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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 27 HIT数 6581
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 23 儚い花 ♪
本文




   秘密 23  儚い花       

 

 


翌日、授業が終わると 潤と優は研究室の前で別れた。


今度会えるのはいつになるかわからなかった。


優は涙が出そうになったので慌てて潤に背を向けて歩き出した。


潤は静かに 彼女のその華奢な背中を見つめていた。

 

 

「・・・そんな切ない目で見てるとバレバレだよ、深沢先生。」

潤が驚いて振り向くと そこには教授の結川が笑いながら立っていた。

 

「結川教授。」

潤は安心したように教授に頭を下げた。

 

「・・いやいや・・いつもクールな君でも そんな顔をして女性を見るんだね。」

結川は面白そうに潤を見た。


「・・・僕はそんな顔をしてましたか・・。」

潤は苦笑いをする。


「はは・・。私は君達のことを知ってるからそう見えたかもしれないが・・
 ・・・まあ・・気をつけなさいよ。・・一応 秘密なんだからね。」


「はい、教授。」

のんびりした口調の結川に言われると 潤は思わず笑みがこぼれる。


「・・・それにしても早いものだ。 君たちの結婚式に立ち会ったのは
 今年の初めだったから・・もう3か月もたったのか。」


「あの時はお世話になりました。・・教授がいらっしゃらなかったら
 優と僕は結婚式を挙げようなんて思いませんでした。」


「深沢君も青山君も私の教え子だからね。
 特に君の事は もう十年以上も前から知ってるし・・。
 ・・そうか・・・。そう言えばもうすぐだったかな?
 ・・・彼女・・水野君の命日は・・。」


「・・・ええ・・今度の日曜日です。」

ほんの一瞬、潤は言葉を失った。・・が、間もなく静かに肯いた。


「・・深沢先生。」

教授が改まった声で言う。


「はい。」


「・・もう・・大丈夫のようだね。」


「はい・・もう大丈夫です。」


「・・それは良かった・・。」


「はい、教授。」

 

講師と教授の二人は 窓から見える桜の木を眺めた。

 

桜の花びらがひらひらと舞い降りる。


まるで先を急ぐように咲く儚い花。


日曜日までにはその桜も散り終わってしまうのだろうか・・・。

 

 

 


   ――――――――

 

 

 

小高い丘を登っていくと自然の緑に囲まれた霊園が目の前に広がっている。

横浜を一望できる見晴らしのいい場所にその墓標はある。

 

「・・また今年も・・。」

潤は呟いた。


菜々子の墓前に置かれている白い薔薇の花束。

それは、菜々子が亡くなった翌年から毎年、この日になると供えられていた。

清楚で可憐な純白の薔薇の花。

誰が置いていくのかはわからなかったが

菜々子の命日を穏やかに静かに迎えさせてくれる花だと、いつも潤は思っていた。

 

潤も墓前に花束を供えると手を合わせて目を閉じた。

そして祈る。


潤の脳裏に浮かぶのは 7年前の菜々子の顔だった。

楽しそうに優しく微笑む菜々子。

菜々子は長い髪を風に揺らせながら手を振っている。


潤の心は穏やかだった。

 

 

数日前には咲き誇っていたはずの苑内の桜も 今はほとんど散ってしまっていた。

 

菜々子は桜の花が好きだった。

 

彼女はこの美しい自然に囲まれて穏やかに眠っているのだろうか。


切なく穏やかに懐かしく、菜々子のことを想えるようになった潤の心は安らいでいた。

 


「・・・潤君?」


突然、名前を呼ばれて潤は振り向いた。

  
「・・・おばさん?」


「やっぱり、潤君だわ!・・・久しぶりね! ま~、何年ぶりかしら!」


そう叫んだ菜々子の母親は明るい笑顔を潤に向けた。

潤はゆっくりお辞儀をすると静かに微笑んだ。

 

なだらかな石畳の階段を 二人はゆっくりと降りて行く。


「・・ありがとね、潤君。毎年、菜々子の命日にはこうして来てくれてるのよね・・。

 もう7年も経つのに・・。おばさん、感謝してるのよ。」

菜々子の母親はそう言うと潤を見上げた。


「いえ、そんな。・・当然のことをしてるだけですから。」

潤の横顔は穏やかだった。


「でもね。・・もういいのよ。もう十分だから・・潤君は自分のことを考えて。

 ・・菜々子のことはもう忘れて、潤君には幸せになってほしいのよ。」


「おばさん。」


「・・菜々子もきっとそう思ってるわ。

 あの子のせいで、潤君が前に進めないと思うと私達も悲しいのよ。」


「・・僕はもう大丈夫です。」


「潤君?」


「・・・結婚したんです。」


「え?」


「実は・・今年の1月に結婚しました。」


「潤君・・結婚したの?」


「はい。」


「まあ、おめでとう! 潤君。」


「ありがとうございます。」


「・・真央ったら何も言わないから・・。あの子、今でも潤君の所へ行ったりしてるんでしょう?

