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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357287/1894528
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 29 HIT数 6062
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 25 優の初恋
本文


 

   秘密 25  優の初恋

 

 


   ―― お兄さん・・どうして泣いてるの・・? ――

 

   ―― ・・・大好きな人が死んだんだ・・・――

 

   ―― そうなの?・・・死んじゃった・・・の・・・・・? ――


   
   ―― どうして・・君まで泣くの? ――

 

   ―― だって・・お兄さん・・かわいそうなんだもの・・・

       かわい・・そう・・。


      ・・・・・でも・・泣かないで・・もう泣かないで・・・――

 

 

満開の桜の木の下で、その少女は僕を見上げていた。


その透明なガラスのように澄んだ瞳には涙がいっぱいだった。


ひらひらと桜の花びらが舞い降りる・・・


薄いピンクの花びらが少女の長い髪を滑るように落ちていく。

 

   どうしたの・・君まで泣かなくていいんだよ。


   ・・・悪いけど・・一人になりたいんだ・・・一人にし・・て・・ 

 

少女は黙ったまま僕を見上げた。


そして頬の涙を手で拭うとまた僕を見つめた。


大きな鳶色の瞳がまっすぐに僕を見ていた・・・。

 

     ・・・・・・・・・・・・

 


         ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

目を開けると、優が泣き腫らした瞳で潤を見ていた。


あの時と同じ 大きな鳶色の瞳。 涙で濡れた瞳。


初めて会った時から ずっとまっすぐに潤を見ていた懐かしい瞳。


「・・・ゆ・・・う・・。」


潤は擦れた声で彼女の名前を呼んだ。


白い包帯で巻かれた潤の手はしっかりと優の両手に包み込まれていた。


麻酔がまだ完全に覚めてないのか頭がぼんやりしている。

身体中の痛みよりも、ずっしりと重いだるさが全身を襲い ベッドに沈み込んでいくような気がした。


潤は一度、重い瞼を閉じて またゆっくりと目を開けた。


優の泣き顔がすぐ目の前にあった。


また泣かせてしまった・・・ぼんやりとそんな事を思った。

 

「せん・・せい・・。・・わたしが・・わかるの・・?・・気がついたの・・・?」


「・・・優・・・。」


「潤先生・・。」


「・・思い出したよ・・あの時・・桜の木の下で・・・・」


「え・・・。」


「あの女の子は・・優・・だったんだね。

 一緒に・・泣いてくれた・・あれは・・優だったんだね・・・。」


「・・潤せんせ・・い・・。」


見る見るうちに優の瞳から涙が溢れてきた。

涙がぽろぽろ零れて青ざめた頬に涙が伝わっていく。


「・・優・・泣かないで・・もう泣かなくていいんだ・・・。」


潤は呟くように言った。

手を伸ばして優の頬に触れたかったが、腕が重くて動かすことさえできなかった。


「・・優は・・・あの時からずっと・・僕をまっすぐに・・・見つめていたんだ・・ね・・・。」


潤はゆっくりと目を閉じた。


そして・・また深い眠りに落ちていった・・・。

 

 

 


   ――――――

 

 

 
   ―― K大学 横浜キャンパス ――

 


優の友人の北城奈美はたたずんでいた。


もうすでに花は散って、黄緑色の葉桜になった木の下。

学生達が読書をしたり、将来を語り合う芝生とその横にはベンチがある。


数日前に、ここで騒ぎがあったことなど微塵も感じられないほど 今では静けさを取り戻している。


社会学の深沢講師とその学生の優とのラブストーリー。

衝撃的だった二人のラブシーン。


まるで映画かドラマを見ているみたいにドラマティックだった。

あの、いつもクールで物静かな深沢先生があんなに情熱的だったなんて・・


奈美はあの時の二人のキスを思い出して、思わず顔が熱くなって自分の唇に指を当てた。

   ・・・彼とわたしのキスなんて・・あのキスに比べたらお子ちゃまよね~・・・

 


あの日から、大学の中はもちろん、世間でも大騒ぎになった。


人気女優の青山優が、すでに結婚していたこと。

その相手が、彼女の通う大学の講師だったこと。

そして、優をかばって彼が事故に遭い重体に陥ったこと。


マスコミはそのドラマティックな出来事をかなり誇張して伝えた。

大学にも芸能レポーターや雑誌記者たちが押し寄せた。

その騒動に見かねた優の所属事務所が記者会見を行った。


二人の結婚は内密にするように事務所側が説得し、二人は心ならずも承諾したこと。

結婚式は 二人の身内とごく親しい者達が参列して、厳かに穏やかに行われた。

結婚してからの優は、以前にも増して女優としての自覚を持って意欲的に仕事をした。

二人の間の信頼感と強い絆は傍目に見ても明らかだった。

そして、最近 取材で優の周囲が騒がしくなり二人の関係が明白になるのも時間の問題だと考え

そろそろ、二人の結婚を正式に発表しようと決めた矢先だった。

本来なら青山優本人による会見を行うところだが、彼女は今 夫の事故に半狂乱で

かなりショックを受けているので、後日改めて行うという事だった。

そして、優の相手は芸能人ではなく一般の男性なので くれぐれも過激な取材は遠慮してほしいと

事務所社長は告げた。

 

