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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357195/1894436
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 14 HIT数 8131
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 11 雨に濡れた人魚
本文

   秘密 11  雨に濡れた人魚

 

 

夜になって雨が降り始めていた。


車のワイパーがせわしなく動いている。


マンションの駐車場に入っていくと車のヘッドライトが人影を照らした。


・・・ひと目でそれが誰だかわかった。

 

「・・優・・・!」

潤は慌てて車から降りると彼女に駆け寄った。

 

「・・・潤・・せんせ・・い。」

傘も差さずに雨の中に立っていた優は ゆっくりと顔を上げた。

雨に濡れた優の髪から雫が落ちてくる。

 

「何してるんだ!・・こんなに濡れて・・!」

潤は自分のジャケットを脱ぐと、優の頭からそれをかぶせた。

 

「・・潤先生に会いたくて・・顔だけでも見たくて・・

 そしたら・・いつの間にかここに来てて・・。」

優はぼんやりと潤を見つめたまま声を震わせて言った。

 

「とにかく部屋に入ろう。・・このままじゃ風邪をひく・・。」

潤は優の身体を抱きかかえるようにして歩き出した。

 


   ・・・ああ・・やっぱり潤先生は優しすぎる人なんだ・・・


冷たい雨で濡れた優の頬に温かい涙が伝わって落ちた。

 

 

 

「部屋で待ってればいいのに・・鍵は渡してあったよね・・?」

マンションのエレベーターの中で 潤は優の肩を抱き寄せた。

びしょ濡れの優を見ているだけで 潤は胸が締め付けられるように苦しかった。

 

「・・だって・・しばらく会うのはよそうって言われたのに・・

 勝手に部屋で待っていたら・・先生に嫌われちゃうもの・・。

 ・・・遠くから見てるだけって思ってたのに・・雨が降ってきちゃって・・。

 ごめんなさい・・潤先生に言われたのに・・・守れなかった。・・・ごめん・・なさい・・・。」

優は消え入りそうな声で言うと悲しそうに睫毛をふせた。

 

「・・・優・・。」

潤は思わず唇を噛み締めた。

「・・君は・・なぜ・・そんなに・・・・・。」

 

優は顔を上げると潤んだ瞳で潤を見つめ、静かに微笑んだ。

 


「・・・潤先生は・・わたしの宝物なの・・。

 この世にたった一人しかいない・・大切な宝物なの・・・。


 ・・・だから・・失いたくない・・。」

 

 

 

 

    ――――――

 

 

 

「あれからずっと考えてた。・・でも・・何度考えても答えは同じなの。

 潤先生がいちばん大切なの。・・・女優よりも大学よりも・・。

 何か一つだけ選べと言われたら、迷わずに潤先生を選ぶわ。


 ・・・・こんなわたしは・・重い?

 潤先生には・・・負担なの? ・・・やっぱり・・だめなの・・・?」


優は声を震わせながら悲しげな瞳で見上げる。


脆い硝子細工のような鳶色の瞳。

 


潤は黙って 雨に濡れた優の髪をタオルで拭いている。


潤の部屋の中で、二人は立ったまま見つめあう。


ただ会いたくて 雨の中をたった一人で体を震わせていた優がそこにいた。

 


「・・・潤先生・・・?」

 

潤は手を止めて静かに言った。


「・・・負担・・じゃないんだ・・だめなんかじゃないんだ・・。

 本当は僕も優に会いたかった。・・でも、僕は臆病で・・

 僕が言った言葉で・・・あの時のように また・・誰かを不幸にするのが怖いんだ。」


潤の顔が苦痛でゆがむ。

 

「・・それって・・菜々子さんのこと・・?」


「あの日・・僕は菜々子に・・早く来いよ・・って言った。

 僕が菜々子を急がせた。・・・彼女はそのせいで事故にあって・・・そして・・・・・・。」


潤の目からひとすじの涙が零れ落ちた・・。

 

「潤先生・・・。」

優の瞳にも涙が溢れ出した。

 

「・・・病院で見た菜々子が忘れられない・・・彼女の死顔が頭から離れない・・・。

 もう・・6年も経っているのに・・・忘れられない・・。

 ・・菜々子は・・まるで・・眠っているのかと思うほど・・綺麗だった・・。

 でも 彼女の未来はそこで終わってしまった。

 ・・・自分でも嫌になる・・なぜ、僕はこんなに弱くて情けないのかって・・

 ・・・なぜ・・いつまでも菜々子のことを忘れられないのかって・・。


 でもだめなんだ。・・・僕は・・菜々子のように・・優の将来を奪いたくない・・・。」

 


潤が肩を震わせて泣いている。


あの時と同じ・・・彼は・・・声を押し殺し肩を震わせ泣いている。

 

