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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1367244/1904485
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 3 HIT数 7712
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 3 出会い
本文


 秘密 3  出会い






 


「では、深沢先生 レポート頑張ります。」

優はにっこり笑うと潤にお辞儀をした。


「期限は来週の水曜日です。」

潤は真面目な顔で言う。


「はい、わかってます。一分でも過ぎたら即アウトなんですよね。」

   “相変わらず大学では厳しいな~先生は・・・

       ・・・ちゃんと提出しますから・・・

       わたしがいなくても 浮気しないでね、潤先生”

 

「そうです。君がどんなに忙しくても特別扱いはしませんよ。」

   “・・・優こそ・・・”

 

穏やかに会話をする講師とその学生は また会える時までの短い別れを名残惜しんだ。

 

潤の研究室の前で 優は彼に背を向けると歩き出した。


潤は静かに 彼女のその華奢な背中を見つめていた。

 





「・・・そんな切ない目で見てるとバレバレだよ、深沢先生。」

潤が驚いて振り向くと そこには国文学教授の結川貴志が立っていた。

温厚な性格で いかにも学者という風貌の彼は静かに笑っている。


「結川教授。」

潤は安心したように教授に頭を下げた。

結川は この大学で潤と優の関係を知っている唯一の人物だった。


「・・いやいや・・いつもクールな君でも そんな顔をして女性を見るんだね。」

結川は面白そうに潤を見た。


「・・・僕はそんな顔をしてましたか・・。」

潤は苦笑いをする。


「はは・・。私は君達のことを知ってるからそう見えたかもしれないが・・
 ・・・まあ・・気をつけなさいよ。・・一応 秘密なんだからね。」


「はい、教授。」

のんびりした口調の結川に言われると 潤は思わず笑みがこぼれる。


「・・・それにしても早いものだ。 君たちの結婚式に立ち会ったのは
 今年の初めだったから・・もう3か月もたったのか。」


「あの時はお世話になりました。・・教授がいらっしゃらなかったら
 優と僕は結婚式を挙げようなんて思いませんでした。」


「深沢君も青山君も私の教え子だからね。
 特に君の事は もう十年以上も前から知ってるし・・。
 ・・そうか・・・。そう言えばもうすぐだったかな?
 ・・・彼女・・水野君の命日は・・。」


「・・・ええ・・今度の日曜日です。」

ほんの一瞬、潤は言葉を失った。・・が、間もなく静かに肯いた。


「・・深沢先生。」

教授が改まった声で言う。


「はい。」


「・・もう・・大丈夫のようだね。」


「はい・・もう大丈夫です。」


「・・それは良かった・・。」


「はい、教授。」

 

講師と教授の二人は 窓から見える桜の木を眺めた。

 


  ・・・あの日も 同じように桜が満開だった・・・。

 

 



   ―――――――

 

 



   ―― 七年前 ――

 


「遅いよ 菜々子!・・あまり待たせると先に帰るぞ!」

K大学の大学院生の深沢潤は 携帯電話に向かって叫んだ。

大学の近くのカフェで 潤は恋人の水野菜々子を待っていた。

菜々子は同じ大学の三歳年下の学生だった。

彼女の講義が終わった後 二人は山下公園へ行く約束をしていた。

そこは、木の数は少ないが美しい桜の花が咲いていた。

その下を歩いて行くとベイブリッジが見えて来るのだ。

青い海を背景にベイブリッジ・・そして今は淡いピンクの桜。

菜々子はその場所が好きだった。

二人が付き合うようになってから 度々訪れた場所だった。


『え~!! もうすぐ着くから待ってて、潤!』

受話器の向こうで 菜々子があわてている。

それを聞いて 潤は楽しそうに笑う。


「嘘だよ。ちゃんと待ってるから早く来いよ。」


『本当に待っててね、潤!・・本当よ!?』

 

それが 潤が聞いた菜々子の最後の声だった・・・。

 

 

 

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

   ―― 待っててね ――

 


  あの日から 潤はずっと待っていた。


  突然の交通事故で逝ってしまった菜々子を 待ち続けていた。

 

  「待ってるから早く来いよ。」


     ・・・菜々子を急がせてしまったのは僕だ・・・


   
   艶やかな長い黒髪も 透き通るように白い肌も 


    “潤”と呼ぶ涼やかな声も 花のように綺麗な笑顔も

 

