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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357349/1894590
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 18 HIT数 7948
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 15 愛の挨拶
本文




   秘密 15  愛の挨拶



 

11月のある晴れた日、潤の車は鎌倉 由比ヶ浜の海岸通を走っていた。

夏の間は海水浴で賑やかな場所も、
今はほとんど人影もなく穏やかに凪いだ海が広がっている。


「わあ・・海がキラキラ光ってるーー!」

助手席に座って車のウインドーを下ろし、外の景色を眺めていた優は声をあげた。

彼女の長い髪が風に吹かれている。

ハンドルを握る潤はそんな優を見て眩しそうに微笑んだ。


「もう少しで着くよ、優。」


「ほんと? ・・・う~、何だか緊張してきちゃった・・。
 
 ・・・・・・・・・潤先生のご両親と弟さん・・、わたしのこと気に入ってくれるかな。」


優は大きなため息をついた。


潤は優を初めて家族に紹介するために
これから二人は潤の実家のある鎌倉へ向かう途中だった。


「・・弟・・といっても26歳だから、優よりずっと年上だよ。

 それに、優なら大丈夫。うちは男ばかりの家族だから

 両親は優のことを歓迎してくれるはずだよ。」


潤は 優を安心させるように笑いかけた。


「そうだったらいいけど・・。」


「大丈夫だよ、優。」


まだ優の不安な気持ちは残っていたが 潤のそのひと言で 
先生が傍にいれば平気だと思った。

潤先生が一緒にいてくれれば何も心配することなんかないわ。

 

開け放した車のウインドーから潮風が吹き込んでくる。

 

「・・やっぱり風が冷たい。」

優はそう言って笑うとウインドーを上げた。


潤は優の手を取るとやわらかく包み込むように握り締めた。


その手の温かさに優は安心して微笑んだ。

 

 

 


   ――――――

 

 

所々に竹林が広がる閑静な住宅街に潤の実家はあった。

手入れの行き届いた庭を眺めながら、二人は石畳を歩いて行く。


玄関の両脇にある紅葉に午後の日差しが降りそそぎ
その深い赤色をいっそう際立たせている。

 

「優の家と違って純和風だろう?」

潤はそう言うと少し照れたように笑った。


「うん。・・でも 静かで落ち着いてて・・何だかほっとする感じ。

 まるで潤先生みたい・・。」


優はにっこり笑うと深呼吸をした。

どこか懐かしい竹の匂いがする。


庭の竹林の中に差し込んでくる太陽の光と葉のコントラストが、この上なく美しかった。

 

 

「まあまあ!・・・あなたが優さん?・・ま~、何てかわいらしいお嬢さんなのかしら!

 TVで見るよりず~っと綺麗な方ね。ま~、どうしましょう・・。

 こんなお嬢さんがお兄ちゃんのお嫁さんになってくれるの~?」


潤の母親の咲子が賑やかに二人を出迎える。

咲子は歳よりも若く見え、潤の母親というだけあって美人だった。


その後ろで 父親の洋一郎が呆れたように笑っている。

彼は小学校の校長らしく、威厳があって それだけでなく温厚な感じを受ける。


「は、はい。・・あの・・初めまして。・・青山優と申します。

 ど、どうぞよろしくお願いします。」


優は緊張にあまり、ぎこちない笑みを浮かべながらお辞儀をした。

 

「まあ、ご丁寧に・・こちらこそよろしくね。お若いのに礼儀正しくていらっしゃるのね。 

 ご存知のようにうちは男ばかりで・・ほんとに殺風景で

 ・・優さんみたいな女の子がいらしてくれて嬉しいわ~!

 ね、お父さんもそう思うでしょう?」


咲子がニコニコ笑いながら洋一郎の方へ振り向いた。


「そうだな。・・優さん、そんなに緊張しないでゆっくりしてください。

 ほら、潤もぼ~っとしてないで何か言ってあげたらどうだ。」


洋一郎も少し緊張した面持ちで言った。


「そんなこと言っても・・お母さんのお喋りが止まらないから、僕がしゃべる隙がないよ。」

潤は苦笑いをしながら言った。


「もう、お兄ちゃんは・・相変わらず無口ね。

 ねえ、優さん こんなお兄ちゃんとお付き合いして楽しい?

