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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1357341/1894582
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 31 HIT数 5654
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 番外編  恋するハイヒール 前編
本文

 

   秘密 番外編  恋するハイヒール 前編

 


「ごめん。 恭子を抱いても何も感じないんだ。

 何ていうか・・以前、感じたような胸の高鳴りっていうか、ときめきみたいのがなくなった。

 ・・・だから・・もう・・。」


背中を向けたままベッドに座った彼は 白いシャツを着ながら言った。

わたしはシーツをぎゅっと掴んだまま、その背中を見つめた。

もう何も受け入れることはない、と主張してるようなその背中を・・。

だから、わたしは止まった彼の言葉の続きを言ってあげる。


「わかったわ。わたしたち もう、別れましょう。」


「・・・サンキュ。

 恭子ならそう言ってくれると思ったよ。

 おまえは美人だし、頭いいし、さばさばしてて変な嫉妬もしないから

 付き合うには最高の女だったよ。」


「今さらそんなこと言わなくてもいいわよ。」


わたしは期待に応えて、動揺することもなく彼の背中に向かって言った。

でも、心の中は怒りで煮えくり返っていた。


 ―― じゃあ、なぜそんな女と別れるのよ! ――


そんな言葉が喉まで出かかっていたが、理性がわたしのそんな感情を必死で抑えた。

 

彼はそのまま部屋から出て行った。


背中を向けたまま、わたしの方を一度も振り向くことさえしなかった。

 

 

   ・・・・・・・・・・・


         ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「くー!!! 今、思い出しても腹が立つーーー!

 あの時 一発、ぶん殴ってやればよかった!・・もちろん、グーでね!」

恭子は拳を振り上げて思わず叫んだ。


「恭子さん、どうしたの?」

優はきょとんとした顔で恭子を見上げた。


「何でもないわ。ちょっとね、昔の嫌なことを思い出しただけ。

 ・・それより、優 勉強の方は進んでる? もう少しでK大の編入試験よね。」


「うん、大丈夫。わたし、頑張るから。」

優はそう言うと嬉しそうに微笑んだ。


「・・何だか楽しそうね。・・そんなにK大に行きたいの?」


「うん!」

心なしか優の頬が赤く染まったような気がした。


恭子ははっとした。

 

   ―― 恭子にはときめかなくなった ――


あの時はさすがに強い恭子も落ち込んだ。

ときめきを感じないなんて・・まるでわたしが女じゃないみたいじゃない。

それが3年も付き合ってきたわたしに言う言葉?

空気のような存在になってしまったということなの?


   ―― 恭子は俺よりも仕事がいいんだろう? 

      おまえ、いつも忙しいけど楽しそうだもんな 

            恭子は強いから、俺なんかいなくても大丈夫なんだな ――


そういえば、以前 そんなことも言ってたわね。
      
・・・何て女々しい奴なんだ!

・・確かにデートよりもスタジオにいることのほうが多いかもしれないけど・・。

彼と映画館に行くよりも映画の撮影現場にいる方が楽しかったりするけど・・。

でも、仕事なんだから仕方ないでしょう。

あなたみたいな情けない男はこっちからお断りよ!

そうよ! あなたが言ったとおり わたしは賢くて強い女なんだから!

こんないい女を振ったことを後悔するわよ。

 

 

   ・・でも・・・

 

   ―― 恭子にはときめきを感じない ――

 

恭子は何だか泣きそうになるのをぐっと堪えた。

悔しくて情けない気分になってくる。

もうすぐ三十路をむかえる女には何て容赦の無い言葉なんだろう。

強くて賢くて美しい女。

そんな軽々しい形容詞なんて何の慰めにもならない。

恭子は見くびっていた。・・・彼のことも、恋愛も。

彼はわたしから離れたりしない。そう思い込んでいた。

結局、忙しさに紛れて輝きを無くしていた自分のせいなのね。


そして、恭子は 憧れの大学に行くことを夢見ている優を見て思った。


ときめき・・って こんなふうにキラキラ輝いてる優みたいな女の子に感じるものなのかも・・・。


女のわたしから見ても、優はふわふわ~っとしてて可愛いものね。

 


   ・・・・・・・・・・・・


         ・・・・・・・・・・・・・・・

 


「でも、あの時の優のときめきの理由はそれだけじゃなかったのよね。」


「え? 何か言いましたか?」

潤は顔を上げて恭子の方を見た。


「いえ、何でもありませんわ。」

恭子は澄ました顔で言うと少しうつむいた。

ソファに座った恭子のライトグレーのタイトスカートからすらりとした脚が覗いている。

彼女の視線の先には、昨日買ったばかりの春物のクリーム色のハイヒール。

 

「そうですか。」

潤はふっと笑うと、またパソコンの画面に目を向けた。


恭子は K大の潤の研究室で 授業を終えた優が来るのを待っていた。

恭子は何気なく潤を見た。


この春、深沢潤は K大学社会学部の准教授になった。

彼の研究熱心なところは以前と変わらない。

教授の補佐をする助教授という職階が廃止され、教授の職務と同等になった准教授は
優先的に研究に従事できるようになり、潤はますます研究者としての成果をあげられるようになった。


窓側の席に座った潤は熱心にマウスを動かしながらパソコンの画面を見ている。

眼鏡の奥の真剣な眼差し。長くて綺麗な指が静かにキーボードをたたいている。

左手の薬指の結婚指輪がやけにセクシーに感じられるのはなぜだろう。

優のときめきはまさにこの彼が原因なのだ。

 

   やっぱり兄弟だから似てるわね。


   ・・・黒い瞳も指も声も・・それに唇も・・

 

          ・・・・・・・・・・・・・・  

 

   ・・・え・・・?


