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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357180/1894421
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 28 HIT数 6353
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 24 君がいない
本文




   秘密 24  君がいない


    

 

 

潤は洋館へと続く石畳の階段を駆け上がっていく。


「・・まあ、潤先生。こんな朝早く、どうなさったの?」

優の叔母の由紀子が驚いた顔で潤を迎え入れた。

 
「すみません、優は・・来ていませんか!?」

今まで見たことが無いほど青ざめた顔で困惑した潤が立っていた。


「あら・・優はマンションに泊まるって・・昨夜、連絡が・・。

 え?・・もしかして行ってませんの?」

由紀子は驚いて潤を見上げた。


「・・それが・・今朝から優の姿が見えなくて。」


「え?」


「すみません。・・とにかく他を探してみます。

  優から連絡があったらすぐに知らせてください。」


「わ、わかりましたわ。わたくしも探してみます。

 ・・ああ、それにしても優ったら潤先生にまで心配かけて・・何かあったのかしら。」


「大丈夫です。僕がきっと見つけますから・。

 ご心配かけて申し訳ありません。・・じゃ、失礼します。」

 
潤はそう言い残すと、また石畳の階段を駆け下りて言った。

 
    ・・・・・・・・・


        ・・・・・・・・


優は 祖母の由梨子の部屋でレースのカーテンの隙間から潤の後姿を見ていた。

 

「・・・ごめんなさい・・潤先生・・ごめん・・なさい・・。」

優はそう呟くとその場に崩れ落ちた。

 
「・・優・・。」

困惑した由梨子が優の肩に手を置いた。

 
「おばあちゃま!」

優は由梨子に抱きつくと声をあげて泣いた。

由梨子は震える優の背中を何度も撫でた。


「優・・。・・このままでいいの?・・潤先生に何も言わずにいなくなるなんて・・。

 由紀子はあなたがここにいることを知らないから・・。きっと潤先生はすごく心配してるわよ。」


「・・・・・」


「逃げてばかりじゃいけないわ。・・潤先生にも本当のことをお話してみたら?

 ・・今朝、わたくしに初めて話したように・・。ね、優。」


「・・おばあちゃま・・。」


「潤先生はとても誠実な方でしょう?・・きっとわかってくれるわ。」


「・・だから・・だめなの。」


「え?」


「・・潤先生はきっと許してくれるわ。・・わたしを責めたりしない。

 心が深くて・・とても優しい人だもの・・。

 ・・・でも、もう・・笑ってくれない・・。わたしから目をそらすようになるわ。

 わたしを見るだけで辛くなるのよ。わたしが傍にいるだけで苦しむの。

 ・・・そんな潤先生を見るのが怖い・・・。嫌われるより怖いの。

 だから・・潤先生と別れるしかないのよ。」


「優・・。」


由梨子は泣き腫らして憔悴しきった優を悲しそうに見つめた。

 

 

   ――――――

 


「・・申し訳ありません、先生。

 優はまた来週から仕事が入ってたので今週は大学に行くと言ってたんです。

 ・・でも、行ってないんですね? わたしも連絡が取れないんです。

 まさか・・あの子が自分からいなくなるなんて・・。一体どうしちゃったのかしら・・。

 実は、うちの社長からお二人にお話したいことがありましたの。

 きっと喜んでいただけると思ってたのですが・・今は優を探すことが先決ですわね。

 わたしも心当たりを探してみますので・・。ええ、何かわかったらすぐ連絡しますわ。」


潤は携帯電話を切るとため息をついてうつむいた。

困惑した恭子の声が耳に残っていた。

山手の実家にも仕事にも行ってない。大学にも来ていない。

心当たりの場所も行ってみたが、優の姿はどこにも見当たらなかった。

離婚届と結婚指輪、そして走り書きの手紙だけを残して優は消えてしまった。

潤はジャケットのポケットから指輪を取り出した。

優はマンションにいる時は必ずその指輪をつけていた。


  “ 嬉しいな、先生とお揃いの指輪! あ、だめじゃない!先生もここでは指輪をはめなきゃ!