 潤君が結婚したのなら、もう行かないように言わないといけないわね。」


「おばさん。」


「ごめんなさいね。あの子、潤君が家庭教師をしてくれてた頃から、あなたに憧れて・・。

 でも、これでもう諦めてくれるかもしれないわね。


 ・・・そうだわ。それじゃ、尚更 あなたはもう菜々子のことは忘れなくちゃ。奥さんを悲しませてはだめよ。」


「大丈夫です。今日、ここに来ることは彼女も知ってますから。」


「え?」


「・・でも・・今年でもう終わりにします。」


「潤君。」


「・・・すみません。」


「何言ってるの、潤君。・・それでいいのよ。あなたが謝ることは何もないわ。」


「・・おばさん。」


「おめでとう、潤君!・・菜々子の分まで幸せになるのよ。」


「はい。」


潤がうなずくと、菜々子の母親は穏やかに笑った。

 


    ・・・・・・・・・・

 

          ・・・・・・・・・・

 

 

二人はゆっくりと並んで歩いて行く。


その後姿を見つめているのは優だった。


彼女は桜の木に身を隠すように静かにたたずんでいた。


儚く散ってしまった桜の花。


そよ風に吹かれて薄ピンクの花びらが舞い落ちてくる。


まるで、往く春を惜しむようにひらひらと落ちていく。


優の長い髪が風に揺れる。


優はゆっくりと桜の木を見上げた後、悲しげな瞳で潤の背中を見つめていた・・・。

 

 


      ・・・・・・・・・・・・・・・

 


            ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 


「・・あ・・。」


石畳の階段を下りていく優は驚いて声をあげた。


階段を上ってくる水野真央と出会ったからだった。

 

「・・青山・・優・・さん?」

真央も驚いて優を見上げた。


優は戸惑ったように少しうつむいた。

不安で胸の奥が痛くなる。


「どうしてここに? ・・・もしかして・・姉のお墓に? でも、潤さんと一緒じゃないのね。」


真央の言葉に優は悲しげな表情になるが、何も答えられない。

 

「・・・やっぱり・・あなただったのね。

 ・・あなたは・・あの事故を起こした・・青山裕介の娘だったのね・・・?」

 

真央はそう言い放つと優に鋭い視線を向けた・・・。

 

 

 

 


    ――――――

 

 


   ―― 数日後 ――

 


「優、着いたよ。」

潤は ぼんやりしていた優の顔を覗き込んだ。

優ははっとして顔を上げると、慌てて車の中から外に目を向けた。

そこは優の実家の前だった。


「・・どうかした?」

潤が心配そうに尋ねた。


「う、ううん・・何でもない。」

優は首を横に振ると少しだけ笑った。


「そう?」


「うん。・・・それより、今日はありがとう。両親のお墓参りに行ってくれて・・。」


「いや、本当なら結婚前に行くべきなのに・・今頃になってしまって。

 ご両親には申し訳なかったよ。・・君にも謝らなくては。・・ごめん、優。」


「ううん、そんなことない。今日はパパの命日だもの。・・そしてあさってはママの・・。

 今日は潤先生が一緒だったから二人は喜んでくれたと思うわ。」


優は静かに微笑むとうつむいた。


「・・・優。」

 

優は何かを決心したように顔を上げると言った。

「ね、潤先生。・・今夜はマンションに連れてって。」


「え?」


「誰にも見つからないようにするから。・・だから今夜はマンションに泊まらせて。

 ・・今日はこのまま さよならなんてできない・・。・・ね、お願い。」


優はすがるような目で必死に頼み込んできた。


「優?」

潤は驚いたように彼女を見つめた。


「・・お願い・・潤先生。・・今夜は傍にいて・・・。」


今にも泣きそうな優の顔を見て、潤は思わず頷いた。


亡くなった両親の事を思い出して、きっと不安で寂しかったのだろう・・と

潤はそんな優の頬をいとおしそうに撫でた・・・。

 


