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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357305/1894546
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 26 HIT数 6884
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 22 追憶の白い薔薇
本文




   秘密 22  追憶の白い薔薇

 

 


3日間、沖縄で潤と優は一緒に過ごした後、同じ飛行機で東京に戻ってきた。

しかし、飛行機の座席は別々で羽田空港でも離れたまま到着ロビーに現れた。

空港まで迎えに来ていた恭子に向けた優の表情は硬かった。


恭子は黙ったまま優の腕を取ると一緒に歩き出した。

優はそのまま促されるようについて行ったが、途中で足を止めると思わず振り返った。


少し離れたそこには、潤が静かにたたずんでいた。

 


「・・潤せんせい・・。」


潤を見つめる優の瞳にじわっと涙が浮かんできた。


潤は 誰にも悟られないようにそっとうなずいた。

優は首を何度も小さく横に振ると悲しげに潤を見つめた。

 

 


   ―――――

 

 


ここ数ヶ月の間に、芸能記者の間である噂が広がっていた。


女優の青山優が、最近 横浜山手の自宅に帰っていないらしい。

そして 山下町のとあるマンションで彼女を頻繁に見かけるようになったという情報が流れていた。


今まで、そういった類の噂が皆無だったお嬢さん女優の話題。

そして、週刊誌の記者の聞き込みが始まった。


それが優のプロダクション社長の耳に入り、当分の間 潤と優は別居することになったのだ。


二人で過ごした沖縄での3日間。

その最後の日に、潤はそのことを優に告げた。

 

優は今まで潤と暮らしたマンションには帰らずに山手の実家に戻ることになった。

 

 

「はぁ~・・・・・。」


優は大きなため息をつくと暗く沈みこんだ。

テーブルの上の紅茶はとっくに冷めてしまっている。


「・・優、そんなに落ち込まないで。」

叔母の由紀子が同情したように言った。


「でも、由紀子さ~ん・・もう2週間も潤先生と会ってないのよ!

 マンションには・・沖縄に行った時からもう一ヵ月半も帰ってないの。」

優は嘆いていた。


「そうね。 お式を挙げてから、潤先生と一緒にいたのは1ヵ月ぐらいなのね。

 ・・寂しいわね。 でも仕方がないわね。潤先生にご迷惑をかけたら申し訳ないもの。

 だから、優はもう少し我慢なさい。きっとまた会えるようになるわ。

 ・・それに・・沖縄ではとても楽しく過ごせたんでしょう?」


「うんっ、そうなの!」

由紀子の言葉を聞いた途端に、優の今までの憂鬱な顔がぱっと輝いた。


「3日間だけだったけど、ず~っと潤先生と一緒だったの。

 あまり人がいないような場所を探してドライブしたの。

 海も砂浜もキラキラしててすごく綺麗だった~!

 ・・すごく楽しかったのよ!」


「良かったわね、優。 恭子さんもいいとこあるじゃない?」


「う・・ん、そうね。・・こうして毎日は会えなくなるから、潤先生を呼んでくれたのね。

 でも・・潤先生はその事を知ってたのに最後の日まで言わなかったの。」


「それは、優がすぐ泣くからよ。」


「・・・・・」


優が黙ってしまったので、由紀子は困ったように微笑みながら優の手を取った。


「ほんとに・・こんな甘えん坊の優が、ちゃんと潤先生の奥さんをしてるのかしら?

 先生にご迷惑ばかりかけてるんじゃないの?」


「そんなことない。」

優は唇を尖らせて抗議した。

「・・それは・・まだまだ完璧にはできないけど、潤先生はそれでいいって言ってくれるもの。」


「はいはい、わかったわ。 そうね、潤先生は心が広い人ですものね。

 ・・お紅茶、冷めてしまったから入れ替えましょうね。」

由紀子は笑いながら立ち上がった。

 

優はまた大きなため息をつくと、テラスから外に目を向けた。

春のやわらかな日差しを浴びて、庭の薔薇の花が淡い色とともに開きかけている。

洋館の外壁の周りの桜も満開の時を迎えて薄ピンクの花びらがそよ風に揺れている。


  ・・・今頃、マンションの近くの桜並木も満開かな。


     今年は先生と一緒に桜を見ようと楽しみにしてたのに・・・。


     ・・潤先生、元気かな。


      毎日、電話して話もしてるけど 顔を見なきゃ心配なの。


      ちゃんと、ごはん食べてるのかな。

      お掃除もお洗濯もちゃんとしてるのかな。
  
      あ、それからお部屋のオーガスタにお水あげてるかな。 

      ああ、違う。先生はお水をあげ過ぎるのよね。

      あれは少しは乾燥気味でいいのよね。


      先生、ひとりで大丈夫かな・・・。

      