    わたしがはめてあげる。・・・ふふ、よく似合ってるわ。先生の指・・長くて綺麗だから ”


優はそう言って嬉しそうに笑っていた。

彼女の細い指にもその指輪が誇らしげに輝いていた。


それほど大事にしていた物を置いて出て行くなんて・・。

しかも一方的に離婚届にサインまでして・・。


潤にはどうしても信じられなかった。

優に会って話を聞くまでは何も信じたくはなかった。

あの走り書きの手紙一枚だけで納得できるはずがなかった。

 
「・・優・・君は今どこにいるんだ・・? 一体何があったんだ?

 早く戻ってきて・・理由を言ってくれ・・。」


潤は呟くと苦しそうに顔を歪めた。

 
次の授業が始まる時間だった。

潤はテキストと講義用のレジュメを抱えると重い足取りで研究室から出て行った。

 

 

    ―――――

 



「え!!! ・・優、大学やめちゃうの???」

優の友人の北城奈美が驚いて声をあげた。


「・・う・・ん。そうなの。」

優は小さく答えるとうつむいた。


「え~!どうして? ・・・・・女優の仕事が忙しいから?」


「うん・・ごめんね。」


「何で~?・・休学じゃだめなの?・・せっかく仲良くなれたのに・・。

 今年は優を合コンに連れて行こうと思ってたのよ。

 それから、もっと一緒に遊ぼうと思ってたのに。」


「・・奈美・・。」


「・・あんなに勉強もしてたじゃない。特に深沢先生の授業は真剣そのもので。

 あ・・確か今の時間、授業受けてたよね?・・今日は出ないの?」


「う・・ん。今日は退学届けを出しに来たの。」


  潤先生が授業をしてる時間だから・・。・・顔を合わせないですむでしょう?


優は寂しそうに微笑んだ後、泣きそうな顔になった。

 



   ―――――

 


「・・・米国の社会学においては、公開されている既存の社会調査データが多いこともあり、
 大規模なデータファイルの計量分析をもとにした計量社会学が、近年では非常に盛んです。」


マイクを通した潤の声が講義室に響き渡る。

春学期の授業が始まると、潤の講義を履修する学生の人数が増加した。

そのため広い講義室を使用するようになり、マイクを使わなければならなかった。


「・・・米国社会学会の機関誌“American Sociological Review (ASR)”も

 論文の7割前後が計量分析を用いた論文で・・・・・」


突然、潤の声が止まる。

「・・・・・」

潤の視線は窓の外に向けられたまま、その場に立ちすくんでしまっていた。

学生達が怪訝な顔で前方の潤を見つめている。

    
「・・・申し訳ありませんが・・今日の授業はここまでということで・・。」

青ざめた顔で潤は静かに言うとマイクを教卓に置いた。


学生達がざわめく中、潤は講義室から飛び出して行った。

 




   ―――――

 



「・・・優・・・!!!」

驚いて振り向くと、そこには潤が息をはずませて立っていた。

 

「・・潤・・せんせ・・い・・・。」

優は自分の目に映った光景が信じられなかった。

 

「やっと・・見つけた・・。」

潤が近づいてくる。


「・・どうして・・?・・今・・授業中なのに・・どうし・・て・・?」

優は泣きそうな顔をして首を振った。


潤は優の手首を掴むとそのまま引っ張って歩き出した。


「・・潤先生!?」


「一緒に来るんだ!」


「だめよ!!・・離して!」


「嫌だ!」


「みんなが見てるわ!・・ここは大学よ!」


「そんなこと関係ない!」


「関係あるわ!・・こんなことしたら・・潤先生は・・。」


「僕のことはどうでもいい。それより優の本当の気持ちが知りたいんだ。」


「・・わたしは・・もう決めたの・・潤先生とはお別れするって・・。」


「・・どうして?」


「・・女優のお仕事に専念するの。・・だから大学もやめる。

 今、別れれば・・誰にも気づかれないうちに元通りになれるのよ。

 ・・もう、潤先生に迷惑かけることもないわ。」

 

