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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357389/1894630
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 30 HIT数 6043
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 26(最終話) 二人がいる風景
本文




   秘密 26(最終話) 二人がいる風景

 

 


そして、月日はめぐり5度目の冬を迎えていた。


文化会館でのセミナーに参加した優は、偶然、そこで論文を発表している潤を見かける。

その時に初めて、潤の名前と彼がK大の講師であることを知った。


優はもっと近くで潤を見たくなった。

だから優はK大に編入することを決心した。


「・・・あの時、先生の名前を知って・・もっと他のことも知りたくなったの。

 後ろ姿と横顔だけじゃなく、正面からまっすぐに見つめたかった。

 どんなふうに話して、笑うんだろうって・・。

 それを見ることができればいいと思ってた。

 でも、K大に入って偶然、先生と話すようになって・・そしたら今度はこっちを向いてほしいって

 わたしの気持ちを知って欲しいと・・だんだん欲張りになってきたの・・。」


「・・・そういえば、あの頃の優はかなり積極的だったね。」


「え?」


「いきなり抱きついてきたり、ずっとカフェで待ってたり、キスも・・・。」


潤が懐かしむような目で笑いながら言った。

優もその時のことを思い出して、恥ずかしそうに微笑んだ。


「・・やっと笑った。」

潤がやわらかな眼差しを向ける。


「・・・潤先生・・。」


優の瞳が揺れる。ほのかに頬が明るい色に染まっていく。


「・・潤先生のことが好きだったから。先生に会って、ますます好きになっていったの。

 毎日、先生に会うのが楽しみで・・だから先生がわたしの思いを受け止めてくれて

 ・・・潤先生に愛されて、プロポーズされて・・わたし・・すごく嬉しかった。

 これは夢かもしれないって思ったの。・・でも、夢じゃなかったの。

 潤先生と結婚して、一緒に暮らして・・怖いくらいに幸せだった。

 先生はわたしのことをいつも励ましてくれた。背中を押してくれた。

 大人の男の人ってこんなに頼れて、そして優しく見守ってくれるんだなって

 生まれてきて良かった・・わたしは幸せだなって思った・・。

 ・・でも・・いつもどこか不安で・・。

 先生が本当のことを知ったら・・潤先生はわたしから離れていくんじゃないかって

 いつも思ってた。・・・わたしは・・潤先生と菜々子さんにいつも ごめんなさいって・・

 わたしを許して・・って・・心の中で思ってた。」


優はそこまで話すと唇を噛み締めてうつむいた。

 
「優・・・。」


「・・・ごめんなさい。・・・ずっと黙ってて・・。

 でも、どうしても言えなかったの。・・潤先生に嫌われたくなかったの。

 わたしはずっと先生を騙してた・・。ごめんなさい。・・ごめん・・なさ・・い。」


優の告白をずっと聞いていた潤は深く息を吐いた。

そして、一度目を閉じるとまたゆっくりと目を開けた。

静かな潤の声の言葉が優に語り始めた。


「・・・辛かっただろう。」


「え・・・。」


「一人で何もかも抱えて・・苦しんで・・。だから優は泣いてばかりいたんだね。」


「潤先生。」


「・・自分は愛される資格がないって優は言ってた。

 優は菜々子の事故のことで罪悪感を感じていたんだね。

 でも、優は何も悪くない。優のせいじゃないんだ。優は僕を騙してなんかいないよ。」


「・・せんせ・・い・・。」


「優が一人で苦しむことはない。ぼくも一緒に引き受けるよ。」


「でも、わたしは・・。」


「・・僕はそんなに信用がないのかな。」


「・・・・・」


「真実を知ったら僕が優から去っていくと思った?」


「潤先生・・。」


「・・僕は優の手を離さない。ずっと優を見てきたんだ。僕達はずっと一緒にいたんだよ。

 素直で純粋な優をずっと見てきた。 だから、僕は優のことを信じられるよ。」


「潤先生・・・。」


「優は僕のことを信じられない?」


「そんなことない。」


「僕はもう誰も好きになることはないと思ってた。

 でも、優に出会って、恋をして、これからずっと一緒にいると誓った。

 優を守ってふたりで幸せになると約束した。

 だからプロポーズしたんだよ。」


潤の言葉を聞いて、優はまた泣き出してしまった。


「・・優、泣かないで。」


潤は優の頬に手を伸ばして涙を拭おうとした。

しかし、左腕に激痛が走り顔を歪めた。


「先生!!!」

 
優は慌てて潤の身体を押さえながら言った。


「だめよ!動いちゃだめ・・!・・・潤先生は大怪我をしたのよ!

