ブロコリ サイトマップ | ご利用ガイド | 会員登録 | メルマガ登録 | 有料会員のご案内 | ログイン
トップ ニュース コンテンツ ショッピング サークル ブログ マイページ
aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1367342/1904583
開設サークル数: 1238
[お知らせ] 更新のお知らせ
容量 : 30M/100M
メンバー Total :297
Today : 0
書き込み Total : 957
Today : 0
秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 8 HIT数 7486
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 7 君に会いに行く
本文

   秘密 7  君に会いに行く 

 

 


「優・・もうすぐ着くよ。」

タクシーの中で 潤は自分に身体を預けて眠っている優の耳元で囁いた。


「・・・ん・・・。」

優は目を閉じたままで起きる様子はない。


「・・・優・・起きるんだ・・。」


「・・・ん・・好き・・じゅん・・せんせ・・・。」

寝言で潤の名前を呼ぶ優の顔は 安らかに微笑んでいる。

 

「・・・・・」

潤はふっと微笑むと 彼女の身体を抱き寄せてその顔を胸の中に包み込んだ。


   ・・・こんなに無邪気で無防備でいいんだろうか・・?


      それだけ信用されていると何もできないよ 優・・・。

 

優にもっと触れていたい・・ただの一人の男として そんな感情が芽生えてきたことに

潤は呆れながらも、くすぐったいような気がしていた。


   

 


「じゃあ、私はここで失礼するよ。君はちゃんと彼女を家まで送るように。

 途中で襲っちゃあだめだよ、深沢せ・ん・せ・い。」


ビア・カフェを出て やはり少しも酔ってない結川にからかわれながらタクシーに乗り込んだ。


「・・・・・・」

真面目な潤は苦笑いをするしかなかった。


   ・・・それにしても・・・

 

  突然、見知らぬ男が娘を送ってきた上に その男が大学の講師で・・しかも

  その学生の娘は酔って意識がないなんて・・・優の親からすれば僕の第一印象は最悪だな。

 

優はそんなことにはまるで関係がないように眠りこけている。

 

 

タクシーは 先ほどの元町の店からさほど遠くない山手町方面に向かっていた。

横浜開港期に外国人の居留地だった山手町は、外国のライフスタイルがいち早く伝えられた歴史ある高級住宅街だ。


酔っている優から何とか住所を聞き出して、タクシーのドライバーに行き先を告げた。


高台を少し上った所でタクシーが停まり そこから降りた潤は 優を背負ったままその邸宅を見上げた。


絵に描いたような見事な洋館だった。

大正モダンの雰囲気を漂わせるジョージアンスタイルの外観。

カスタードクリーム色の月とおびただしい星たちの明かりの下で

控えめにライトアップされたその邸宅へ続く階段の脇には 綺麗に刈り込まれた木々や

大きな薔薇の茂みが夜風にさわさわと揺れている。

 

ふと、潤は思い出した。  

 

  ああ・・この香りだったんだ・・。


  風になびく優の髪から そして潤が優を抱きしめる度に漂ってきた香りは


  薄明かりの下で咲き誇る 真紅、薄紅色、乳白色の薔薇の香り・・・。


  甘くて切なくて、どこか懐かしい・・・ほのかな香り・・。

 

 

 

 


「まあまあ!!・・・優ったら!!・・・何てこと!!!・・こんなになってーー!」


玄関が開き 中から出てきた中年の女性が、潤と彼に背負われている優を見るなり大声で叫んだ。

この人が優の母親だろうか?・・潤は思った。


「あ、あの 申し訳ありません・・僕がついていながらこんなに飲ませてしまって・・」

潤は慌てて頭を下げて謝罪した。

 

「まあーーー!・・え・・・?あら・・あなた・・もしかして・・潤先生・・???
 まあま、“深沢さん”って・・そうだったわ。潤先生のことでしたわね。優がそう言ってたわ!」

品のよいベージュのニットワンピースを着た彼女は 大きな瞳をますます大きくして潤を見つめた。

 

「え・・・・・?」

いきなり“潤先生”と呼ばれて彼は驚いた。


「あ、あらあら・・わたしったら・・ごめんなさいね。優ったら重いのに・・あの、申し訳ないんだけど

 部屋まで運んでもらっていいかしら・・・?」


「あ、はい。」


申し訳なさそうな顔を向けながら 彼女は潤たちを家の中に招き入れた。

 
ブラウンの色調で統一された吹き抜けのエントランスホールに入ると 目の前には二階へと続く

螺旋階段があり ゆるい曲線を描く手すりにつかまって彼女は振り向いた。

「本当にごめんなさいね!・・この子の部屋・・二階なのよ。・・・重いのに申し訳ないわ。」


「大丈夫ですよ。」

潤はそう言って笑うと、足元に気をつけながら階段をゆっくりと上っていった。


二階の一番奥に優の部屋があった。


彼女は先に立って部屋のドアを開けて中に入っていく。


中に入るとその部屋いっぱいにまた甘い香りを感じた。


そして 彼女が窓側にあるベッドの淡いピンクのカバーをめくると、清潔そうな純白のシーツが現れた。


潤は思わずそこから視線を外した。

 