  

    ・・・・・・・・・・

 


          ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 


 
「・・・ゆ・・う・・・」


仰向けになった潤の唇から吐息が零れる。


優のシルクのような黒髪が潤の肩や胸をさらさらと滑り

優の熱い唇が潤の素肌に口づけを落としていく。


優の細い指が潤の髪や頬をゆっくりと撫でて

優の小さな唇が潤の唇と重なり合う。

甘く濡れた唇から滑らかで熱いものが 潤の唇の中へ密やかに忍び込んでくる。

息もできないほどの深いキスが潤を陶酔させていく。

まるで、秘密の花園に迷い込んでしまったような甘く芳しい香りが辺りに漂う。


甘く、切なく、芳しく、密やかに、狂おしく 優は潤を求めていく。


窓から忍び込む月の光が 優の美しくなだらかな身体のラインを幻想的に浮かび上がらせる。

ほっそりとした優の肩を抱き寄せると、潤の身体に彼女のやわらかな胸が重なる。

潤は 優の首筋から背中をゆっくりと撫でて、そのきめ細かい透けるような白い肌を確かめる。


静かな部屋の中には二人の吐息が聞こえてくる。

 


   “ 優・・?・・本当に君は優なのか・・?”

 

   “ そうよ・・潤先生・・わたしは優・・よ・・”

 


      ・・・わたしは・・潤先生だけの優よ。ずっと・・ずっと・・・


         たとえ離れても、わたしの心は潤先生のものよ・・

 


優はゆっくりと身体を起こし しなやかに弓なりに反らせた。


月の光が 美しいシルエットを映し出していた・・・。

 

 

    ・・・・・・・

 

         ・・・・・・・

 


額に熱いものを感じて優は目を覚ました。


潤の唇が優の額に触れていた。


彼はすやすやと静かな寝息をたてて眠っている。


潤の熱い唇を感じて 優は泣きたくなるほど幸せだった。

潤の身体の温もりを感じて胸が痛くなるほど幸せだった。

 

でも、それも今夜で・・・。

 

優は 自分の肩を抱き寄せている潤の腕をそっと外した。

そしてゆっくりと起き上がる。


優の細い指が 潤のさらさらとした髪を、綺麗な頬を撫でていく。

そして やわらかそうな唇に触れると指先の動きが止まった。


優の指が震える。細い肩も小刻みに震える。


鳶色の大きな瞳から大粒の涙が零れ落ちる。


優は声を押し殺して泣いた。


苦しくて苦しくて、胸が張り裂けそうだった。


心の中で何度も叫んだ。

 


     愛してる、潤先生。・・愛してる、愛してる、愛してる、愛してる・・・!


     本当に・・どうしようもないくらい愛してるの・・・!

 

     でも・・・わたしはもう潤先生の傍にはいられない・・・

 

     ごめんなさい、潤先生。・・・ごめん・・なさい・・・。

 


優は震えた声で静かに言った。

 

「・・・さよなら・・潤先生・・・。」

 

   ・・・・・・・・・・・・

 

       ・・・・・・・・・・・・・

 

 


   ――――――

 

 


翌朝 潤が目を覚ました時にはもう優の姿はなかった。


隣に寄り添って眠ったはずなのに、そのシーツには温もりさえ残っていなかった。


昨夜のことは夢だったのだろうか・・。

 

月夜に妖しく照らされ、僕を翻弄したのは・・優の幻影だったのだろうか。


彼女の艶かしいまでの肌の感触と温もりは儚い夢だったのか。

 

潤はぼんやりとして思いをめぐらせていた。

 


だが、数分後に彼は気がつく。 


昨夜のことは現実に起こったことだということ。


狂おしく陶酔しながら愛し合ったのは幻ではなかったと・・

 


眩いばかりの朝の光が差し込んでくるリビングルーム。


そのテーブルの上には すでに優のサインが記入された離婚届の用紙と結婚指輪、

そして 一枚の手紙が置かれていた。

 

 


     潤先生 ごめんなさい。 

     やっぱりわたしには 先生の奥さんと女優を両立させるのは無理でした。

     先生のことは大好きです。その気持ちに変わりはありません。

     でも、どうしても女優はやめられません。だからお別れします。 

     短い間だったけど、先生と一緒に過ごせてとても幸せでした。

     わがままなわたしを許してください。 さようなら。  優

 

 












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