 真面目なだけで・・退屈でしょう?」

咲子が呆れたように笑いかける。


「いえ、そんなことありません。

 潤先生はとっても優しくて頼りがいがあって・・

 わたし 毎日、楽しくて笑ってばかりいます。とても幸せです。」

優は必死な顔で言った。

 

「まあ・・。」

咲子と洋一郎は驚いて顔を見合わせた。

 


「・・わお・・何てけなげなセリフなんだ! ・・・ドラマを見てるみたいだ。」


突然の声にそこにいた4人は驚いて振り返った。

 

「・・陸!・・」

潤が声をあげると そこにいたすらりとした長身の若い男が笑った。


「よお、兄貴、久しぶり~!・・驚いたぜ、本当にあの青山優ちゃんなんだなーー?

 最初、聞いた時は 兄貴もついにおかしくなったかと思ったが、本当に兄貴の彼女なのか。

 誰に言っても信じないだろうな。」


陸はからかうように潤を見ている。


「陸!・・ばかなこと言ってないでこっちに座りなさい。もう、今頃帰ってきて・・。

 お兄ちゃん、陸ったら昨夜帰ってこなかったのよ。

 今日は大事な日だから早く帰って来るように言ってあったのに。」


咲子が陸を睨みつける。

 

「だから、今こうして急いで帰って来たじゃないか。

 ・・・それより 初めまして。弟の陸です。よろしく~!

 ところで、俺は君のことを何て呼べばいいんだろう?

 “お義姉さん”?・・絶対、違うよな。・・“優さん”?・・俺よりずっと年下なんだよね。

 ・・・っていうか 兄貴ってば教え子に手を出して・・まだ二十歳の青山優ちゃんを嫁さんに?

 これって犯罪だよなーーー!」


陸はソファに座っても賑やかに喋り続けている。


「やっぱり犯罪か・・。」

潤はふっと笑う。


「犯罪だよ~。羨ましいけどな。

 でも、まあ俺も安心したよ。真面目なだけの兄貴にしては思い切った事をしてくれたおかげで

 これで親父たちも忙しくなって、俺への小言も減るかな・・なんて思ったりして。」


「陸! あなたさっきから 何、ばかな事言ってるの!

 ・・・優さんが驚いてるじゃない。本当に口が悪いんだから!

 少しはお兄ちゃんを見習いなさい。

 まったくもう、兄弟なのに どうしてこう性格が正反対なのかしらね。

 ・・・優さん? どうかした?・・・優さん?」

 

優は 目を丸くしてずっと驚いた顔で陸を見ていた。


「優? どうかした?」

潤が声をかけると、優ははっとして彼の方を向いた。


そして 嬉しそうに目を輝かせながら言った。

 

「すごーい! 陸さんって・・・潤先生とそっくり!・・性格は軽そうで全然違うけど・・。

 眼鏡を外した時の先生の顔と同じーーー! やだーー 潤先生が二人いるみたい!」


優はそう言うと楽しそうに笑い出した。


「陸と一緒にしないでくれよ。」

潤は苦笑いをすると 優の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

 

潤の両親と弟は 優の“眼鏡を外した時の潤先生”という言葉に なぜか反応してしまった。

真面目な潤が優の前では眼鏡を外す・・・それほど彼女は心を許せる相手なのだろう。   


潤に似ている陸は それに加えて“性格は軽そう”という言葉に軽いショックを受けていた。

 

 


   ―――――――

 

 

キッチンで 優と咲子が楽しそうに笑いながら料理をしている。


潤はもちろん、ガールフレンドがたくさんいるはずの陸も 

最近、彼女をあまり家に連れて来ないので

久しぶりに家の中が明るくなって咲子も喜んでいた。

どうぞ座っててと言う咲子に、優は夕食の支度を手伝うことを申し出た。 


「嬉しいわ~!・・ああ、やっぱり女の子がいると違うわね。

 夢だったのよね~、こうして若いお嬢さんと一緒にお料理するのって。

 一緒にショッピングに出かけたり、コンサートに行ったり・・・

 お友達が娘さんと出かけるのを見て羨ましくて仕方なかったわ。」


咲子はうっとりしながらお吸い物の味見をしている。

 