        ・・・全て僕の前から消えてしまった。

 


愛する者が突然いなくなるというどうしようもない喪失感


苦しくて苦しくて 何日も眠れない日々が続いた。


ほんのつかの間 うとうとしたかと思うと 夢の中に菜々子が出てきた。

つかまえようとして手を伸ばすと 彼女は消えていた。

   “待っててね”という声だけ残して・・・。

 

・・・そして 夢から覚めると泣いていた・・・。 

 

何も考えたくなかった。

何も考える隙がないくらい 身体を苛めて くたくたに疲れきったまま眠りたかった。


全てを忘れてしまいたかった。 

 


あの日から 何度も春が訪れた。


そして 桜は咲く・・忘れることもなく・・必ず・・・。

 

桜の花を見ると菜々子を思い出した。

彼女は 悲しい顔をしていた。

 

・・・桜の花なんて早く散ってしまえばいい・・・。

 

うつむいて 目を閉じて 耳を塞いで その季節が通り過ぎるのをじっと待っていた。


あの日から 潤はそうやって春という季節から目をそらしていた・・。

 


   ・・・一年前・・・優と出会うまでは・・ずっと・・。

 

 


  もう二度と恋なんてしない・・・


     あれからずっと そう思っていた


  あんな辛い思いをするのなら


      ・・・もう誰も愛したりしない

 


     でも 僕は また恋をした


     二十歳の優に恋をした

 


     ・・・二十歳だった菜々子がいなくなって六度目の春だった・・・

 

 


   ――――――

 

 

穏やかで静かで理知的・・でもどこか排他的。

決して感情を表に出さず いつも冷静。

はっとするほど端正な顔立ちなのに クールで人を寄せ付けない。


それが 大学院を出て、同じ大学の講師になった 深沢潤に対する周りの印象だった。


それでも 女子学生の間では憧れの存在の潤は 
時々 彼女達に誘われる事もあった。

そんな時 潤の言うセリフは決まっていた。


「・・先生と君達では 十歳も年齢が違います。

      そんな時間があるのなら勉強しなさい。」             

 

 


   ――――――

 

 


   ―― 一年前 ――

 

その年も やはり春はやってきて 桜が満開の頃だった。


潤は 大学構内にある桜の木の下にたたずんでいた。

 

月日が巡って 時間は過ぎ それと共に潤の心の中にも微妙な変化が訪れていた。


菜々子は 自分の前からいなくなってしまった。

その悲しみよりも 今は 楽しかった時の事を思い出すようになっていた。 


あれから 何度も何度も季節が巡り 辛かった気持ちは次第に薄れていった。


桜の花を見ても 悲しい顔をした菜々子ではなく
優しい笑顔の彼女を思い出すようになっていた。


    菜々子は あの時のまま・・二十歳の まだ少女のような笑顔だった。

 

 

 

潤が 桜の木から立ち去ろうと歩き出した時だった。

 


「・・・待って・・・!!」

 

誰かが叫んだ。

 

 

 

    ―― 待っててね ――

 

「!!!」

菜々子の声が聞こえたような気がした。

 

「え・・・?」


突然の出来事だった。


誰かが 潤の腕をぎゅっとつかんだ。

そして それは振り向いた潤の胸の中に いきなり飛び込んできた。


   ・・長い黒髪がふわりと舞って 潤の胸の中で波打った。


      甘い香りが風に乗って 潤の鼻孔をくすぐった。 


その彼女は ためらうこともなく潤に抱きつくと 彼の背中に手をまわした。

 

「・・君・・!」

潤は驚いて声を上げる。


「しーーーっ。 黙って。」

彼女は顔を上げると その小さな唇に人差し指を当てた。

「・・お願い、しばらくこのままでいて・・。悪い人に追われているの。」


はっとするほど綺麗な顔立ちだった。

大きな鳶色の瞳が 潤を見つめる。

何と表現していいかわからないような・・不思議な瞳だった。

 

