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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357288/1894529
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 19 HIT数 7774
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 16 決心
本文


   秘密 16  決心

 






   ―― 「2時限 講義 社会学A 深沢講師 急病のため休講」 ――

 

K大 横浜キャンパス学生課の掲示板の前で、優は真っ青になって立ちすくんでいた。

足がガクガクと震えてきて、その場で倒れてしまいそうな気がした。


「どっ、どうしよう・・。・・早く・・行かなくちゃ・・。

 先生の所へ・・でも・・どうして・・?

 昨日・・電話した時は元気だったのに・・そうだ・・電話・・電話しなくちゃ・・。」


優は震える指で何とか携帯電話のキーを押した。

潤の携帯電話はつながることはなかった。

優は焦りながら 彼の自宅の電話の方にかけてみた。


何度か長い呼び出し音がした後、やっと電話がつながった。

 

「・・・もしもし。」


「・・・え・・・?」


優の心臓がドクンと波打った。

それは 優の大好きないつもの潤の声ではなかった。

携帯電話の向こうから聞こえてきた見知らぬ若い女の声・・優は気が動転して言葉を失った。

 

「・・もしもし・・?どなた?」

受話器の向こうの彼女は訝しげな声で聞いてくる。


「あ・・の・・潤先生の・・お宅ですよね?」

優はやっとの思いで言った。


「潤先生?・・ああ、K大の学生の方ね。 潤さんは 今、熱を出して休んでるの。

 お電話があったことを伝えておきますから・・お名前は?」


彼女は電話を通しても自信にあふれた明瞭な声で尋ねてくる。


「・・い、いえ・・けっこうです。」


優は慌てて携帯を切った。


そして 全身の力が抜けてその場に座り込んでしまった。

 

 



   ――――――――

 

 



「・・・・・真央・・ちゃん・・? どう・・して・・?」


ベッドの中で目を覚ました潤は 虚ろな目で彼女を見上げた。

まだ熱があるせいか声が掠れている。


「今朝、電話した時 様子がおかしかったから・・急いで来てみたの。

 あなたが急病だって言ったら、管理人さんが鍵を開けてくれたわ。」


「・・・もうここには来るな・・って言ったはずだ・・。」


「いつも同じことを言うのね。・・潤さんって本当に冷たい。

 わたしはお姉ちゃんの代わりなんだから、そんな迷惑そうにしないで。」


真央はそう言うと、潤の額に手を当てた。


「まあ、すごい熱だわ!・・大変、冷やさなくちゃ。・・お薬は飲んだの?」


潤はゆっくりと起き上がりながら その手を振り払った。


「大丈夫だから、もう帰るんだ。・・・それから・・もうここには来ないでほしい。」


「・・恋人ができたから・・?」


「・・・・・」


真央はサイドボードの上にある写真立てを取るとじっと見た。

そこには潤と優が顔を寄せあって笑っている写真が入っていた。


「・・可愛い子ね。誰だったか忘れたけど、最近、人気の女優に似てるわ。

 でも、潤さんよりずっと年下みたいだし・・あなたには似合わないわ。」


「真央ちゃん・・・。」


「・・潤さんはお姉ちゃんのことを忘れちゃったの?

 わたしは・・ずっと潤さんのことが好きだった。

 あなたはお姉ちゃんの恋人だったけど好きだったの。

 でも、潤さんはお姉ちゃん以外の人は受け入れなかった。

 だから・・諦めようとしたの。・・死んだ人には敵わないって・・。

 潤さんはわたしのことを恋人の妹としか見ていないってわかってたから。

 ・・・なのに・・こんな・・可愛いだけの何の苦労もしてないような子を選ぶの?」


真央の恨みがましい声が潤を攻め立てる。


潤は高熱のために意識が朦朧(もうろう)として言葉が出てこない。


真央はそのまま逃げるように部屋を飛び出して行った。


潤は力なくまたベッドに倒れこむと、苦しそうに息を吐き瞼を閉じた・・・。

 

 


   ―――――――

 

 


12月の冷たい北風が優を容赦なく凍えさせる。


彼女は 静かに潤のマンションの部屋を見上げた。

 


あの電話の後、優はしばらく大学のキャンパスにたたずんでいた。


   潤先生の部屋にいたのは誰?

   彼のことを 親しげに“潤さん”と呼ぶ人は誰なの?