「今度、二人して大学に来たら からかってやるんだから・・!」

奈美はそう呟くと呆れたように笑った。

 

 

 

   ―――――

 

 

「・・そうですか。深沢先生の意識が戻りましたか。」

大学の研究室で 教授の結川は明るい表情を向けた。


「はい、そうなんです。先程、弟の陸さんから連絡がありまして・・

 とりあえず深刻な状態からは脱したようですわ。」

恭子は安堵した顔で微かに微笑んだ。 


「良かった、良かった。これで一安心ですね。

 ・・・それで、青山君の方はどうなんですか?」

 

「それが・・未だに深沢先生の傍に付きっきりで・・この3日間、ほとんど寝てないようです。

 あの子まで倒れてしまうんじゃないかと心配で。でも、誰が何を言っても先生から離れようとしないんです。」

恭子の表情が曇る。


事故の後、潤が救急車で病院へ運ばれた時も優は狂ったように潤の名前を叫んでいた。

永遠に続くかと思われるほど長い手術の間も、人口呼吸器や数本の点滴が取り付けられた潤が

手術室からICUに移されてからも 優の顔は蒼白で身体を震わせていた。

そして、真っ白な包帯だらけの潤があまりにも痛々しくて、優はあふれる涙を止めることができなかった。


「あの子にとって・・深沢先生は全てですから。ご両親のように自分を置いて逝ってしまうのではないかと

 恐怖で眠ることもできないんです。」


恭子は憔悴しきった優の姿を思い出して涙が出そうになった。


「大丈夫ですよ。深沢君の意識が戻ったのなら、これから回復していきます。

 彼は若いし、体力もある。 彼が元気になれば青山君も同じように元気になりますよ、きっと。」

結川の力強い言葉に恭子は安堵を覚えた。

この人は本当に不思議な人だと感じずにはいられなかった。


「それで・・大学側の見解はどうなんでしょうか。

 ・・深沢先生の立場が悪くなったとしたら、二人のことを内密にするようにお願いした

 こちらの責任もあります。もし、先生に何らかの処分が出たのなら・・。」


「ああ、処分は出ましたよ。私情を持ち込んで授業を中断したことに対して厳重注意・・だそうです。」

 

緊張した面持ちの恭子に対して、結川はさらっと言った。


「え?」


「・・やっぱり・・講義を中断して奥さんを追いかけたのはまずかったですね~。」


「あの・・それだけですか?」


「そうですよ。」


「学生と結婚して隠してたことに対しては?」


「・・・それはね・・。実は私が忘れていたことがあって。」


「え?」


「・・うちの学長・・彼の奥さんもここの学生だったんですね。当時のミス・キャンパスに選ばれたほどの美人でね。

 私と同級生だったんですよ。その時、学長は助教授だったんですけど。

 あ、今は准教授って呼び名が変わりましたけどね。

 そう、彼も教え子に手を出して、いや恋に落ちて結婚したわけで。 

 学部長も教授の中にも同じように学生と結婚したのが多いんですよ。

 ・・・私としたことがうっかりしてましたね。だから、ちょっと学長たちと昔話をしてね。

 皆、昔は若気の至りでいろいろありましたね、と確認したら

 ・・その結果 そっちの方は大した問題にはなりませんでした。」


「・・はあ・・。」


「あ、実を言うとね、私の家内もここの学生だったんですね~。」


「・・・・・・・」


のんびりした口調で話す結川の顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。

きっと、その穏やかな言葉とは裏腹に大学の方にはいろいろ苦心して掛け合ったに違いない。

しかし、結川はそんな様子を少しも見せない。


恭子は思わず呟いた・・恐るべし、結川教授。

 

 

   ――――――――

 

 

   ―― 7年前 ――

 

優が病院の救急センターに駆けつけると 両親は二つ並んだベッドに眠っていた。

二人とも重体で意識は戻っていなかった。

頭も顔も真っ白な包帯で巻かれ人工呼吸器を当てられていた。

あまりにも痛々しい両親の姿に、まだ14歳だった優はショックで泣くこともできなかった。

祖母の由梨子と叔母の由紀子は憔悴してうなだれている。

他の親類達も何も語らず、事故の重大さを物語っていた。

そのまま長い時間が過ぎた。

両親はまだ目を覚ます様子は無かった。


その重々しい雰囲気に耐え切れなくなった優は、ふと周りに目を向けた。


両親の他にもいくつかのベッドが救急患者で埋まっていた。

それぞれがカーテンで仕切られている。

突然、二つ隣のベッドのカーテンが開いたかと思うと、その中から一人の医師と

数人の看護師が出てきた。

彼らは患者をベッドに寝かせたまま移動するところだった。。

優の目の前を通り過ぎる時、そこに横たわっている若い女性の顔が見えた。

呼吸器も付けていない彼女は眠っているかのように見えた。

ほとんど外傷もないその顔は透き通るように白く、長い黒髪が印象的だった。

叔母の由紀子にとがめる様な声で名前を呼ばれるまで、優はその彼女が運ばれて

部屋から出て行くのをずっと見ていた。


そして、その女性が菜々子で、その時はすでに帰らぬ人になっていたこと

そうさせたのは優の父親の裕介が起こした事故のせいだったと 優は後で聞かされたのだった。


道路に飛び出してきた菜々子を避けようとした祐介だったが間に合わず

車線を越えてしまった車は、逆方向から走ってきたトラックと正面衝突をしてしまったのだった。


      ・・・・・・・・・

 