 

 

 


   ―― お兄さん・・どうして泣いてるの・・? ――

 

   ―― ・・・大好きな人が死んだんだ・・・――

 

   ―― そうなの?・・・死んじゃった・・・の・・・・・? ――


   
   ―― どうして・・君まで泣くの? ――

 

   ―― だって・・お兄さん・・かわいそうなんだもの・・・

      かわい・・そう・・。


      ・・・・・でも・・泣かないで・・もう泣かないで・・・――

  

 

 

 

        
「・・潤先生・・泣かないで・・。」

優は声を震わせ潤を見た。 そう言う彼女の瞳も涙でいっぱいだった。


優はゆっくりと手を伸ばし、潤の頬に光る涙にそっと指を当てた。

そして 彼女の白い両手が潤の頬を包み込んだ。

 

「・・・泣かないで・・・もう・・泣かないで・・・・・・。

 菜々子さんが亡くなったのは先生のせいじゃないわ。

 菜々子さんだってそんなふうに思ってないわ。・・だって・・潤先生のことを愛した人だもの。

 きっと菜々子さんは潤先生に幸せになってほしいと思ってるわ。

 
 それに・・・潤先生は菜々子さんのことを忘れなくていいの。

 ずっと・・思ってていいの。

 先生は弱くなんかない。・・いつまでもひとりの人のことを思い続けてるんだもの。

 ・・・心に痛みを抱えて生きていく人は優しくて強い人なの。


 ・・わたしは・・そんな潤先生のことが好きなんだもの・・。

 菜々子さんのことを愛したから・・今の潤先生がいるの。

 ・・わたしは・・そんな先生に出会えてすごく幸せだわ・・。

 だから・・わたしは不幸になったりしない。


 潤先生は・・わたしの将来を奪ったりしないわ・・明るく照らしてくれるの。

 優しく穏やかに・・幸せいっぱいの未来に一緒に行ってくれる・・・。」


優は慈しむような穏やかな微笑みを浮かべていた。

 

「・・・優・・・。」

潤はぼんやりと優を見つめた。


優の言葉がゆっくりと静かに心の中に入ってくる。


彼女の温かくて穏やかな声が潤の心の闇をほのかに照らす。

 

優の涙で濡れた鳶色の瞳が潤を見つめ、そっと囁く。

 

「・・・潤先生を・・愛しています。」


彼女は彼の胸に身体を寄せて ゆっくりと両手で抱きしめた。

 


そして・・・もう一度 同じ言葉を繰り返した・・・。

 


「・・・愛しています・・・。」


   

 

 

 


   


優しい雨が降っている。


二人の心を雨が濡らして ほんの少しの隙間をうめていく。

 

 

雨で濡れた優の服が 一枚ずつ潤の手によって脱がされていく。


優は体を震わせながら不安げな瞳を潤に向ける。


潤は優の戸惑いを取り除くように彼女を抱き寄せて、両腕でやわらかく包み込んだ。


すでに二人はお互いの素肌の温もりを感じられる状態になっていた。


二人は 愛しい人を自分の体の一部分にしてしまおうとするかのように抱きしめ合った。


優の冷え切った体は 潤の逞しい胸の中で次第に温かみを取り戻していく。


潤の大きな手が優の髪を撫でて 透き通るような白い背中を滑り また頬に戻ってくる。


潤の熱い唇は優の額 頬 唇に移動して ほっそりとした首筋と肩にも降りていく。

 

そして・・・初めての場所にも 優しく撫でるように口づけを落としていく。

 

「・・・潤・・せんせ・・い・・。」

大きな瞳を閉じた優の睫毛が震えて 濡れた唇から切ない吐息がもれる。

 

「・・優・・・。」

潤は彼女の名前を呼ぶと 慈しむようにその瞼にキスをした。

 

「・・潤先生・・・わたし・・・・・。」

 

        ・・・・・こわ・・い・・・。

 

これから訪れるはずの・・・初めてのことを思い、優は不安で震えていた。


優は自分の心臓の音が潤にも聞こえてしまうのではないかと思った。

 


「・・・怖くないから・・・目を開けて・・。・僕を見て・・・。」


まるで、優の心の声が聞こえたかのように・・・潤は優の耳元で優しく囁いた。

 

彼の言葉に優は目をゆっくりと開ける。


眼鏡を外した潤はやわらかく微笑み、彼女を見つめている。


その目にはもう悲しみの色はなく 優を包み込むような深い海のような瞳だった。

 

   ・・・初めて見る・・世界でいちばん愛しい人の素顔・・・

 


その優しい眼差しに優の不安は消え 体中に心地よい温かみが溢れ出してきた。


そして 優も同じように微笑んで 手を伸ばして潤の顔を両手で包み込んだ。 

 


