対してたのでは?

 なのに、なぜ 僕が平然としてることを非難するんですか?

 このまま僕が優から離れた方が あなたにとって都合が良いでしょう?」

 


「それは・・!」


恭子は思わず声を上げた。


「・・・そうです。・・深沢先生と優がこのまま別れてくれたら・・そう望んでいました。

 優のマネージャーとして今もその気持ちに変わりはありません。

 ・・・でも・・優が・・一生懸命で・・

 あなたに言われたとおりずっと考えてて・・いろいろ考えて・・

 優はあなたが言ったことの意味をちゃんとわかってるし

 真剣に受け止めてます。

 もっと他の若い女の子みたいに上手に適当にやればいいのに 

 それが出来なくて・・

 あなたに会いたいのに我慢してて・・本当にひたむきな子なんです。」

 

「・・・・・」

一瞬、黙ったままの潤の瞳が悲しげに曇った。

 

「・・深沢先生・・先ほどあなたはおっしゃいましたわ。

 優に会ったら平静でいられないと・・。

 ではなぜ、もっと強引に優をつかまえないの?

 優のことを本気で思ってるなら

 少し距離をおくなんてまどろっこしい事なんてしないで

 周りの反対なんて押し切って、あの子をご自分のものにしたらいいのよ。」

 

「・・過激ですね・・。それに矛盾している。」

興奮気味の恭子に反して あくまでも冷静な潤は苦笑いをする。

 

「そうです、矛盾だらけです。・・ほんとにもう・・わたし・・どうかしてるわ。

 でも、もうこれ以上・・あの子が泣くところを見たくないんです。

 優に本当の笑顔を取り戻してやってください。

 あの子は・・あなたと別れずにすむのなら 何でも言うことを聞くわ。

 あなたが女優をやめろと言えばそうするし、大学もやめてしまうかもしれない。
 
 なぜそこまでしてあなたのことを思うのかわからないけど

 優にとって・・あなたは全てなんです。・・あなただって気づいてるでしょう?」

 

恭子の言葉に潤の表情が変わった。

今度は平静でいられず 見る見るうちに苦痛でゆがんでいく。


潤は唇を噛み締めるとうつむいた。

 


「・・・深沢先生?」

 

「・・・わかってます。・・でも、それじゃ・・だめなんです。

 僕が言ったひと言で・・優の人生を変えてしまうのは・・だめなんです。        

 僕は 優の将来の夢を奪うことはできない。

 ・・・もう・・あんな思いはしたくない・・。

 僕のせいで優が不幸になるなんて耐えられない!」


それまで冷静だった潤が興奮して叫んだ。

身体の奥底から絞り出すような声が部屋の中で響いた。

 

 

そして 沈黙が続く・・・。

 

夕日が沈みかけて研究室の中に翳りを落としていく。

 

 


その時、潤と恭子は少しも気がつかなかった。


研究室の外で 思いがけず二人の話を聞いてしまった優がいたことを・・。


彼女は 少しでも潤の傍に近づきたくて 迷いながらもここまで来てしまっていた。


優は青ざめたままその場に立ちすくんでいた。

 

 

 

あたりには夕闇が近づいていた。

 










 









 














                              

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