足早に歩いていた潤の足が止まる。

彼はゆっくりと振り向いた。

優は何とか離れようとしたが強い力で手を掴まれていて逃れられない。

 

二人の周囲で学生達は足を止めて見ていた。

文学部の深沢講師が 学生で女優の青山優の手を掴んだまま離そうとしない。

彼らはその緊張感溢れる雰囲気に驚いていた。

もしかして、これは大学講師と学生の修羅場か?そんな好奇心の目を向けた。

普段、冷静な深沢講師が興奮しているのは明らかだった。
 

潤はそんな事も気にせずに優に問いかける。

「・・それが本心なのか?」


「そうよ!・・・もう疲れちゃったの!

 みんなに隠してることも、大学に行くことも・・潤先生と一緒にいることも・・

 そんなにたくさんの役をこなすのは無理なの! 一つのことだけに集中したいの!」


「嘘だ。」


「嘘じゃないわ。」


「だったら、なぜ僕の方を見て言わない? なぜ目を逸らす?

 ・・優は芝居が下手だ。女優なのに・・僕の前では演技がなってない。」


「・・・・・」


「・・初めて会った時から・・優は僕をまっすぐ見てた。

 こっちが息苦しくなるくらいまっすぐに・・。

 でも・・今は違う。ずっと視線を逸らしているじゃないか。」


「・・・・・」

優は何も答えずに唇を噛み締めた。


「優・・・僕を見て・・・。」

潤は優の肩を掴むと彼女の横顔を見つめた。


「・・やめて・・。」

優の大きな瞳に涙がじわっと浮かんできた。


「僕の目を見て・・優。・・僕の話を聞いて・・。」

潤は優の頬を両手で包み込んだ。


その時、やっと二人は見つめ合う事ができた。


「・・お願い・・やめて・・こんなことしたら・・潤先生は・・。」

潤の手を振り解こうとした優の瞳から涙が溢れ出した。


「・・・周りは関係ない。・・どう思われてもいい。

 僕は・・優の本当の気持ちが知りたいだけだ・・。」


「・・わたし・・わたしは・・・」


「・・本当に僕と別れるつもりなのか?」


「・・わたしは・・・・・。」


「優は僕と離れても生きていけるのか?」


「・・せん・せい・・。」


「僕はできない。・・もう、優がいないと・・生きていけない・・。」


「・・・潤先生。」


「・・優がいないとだめなんだ。 傍にいてほしい。」

 

潤の深くて切ない瞳が優を見つめている。

潤の低くて甘い声が優の胸に響いてくる。

優の瞳から涙がぽろぽろ零れ落ちる。

ガラスのような鳶色の瞳が潤をじっと見つめる。

優は声を震わせて言った。


「・・・わたしだって・・わたしだって・・先生がいないと生きていけない。

 潤先生がいちばん大切なの・・潤先生がいれば他には何もいらない。」

 

潤は安堵した表情が浮かべると静かに囁いた。


「・・・愛してる、優・・。」


「・・だめよ・・そんなこと言ったら・・。」


「・・愛してるんだ。」


「・・潤せんせ・・い。」


潤は優の頬の涙を拭うと、またその頬を両手で包み込んだ。

潤の顔がゆっくりと近づくと優は瞳を閉じた。

彼女の涙に濡れた長い睫毛がふるふると震えていた。

そして 二人の唇が重なった・・・。

優の手は潤の背中に回り、彼のジャケットをぎゅっと掴んだ。

 

静かで優しくて切なくて狂おしいほど情熱的なキスだった・・・。

 

   ・・・・・・・・・・・・

 

         ・・・・・・・・・・・・

 

  “ やっぱり、あなただったのね。

    あなたは、あの事故を起こした 青山裕介の娘だったのね?”