ベッドの上で二人の体が重なり合う。


戸惑いながら・・・優のしなやかな腕が 潤の大きな背中に回される。


まるで波に漂うように二人の体が揺れる。


二人は何度も口づけをして 何度もお互いの名前を呼んで・・・


抱きしめて 抱きしめられて 手を重ね合わせ 指を絡め 見つめあって

 

 

そして・・・二人はひとつになった・・・。

 

 

その時 優は 純白のつぼみから桜色の可憐な花へと姿を変えていった・・・。

 

 


優の大きな瞳から涙の粒が零れ落ちる。

 

「優・・・?」


「・・・潤・・先生・・・。」


「・・・なぜ泣くの・・?・・・苦しかった・・?」

 

潤の心配そうな声に優は首を横に振った。


「・・ちが・・う・・違うの・・。・・・幸せで・・

 すごく幸せで・・涙が止まらないの・・。」

 

「・・優・・・。」

潤は優を引き寄せてきつく抱きしめた。


優は涙に濡れた頬を潤の胸に押し当てた。

 


「・・・愛してる・・・優・・・。」

潤は優の耳元で囁いた。

 


優の瞳からまた透明な涙が溢れ出した。


喜びで震える彼女の体は彼の温もりを求め “離さないで”と囁く。

 

初めて聞いた彼の愛の言葉だった。   


  
    初めて心から愛した人が 同じように愛してくれた・・・わたしは・・幸せです・・・。

  
    ・・・生まれてきて良かった・・・潤先生とめぐり逢えて本当に良かった。

 

   

 


     ・・・もしかしたら わたしは神様から罰を受けるかもしれない。 

 

     でも その罰で・・たとえば このまま自分が泡になって消えてしまっても

              
     深い海に溶けて無くなってしまっても 


     わたしは・・・後悔なんかしない・・・。

 

 

     ただ・・・その時は 神様、お願いです・・・。


     潤先生の記憶からも わたしを消し去ってください・・。


     もう二度と・・潤先生を悲しませないでください。

 

 

 


潤の温かい胸の中で 優はゆっくりと目を閉じた。


次第に薄れていく意識の中で 優は 外の降りしきる雨音を聞いていた。

 

 

そして それは

潤の規則正しい心臓の音と重なって 

まるで穏やかな波に抱かれながら優しい子守唄を聞いてるように

優を深い眠りに誘っていた・・・。    

 

 

 

   ――――――

 

 


いつの間にか 雨は止んでいた。

 

潤は 自分の胸の中ですやすやと眠っている優からそっと腕を外した。


シーツから覗いた 優の華奢な肩も背中も腕も透き通るように美しかった。


彼女の長い黒髪はさらさらとシーツの上に零れ甘い香りを漂わせている。


潤は 優の髪にそっとキスをすると、体を下にずらして優の寝顔を見た。


彼女は潤の方に体を向けて静かな寝息をたてながら眠っていた。

 

・・・また 少女のようなあどけない寝顔に戻っていた。

 

   ・・・睫毛が涙で濡れている・・・?

 

潤はそっと指でそれを拭い彼女の瞼にキスを落とした。


優の乱れた髪をそっと指で撫でて 白い頬に手を当てた。

 

 


    “・・・潤先生は・・わたしの宝物なの・・。

        この世にたった一人しかいない・・大切な宝物なの・・・”

 


数時間前に優が言った言葉を思い出していた。

 

 


     優・・・それは僕の台詞だよ


     僕にとって 優は大切な宝物なんだ


     初めて会った時から君に惹かれていた


     優は いつでも明るくて 眩しくて まっすぐだった。


     純粋でいつでも真剣で・・素直だった。

 

     でも・・最近、僕は君を泣かせてばかりいる。


     君は笑顔が最高なのに・・僕はひどい男だね。


     少し距離をおこうと言ったのは僕なのに ずっと優に会いたかった。


     優と離れてるのは辛かった・・。


     ずっと前から優が欲しかった。


     君の将来を奪うことになっても優を愛したかった・・・。

 

 

     
     ・・・ああ そうだったね。


     君は言ってくれた。

     
     ・・僕に会えて幸せだと・・だから・・不幸になったりしないと・・。


     未来を明るく照らしてくれると・・。


     でもそれは 僕ではなく・・優・・君のことなんだよ・・。

 


    


     優・・君と一緒なら何でもできるような気がするよ。

 

     優と一緒なら・・幸福な未来を思い描くことができそうだ・・・。


   

     だから・・・僕はもう君を離せない・・。

 

 

 

     僕は・・・・もう・・優を離さない・・・。

 

 

























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