優の両親はまだ意識が戻らなかった。

大人達の重苦しい雰囲気から逃げ出したくて、優は病院の中庭に出てみた。

昼間は春の暖かい日差しがあふれていたが、そろそろ夕方近くになり肌寒くなっていた。

そのせいか、庭には散歩する患者の姿もなく ただ数本の桜の木が寂しげだった。


優はその時になって初めて涙が出そうになった。

心細くて、このままもし両親が・・と思うだけでどうしようもなく不安だった。


春の夕暮れの中で桜の木は悲しいくらいに満開だった。


ひらひらと桜の花びらが舞い降りる・・・


そして・・・その桜の木の下で 彼は泣いていた・・・。


・・・声を押し殺し肩を震わせ泣いていた。


身体の奥底から絞り出すように その魂を震わせて泣いていた。


男の人でも あんなに悲しそうに泣くのだと あの時初めて知った。


そして・・その時、優も泣き出してしまった。


なぜかわからなかった。


張り詰めていた緊張の糸が切れたように、涙がこみ上げてきて止まらなかった。

 


優の記憶の中で 彼の姿はあまりにも鮮明で、美しく、儚げだった・・・。


どんなことがあっても忘れられない人。


・・・忘れてはいけない人・・。

 

それが潤との出会いだった・・・。


   


     ・・・・・・・・・・・・・

 

その後、優の父が亡くなり、二日後に母も帰らぬ人になった・・・。

 

      ・・・・・・・・・・・・・・

 


そして 一年後


15歳になった優は小高い丘の上にある霊園を訪れていた。

祖母の由梨子が心をこめて育てた白い薔薇を抱えて。

その日は 事故で亡くなった菜々子の命日だった。

優は菜々子の墓前に花を供え、手を合わせて祈った。

パパのことを許してください・・・優は心の中で祈り続けた・・・

 

 


「・・・そして、帰る時に潤先生とすれ違ったのよ。」

優はそう言うと、辛そうに睫毛を奮わせた。

 

「・・・優・・・。」

潤は優の手をそっと握りしめた。

真っ白な包帯で巻かれた潤の手は驚くほど弱々しく、しかしそれが返って

その手から逃れられないという気持ちにさせた。

 

「潤先生は気がつかなかったけど、わたしはすぐにわかったの。

 ああ、あの日 桜の木の下で会った人だ・・って。

 そして あの時言ってた大好きな人っていうのは菜々子さんのことだって知ったの。」


そう話す優の瞳から涙がこぼれた。


「ショックだった。・・・わたしはパパのことを恨んだわ。どうして?って・・。

 どうして・・菜々子さんを・・あの人、潤先生を苦しめているのがパパなの?って・・

 パパを恨んで・・でも、憎みきれなくて やっぱりパパのことは大好きで・・

 でも、わたしは潤先生から菜々子さんを奪ったパパの娘なんだって・・

 いろいろな思いが頭の中をめぐって混乱して、どうすればいいのかわからなかった・・・。」


うつむいた優の震える手を潤の手が包み込んだ。

その手の温かさが優を励ましてくれているような気がした。


ちゃんと最後まで話さなければ・・どんなに辛くても 潤先生に本当のことを言うの。

優は自分を奮い立たせて顔を上げた。

 

「それから毎年、菜々子さんの命日になると薔薇の花を届けたの。

 誰にも会わないように朝早く・・潤先生よりも早く。

 そして・・桜の木に隠れて潤先生が来るのを待ってた。

 非難されるかもしれないけど・・ドキドキしながら待ってたの。」


優は遠い目をしながら微かに笑った。


「潤先生は毎年、大体決まった時間に菜々子さんに会いに来てたわ。

 真面目で物静かな感じで・・背筋がすっと伸びてて・・。

 お墓の前では静かにたたずんで・・何かを話しかけているみたいだった。

 その横顔がすごく悲しそうで、でも綺麗で・・男の人なのに、そんな表現がぴったりで・・

 そして、菜々子さんのことをずっと忘れられない人。

 わたしは・・そんな潤先生に恋していた。

 初めて会った時から・・毎年、一年に一度しか会えない人・・

 ・・・名前も知らない、その人のことを・・好きになってた・・。」


優はそう言うと潤んだ瞳で潤を見つめた。


「・・好きになってはいけない人なのに・・わたしは潤先生に恋してたの・・。」

 

優の白い頬にガラスのように透明な涙が零れた・・・。

 

 

 







 





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