「・・・ここに寝かせてもらえます?」


「はい。」


潤は背中の優をベッドの上にゆっくりと下ろして寝かせた。


シーツの上で優は寝返りをうつと何か訳のわからない寝言を言った。


彼女は優に毛布をかけると、大きなため息をついた。

 

「まったく、この子ったら!!  ・・本当にごめんなさいね。ご迷惑をかけてしまって・・。

 まだお酒なんてそんなに飲んだことがないものだから・・加減を知らなくて・。」

彼女は頭を下げてひたすら謝る。

 

「い、いえ・・。僕の方こそ・・もっと気をつけてれば良かったのですが・・

 申し訳ないことをし・・え・・?」

潤が謝罪している途中で言葉が途切れた。


漆喰の白壁に囲まれたその部屋はアンティーク調の家具が並び、クラシカルなオルゴールや陶器の置物が

それらの棚の上に並んでいる。

そして ベッドの傍のサイドテーブルの上に潤の視線が止まった。

銀製の写真立てに飾られている一枚の写真。

そこに写っているのは紛れもなく潤本人だった。

それは たぶん、大学のキャンパス内でベンチに座り本を読んでいる時の写真だった。


「・・・・・」


潤が驚いていることに気がついた彼女は明るく笑った。


「ごめんなさいね、驚いたでしょう?・・優ったら携帯でこっそりと撮ったみたいなの。

 ・・・まるでストーカーみたいよね。・・でも毎日その写真を眺めてはうっとりしたり

 ため息もついたりして・・だから許してやってくださいね。」


「あ・・はい・・。それは・・」


「でも・・お写真で見るよりずっとハンサムね、潤先生は。

 あ、申し遅れましたわ。わたくし、優の叔母の青山由紀子と申します。

 どうぞよろしくお願いしますね。」


「こちらこそ。 K大で講師をしている深沢潤と申します。・・優・・さんの叔母さんでしたか?

 ・・あの・・では・・彼女のご両親は?」


「まだ優は言ってなかったのね。・・あの、優の両親・・わたくしの兄夫婦なんですが

 ・・6年前に事故で亡くなりましたのよ。」


「え?」


「ですから この家で わたくしの母と、あ 優の祖母になりますけど・・その母とわたくしと優の

 三人で暮らしてますの。・・女ばかりの家族なんですのよ。」


「・・そうだったんですか・・・。」


潤は意外な事実に驚いていた。

そして気がついた。

自分はまだ優のことを何も知らなかったことを・・。


 
では・・数時間前に自分を励ましてくれた優の言葉は もしかしたら彼女自身に言い聞かせていたのかもしれない。


何てことなんだろう。・・・


まだ子供だった優は 自分よりずっと辛い思いをしたはずなのに・・。

 

潤は明るく振舞う優の笑顔を思い出して ただどうしようもなく胸が痛むのだった・・・。

 

  


   ――――――――

 

 


   ―― 翌朝 ――

 

 

朝の眩しい光がカーテンの隙間から差し込んでくる。


優は目を覚ますとぼんやりと部屋の白い天井を見上げた。


見慣れたいつもの自分の部屋。

 

    ・・・・・・・・

           ・・・・・・・・・

 


「・・・あーーーーー!!!」


優は突然声をあげて起き上がった。 そして頭を押さえる。


「・・いたたたた・・・。・・あたま・・いた・・い・・。」

優は頭を抱えてまま、またベッドに倒れこんだ。

 

 

「まったくこの子は! いきなり男の人に送られて来たかと思ったら へろへろに酔っ払って!

 ・・嫁入り前の娘がはしたないったら・・! その上 潤先生に部屋まで運んでもらって・・

 もう・・恥ずかしくて顔から火が出そうだったわ!・・・ちょっと聞いてるの?優!」


「ちょっと、待って・・そんな大声・・出さないで・・叔母様・・。」


「・・叔母様?」


「あ、由紀子さん・・。・・だから・・お水・・ちょうだい・・頭が・・。」


「もうっ、仕方のない子ね。・・・そんなだから潤先生も呆れ果てるのよ。」


「・・潤・・せんせい・・何か・・言ってた・・?」


「もう、あなたみたいな娘とはお付き合いできません・・っておっしゃってたわよ。

 ・・仕方ないわよね・・誰だってこんな手のかかる子なんてごめんだわ。」


「うっ・・嘘ーーー!」


「あら、本当よ。」


「嘘よ・・・。」


「・・・・まったく・・しょうがない子ね。・・・・

 朝起きて元気だったら電話ください・・ですって。」


「え・・・?」


「・・・それから、あなたが酔ってしまったのは自分のせいでもあるから

 おまり叱らないでくださいって・・。本当に優しくて誠実な方ねーー、潤先生って。」


「・・叔母様・・じゃなくて・・由紀子さん。」


「それから、今度また潤先生を家に連れてらっしゃい。昨夜のお礼をしなきゃね。

 それと・・おばあちゃまにも紹介しなくては。昨夜のことを話したら、とっても

 潤先生に会いたがってるの。・・そうだわ、明日は日曜日だし・・早速だけど

 どうかしら?明日の夜、お夕食を一緒にいかがかしら。」


「うん、聞いてみる。」                                   


「・・でも、優は・・今度はお酒はなしよ。」


「もうっ・・。由起子さんの意地悪!・・・いたた・・。」

優はまた叫んでしまったので頭痛がして頭を押さえた。


「・・・これじゃ、当分電話はできないわね・・。」

由紀子はまたため息をつくと 優の乱れた髪を撫でてやった。

 

