ブロコリ サイトマップ | ご利用ガイド | 会員登録 | メルマガ登録 | 有料会員のご案内 | ログイン
トップ ニュース コンテンツ ショッピング サークル ブログ マイページ
aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357290/1894531
開設サークル数: 1238
[お知らせ] 更新のお知らせ
容量 : 30M/100M
メンバー Total :297
Today : 0
書き込み Total : 957
Today : 0
秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 25 HIT数 7049
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 21 見えない絆
本文

 
   秘密 21  見えない絆 

 

 



沖縄での映画の撮影は順調に進んでいた。

優の役は その島に一つしかない診療所の看護師という役どころだった。

映画のストーリーは 診療所に赴任して来た暗い過去を持つ天才的な外科医が

島の人々と触れ合ううちに心を開いていくというものだった。

優は その孤独な影のあるドクターに惹かれていく看護師の役だった。

 

「優ちゃん、お疲れさま。」


「あ、篠原さん お疲れさまで~す!」


撮影が休憩に入ると、ドクター役の俳優である 篠原圭祐が声をかけてきた。

篠原とは 優が初めて映画デビューした時にも共演した俳優だった。

彼は30代半ばになろうとしていたが、若々しく すらりとした長身の彼は

涼しげな顔立ちと確かな演技力でTVも映画も引っ張りだこの人気俳優だった。


「まさか、優ちゃんの恋人役をするようになるとは思わなかったよ。」

篠原はそう言うと面白そうに笑った。


「わたしもです。・・・3年前は本当にお世話になりました。

 あの時は わたし、何もかも初めてでいろいろ教えていただきました。」

優はお辞儀をしながらお礼を言った。


「そうか、もう3年前になるんだね。 あの時、優ちゃんはまだ高校生で

 制服を着てスタジオに来てたっけ。・・懐かしいな。」


「テスト前には篠原さんに勉強を見てもらいました。

 数学とか物理とか・・わたし苦手だったから。」


「そんなこともあったな。

 ・・・それにしても・・久しぶりに会って驚いたよ。

 優ちゃん、大人っぽくなったね。見違えたよ。・・それに綺麗になった。」


「え? やだ、篠原さんったら! おだてても何も出ませんよ。」


「本当のことだよ。あの頃はまだ少女っていう感じだったが

 今はもう立派な大人だ。・・・恋でもしたのかな?」


「え?・・いえ! あの・・その・・。」

見る見るうちに真っ赤になった優を見て、篠原は笑い出した。


「正直だな、優ちゃんは。・・そうか、好きな人がいるのか。残念だな。 
 
 今回、優ちゃんの恋人役ができて、そのままプライベートでも恋人にしてしまおうかと

 思ったのに。本当に残念だ。」


「え???・・やだ、篠原さんったら冗談はやめてください。

 それに、篠原さんにはもっと大人の女性のほうがお似合いですよ。」


「年が離れてる男は問題外?」


「いえっ、そんなことはありません!」


「え?」


「いえ、あの・・そうじゃなくて・・その・・好きになってしまえば年齢は関係ないと・・」


「じゃあ、まだ俺にもチャンスはあるわけだ。」


「え? あのっ、そうじゃなくて・・。」


「ま、いいか。 まだ撮影は残ってるし、優ちゃんの気が変わるかもしれない。」


「だめです!!! 絶対、気が変わることなんてないです!」


つい必死になって大声を出した優を見て、篠原はまた陽気に笑い出した。

そして、ふと笑うのをやめると 今度はじっと優を見つめた。


「・・優ちゃんってさ。」


「はい?」


「見かけは少女みたいにふわふわしてて可愛い感じなんだけど

 何て言うか、ちょっと見ないうちに大人の女性になったような気がするよ。

 ・・・無邪気な笑顔で・・小悪魔みたいに男を翻弄させる・・?そんな雰囲気さえ感じるよ。」


篠原はそう言うと熱い眼差しを向けた。


優は困ったように篠原を見上げていた。

 

美しい瑠璃色の海から潮風が吹いてくる。


優のさらさらの長い髪が風になびいている。

 

篠原は 綺麗な白い額に手を当てたまま戸惑う優を眩しそうに見つめていた。

 

 

 

   ―――――

 

 


「篠原圭祐ね~。・・う~ん、優は年上の男にモテるタイプなのかしら?