 

      ・・だめだ・・また落ち込んできたわ。・・泣きそう・・。


        大丈夫じゃないのはわたしの方ね。

 

目の奥がつんとしてきたので、優は慌てて顔をあげた。


優は午後の日差しの中で思いっきり深呼吸をしてみる。


春の匂い、お日様の匂い、花の匂いを胸いっぱいに吸うと少し気分が晴れるような気がした。

 

祖母の由梨子が テラスの先の中庭にたたたずんでいた。

春の眩しい光に溶け込みそうな明るいクリーム色のドレスと薄桃色のショールを羽織った

そのほっそりとした後姿は、まるで薔薇の木にそっと語りかけているようだった。

 

 

「・・おばあちゃま。」


優が声をかけると由梨子がゆっくりと振り向き、眩しそうに優を見た。


「優、今日はお休みなの?」


「うん。・・・おばあちゃま、今年もまたこの薔薇、咲きそうね。」


優はそう言いながら目の前の白薔薇の蕾に目を向けた。


まだその蕾は固いが もう少し暖かくなると徐々にそれはほころんで柔らかで華やかなオールドローズが花開く。

そして、その種類の特徴である優雅な香りが漂ってくる。


「そうね。・・この薔薇が咲くと、ああ またこの季節になったのだと思うわね。」

由梨子は蕾を眺めながら目を細めている。


「・・おばあちゃま。」

優ははっとして由梨子の横顔を見つめる。


「・・・優。」


「なあに、おばあちゃま。」


「今年も あのお嬢さんのお墓にこの薔薇を届けてくれるの?」


「もちろんよ。」


「ああ、でも・・今年は由紀子と二人で届けるわ。」


「え?どうして?」


驚いて聞き返した優に、由梨子は静かに笑みを浮かべながら言った。


「・・・それは・・優はもう結婚したからよ。」


「おばあちゃま・・。」


「優はもう青山家の娘ではなくなったの。

 潤先生と結婚して 深沢優になったの。・・・わかるわね?

 優は もう、今までのように裕介のことで辛い思いをしなくていいのよ。

 わたくしは母親だから息子の罪は一生背負っていくけど

 娘のあなたはもういいのよ。これからは潤先生と一緒に生きていくの・・。

 ・・・優はもっと自分の幸せのことだけ考えていけばいいの。」


「おばあちゃま・・。」

優は 悲しそうに微笑む由梨子の顔を見ると何も言葉が出てこない。

 

由梨子は優の手を取ると静かに問いかける。


「・・潤先生は優のことを大事にしてくれる?」


「うん、すごく優しくしてくれるし、大切にしてくれる。

 ・・・潤先生はとても心が温かい人よ。」


「・・そうね。潤先生はとても誠実な人ね。 

 初めて潤先生に会った時、この人は優を幸せにしてくれるかもしれないと思ったの。

 両親を亡くしただけでなく、その後の辛い事実まで抱えたまま生きてきた娘・・

 わたくしはそんなあなたが不憫で・・だから 早く優にはこの家を出てほしかったの。

 この家のことは忘れて幸せになってほしかった・・。

 愚かなおばあちゃまの浅はかで自分勝手な考えだわね。」


由梨子の切々とした言葉が優の心をえぐる。


両親を亡くしてから、ずっと 祖母の由梨子と叔母の由紀子に守られて生きてきた。

息子夫婦を 兄夫婦を亡くした悲しみは優のそれと変わらないはずなのに。

泣いてばかりいた優を 二人は朗らかに微笑みながら、強くしなやかに生きるように教えてくれた。


優が寂しい思いをしないように ずっとずっと包み込むように育ててくれた。


「・・おばあちゃま。・・わたしは潤先生と結婚したけど、これからもずっとこの家の娘よ。

 大好きな潤先生のお嫁さんになって、この家を出たけど 今でもここはわたしの家よ。

 だって、わたしはおばあちゃまの孫で、由紀子さんの姪で・・亡くなったパパとママの娘なんだもの。

 ・・・だから・・わたしは今年も薔薇を届けるの。

 おばあちゃまが大切に育てたこの薔薇をお墓にお供えしてくるわ。」


   みんな大好きだから。 おばあちゃまも、由紀子さんも、亡くなったパパとママも大好きだから。


   だから、今年もお墓の前で祈ってくるわ。


   みんな一生懸命生きてますって・・。菜々子さんに祈ってくるわ。

 


