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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357241/1894482
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 22 HIT数 7598
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 19 忍び寄る影 前編
本文



   秘密 19  忍び寄る影 前編



 

「・・・37.6度・・やっぱり熱があるな。」

潤は体温計を見た後、優の顔を覗き込んだ。


ベッドに座っている優は困ったような顔をすると潤を見つめ返した。

「でも大丈夫・・微熱だもん。寝てればすぐ下がるわ。」


潤は優の額に手を当て、そのまま彼女の乱れた髪を撫でつけた。

「心配だから 今日は大学休もうかな。」


「だ、だめよ! こんなことで休講にするなんて! 皆、潤先生の講義を待ってるの。

 ・・わたしは大丈夫だから先生は大学に行って。」

優は慌てて潤の腕を掴んですがるような目を向けた。


「じゃあ、由紀子さんを呼んでここに来てもらおうか?」


「ううん、そんな事しなくても大丈夫。どうしても辛かったらわたしが連絡するわ。

 だから心配しないで大学に行って。」


「本当に大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫。 潤先生が帰ってくるまでに熱は下がってるから。」


「わかった。大学に行って来るよ。授業が終わったらすぐに帰ってくる。

 だから、優は暖かくしてゆっくり寝てるんだよ。」


「はい、先生。・・でも、明日の講義用のレジュメ(概論)も作らないといけないんでしょう?

 そんなに急いで帰って来なくていいのよ。」


「お、優がそんな事まで気を配ってくれるなんて。」


「だって、わたしは潤先生の奥さんだもん。先生の仕事のことはちゃんと理解しなくちゃね。」


「ありがとう。 でも、今日はここでやるよ。その方が僕も安心だしね。」


「潤先生・・。」


「・・・でも・・おかしいな・・。」


「え?おかしい・・って、何が?」


「だって、昨夜は珍しくパジャマを着て寝たのに・・どうして優は風邪をひいたのかな。」


「きゃーーー!」


優は真っ赤になって潤に向かって枕を投げつけた。

潤はそれを受け止めると笑いながら言った。


「それだけ元気があれば大丈夫だね。」


「もうっ、・・先生のエッチ・・!」

優は顔を赤くしたまま頬を膨らませた。


「あれ? もしかして熱が上がった?」

潤は楽しそうに笑うと優の額にまた手を当てた。


優はどきんとして、一瞬目を閉じるが すぐに瞳を揺らせながら潤を見つめた。

そして 彼女は手を伸ばしそのまま潤に抱きついてきた。


「・・・優? どうした?・・・苦しいの?」


「ううん、違う。 ・・・エネルギーを補充してるの。」


「え?」


「潤先生の胸の中にいると 身体だけでなく心もすごく元気になるのよ。」


「優・・。」


何の疑いもなく潤を信じ頼りきって まっすぐに身を預けてくる優。

潤はそんな彼女のしなやかでやわらかいな身体を抱きしめる。

ほっそりとしたその肩は心細げで頼りなくて 思わずしっかりと抱きしめてしまう。

 

可愛くて何よりも大切な優・・病気の優を一人置いて出かけることなんて出来るだろうか。


このまま優を毛布に包んで大学まで連れてって ずっと傍で寝かせておこうか・・。

 


   ・・・・・・・・・・・・


           ・・・・・・・・・

 


あり得ないことが頭によぎって 思わず潤は笑ってしまった。


何てばかな事を考えてしまったんだろう・・・今までの自分なら信じられないことだ。


   ・・・僕は優に夢中だ・・・自分でも呆れるほどに。

 


「・・・はい、充電は完了しました。・・ありがとう、先生。 わたしはもう大丈夫。

 だから、もう大学に行って。 先生が遅刻なんかしちゃだめよ。」


潤の胸の中から顔を上げ、身体を離した優の瞳は穏やかで凛としていた。

もう、儚げで心細い瞳をした彼女ではなかった。


もしかしたら優は自分よりずっと強いのかもしれない・・潤はまた笑ってしまうのだった・・。


潤は安心したように優の頬を撫でながら言った。

 

「わかったよ、行って来る。終わったら急いで帰ってくるから、優はおとなしく寝てるんだよ。」

 

 

 

    ―――――――――

 

 


“ 優、起きて!!! 大変なの!!兄さん達が・・事故で・・病院に運ばれたって!!”


優の叔母の由紀子が真っ青な顔で優の部屋に駆け込んできた。

そして、ベッドに寝ていた優の身体を揺り動かした。


“うそ・・! ・・だって・・さっき電話してきたじゃない・・。

 パパとママ・・これから帰るって・・急いで帰るから・・って・・。」

 

   ―― 優? 熱は下がった? これから急いで帰るわね。

      パパがね、心配だから早く帰ろうってうるさいの。・・何か食べたい物はない? 