「・・コンサートですか?・・どんな音楽がお好きなんですか?」

優はサラダ用の野菜をゆっくりと包丁で刻んでいる。

 

「もちろん、SマップとかARSとかKATUNTとか・・ジョニーズ系の・・

 あ、包丁、気をつけてね。綺麗な指に怪我させたらお兄ちゃんに叱られちゃうわ。

 ・・ふふ、でも優さんは若いのに包丁使いがお上手ね。普段もお料理なんかするの?

 おばあさまと叔母様のおかげね。女優さんなのに偉いわ~。

 ・・そういえば、優さん あなた月9でNEESの山上君とドラマに出てたわね。

 ああ、あの時は高校の先生が振られちゃって、優さんは山上君の方へ行っちゃったのよね・・。」


「あ、あの、おばさま!・・・わたし、Sマップのコンサートのチケット頼んでみますから

 今度、一緒に行きませんか?」


「え?ほんと?」


まずい所へ話題が移りそうになったので、優は慌てて話をそらした。


咲子は目を輝かせた。

 

「あのね、優さん。」


「はい?」


「その・・出来たら・・SマップよりKATUNTの方がいいんだけど・・。」

咲子は少し頬を赤くして言った。


「は?」

優は目をまん丸にして咲子を見つめた後 微笑みながら言った。


「はい、わかりました!」

 

優と咲子はお互いの顔を見ると同時に笑い出した。

 

 

 

   ――――――

 

 


対面式のキッチンで楽しそうに会話をしている優と咲子を 時折見ながら

隣のリビングルームで潤と陸はビールを飲んでいた。


優は咲子との会話の合間に 潤の方を見て笑いかけてくる。


潤もそんな優に微笑み返すと 彼女は恥ずかしそうにうつむいてしまう。

 

「・・・可愛いねーー彼女。オフクロもすごく楽しそうだし良かったじゃないか。

 それにしても 彼女は・・兄貴にぞっこん・・っていう感じだな。」

陸はしみじみと言った。


「そうか?」

潤は少し照れながら言った。


「ああ。・・彼女さ・・親父たちと話をしてる時以外は ずっと兄貴のこと見てたぜ。

 こっちが切なくなるくらい、まっすぐにさ・・。」


「・・初めて会った時からずっとそうだったんだ。」


「わお、のろけかよ~! 兄貴が?・・性格変わったか? 

 ・・でも、彼女・・どこか寂しげな感じもするけど・・。

 両親を事故で亡くしたんだっけ・・彼女が幾つの時だったんだ?」


「6年前だから 優が14歳の時だ。・・交通事故だったらしい。」


「6年前?・・・交通事故?・・・それって・・・。」


「ああ、菜々子の事故と同じ時期なんだ。・・すごい偶然だよな。

 ・・だから・・何かこう・・運命みたいなものを感じるんだ。」


「・・・・・」


何かを思い出すように遠い目をしている潤の横顔を見て、陸は黙ってしまった。

 

    
     偶然・・? ・・・兄貴はそれを運命だって言うのか・・・?


     そうだな・・兄貴はそんな男なんだよな・・・。


  
     本当に真面目で・・ずっと菜々子ちゃんことを思い続けてきたんだ。


     ずっと苦しんで・・俺はそんな兄貴を見てるのが辛かった。

 

     だから立ち直った兄貴を見て安心したよ。

     
     彼女のことが本当に好きなんだな。

 

     でも・・・何だ・・・?


     何で 俺は、こんなに気になるんだ?

 

     兄貴の言うとおり・・ただの偶然だよな・・。

 

 

「陸?どうした?」


「あ、いや、何でもない。 ・・・で、いつ結婚するんだ?」


「う・・ん、それはまだ決まってない。でも、なるべく早く結婚するつもりだ。」


「そうか、おめでとう。兄貴。」


「うん。」


「これで俺もオフクロにうるさく言われなくなるかなーー。

 さあ、もっともっと遊ぶぞーー。」


「・・・ありがとう、陸。」


「え、何が?」


「お前さ・・わざとそうやって悪ぶってるんだろう?