「・・だから・・おばあちゃまも心配しないで。

 わたしのことを不憫だなんて思わないで。・・わたしは幸せよ。

 ずっと幸せだったの。これからもっと幸せになるわ。」

 
優はそう言うと由梨子を見つめて微笑んだ。


「そうね。・・もっともっと幸せになるのよ、優。

 ・・・潤先生といつまでも仲良くね。」


由梨子は慈愛に満ちた微笑で優を見つめ、彼女の小さな手を両手で包み込んだ。


優は何度もうなずき“大丈夫よ”と笑った。


そしてゆっくりと由梨子を抱きしめた。


甘くて懐かしい花のような由梨子の香り。


子供の頃から泣いてばかりいた優を優しく抱きしめてくれた祖母の匂い。

 

 

優は目を閉じ、そして思った。

 

   ・・・ごめんなさい、おばあちゃま。


      わたし・・おばあちゃま達に言ってないことがあるの。


      どうしても言えないことがあるの。


      菜々子さんは潤先生の恋人だったの。

 

 

      わたしは パパのことも潤先生に言ってないの。

 

      もし、このことを話したら・・・どうなるのかしら。

 

      わたしは・・それを考えるとどうしようもなく不安になる。


     
      怖くて怖くて胸が痛いほど苦しくなる。

 

      潤先生に嫌われたくない・・・憎まれたくない。

 

      わたしはもう 潤先生がいないと生きていけないの。

 


        

 

 

      ――――――――――

 

 

 

「潤先生? あのね、明日から大学に行くわ。

 ・・・うん、お仕事が終わったらすぐに行く。・・それでね、

 その後、一晩だけマンションに帰ってもいいって。

 ・・うん、すごく嬉しい。やっと潤先生に会える。

 わたし、お部屋で待ってるから なるべく早く帰って来てね。

 あ・・でも、その前に大学でも会えるね。・・・どうしよう・・。

 前みたいに他人のふりなんてできるかな。

 ・・え?やだ、泣いたりなんかしないわ。そんな泣き虫じゃないもん。

 ・・・意地悪ね、潤先生は・・。」

 

 


      ―――――――――

 

 


翌日、久しぶりに行ったキャンパスで、優は驚いていた。

それは今までには見ることも無かった光景だった。

文学部社会学の深沢講師が 数人の女子学生たちに囲まれている。

彼女達は憧れと羨望と眼差しで潤を見つめ、嬉しそうに騒いでいた。


優は潤と顔を合わせただけで胸の奥が熱くなり泣きそうになった。


だが、そんな動揺する彼女とは裏腹に潤は平然としていた。


潤は涼しい顔でさらりと言った。 眼鏡の奥の潤の瞳が穏やかに光る。

 

「・・・前回提出したレポートで確認したいことがあるので
 
 授業が終わったら研究室の方へ来るように。」

 

「はい、先生。」

 


   ・・・はい、潤先生。 研究室で・・待ってます。


      潤先生と一緒に住んでいるあの部屋で待ってます。

 

      だから・・・帰ったら・・わたしを抱きしめて。


      大好きなあの声で“優”って呼んで 


           ・・・ぎゅっと強く抱きしめてね・・・。

 

 

 

 

 

数時間後・・・。


マンションの部屋のチャイムが三度鳴る。


白いエプロンをつけて夕食の支度をしていた優はぱっと顔を輝かせる。

そして、高鳴る胸を押さえながら軽やかに玄関に向かい扉を開ける。


扉を開けるとそこにいは潤が微笑みながら立っていた。

穏やかに眩しそうに優を見つめる 眼鏡の奥の黒い瞳。

 

「お帰りなさい! 潤先生。」

「ただいま。」

 

待ちきれなかった優は 潤が部屋に入ると、すぐにその大きな胸に身をまかせた。


優は 潤の胸に頬をよせて、目を閉じて、彼の背中に手を回した。


抱きしめる。抱きしめられる。


そして、おたがいをゆっくりと見つめ合い、囁いた。

 

 

「・・すごく会いたかった・・潤先生。」


「・・僕も会いたかったよ・・優。」

 


優を抱きしめる潤の髪から 桜の花びらがひらひらと落ちてきた。

 

やっと会えた二人の口づけは 儚くて優しくて穏やかで

涙が出そうなほど切ないキスだった・・・。 


               



 

    

 

               「秘密 2  奥さまは二十歳」へ続く・・・









              やっと長い回想シーンが終わり“現在”に戻ってきました。
              この後、2話からゆっくりとラストに続いていきます。

              「秘密 2 奥さまは二十歳」はこちらです ↓



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