 でも、気をつけるのよ。彼は華やかな話題が絶えない人から。

 独身だし陽気だし女性の扱いが上手だし・・器用なのよね。」


恭子は一つひとつ確かめながら優の顔を覗き込んだ。


「・・気をつけろ・・ってわたしに言ってるの?恭子さん。

 わたしが篠原さんと何か・・って?」


「・・・・・・・」


「わたしが?」


優が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

恭子はため息をつくと首を横に振る。


「はいはい。わたしの間違いでした。青山優に限ってそんなことは絶対ありません。」

恭子は笑いながら降参した。


「そうよ。わたしには潤先生がいるもの。

 既婚者だし物静かだし真面目すぎるし器用じゃないけど、他の誰にも負けないのよ。」

 

「わかったわよ、優。じゃあ、篠原圭祐のことは心配しなくていいのね。

 でも、彼はまだ優に近づこうとするわね、きっと。

 一度、釘を刺したほうが良さそうね。」


恭子はそう言うと何か考え込むように腕を組んだ。

 

 

 

 

   ――――――

 

 

「あ、社長? ・・ええ、撮影は順調です。予定通り今月末には戻れるかと・・

 え? 何かあったんですか?・・・え? それはまずいですわね。

 ・・それで、深沢先生の方は大丈夫ですか? 彼に何かあったら優が何をするか・・

 はい、わかりました。何とか優を説得してみます。」


その日の夜 ホテルの部屋で恭子はブロダクションの社長から電話を受けていた。

真剣な面持ちで電話をしていた彼女はふと言葉を止めた。 

そして、少し考えた後 また話し出した。


「・・それで社長。・・あの、一つ承知して頂きたい事があるんですが・・。」

 

      ・・・・・・・・・・・・

 


                ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

恭子はホテルの部屋から外を見ていた。

辺りはもう暗闇に沈んでして 全室オーシャンビューの部屋からも海は見えない。


恭子は腕を組んで考えていたが、やがて意を決したように携帯電話のキーを押した。

 

「・・・あ、もしもし・・深沢先生ですか? 桐原です。

 夜分遅くに申し訳ありません。

 あの、今、お話してもよろしいですか? はい。

 ・・実は 今日はお願いがあってお電話しましたの。

 ええ・・もちろん優には内緒ですわ。・・ええ・・。

 お願いは二つありまして・・・・・。」


沖縄と横浜 遠く離れた二つの部屋で静かな会話が続く。

 


恭子の部屋と壁を隔てて隣の部屋にいる優は 数分前までその潤と同じように話をしていた。

二人は 楽しくてとりとめの無い会話を毎晩のように繰り返していた。


潤の低くて甘い声が “お休み、優。明日もがんばるんだよ”と囁く。

それだけで その日の疲れなどどこかに消えて跡形も無くなる。


優はベッドの中に潜り込むと “潤先生、お休みなさい”と呟きながら瞼を閉じた。


数分も経たないうちに 優はすうっと深い眠りに入る。


その寝顔は安心したような微笑みが浮かんでいた・・・。

 

 

    ――――――――

 

 

一週間後、映画の撮影は無事にクランクアップした。

翌日には、出演者もスタッフもそれぞれ東京へ戻る予定だった。


「優ちゃん、今夜は一緒に食事でもどう?」

篠原が声をかけてきた。


優は戸惑ったように篠原を見上げる。

「え? でも、あの・・。」


「いいじゃないか、最後の夜なんだし、二人で打ち上げ会をしようよ、ね?」


「でも、打ち上げパーティーは東京に帰ってからみんな一緒にやるし・・

 それに、マネージャーの恭子さんに聞いてみないと・・。」


「恭子マネージャーか。あの人、おっかないんだよね。

 でも、わかったよ。また後で電話する。

 二十歳になった優ちゃんと ぜひ一緒にカクテルでも飲みたいな。」


篠原はそう言うと意味ありげに優の顔を覗き込んだ。


優はまた困ったように笑うしかなかった。

 

  
 

   ―――――

 


ホテルの部屋で 優は敏腕マネージャーに頼みこんでいた。

 

「ね、だから恭子さんから何とかうまく断って。

 わたし・・お酒を飲んだら酔って寝ちゃうのよね。」


   それに、約束したもの。

   潤先生がいない時にはもうお酒なんて飲まない・・って。


「寝ちゃう・・って、そんなことが今までにあったの?」

恭子が怪訝な顔をする。


「う、ううん! ・・ただ、家でワインを飲み過ぎて眠くなったことがあって。」

優は慌てて首を横に振った。

 