 あの頃、僕は菜々子のことで相当荒れてたから・・家も出て一人暮らしを始めたし

 お前がここに残るしかなかったんだよな。

 僕は うっとおしい親から離れたくて 一人になりたくて・・皆にひどい事をした。

 でも、お前は何も言わないで ただ見ててくれた。

 そして 僕の分まで明るく陽気な息子の役割を引き受けてくれたんだ。」


「ばっ・・違うよ、兄貴。 何、言ってんだ。 俺はそんな出来た人間じゃないぞ。

 ここにいた方が家賃とか払わないですむし、メシも食い放題だし

 ずっと優秀だった兄貴と違って親父達の小言にも聞き慣れてるし・・。

 まっ、彼女を連れ込めないのはちょっと不便だけど・・そんなテキトーな男だよ、俺は。」


照れ隠しのためか、陸はぶっきらぼうに言った。


「でも、その陽気さが父さん達を安心させたのは事実だ。」


「ばっ、ばかやろー・・。そんな真面目な顔して・・恥ずかしいじゃないか。」


「・・赤くなってる・・。」


「ち、違う!これはビールのせいだ!」


「かわいいなーー陸ーー!」


潤は明るく笑いながら陸を抱きしめた。


「よっ、よせってば、兄貴!!!・・酔ってるのかーー???

 抱きつく相手が違うぞーー!おい、離せってばっ・・兄貴ーー!!!」

 

 

「あらあら・・二人してじゃれ合って・・・珍しいこと・。」

咲子は驚いた顔で二人の息子を見て、ニコニコ笑い出した。


「いいなー、潤先生。・・わたしは一人っ子だから羨ましいです。」

優も笑いながら兄弟を見ている。


「・・お兄ちゃんがあんなに明るくなったのは きっと優さんのおかげね。

 ありがとね、優さん。これからも迷惑をかけるかもしれないけど・・潤のことをよろしくね。」


「そんな・・。わたしの方こそ、潤先生には迷惑かけてばかりで・・。

 あの・・これからも・・末永く・・よろしくお願いします。」


「はい、末永くね。」


咲子はその言葉を繰り返すと、この上なく嬉しそうに笑った。


優は頬を赤くしてうつむいた。


その顔には幸せそうな微笑が浮かんでいた。

 
 
   

   ―――――――――

 


潤は父の書斎に来ていた。


「じゃあ、父さん、そろそろ帰るよ。」

潤はそう言うと久しぶりに父の部屋を見回した。


相変わらず本棚には書籍がずらっと並んで、古い机の上にも本が積み重ねられている。

潤は 子供の頃からこの父の書斎が好きだった。

特に本の匂いが好きで、難しくて何が書いてあるのかわからなくても

本のページをパラパラとめくってると珍しい挿絵が出てきて面白かった。


「ああ。気をつけて帰るんだぞ。」

洋一郎は穏やかに笑いながら言った。


「うん。・・あの、父さん。」


「うん?」


「・・優との結婚を公表したら・・その時 もしかしたら父さん達にも迷惑をかけるかもしれない。

 その事は承知しててほしいと思って。」


「うん?・・ああ、マスコミの取材とか?・・そうだな、優さんは女優だからな。」


「それもあるけど、優は学生で僕はその大学の講師なんだ。

 それに、父さんは小学校の校長だし・・非難めいたことも言われるかもしれない。」


「そうか? ・・はは、まあ大丈夫だろう。大した事にはなならないだろう。

 そんな余計な心配はせずに 潤は優さんを守ることだけ考えなさい。」


「父さん・・。」


「その覚悟があるから結婚を決めたんだろう?」


「うん。」


「じゃあ、がんばりなさい。」


洋一郎は潤の肩に手を置くと言った。 その声は温かくて穏やかだった。


潤は黙ったままうなずくと、静かに笑った。

 


 




















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