だが・・・

追われてるというような危険な匂いは微塵も感じられなかった。

彼女はまるで 楽しんでいるかのように微笑んだかと思うと また潤の身体にしがみついた。


「・・おい!・・君・・・!」


だが、彼女は潤の胸に顔を隠すように 強く押し当てた。


その時 数人の男達が叫びながら 潤の背中越しに走って行った。


「いたか!?」
「いや、どこにもいない!」
「おかしいな・・確かにこっちの方へ来たのに!」
「もう少し先を探してみよう!」
「く~! やっと見つけたと思ったのに!!」

 


    ・・・・・・・・・・

 

          ・・・・・・・・・・・・

 


男達がいなくなるまで 彼女は潤の胸に顔を埋めていた。

潤の大きな身体に覆われて 華奢な彼女はすっぽりと隠れて見えなかったようだ。


「・・・本当に追われていたのか?」

潤は男達の後姿を目で追っていた。

 

彼女はゆっくりと顔を上げると にっこり微笑んだ。

 

「・・・あの男達は一体・・?」

潤は 戸惑いの表情を浮かべて 彼女に尋ねた。


「・・ボディーガードよ。」

彼女はすました顔で言った。


「ボディーガード?」


「自由のきかない とある国のプリンセスがお城から抜け出すの。
 それを追ってきたのが あのボディーガード達なの。」


「・・・?・・・」


「その彼らから助けてくれたのが 小学校の先生で プリンセスと彼は恋に落ちるの。」


「・・・・・」

潤は訳がわからないまま 黙って首を傾げる。

 

「・・・やっぱり TVドラマなんて見ないのね、深沢先生は。」

彼女は 大きな瞳をくるくるっと動かすと悪戯っぽく笑った。


「・・・君はここの学生なのか。」


「はい。 文学部 国文学科二年の 青山優です。
 今日 初めて先生の講義も受けます。よろしくお願いします。」

優は すんなりと丁寧な言葉使いに変えると頭を下げた。

「・・助けていただいて ありがとうございました。・・・それから・・。」


「・・・?・・・」


「それから・・先生の胸って 思ったより逞しくて・・温かくて
 すごく・・気持ち良かった~!!」


「・・・・・」


「あ・・先生ったら、赤くなってる!」

優はまるで宝物でも見つけたように はしゃいで声をあげた。


潤は言葉につまり言い返せない。


彼女はゆっくりと顔を上げて そんな潤を見つめると こぼれるような微笑を向けた。

長い黒髪が風になびいて さらさらと音が聞こえるような気がした。


潤は なぜか言葉を失ったままだった。


優との出会いは 不思議で鮮明な印象だった。


そして 彼女の瞳はまるで 全ての感情を秘めているような 優しくて温かくて

どこか悲しげな 透明感のある繊細な瞳だった。

 

 


   ・・・ひらひらと舞い落ちる花びらの中・・・二人は出会った・・・。

 

 

 

   ――――――――

 

 

TVをあまり見ない潤にとっては 青山優という学生が
かなり名の知れた女優で 名門女子大に在学中だった彼女が
その年 このK大学の編入試験に見事パスしたという事は その数日後初めて知った。

そして 初めて会った時に優が言っていたプリンセスの話は
彼女が主演したTVドラマのストーリーだという事を知ったのはもっと後だった。


あの時の「ボディーガード」は 実は優の熱心なファンで 部外者が大学構内にまで
追いかけて来たのだった。

その後 大学構内での警備体制が強化され そんな騒ぎもなくなった。

 

優は 女優という仕事のためにしばらくの期間、大学に来ない事も多かったが
授業を受ける時は かなり熱心で集中力もある学生だった。

特に 潤の講義を受ける時には 必ず最前列に席を取って 潤の話を聞いていた。


そして 潤と目が合うと 優は嬉しそうに無邪気に微笑んだ。

 

「・・・・・」

潤は戸惑っていた。

今までにも 似たような仕草をする女子学生はいたはずだった。

あからさまにアプローチしてくる彼女達。

潤はそんな視線に慣れていた。そして 無視していた。

 


だが・・・


優は ただ黙って潤を見つめていた。

まっすぐに・・だが、押しつける事もなく やわらかく・・。

あの、純粋な瞳で。

 

潤は その視線が気になっていた。

 

優の瞳は 自分だけでなく もうひとつ別のものを見ている・・・


そんな気がしていた・・・。

 

 

 

 

 

 

背景 ゆとゆと





 











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