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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1349413/1886654
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 1 HIT数 7156
日付 2009/04/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -1- 美女と野獣
本文






-1-  美女と野獣

 




女のほっそりとした指が男のシャツのボタンを一つずつ外していく。

綺麗にネイルアートされた彼女の爪がほのかな明かりの中で妖しく光る。

目の前に現れた男の身体は逞しく、

美しく引き締まっていて・・彼女は思わずため息を漏らした。


「・・・だから、あの曲はイメージに合わないって言ってるだろう。
 今度のアルバムに入れるつもりはない。
・・わかってる、朝までに選んでそっちに送る。」


女がうっとりとした目で自分を見てることなど気にも留めず 
男は携帯電話に向かって話している。


彼女は男の声にも聞き惚れてしまう。


低くてどこまでも深みのある声が美しい身体の上の方から響いてきて、
ゾクッと身震いしそうだった。


「ああ、Keiも承諾してる。・・わかってる、間に合わせるって・・・・」


少し苛立ったような男の声が止まる。


女は男の逞しい胸に指を這わせ・・・その素肌にそっと唇を寄せた。

彼女の濡れた唇が彼の胸から下の方へゆっくりと移動していく。

そして、女の指が男のズボンのベルトにかかった時、彼はふっと笑った。


受話器の向こうからの呼びかけを無視して彼は携帯電話を切った。


そして、それをベッドに投げ捨てると 同じように女を押し倒した。


男は女の両手を押さえつけると強引に唇を塞いできた。

女は思わず声を漏らす。


激しく深く唇を貪り、二人の舌は絡み合う。


喘ぎながら女の指が男の髪をまさぐる。


そして、男が女の首筋に唇を這わせ始めた時だった。


ベッドの上の携帯電話がまた着信を告げた。


だが、男の行為は止まることはなかった。


女は艶かしい声で言った。


「・・・出ないの?」


「大した電話じゃない。」


男は冷たく言い放つと、今度は女のキャミソールの裾を捲り上げた。

そして、長い指を忍び込ませていく。ゆっくりと密やかに・・。


「・・あぁ・・。」


女はその滑らかな感触に思わず声を上げる。


男はその声を押し込めるようにまた彼女の唇を塞いでくる。





その時だった。

 

♪♪♪♪♪~



突然、また男の携帯電話が着信を告げる。

それも、その場にはおよそ似合わない可愛い
オルゴール音のメロディーが流れた。


え? 女は驚いて男を見た。


彼は 今度は迷うこともなく携帯電話を取ると
耳に当てながらベッドから立ち上がった。

そして、女に背を向けると話し出した。




「・・・どうした? 今、どこにいる?・・・何だ、酔ってるのか?
 わかった。すぐ行くからそこで待ってろ。・・いいな?
 俺が行くまでそこから動くんじゃないぞ・・わかった?」


それまでとは違った、しっとりとした優しい声が響いた。


男は携帯を切ると、肌蹴たシャツのボタンを留め始めた。

女は慌てて男の背中に向かって声をかけた。



「ちょっと、どうしたの?」


「悪いな、急用が出来た。」


「何言ってるの。今の電話は誰から?・・女からでしょう!」


「・・・・・」


「女がいるのに、わたしをこんな所に連れて来たのね? 最低な男だわ!」


「その最低な男と寝るだけの目的でホテルに来た女はどうなんだ?
 ・・遊びだと割り切ってるのなら責めるのは無駄な事だろう?」

 

男は表情を変えることもなく 椅子に掛けてあった黒いジャケットを羽織ると、
そのまま振り向きもしないで部屋から出て行った。




後に残された女は呆然とその後姿を見ていた。
そして、数分前の男との熱く激しい出来事を思い出した。



体中が疼いて痺れるようなキスだった。


最低で最高の男が仕掛けてきた極上のキス。


それも、一時間前にバーで会ったばかりの名前も知らない男の・・


女は自分の唇に指を当てながら自虐的に笑うしかなかった。

 

 