      アイスクリーム? わかったわ、いつものあのお店のね? 他には?

      ちょっ、ちょっと・・パパったら・・まだ途中よ! ――

 

   ―― 優、大丈夫か? いいんだ、パーティーなんて・・もう顔出したから。

      娘が熱出して寝てるのにゆっくりなんてしてられないよ。

      すぐ帰るから それまでおとなしく寝てるんだよ、いいね? ――

 


  すぐ帰るから・・急いで帰るから・・それが パパとママの最後の言葉だった。 


  あの日 中学生だったわたしは朝から熱を出して学校を休んでいた。


  パパとママは取引先のパーティーに出かけていて・・だから二人は急いで帰ろうとして

       パパの車はいつもよりスピードが出ていた・・。

 


    ・・・わたしが熱を出したから・・わたしのせいで・・パパとママは・・

 

       お洒落なパパのネクタイは真っ赤な血に染まっていた・・


       飛び散ったママのパールのネックレス


       無残に潰れたアイスクリームの箱が車のママのシートの下に落ちていたと後で聞いた。

 


           ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 


優は撥ねるように飛び起きた。


・・・夢だった。

優はぐっしょりと汗をかいていた。

彼女は恐怖で慄き、顔を歪め、肩で大きく息をしていた。

頭も朦朧として、喉も唇もひどく渇いていた。。


両親が亡くなってからだいぶ経ったのに・・またあの時の夢を見てしまった。

あの頃は何度も何度も同じ夢を見た。

怖くて怖くて、目が覚めたときにはいつも泣いていた。


久しぶりに熱が出て、やはり体調が悪いのかもしれない。


優はベッドの中で少しぼんやりした。


なぜ またあの時の怖い夢を見たんだろう。

潤先生と結婚して、毎日先生と一緒にいられて、嬉しくて楽しくて幸せいっぱいなのに・・。

潤先生は本当に優しくて・・わたしのことを大切にしてくれるのに

今朝も熱を出したわたしのことを あんなに心配してくれた・・

 

     ・・・・・・・・・・

 
           ・・・・・・・・・・

 

「・・あっ・・・!」


突然 優が悲鳴を上げた。

抑えきれない衝撃が優を襲い、彼女の体はぶるぶると震え出した。

思わず、身体に掛かっていた毛布をぎゅっとつかんだ。

何とも言いようがない恐怖がこみ上げてきて、胸が締め付けられるように痛くなった。


優は思い出したのだ。


   “急いで帰って来るから おとなしく寝てるんだよ”

 

 
数時間前、潤が優の頬を撫でながら言った言葉


それは 優の両親が最後に残した言葉と同じだった・・・。

 

 


     ――――――――

 

 

「お、深沢先生 もう帰り?」

研究室を出た所で、教授の結川が声をかけてきた。


「あ、教授。 ・・はい。・・実は優が熱を出して家で休んでるので・・。」

潤はそう言うと少し照れたように笑った。


「ああ、それは心配だね。奥さんも一人で心細いだろう。早く帰ってあげなさい。」

結川の“奥さん”という聞き慣れない言葉に反応した潤は思わず口元が緩んでしまった。


「ほ~、深沢君、照れてるね。新婚さんそのものだね・・羨ましい限りだ。

 ・・お・・・?・・・おやおや、どうやらその奥さんは待ちきれなくて君を迎えに来てしまったようだね。」


結川は潤の肩越しに目を向けながら驚いた顔をした。


「え?」

振り向いた潤の視線の先に、優が歩いて来るのが見えた。

真っ白なハーフコートを着た優はふらつくような足取りでゆっくりと近づいて来る。


「優!」

潤は彼女の名前を呼ぶと、慌てて駆け寄った。


「・・潤・・せんせ・・い。」

優は顔を上げて潤を見た。

熱があるのか顔が赤く、その目は潤んで視点が定まっていないようだった。


「一体どうしたんだ?・・家で寝てなきゃだめじゃないか!」

 

優は潤のジャケットの袖をぎゅっと掴んだ。

そして必死にすがるように彼を見上げた。


「・・・先生が・・急いで帰って来る・・って・・朝・・そう言ったから・・

 でも、だめなの・・急いじゃいけないの  そんなことしたら・・先生まで・・

 ・・・いやよ  そんなの・・絶対 だ・・め・・。」


優はそこまで言うと、その場に崩れるように倒れてしまった・・・。









                                


                                 後編へ続く・・・





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