 ・・・わたしをかばって・・・わたしのせいで・・

 ずっと意識不明で・・死んじゃうかと・・思った・・

 パパとママみたいに・・わたしをおいて・・死んじゃうかと・・」


優はそう叫ぶと激しく泣き出した。


「・・もう・・先生と一緒にいられなくてもいいと思った・・

 先生が助かるなら・・生きていてくれるなら・・もうそれだけでいいと思った。

 ・・先生に憎まれても・・嫌われても・・生きててくれればいいの!」


「ゆう・・・。」


「たとえ離れ離れになったとしても潤先生がどこかにいる・・・それだけでいいと思ったの。」


泣き濡れた瞳の優が潤を見つめる。


優はそんな優を見つめ返すと微かに笑った。


「・・大丈夫だよ、優・・。・・僕は優をおいて行かないよ。」


「潤先生。」


「こんな泣き虫の優を一人おいて行けない。だから、優と離れることはない。

 ・・そんなことをしたら あっちで優のお父さんに殴られそうだ。」


「せんせ・・い。」


「優はお父さんのことをもう恨まなくていいんだ。

 優の両親は君のことを愛してた。優の幸せを願っていた。

 ・・それはどんなことがあっても変わることが無い事実なんだ。」


潤の言葉が優の胸に響いてくる。


「・・・僕も優のことを愛してる。ずっと傍にいるよ。

 だから・・優も僕の傍にいるんだ。」


「・・先生はわたしのことを許してくれるの?

 わたし・・・わたしは先生の傍にいてもいいの?」


「僕は今でもすごく後悔してる。あの時・・優の告白を聞いた時 僕は一瞬でも君の手を離してしまった。

 ・・・優はこんな弱い僕を許してくれるのかな。」

 
「許すなんて・・潤先生は何も悪くない。

 先生はわたしを必死で助けてくれたわ。わたしは、また迷惑をかけちゃった・・。

 それなのに、こんなわたしが・・潤先生と一緒に幸せになってもいい・・の?」


「僕は優に傍にいてほしい。」


「潤せんせ・・い。」


「今まで優がそうしてきたように、今度は僕が優をずっと見つめていくよ。」


「・・せんせい・・。」

 

どちらかともなく二人の手が重なり合う。

優はそっと潤の胸に頬を寄せる。

怪我の傷に触れないように、そっとそっと近づき潤の温もりを確かめる。


消毒と薬の匂いに目の奥がつんと痛くなる。

真っ白な包帯が痛々しくて胸の奥がぎゅっと掴まれた様に苦しくなる。

そんな優を安心させるように、潤の手が優の小さな手を握りしめた。


凍えそうだった優の心が 陽だまりのような潤の温もりに包まれて暖かくなっていく。

胸の中に突き刺さった氷の粒が 次第に解けて温かい涙になって頬を伝わっていく。

 

ふわり・・優の顔にやわらかな笑顔が浮かんでいた・・・。

 

 


   ―――――――

 

 


「兄貴、具合はどう・・って、わお・・・。」

病室のドアを開けて部屋に入った陸は声をあげた。


「え、どうかした?」

陸の後ろにいた恭子は怪訝な顔をした。


「兄貴と優ちゃん、一緒に寝ちゃってるよ。」


「え!寝てる?一緒にーー???」


恭子は慌てて陸を押しのけて部屋に入るとその様子を見て納得し、安堵した。


「やだな、恭子さん。何、想像してるんですか。」

陸は悪戯っぽく笑うと恭子の顔を覗き込んだ。


「な、何も想像なんかしてないわよ。」

恭子は顔を赤くしながら慌てて否定した。


ベッドで寝ている潤の傍で 椅子に座った優がうつ伏せたまま眠っていた。

しかも、二人の手はしっかりとつながれたままだ。

恭子と陸は思わず顔を見合わせて笑った。

 

