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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357183/1894424
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 20 HIT数 7714
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 17 天使が集まる場所
本文




   秘密 17  天使が集まる場所

 


 

年が明けて間もなく ロマンティックなチャペルウエディングが行われていた。


「Casa d’Angela ― カサ・デ・アンジェラ」 “天使が集まる家”と言う名の教会。

イタリアンイエローの外観が印象的な教会で、

エントランスの扉や礼拝堂の長椅子などの調度品は

すべてヨーロピアンアンティークでシックな雰囲気が漂う。

鮮やかな色彩のステンドグラスが幻想的な世界を醸し出している。


 
「はいはい、そんな膨れっ面をしてると せっかくの美人さんが台無しですよ。」


結川はニコニコしながら隣の恭子に言った。

 

「放っておいてください。 もう、まさか結川教授にこんな行動力があるなんて

 思いませんでしたわ。・・普段はボ~ッとしてるのに・・深沢先生のことになると

 随分と策略家でいらっしゃいますのね?」


真紅の薔薇のような華やかなドレスを着た恭子は、綺麗な眉をひそめながら言った。

今日はせっかくのドレスを着る機会だったので 眼鏡を外してコンタクトレンズをしている。

切れ長の黒い瞳が神秘的で美しい。


二人が婚姻届を出して結婚するという報告を受けた結川は

古い友人だというこのウェディングチャペルのオーナーに頼み込んで無理やり予約を取り付けた。

しかも、この日は二人の結婚式だけの貸切にし、外部には洩れないように

最小限のスタッフにするという事まで提案するという配慮振りだった。

そうでもしないと 彼の教え子の二人は 結婚式というものを挙げないつもりだったからだ。

 

「そりゃそうです。彼らは私の大事な教え子だから幸せになってもらわないと。

 ほら、見て御覧なさい、花嫁の初々しいこと・・・やっぱり美しいね~。」

結川はそう言うと目を細めた。


恭子も 今日、この日のウェディング・シーンのヒロインである優を見つめた。


雪のようにふわりとした純白のウェディングドレス 

長い髪を結い上げたあとの綺麗な額が 繊細なレースづかいのヴェールで縁取られている

髪に飾られたミルクホワイトの薔薇の花が 清楚で美しい花嫁をよりいっそう際立たせている。


恭子が今までに見たあらゆるシーンの優よりも ずっと光り輝いている彼女だった。


そして その愛らしい花嫁を グレーのアスコットモーニングを完璧に着こなした潤が

緊張した面持ちで待っていた。

 

優は 結川教授にエスコートされて教会に入ってきた時から ずっと泣き続けていた。


ヴァージンロードを歩く優の大きな瞳から ガラスの粒のような涙が零れ落ちて白い頬を濡らしていた。


可愛くて初々しくて純真な花嫁の涙に さすがの恭子も思わずもらい泣きしそうになった。


優の祖母の由梨子も 叔母の由紀子も そして・・潤の母の咲子も目にハンカチを当てている。


・・こんなに泣ける結婚式は初めてだった。

 


優の涙は 潤の隣に立った時に最高潮を迎えた。


優は肩を震わせ 唇を震わせ 涙をぽろぽろ流した。

 

「・・優・・。」

潤はそんな優に包み込むような優しい眼差しを向ける。

 

「・・潤・・せんせ・・い・・。」

優は涙でいっぱいの瞳で潤を見上げた。


「・・あまり泣いてると、よほど結婚するのが嫌なんだな・・って思われるよ。」

潤は笑いながら優の耳元で囁いた。


「ち、違う!・・・そんなこと絶対ないもの。」

優は慌てて首を横に振った。


「じゃあ、もう泣かないで。」

潤はそう言うと優の頬の涙を指で拭った。


「う・・・・。」

優の頬は桜色に染まり 涙で濡れた長い睫毛がふるふると震えている。


彼女はあふれる思いを抑えきれなくなって潤の胸に身体を寄せて、彼の背中に手を回す。


まるで、周りのことなど目に入らないように優は潤の胸の中に身を任せている。

 