 

優は長い睫毛を伏せて、唇を噛み締めた。


そして・・首に巻いてある白いマフラーをぎゅっと握りしめた。

 

  “ 優が風邪をひかないように”

 

そう言ってプレゼントしてくれた白いマフラーと手袋。

ふわり・・と彼は笑いながら優の首にマフラーを巻いてくれた。

そして おでこにそっとキスをしてくれた。


切なくなるくらい優しくて、わたしを大切にしてくれる潤先生・・。

 

  “ 優はおでこを出した方が可愛いよ ”

 

  “ 大丈夫だよ 優” 

 

潤の笑顔が 優しい眼差しが浮かんできた。


優は思わず涙がこぼれそうになったので、潤が褒めてくれた額に手を当てる。

あの時の潤のやわらかな唇の感触を思い出して胸がきゅんとなった。

 


「・・わたしったら・・本当にばかだわ・・。」


優はそう呟くと すぐに駆け出していた。

 

 


   ――――――――

 

 


「・・・潤・・せんせ・・い・・?」

 


潤の部屋の鍵は開いていた。


優は恐る恐る中に入ると、小さな声で潤を呼んだ。


・・・返事はなかった。


優はリビングルームの隣の部屋のドアを開けた。


ベッドの中で 潤は眠っていた。

青白い顔で瞼は閉じられ、息苦しいのか乾いた唇が少し開いている。


優はそっと潤の額に手を当てた。

見る見るうちに 彼女の顔が歪んで、大きな瞳には涙があふれてくる。

 

   ああ!・・・何てこと・・すごい熱だわ!


   わたしがばかなことを考えてた時にも 潤先生はこうして苦しんでたのに・・!


   ごめんなさい、ごめんなさい!・・・ごめんなさ・・・い。


優は潤の頭を抱きかかえると 彼の顔に頬ずりをした。

真冬の外気を受けて冷たくなった彼女の頬を何度も感じて 潤はうっすらと目を開けた。


「・・・優・・・? ・・・来てたのか・・・?」


「潤せんせ・・い・・大丈夫?」


「大丈夫だよ・・。ただの風邪だ。」


   ・・・擦れて苦しそうな声。


「・・うつるといけないから・・帰りなさい。」


   ・・・熱で潤んだ瞳。

 

「先生?」

 

「こうやって寝てれば治るから・・優は帰るんだ。」


   ・・・・それなのに 優のことを気遣う彼。

 

「嫌!・・絶対帰らない・・わたし・・看病するもの!

 潤先生が治るまでここにいる。ずっと傍にいる・・!」

 

「優。」

 

「・・だって・・わたしは潤先生と結婚するんだもの。

 潤先生を看病するのはわたしだけなんだから・・・。」

 

優はそう言うと 寝ている潤の胸に頬を寄せた。


「・・・優・・?」


「お願いだから・・帰れなんて言わないで・・・。」


潤は一瞬、戸惑ったが ふうっと息を吐くと優をそっと抱きしめた。


そして ゆっくりと瞼を伏せた。

 

「・・・風邪がうつっても知らないぞ・・。」


そう言いながらも 潤の口元には微かな笑みが浮かんでいた・・・。

 

 

 

   ――――――

 

 

 

   “ 潤さんはお姉ちゃんのこと・・忘れちゃったの?”


       真央がとがめるような目で見つめている。

 

   “ 違う・・忘れてなんかいない・・菜々子のことは今でも・・  ”

 

 

   “ いいのよ、潤。わたしのことは忘れて・・幸せになって・・”


       菜々子が悲しそうな瞳で微笑んでいる。

 

   “ 菜々子・・? 違うんだ・・・待ってくれ・・!”

 

   “ もう わたしを待たないで・・。


        それより・・潤こそ・・大切な人を待たせちゃだめよ・・”


           菜々子は優しく微笑んでいる。

 


   “ 待ってくれ・・菜々子・・待って・・!”

 


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


差し出した手を誰かが両手で包み込んだ。


温かくて小さな白い手が 潤の手を優しく包み込んでいる。

 

「・・潤先生?・・大丈夫?」

心配そうな顔をした優が覗き込んでいる。


「ゆ・・う・・。」

潤は驚いた顔で優を見つめる。・・・夢だったの・・か・・?


「先生・・うなされてたわ・・すごく苦しそうだった・・。」

優は潤の額の汗をタオルで拭きながら言った。


「・・・僕は・・何か・・言ってた・・?」


「・・・ううん・・うわ言だったから・・よくわからなかった。」


優は潤の額に手を当てると微かに笑った。


「・・良かった・・だいぶ熱が下がったみたい・・・。

 汗かいたから・・着替えたほうがいいよね。・・何か飲む・・?