「良かった。 ・・優はやっと眠れたのね。

 深沢先生に全てを話して・・わかってもらえたのね。」


「恭子さん。」


「こんなに安心しきった寝顔で・・。これでもう・・優は苦しまなくてもいいのね。」

そう言ってる恭子の白い頬に涙がこぼれた。


「・・・鬼の目に涙・・。」

思わず陸が呟いた。


「し、失礼ね。」

「すみません、あまりにも意外だったので。」

「わ、わたしだって泣くことぐらいあるわよ。」

「そうなんですか?」

「そうよ! これでも、ずっと優のことを心配してたんだから!」

「そんなに怒らないでくださいよ。」

「何よ。年下のくせに、ホント生意気なんだから。図々しいし、口は悪いし

 すぐふざけるし、それに強引なんだ・・。」


突然、恭子の抗議が止まった。


「・・・・・・」


ぽかんとした恭子が陸を見上げた。

陸はニッコリ笑うと言った。


「うるさい女のお喋りをやめさせるには やっぱり、これが一番だな。」

「なっ、何するの!」

「すみません、あなたの怒った顔があまりにも可愛かったので。」

「かっ、可愛いって・・。こんな所でキキ、キスするなんて。場所をわきまえなさいよ!」

「あれ、場所をわきまえれば、またしてもいいんですか?」

「ば、ばかなことをーー!」

「ものすごく動揺してますね。顔も赤いし・・いいなあ、俺、ますますあなたに惚れそうです。」

「ば、ばかにしてーー!」


ここが病室だということも忘れて二人の言い争いは続いている。

その騒ぎにベッドで眠ってるはずの潤は目を覚ましていた。

彼は笑いを堪えるのに必死だった。

すぐ傍で眠っている優も起きてしまうのではないかと心配したが

疲れ果てた彼女は熟睡しているらしい。


潤は瞼を閉じたまま穏やかな笑みを浮かべると、優の小さな手を握りしめた。


恭子と陸の賑やかな言い合いは 潤の回復に大喜びした潤の両親、優の祖母と叔母が

揃って笑いながら病室を訪れるまで続いていた。

 

 

    ――――――――

 

 

 

「・・・菜々子が引き合わせてくれたような気がするんだ。」


ベッドを起こして寄り掛かっている潤はそう言うと真央を見つめた。


「・・・潤さん・・。」

青ざめた真央はうつむいて体を震わせた。


「・・・優と初めて会ったのは、菜々子が運ばれた病院で・・

 次に会ったのは彼女の墓前だった。

 菜々子は優と僕のことを許してくれてたのだと・・

 勝手な思い込みかもしれないけど、僕はそう信じてる。」


静かに話す潤の言葉を聞いた真央の瞳に涙があふれ出した。


「わたし・・わかってた。・・お姉ちゃんの事故はあの子には関係のない事だって。

 お姉ちゃんが死んだのもあの子の父親のせいだけじゃないって・・。

 わたしはあの子が羨ましかったの。・・潤さんに愛されて守られてて・・

 それが羨ましくて憎くて・・。潤さんはあなたを許さないって言ったのも

 お姉ちゃんのためじゃなくて・・潤さんと引き離したかっただけだったの。

 死んでからもずっと潤さんに愛されてたお姉ちゃんのことも・・羨ましくて憎かった。

 ・・わたしは最低だわ。」


「真央ちゃん・・。」


「潤さんが優さんをかばって怪我をしたって聞いて・・すごく怖かった。

 わたし・・わたしのせいで潤さんが死んでしまうのかと思うと怖くて怖くて・・

 だから・・無事に意識が戻ったってわかって・・本当に良かったと思ったの。

 ・・・ごめんなさい、潤さん。・・わたし・・優さんにも潤さんにもひどいことをしたわ。」


「・・もういいよ、真央ちゃん。」


「潤さん。」


「もう何も言わなくていい。

 ・・真央ちゃんが憎しみから開放されたのなら、もうそれでいい。

 僕にとって真央ちゃんは大切な妹みたいな存在だから・・君にも幸せになってほしいんだ。」

 