突然、胸の鼓動を感じた恭子は思わず手で自分の胸を押さえた。

 

   ―― な・・に? 胸がドキドキしてる? ――

 

恭子は自分の感情に戸惑い、落ち着かなくなった。

顔まで熱くなってくるのがわかる。

 


「・・恭子さん。」


「は、はい!」


突然、潤から名前を呼ばれて恭子ははっとした。

しかも“桐原さん”から“恭子さん”に呼び名が変わったので戸惑いを隠せない。


「・・最近、どうですか。」


「は・・?」


「その・・弟・・陸とは・・よく会っていますか?」


「そっそんなことーーー!!!」

突然、陸の名前が出たので、恭子はひどく動揺した。

まさか、今 あなたを見てて彼を思い出していたなんて言えない。


「・・陸は軽くていい加減に見えるかもしれませんが、案外あれで真面目なところもあるんですよ。

 特に・・あなたに対しては真剣に考えてるようなので広い目で見てやってください。」

潤はパソコンの画面から目を離さないまま言った。


「・・お二人は本当に仲がよろしいのね。」

潤の言葉を聞いて平静を取り戻した恭子は 静かに彼の横顔を見つめた。


「え?」 


「以前 彼・・陸さんも同じようにあなたをフォローしてましたわ。

 あなたは優秀で真面目すぎるところもあるけど頼りになる男だから、優との結婚を認めてほしいと。

 いつまでも秘密にしておくのは正直な兄貴には辛いことだから早く公表してほしいと・・

 うちの社長に直接言いに来たこともありました。」


「陸がそんなことを?」

潤は驚いて顔を上げた。


「・・昔、陸さんがかなりやんちゃで暴れていた頃、世間が冷たい視線を向けても

 兄貴は一度だって俺を見下したような態度はしなかったと嬉しそうに言っていました。」


それまでパソコンの画面を見ていた潤は恭子のほうへ顔を向けた。

そしてやわらかく微笑んだ。


「・・・恭子さん。」


「はい?」


「僕は安心しました。」


「え?」


「・・陸は・・弟はそんなことまであなたに話をしてるのかと・・。

 あなたを信用している証拠です。」


「・・先生・・。」


「弟のことをよろしくお願いします。」


「は、はい。」


潤の真剣な眼差しに、思わず恭子は返事をしてしまった。


「・・っていうか、彼とわたしはまだそんな・・・」

恭子が慌てて言いかけた時、研究室のドアをノックする音が聞こえた。

 

「潤先生!」


部屋のドアが開くと同時に、優がものすごい速さで駆け込んできた。

彼女は脇目も振らずまっすぐに潤の方へ足早に近づいて行く。

そして、思わず椅子から立ち上がった潤の胸に飛び込んでいった。


「・・優・・?」

潤は戸惑ったように呼びかける。

 

「・・良かったーー!・・まだいてくれて・・もういないかと思った。」


優はそういうと潤の背中に手を回して彼のシャツをぎゅっと掴んだ。

彼女の長い髪が潤の胸の中でさらさらと波打つ。


「・・今の授業・・先生がなかなか終わりにしてくれないんだもの。

 潤先生が次の講義に行っちゃうかと思って心配してたのー!」


よほど急いで走ってきたのか、潤の胸の中で優は息を弾ませている。


「優。」


潤は少し困ったように笑うと、優の華奢な背中を撫でながら言った。


「・・優、ここは大学だよ。公私の区別はつけないと・・。」


「う・・ん。・・でも少しだけ・・。」

優は潤の胸に顔を埋めたまま、甘えたように小さな声で言った。


「だめだよ、優。」

潤は優の背中を軽く叩いた。だが、彼女の身体を押して離すことはしない。


   

   ・・・そんなこと言って、優をしっかり抱きしめているその手は何なの?

      それに・・顔はとても嬉しそうに笑ってるわ・・深沢先生・・・。


黙って様子を見ていた恭子は、呆れたように首を横に振った。


相変わらず他のことは眼中にない優はとんでもないことを言い出した。


「う・・ん、わかった。 ・・でもその代わりにキスして。」

「え?」


優は顔を上げると潤をじっと見つめた。そして天使のように微笑んだ。


「えっとね、おでこと頬と唇にチュってして!」


恭子は思わずゴホン!と咳払いをした。


優は驚いて振り向いた。


「やだ!・・恭子さん、いたの~?」


「はいはい。もう、ず~っと前からいたわよ。

 ・・・っていうか、普通気づかない?・・ああ、もう・・優ったら・・。」


呆れ果てた恭子はそれ以上言葉が続かない。


「・・・わかってると思うけど、今日はこれから仕事よ。」


「え、もう行かなくちゃいけない?」


「そうね。」


「・・・・・」


優は黙ったまま恭子を見た後、ふっと小さく息を吐いた。

そして、また潤の身体にしがみつき、その広い胸に顔を埋める。


「優・・。」


「・・・エネルギーを充電中・・・。」


優の呟きに潤は思わず笑ってしまう。


恭子は・・・呆れ果てて二人に背を向けた。


今度は 潤が優の身体をぎゅっと抱きしめて、彼女の願いをひとつだけ叶えてあげる。

彼は自分の唇から 優のいちばん近い場所にそっとキスを落とした・・・。

 

 








                           後編へ続く・・・










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