  真央はそう言い放つと優に鋭い視線を向けた。

 

  “ 潤さんはこの事を知ってるの?・・知ってるはずないわよね。

    知ってたらあなたと結婚するはずないもの。

    ・・・何て人なの。・・潤さんをずっと騙してたのね?”

 

  “ 違います!・・わたし・・騙すなんて・・そんなこと・・”


  “ じゃあ、なぜ黙っていたの?・・いいわ・・わたしが潤さんに言うわ! ”


  “ やめてください!・・お願いだから、潤先生には黙ってて。お願いです!”


  “ ・・・いいわ。黙っててあげる。

    わたしだってこれ以上潤さんの苦しむ顔は見たくないもの。

    その代わり、潤さんと別れて! ・・・今すぐ別れて。

    今なら世間にも知られてないわ。あなただってその方がいいでしょう?

    潤さんだってそうだわ。 ・・だから潤さんと別れて。


    ・・・そうすれば潤さんには黙っててあげるわ ”

 

   嫉妬と憎悪に満ちた真央が激しく優を責める。


   真央の言葉が優の心を容赦なく痛めつける。

 


   ―― 潤さんはあなたを許さないわ ――

 

      

 

狂おしく溢れる情熱のままに きつく抱きしめる潤の腕の中で優の身体が震え出した。

菜々子の墓前での真央の言葉がまた優を闇へ突き落とす。

 

「・・・だめよ・・潤先生・・。やっぱりだめ。」

優は顔を上げると声を震わせて言った。そして潤の胸を押した。


「・・優?」


「・・わたしは・・潤先生に愛される資格がない。

 やっぱり・・傍にはいられない。」


「・・資格って・・何を言ってるんだ?」


「・・わたしのパパなの。」


「え?」


「・・7年前・・菜々子さんを事故に遭わせたのは・・わたしのパパなの。」


「え?」


「・・・わたしは・・潤先生の・・菜々子さんを死なせた青山裕介の娘なの・・。」


「ゆ・・う・・・。」


潤の表情が凍りついた。

優を見つめる瞳は大きく見開いて固まったままだった。

言葉は何も出てこない。


スローモーションのように潤の手が優の身体から離れていく・・。


優は苦しそうに顔を歪め、そして悲しげに微笑んだ。

 

「・・ごめんなさい、潤先生。 わたしを・・許して。・・ごめん・・なさい。」

 

優はそう言い残すと潤に背を向けて走り出していた。

 

 

  ・・・・・・こうなることはわかっていた・・・

 


優は泣きながら必死に走っていた。

少しでも早くその場から逃げたかった。

大好きな潤の悲痛な顔を見たくなかった。


  潤先生、潤先生、潤先生・・・潤せんせ・・い!


  これで終わり・・今度こそ本当にさよなら・・。


  ごめんね、潤先生・・でも大好きだったの!・・ごめんなさい!


  ・・・やっぱり・・先生の前に現れたのは間違いだった!


  わたしが全部いけないの!・・わたしが欲張ったから・・ 

 

 


大学の構内を抜けて、道路に飛び出してしまった優を目がけて一台の車が向かって来た。


優の身体は立ちすくんだまま凍りついたように動けなかった。


これは先生に嘘をついていた罰だ。
 

“ごめんなさい、潤先生 私を許して”・・・・・優は目を閉じた。

 

「・・優・・!!!」


名前を叫びながらそこへ飛び込んだのは潤だった。


何も考えてはいなかった。


優の泣き顔だけが頭から離れなかった。


潤は無我夢中で優の背中を押した。

 

車の急ブレーキの音とともに何かにぶつかる衝撃音が辺りに響き渡った・・・。

 

 


 








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