切ない潤の顔を見て真央は、泣きながら何度も頷いていた。 

 

 


   ―――――――

 


―― というように、芸能レポーターの質問に一つひとつ丁寧に答える彼女には好感が持てた。

インタビューではまっすぐに前を見て、言葉を選びながらしっかりと答える彼女に芯の強さを感じた。

時々、ふわっとやわらかな笑顔を浮かべる控えめな彼女に、

記者達も鋭い質問をするのも躊躇しそうな雰囲気だった。

記者会見の最後の方で「もしかして妊娠ということは?」という最近ではお決まりの質問が飛び出した時には

彼女はたちまち真っ赤になって、初めてうつむき加減に「あの・・それはないです。」と小さな声で言った。

そのあまりの初々しさに、本誌記者も含めたおじさん達の間にため息交じりのざわめきが起こった。

こんな可愛い彼女のお相手は、彼女の通っているK大の講師だということ以外はあまり公表されていないが

彼女は彼に夢中だということがこの会見では明白だった。

そして、この後 彼女の所属プロダクションから 今秋、彼女が初めて舞台に出演することが決定したと

発表があった。

演目は シェイクスピア四大悲劇のひとつ『オセロー』で、演出はあの「世界のミヤガワ」こと宮川一馬である。

彼女はその舞台で オセローの若き妻であるデズデモーナを演じる。

プライベートでも結婚した彼女がどんな演技を見せるか今から楽しみである。

今秋にはこの初舞台、そして来春には この3月、全沖縄ロケで撮影した映画「瑠璃色の誓い」が公開される。

今後の活躍がますます期待される女優である。――

 

 


   ―――――――

 

 

「・・・大丈夫?」

潤はゆっくりと顔を後ろに向けながら言った。


「大丈夫、大丈夫。潤先生はおとなしく座ってて。」

優はにっこり笑うとぐいっと力を込めてグリップを押した。


あまりにも天気が良かったその日、優は潤を車椅子に座らせて病院の中庭に連れ出した。

五月の晴れ渡った青い空の下、眩しいほどの新緑とさわやかなそよ風が心地良い。

優は潤が乗った車椅子をゆっくりと押して行く。


潤の怪我もだいぶ回復したが、まだ歩くことは困難な状態だった。


「・・重くない? あ、そこ 少しだけ段差があるよ。疲れたらもうここで・・。」


心配する潤を見て優はくすっと笑った。


「大丈夫よ、潤先生。 わたしってけっこう力持ちなの。

 ぜんぜん重くないし、こんなことで疲れたりしないわ。」


「そうかな。無理しないでいいよ。」


「無理なんかしてないわ。潤先生はそんな心配しないで。

 わたしは 先生が元気になるまでしっかり看病をするって決めたの。」


「優。」


「だってわたしは先生の奥さんだもん。」


優は嬉しそうに言うと 座っている潤を後ろからそっと抱きしめた。

いつも潤がそうしてくれるように 優は彼を大切な宝物のように包み込む。

この世でいちばん かけがえのない人の温もりと香りを確かめる。

 

「優・・? みんなが見てるよ。」


「いいの。」


「・・・大胆な優が戻ってきたのかな。」


「だって・・もう秘密にしなくていいんだもの。」


「・・秘密・・。」


「潤先生とわたしが結婚したことも・・わたしがどんなに先生のことを好きか・・隠さなくていいんだもの。」

 

キラキラと降りそそぐ木漏れ日が 二人を眩しい笑顔に染めていく。

 

優は静かに潤の耳元で囁いた。


「・・・大好きよ、潤先生。・・・大好き。」

 

彼女の優しいアルトの声に 潤はやわらかく微笑んだ。


そして優は 潤を抱きしめたまま彼の頬にそっとキスをした。

 

 

 

  ―― だから ずっと、ずっと 潤先生のそばにいるわ ――

 

  ―― 僕も優と一緒にいるよ・・・永遠にそばにいる ――

 

 

 





 


                    ― END ―









 





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