「・・優・・・。」

潤は困ったような顔をして さらさらとしたヴェールの上から彼女の華奢な背中を片手で押さえた。


「兄貴~! そういう時は もっとこう、ぎゅうっと抱きしめてやらなくちゃ!」

潤の弟の陸が冷やかしながら叫ぶと、隣の咲子が慌てて叱りつける。

「陸!・・神聖な教会で何てこと言うの!」

 

ごく親しい人々だけの参列者から穏やかな笑い声がこぼれる。


潤も少し引きつったように笑うと、自分にぴったりとしがみついている優の背中を優しく撫でた。

そして また優の耳元で囁いた。


「優、神父さんが困ってるよ。 皆も待ってる。

 君がいつまでも泣いてると結婚式が挙げられないよ。

 優はそれでもいいのかな。」


潤の言葉にはっとした優は 彼の胸の中から顔を上げた。


「泣くのは式が終わってからにしよう、いいね?」

潤は優の頬の涙を指で拭い、ほっそりとした肩に手を置いた。


優はこくんと頷くと濡れた瞳で潤を見上げた。


潤は満足そうに微笑むと優の耳元でまた何かを囁いた。


その瞬間、優の頬が薔薇色に染まった。

 

彼女は恥ずかしそうにうつむくと、この上なく幸せそうに微笑んだ・・・。

 

 

   ―――――――

 

結婚式は滞りなくなく行われた。


神聖な神の前で交わされた誓いの言葉 永遠の愛を込めた指輪の交換 

そして 輝くように美しい二人の誓いのキス


愛情あふれる参列者達は そんな二人に心からの祝福を贈っていた。

 

 

その後の 内輪だけのささやかなパーティーは 教会の隣にあるレストランで行われた。

大きなガラス窓で囲まれた店内には 真冬の穏やかな日差しが満ち溢れている。

ナチュラルで和やかなメインダイニングで皆の見守る中 

婚姻届にサインをしたばかりの新郎・新婦は幸せいっぱいの笑顔を浮かべていた。


式の初めに泣いてばかりいた優も、淡い桜の花のように頬を染めて笑っていた。


二人はしっかりと手をつないで、片時も離れようとはしなかった。

 

「優ちゃん、本当に幸せそう!」

優の芸能界デビューの時からメイクを担当している玲子が笑いながら言った。


「そうね。 あんなに嬉しそうな優の顔を見るのは初めてよ。」

マネージャーの恭子もしみじみと言った。


   ・・・こんなに幸せそうなんだから隠したりせずに、堂々と発表してもいいのかもしれない

一瞬、恭子の頭の中にそんな思いがよぎったが、彼女は慌てて否定した。


   ・・・だめよ。 あの子の時のことを忘れたの?

      優にはあんな風にはなってほしくない。


それは 半年前、優と同じプロダクションのアイドルの結婚から始まった。

19歳の彼女のいわゆる“できちゃった結婚”は かなり衝撃的で話題になった。

そして 世間やマスコミの反応は冷ややかだった。

結局、彼女はしばらくの間、芸能活動を休止するということになったが

また元のように復帰するのは難しいだろうと囁かれた。


優が15歳の時からマネージメントを引き受け、ずっと彼女を見守ってきた恭子だった。


素直で裏表のない優は大切な妹のような存在だった。


優の女優としての才能は何があっても守らなければならない。

恭子はそのことを静かに決意していた。


「玲子ちゃん、わかってると思うけど この事はくれぐれも口外しないでね。」


「わかってます! 大丈夫よ、恭子さん。わたしだって優ちゃんのことずっと見てきて

 可愛いと思ってるし・・。今日だって、こうして招待してもらったし・・

 それって信用してるってことでしょう? わたし、嬉しかったわ。」

口止めをする恭子に対して、玲子はきっぱりと答えた。

 

「そうよ。だから、これからもよろしくね。優のことを助けてあげて。」


「わかりました。何でも協力するから任せてください。」


二人は顔を見合わせて笑うと、楽しそうに家族と話をしている潤と優を見た。

 