「・・・ごめんなさい 由紀子さん。」

優はしゅんとして上目遣いに由紀子を見た。


「・・良かったわね・・。一生懸命、勉強して潤先生のいるK大に編入したかいがあるわね。

 一年前 あなたから話を聞いた時は、そんな不純な動機でいいのかしらと不安だったけど。
 
 でも、優は大学でがんばっているみたいだし・・。あなたが言ってたとおり潤先生は

 とっても素敵な方みたいだし・・。」


「うん、思ってたよりもっともっと素敵な人だった・・。」


「・・言ってくれるわね。・・でも、優 あなた 兄さんたちの事はまだ話してなかったのね?

 潤先生ったらすごく驚いてたわよ。」


「え?・・・パパとママのこと・・潤先生に話したの?」


「そうよ。」


「そうなんだ・・。」

小さく呟いた優は表情を曇らせて サイドテーブルの上の潤の写真を見つめた。

 

 


   ―――――――――

 

 

“・・潤先生?・・・あの・・優です・・”


“優? 今、起きたの?”


“ううん、少し前に起きて・・でも頭が痛くて・・ちょっと休んでたの”


“もう大丈夫?”


“うん、大丈夫・・。あの・・先生・・昨夜はごめんなさい。・・迷惑かけちゃって・・。

 家まで・・部屋まで運んでもらって・・あの・・大変だったでしょう・・?”


“うん。腰が痛くて起き上がれない。”


“え?本当に?”


“・・・嘘だよ。何ともないよ。”


“もうっ、先生ったら脅かさないで・・。でも・・本当にごめんなさい。”


“いや。・・でも、これで優に酒を飲ませすぎると危険だってことがわかったよ。”


“え・・?”


“だめだよ、優。・・酔っ払ってどこでも寝ちゃうなんて・・
 
 僕がいない時だったらどうするんだ。他の男にも寄りかかって寝るのかな。”


“う・・・”


“優は無防備だから・・僕は心配だな”


“わっ、わたし・・もう、潤先生がいない時はお酒なんて飲まない!

 それに・・もう昨夜みたいにたくさん飲んだりしない!・・だから・・

 だから・・わたしのこと嫌いにならないで!”


“え・・?”


“・・・潤先生に嫌われたら・・わたし・・どうしたらいいのか・・”


“優・・・? 何かあったのか?”


“・・わたし・・両親のこと・・隠すつもりはなかったの・・。ただ・・言いそびれてて・・

 それに・・潤先生の・・菜々子さんのことを聞いてしまったから・・余計に話せなくなって・・”


“優?・・どうして僕が優のご両親のことを聞いて、君のことを嫌いになると思うんだ?

 ・・僕たちはまだ付き合い始めたばかりだし・・お互いのことをまだ何も知らないじゃないか。

 僕の方こそ優に謝りたいと思ってるよ。・・優の方がずっと辛い思いをしたのに・・。

 僕は何も気づいてやれなかった・・。ごめん、優・・。”

 

“・・先生は謝らないで。潤先生は何も悪くない・・。悪いのは・・わたしの・・・・”

 

“え・・・?”

 

“・・・ううん。・・なんでもな・・いの。・・・・”

 

“優?・・泣いてるのか?”

 

“ううん、違う。・・・泣いてないわ。”

 

“・・・優・・”

 

“・・あの・・ね・・”

 

“うん?”

 

“・・・会いたいの・・。・・先生に・・会いたい・・”

 

“・・優・・?”

 

“・・今すぐ・・会いたい・・の”

 

“・・優・・・”

 

“・・やだ・・・わたしったら何言ってるのかしら・・。昨夜、会ったばかりなのに。
 
 変ね・・わたし・・・・すごく変・・”

 

“わかったよ・・”

 

“え・・・?”

 

“・・・今から行く”

 

“・・ほんとに・・・?”

 

“うん。・・今から・・優に会いに行く・・”

 

 

 

受話器の向こうで 優が泣いているような気がした。

 


潤は携帯電話を耳に当てたまま テーブルの上にあった車のキーを掴みマンションを飛び出していた。

 

 

























背景  ゆとゆと


 











前の書き込み 秘密 8 昼下がりの恋人たち  
次の書き込み 秘密 6 愛が育まれる時 後
 
 
 

IMX