「ワインね~・・何だかあやしいわね。 ・・・ま、いいわ。わかった。わたしにまかせなさい。

 ・・ったく、篠原さんもとんだ遊び人ね。

 でも、今後のこともあるしあまり邪険にはできないのよね。

 どう言って断ろうかしら。」


恭子はぶつぶつ言いながら考え込んでいる。


「・・やっぱり恭子さんは頼りになるな~。」

優は感心したように微笑んだ。


「当然よ。今まで何人の男性タレントや俳優から優を守ってきたと思うの。

 優はおっとりしてるからあまり気がつかなかったみたいだけど

 言い寄ってくる男を振り払ってきたのよ。」


「そうなの?」


「これだから、優は。本当に鈍いのよね~。

 ま、そのおかげでスキャンダルとはほど遠い女優でいられたのよね。

 ・・・だから油断してたのよ。優が恋愛なんかするはずないって・・

 芸能界以外はノーマークだったから、深沢先生の時はまったく気がつかなかったのよ。

 このわたしが全然わからなかったなんて・・まったくの不覚だわ。」


「恭子さ~ん。そんなこと言わないで。

 秘密にしてたのはいけなかったけど・・でも潤先生とはどうしても離れたくなかったの。」


「わかってるわよ。 だから今回 1ヵ月も離れてよく我慢したなと思ってるわ。

 映画の撮影も頑張ってたし・・偉いわよ、優。」


「・・潤先生が応援してくれたから。

 “頑張れ、優”って毎晩、言ってくれたから。」


そう呟く優は 胸の奥がきゅんとなって、つい涙がこみ上げてきた。

 

「優・・。」


「や、やだ・・潤先生のこと思い出しちゃった・・。

 明日は帰れるのに・・また一緒にいられるのよね。

 わたし・・嬉しい・・・。」

優の頬がほのかに赤く染まってくる。


恭子ははっとして、そして胸が痛んた。

優はまっすぐに、ひたむきに深沢潤のことを思っている。

本当にこの子は何て素直で純粋なんだろう。


自分がこれからしようとしてることは、そんな優の思いを踏みにじることになるのかもしれない。


いっそのこと、このまま二人のことを公表してしまえば・・。


恭子は慌ててその迷いを振り払うと優を見つめた。


「・・・あのね、優。 ・・優が この1ヵ月、すごく頑張ったから

 社長とわたしからご褒美があるのよ。」


「え? ご褒美?」


「そうよ。

 ・・・これから優はこの部屋に行くのよ。」


恭子はそう言うと手帳からホテルのカードキーを出して優の掌にのせた。


「え?・・・これって・・。」

優は戸惑ったように恭子を見た。


「ルームナンバーは 1219・・・アイニイク・・な~んてね。」

恭子は自分で言って笑ってしまった。


「・・その部屋で優をいちばん応援してくれた人が待ってるわ。」

 

「恭子さん・・それって・・・」

優は信じられないというような顔で恭子を見た。


「さあ、早く行きなさい。」


「ありがとう、恭子さん! 大好きよ!」

優はそう叫ぶと恭子に抱きついた。


「・・優ったら・・抱きつく相手を間違えてるわよ。」

恭子は笑いながら優の華奢な背中を優しく撫でた。

 

 

軽やかに飛び跳ねるように優は部屋を出て行った。


残された恭子はため息をついた。

そして悲しそうに呟く。


「・・ごめん、優。少しの間だけど・・先生と一緒に過ごしてね。 

 ・・・でも・・その後は・・。」

 


その時、部屋の電話が鳴った。

恭子は受話器を取った。

思ったとおり、優を強引に誘おうとしている篠原からだった。


「・・はい。あら、篠原さんですか?・・・はい、桐原です。

 申し訳ありませんが、優はとても疲れたようなので、もう休ませました。

 え? ・・・わたくしでよければお付き合いしますけど?

 はい、わかりました。すぐ参ります。

 あ、それから 優はあと2,3日 こちらに残ることになりました。

 ええ。・・・明日、優の家族がこちらに来るので、優も休暇を取ることになりました。

 はい、優はとっても家族思いですから。

 え、わたしですか? もちろん明日の飛行機で帰りますわ。・・・篠原さんとご一緒にね。」


恭子はそう言うと静かに微笑んだ。

 

 


   ・・・・・・・

 

     ・・・・・・・・・・・・・

 


夢中で走ってきた優は 息を弾ませながらその部屋の前にたたずんでいた。


胸が高鳴る。熱くなる。震える。


優はドキドキする胸を押さえながら、躊躇いがちに部屋のチャイムを鳴らした。


チャイムは3度鳴らす・・それが二人の“ただいま”のサイン。

 

部屋の扉が静かに開く。


うつむいていた優はゆっくりと顔を上げ、そしてその瞳は確実にその人の顔の位置を捉える。


今まで何度も 同じ高さを見上げてきた。


優が愛してやまない人の視線が彼女を見つめて微笑んでいた。


優の唇から薔薇色の吐息がこぼれる。


愛しい恋人がふわりと手を差し伸べる。


優は満開の花のような笑顔を向けて、その逞しい胸の中へ落ちてゆく。

 

そして、二人が吸い込まれるように部屋の中に消えていくと


静かにゆっくりと扉が閉まった・・・。

 

 

 

 







                                        背景 nimorin






前の書き込み 秘密 22 追憶の白い薔薇
次の書き込み 秘密 20 慕情 
 
 
 

IMX