「ふふ・・本当に幸せそうね。 優ちゃんのだんな様はとても素敵な人ね。

 彼が優ちゃんの初恋の人だったのね。あの話は本当だったんだわ。」

玲子はニコニコ笑いながら言った。


「初恋?」

恭子は聞き返した。


「ええ。 去年の・・春ごろだったかしら。

 優ちゃんが初恋してる・・って、嬉しそうに言ってたことがあったの。

 ずいぶんと遅い初恋ねって言ったら笑ってたわ。

 あの時は冗談だと思ってたけど本当だったのね。

 初恋の人と結ばれるなんて・・すごいことよね。」

玲子がうっとりとした目で言った。

 

「・・・そうだったの? ・・あ・・でも・・」

恭子は首を傾げた。


「わお、だから優ちゃんは兄貴一筋なのかーー!!!」


突然の声に驚いた恭子は振り向いた。

そこには 長身の若い男が笑いながら立っていた。


「あなたは・・深沢先生の・・(さっきの冷やかし男ね)」


「弟の陸です。 よろしく、えっと・・優ちゃんのマネージャーさんの・・・。」


「桐原です。 ところで・・人の話を立ち聞きするなんてあまり感心できませんわね。」


「別に立ち聞きしようとしたわけじゃありませんよ。兄貴の嫁さんが世話になってるみたいだから

 俺も挨拶しようと来ただけです。そしたら、たまたま話が聞こえてきただけで・・・。」


さすがにいつも軽い陸も 恭子のきつい言葉に思わずむっとした。


「それは失礼しました。・・でも、よく覚えておいて・・

 優は結婚しましたけど わたしにとって彼女は今までと何の変わりも無い、女優の青山優です。

 あなたのお兄さんのお嫁さんとして見るつもりはありませんから。」


「おっかないなーー! さすが敏腕マネージャーさんだ。

 か弱い優ちゃんをがしっと守ってきたのがわかりますよ。

 でも、もう少し肩の力を抜いてもいいのでは?

 せっかくの美人なのに それじゃ怖くて男が近づけませんよ。」


陸は恭子の顔を覗き込むように笑った。

恭子は思わずどきんとした。


深沢潤に似ている・・実の弟なのだから当然だが、恭子は戸惑っていた。

潤が眼鏡を外すとこんな感じになるのかと 想像してしまう自分に呆れていた。

 

「余計なお世話だわ。別にあなたに近づいてもらわなくても結構よ。

 男はみんな優みたいな可愛い子が好きなのはわかってるわ。

 でも、わたしは自分の性格を変えてまで男とつきあうつもりはないし。

 ・・・って、何ムキになってるのかしら。」


恭子は 今日初めて会った年下の男相手に熱くなっていることに後悔していた。

それに同じような会話が以前にもあったような気がしていた。


陸は屈託のない顔で笑い出した。


「そんなことないですよ。もちろん、俺は優ちゃんみたいなキュートな女の子も好きだけど

 気が強い女はもっと好きです。こう・・眉をひそめてキッと睨まれたりなんかしたら堪らないですね。」


恭子は 何言ってるの?この男は・・と訝しげに陸を見た。


「そうそう、その目ですよ! いいな~、その人を軽蔑したような冷たい目が。」


「・・変わった人ね。・・あなた、深沢先生と顔は似てるのに、性格はまるで反対だわ。」


「すみませんね、兄貴と違って不真面目で軽くて。でも俺の方が女にはモテるんですよ。

 色々経験も積んできたしね。・・兄貴はああ見えて、意外と抜けてるところがあるから

 案外、俺の方がしっかりしてるかもしれない。」


「・・何言ってるんだか・・・。」

恭子は呆れて陸を見た。彼は屈託の無い笑顔を向けている。

 

彼女はまた胸の鼓動が速くなるような気がして、慌てて目をそらし優の方を見た。


相変わらず、優は深沢潤にぴったりと寄り添っている。


こぼれるような笑顔で招待客と話していたかと思うと、時折 隣の潤の顔を見上げている。


そして、潤と目が合うだけで彼女は恥ずかしそうにうつむく。


優は彼のことが好きで好きでたまらないのだ。

 