 ・・・お粥も作ったのよ。  食べる・・・?」


優は優しい笑顔を向けると潤の乱れた髪をゆっくりと撫で付けた。

彼女の睫毛が小刻みに震えている。

 

「・・・優・・?」


潤は優の瞳の中に 悲しみの涙の粒を見つけてしまう。

ガラスのように透明な鳶色の瞳の中に 悲しみ色の翳りがあることを感じてしまう。


    多分・・優は聞いてしまったのだろう。


      僕は何度も・・夢の中で菜々子の名前を呼んでいたのだから・・。

 


潤はゆっくりとベッドから身体を起こした。


「先生?・・まだ寝てなきゃだめよ。」

優は慌てて潤の身体を支える。


「大丈夫だよ。・・優のおかげで熱も下がったみたいだし・・もう大丈夫。」


「・・潤先生・・・。」


「もう7時か・・僕はそんなに眠ってたのか・・・。」

潤はサイドテーブルの時計を見るとぽつりと言った。

 

「・・優・・。」


「・・はい・・。」

潤の改まった声に優は一瞬、緊張した。


「今日、ここに・・菜々子の妹が来たんだ。」


「菜々子さんの妹?」


「うん。 菜々子と一つ違いの妹で彼女が死んでからも時々訪ねてくる。

 ここには来るなと言っても聞こうともしない。

 自分は菜々子の代わりだから・・と言って・・。」


「・・潤先生のことが好きなのね。」


「僕は・・彼女のことは・・菜々子の妹としか思えない。

 彼女は言った。・・もう菜々子のことは忘れたのかって・・」


「・・・潤先生・・。」


「・・優・・。」


「・・は・・い・・。」


「僕は・・まだ菜々子のことを忘れてはいないんだ。」


「うん、わかってる。

 ・・でもそれでいいの。  わたし、潤先生に言ったもの。

 菜々子さんのことは忘れなくてもいい・・って。」


「僕は優のその言葉に甘えてた。・・考えてみたらひどい事をしてたね。

 君にしてみれば 僕がいつまでも過去の事にこだわるのは辛い事なのに。」


「潤先生。」

 

「僕は菜々子のことを忘れるよ・・

 ・・・いつかきっと 彼女のことは思い出になるから 

 だから その時まで待っててほしい・・。」


「潤先生・・。」


「勝手なことを言ってるのはわかってる。優を悲しませるということも・・・。

 でも・・優は僕の大切な人なんだ。 もう・・君を離すことはできない。」


「せんせ・・い・・。」


優は手を伸ばして潤に近づくとそっと彼の身体を抱きしめた。


「・・わたし・・待ってる。・・でも、潤先生は無理して忘れなくてもいいの。

 ただ、わたしも潤先生から離れるなんてできないから ずっと傍にいる。

 ・・先生がわたしを嫌いにならない限り・・傍にいるわ。」


「・・・優のことを嫌いになるなんて・・あり得ないよ。」


「・・・・」


「優・・。」


「なあに?」


「・・・結婚しようか。」


「・・え・・・?」


「優の家族と僕の家族・・・親しい人だけが祝福してくれればいい・・

 皆の前で婚姻届にサインをして・・そのまま一緒に暮らそうか。」


「・・せんせ・・い・・。」


「・・周囲に知られるのがだめならそれでもいい。

 優と一緒にいられるのなら 結婚したことは秘密のままでもかまわない。

 ・・・それとも 菜々子のことを完全に吹っ切れるまでは・・だめ・・かな・・・?」


潤が切なそうに優を見つめる。

深い海のようなどこまでも澄んだ瞳が 静かに優に問いかけてくる。

 


優は静かに首を横に振るとにっこりと微笑んだ。

 

「・・だめじゃないわ、先生。 ・・・わたし、潤先生と結婚する。

 先生の奥さんになって、一緒に暮らす。・・・先生が病気になったらわたしが看病するの。

 潤先生が他の女の人に触られるのは嫌なの・・先生の寝顔を見られるのはわたしだけ・・。

 ・・そうよね・・?」


「・・・優・・・?」


「・・だから もう帰れ、なんて言わないで。」


「もう言わないよ。」


「・・潤先生・・。」


優の潤んだ瞳が潤を見つめていた。

初めて会った時から変わらない透明でまっすぐな鳶色の瞳。

 

潤はそっと優を引き寄せると胸の中に包み込んだ。


そして 静かに言った。


「・・・もう不安に思ったりしないで。

 僕が大切に思ってるのは優だけだ。


 だから・・もうどこへも行かないで。  ずっとここにいるんだ。」

 

「うん。わたし・・ここにいる。

 ずっとずっと・・先生の傍にいる。」


潤の大きな胸の中で優は目を閉じた。


真冬の冷たい風に吹かれても この温もりに包まれていれば凍えることはない。


他のどんな所よりも 優がいちばん安心していられる場所。

 


優は小さく息を吐くと 静かに祈った。

 


     わたし・・・潤先生のことを大切にします。


     そして もっともっと幸せにします・・・。

 

     だから・・・潤先生と結婚すること・・・許してくれますか?

 


     ・・潤先生のことを愛しています。


        きっと、わたしは・・・潤先生のことをもっともっと好きになります。

 


     ・・・菜々子さん・・あなたはそれを許してくれますか・・・?   

 

 












 






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