   ―― 彼が優ちゃんの初恋の人だったのね ――


恭子は玲子が言った言葉を思い出した。 


   だから優にとって彼は、他の何よりも大切な存在なんだわ。


   それだけ思われたら 深沢先生も優のことが可愛くてしかたないわね。

 

   でも・・確か・・


   優の初恋は14歳の時で 相手は名前も知らない人だって 前に聞いたような気がするけど・・。

 

「・・記憶違いかしらね・・。」


恭子は呟いた。

 

潤と優の幸せそうな笑顔を見ていると、自分まで笑みがこぼれてくる。


恭子は 優の初恋がいつだったかなんて事はどうでもいいことだと思っていた。

 

 




   ―――――――

 

 



   ―― その夜 ――

 


ささやかなパーティーの後 潤と優は、葉山 長者ヶ崎にある小さなホテルに来ていた。

岬の高台に建つこのホテルは 季節外れの宿泊客を温かく迎えてくれた。

一週間前に予約を入れてきた その日一組だけのゲスト。

ホテルのオーナー夫妻は 密やかに訪れた二人を笑顔で迎えた。

彼らは何の詮索もせずに自然に接してくれる。


「今日、結婚式だったんです。」

オーナー夫妻も知っている人気女優の彼女が 嬉しさのあまり つい、口を滑らしてしまった。


「・・優・・。」

潤がそんな彼女の肩に手を置くと、優ははっとして口を押さえる。

 

「ご、ごめんなさい・・・わたしったら・・。」


潤はふっと笑いながら しゅんとしてうつむいてしまった優の頭をくしゃっと撫でた。

そして、オーナーに言った。


「申し訳ありませんが、この事は・・。」


「・・わたくしどもが存じ上げているのは 今夜、このホテルにお泊りいただくお客様は 

 とても幸せそうな新婚のご夫婦だ・・ということだけですよ。

 記念すべき日に、このホテルを選んでいただいて光栄です。

 それと、ひと言、お祝いを・・。 ご結婚おめでとうございます。」

オーナー夫妻は微笑みながら言った。


「ありがとうございます。」

潤はそう言った後 気落ちしている優を慰めるように笑いかけた。


安心した優は ほんのりと桜色に頬を染めて、こぼれるような笑顔で潤を見つめていた・・・。

 

 

 

   ・・・・・・・・・・・・・


        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 


潮騒の音が聞こえていた。

 


「・・・潤せんせ・・い・・。」

純白のシーツの上で 優は小さな声で名前を呼んだ。


「うん?」

潤は返事をするが動きを止めることはなかった。


彼のやわらかな唇もキスを繰り返しながら 何度も優の名前を呼んだ。


甘いキス 熱い抱擁 優しい愛撫 やわらかな囁き・・・


何もかもが夢のようで 甘美で 情熱的で 優はまた泣きそうなほど幸福だった。


優は まるで波に漂うように 愛しい潤に抱かれていた。

 

潤の唇が優の耳元に戻ってきた。


「・・あ・・。」

優が思わず首を傾けると、潤は彼女の頬を両手で包み込んだ。


今までとは違う深いキスが降りてくる。


潤は優の唇を塞いで、狂おしいほどに彼女を求めた。


重なり合った唇の中で優は 潤先生、と小さく叫んだ。

 

   先生、先生、せんせ・・い・・

 

優はベッドの上で身体を震わせながら潤を受け止めた。

 

 

潮騒の音が聞こえていた・・・・。

 

 


“ 潤先生・・”


“ うん? ”


“ わたしをお嫁さんにしてくれてありがとう ”


“ こちらこそ・・僕の奥さんになってくれてありがとう ”


“ いつまでも一緒にいてね ”


“ 一緒にいるから・・もう泣かないで ”


“ うん、もう泣かない・・潤先生が傍にいてくれれば大丈夫 ”

 

 

潮騒の音が次第に遠くなっていく・・・・。

 


二人は指と指を絡ませたまま深い眠りについた。


その薬指には 二人にとっては初めてペアで揃えた結婚指輪が光っていた・・・。

 

 
















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