   ・・・・・・・・・・・


       ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


「真由先生、大丈夫?」

「もしかして寝ちゃった?」


賑やかな居酒屋の奥の席では若い女性のグループが騒いでいた。

“真由先生”と呼ばれた彼女は、テーブルの上に
両手を置いてその上に顔を横にして乗せていた。

ゆるめにパーマをかけたロングヘアは白地に
小花模様のシュシュで束ねて巻かれていた。

長い睫毛を伏せた横顔にはふわりとした
笑みが浮かんでいる。


「真由先生の家ってどこだったかしら。」

「ああ、わたし行ったことあるわ。確かこの近くよ。」


酔って眠ってしまった真由をどうしようかと彼女達が話している時だった。




「真由。」


突然、声がしたかと思うとテーブルの傍に一人の男が立っていた。

すらりと長身のその男は身を屈めると、
寝ている真由の肩に手を置いた。



「真由、迎えに来たよ。」


驚くほど端正な顔立ちの彼が何度か真由を
揺り動かすと、彼女はゆっくりと目を開けた。


そして、声がする方をぼんやりと見上げた。


「あ、ヒロちゃんだ~!」

真由はそう叫ぶと、酔っているのかとろんとした
笑顔を向ける。

眼鏡の奥の男の瞳も同じように優しく彼女を覗き込んだ。


「ま、真由先生、こちらはどなた?」

「真由先生のお知り合い?」


それまで呆然と二人を見ていた彼女達が
好奇心の目を向けた。


「あ、ヒロちゃんはわたしの・・お兄ちゃん・・そう、お兄ちゃんでーす。
・・えっと、6歳年上で作曲家で音楽プロデューサーで
・・カッコいいから女の人にモテモテでーす。

あのね、ヒロちゃん こちらは幼稚園の
葉子先生と早紀先生とみゆき先生と唯先生。

今日は新任の唯先生の歓迎会だったの。
だからね、つい飲み過ぎちゃって・・」


酔った真由はいつもよりお喋りになっている。


「そうか・・・。
・・どうも妹がご迷惑をかけたようですみません。
真由の兄の裕貴(ひろき)です。よろしく。」
 
裕貴はそう言うと丁寧に頭を下げた。

「あ、あらこちらこそよろしくお願いします。」

「素敵なお兄様ですね~!」 


幼稚園の先生の彼女達はうっとりとした顔で裕貴を見ていた。


真由もうんうんと頷きながら、満足そうに笑った。



    ・・・・・・・・・・・・・・

 



歩けないからおんぶして~と絡んで来る真由に呆れながらも 
裕貴は真由を背負って歩いていた。

道行く人々は驚きながら二人を見て行く。



「もともと酒に弱いのに飲み過ぎだよ、真由は。」


「ごめんね、ヒロちゃん。もしかしてデート中だった?」

「どうかな。」


「もうっ、だから電話したの。
ヒロちゃんが女の人と一緒だったら邪魔しちゃおうと思ったの。」


「真由。」


「わたし、性格悪いよね。ヒロちゃんに嫌われちゃうね。」


「そうだな、真由は我儘な妹・・だ。」


「・・ヒロちゃん。」


「うん?」


「来てくれてありがとう。」


「うん。」


「ヒロちゃんはやっぱり頼りになる・・お兄ちゃんだわ。」


「・・・・・」


「だってわたしが困ってるとすぐ来てくれるもの。」


「・・・・・」


一瞬の沈黙の後、裕貴は思い出したように話題を変えた。



「そうだ、真由。あの着メロ、変えてくれないかな。」


「え?」


「真由が勝手に俺の携帯にダウンロードしたあのオルゴールの曲
ディズニーのなんてシャレにならないよ。」


「え~、わたしからの電話とメールだってすぐわかるようにしたのよ。
それに、あれは“美女と野獣”の曲よ。ヒロちゃんにぴったりでしょう?」



「真由が美女で俺は野獣か?」


「正解!」


「そんなこと言うと振り落とすぞ!」


「きゃ~、やめて~!」


真由を背負いながら、裕貴は笑っていた。


「ヒロちゃん、重い?」


「重い。」


「でも、わたし歩けない。」


「本当かな。」


「本当よ。」


真由は裕貴の肩に顔を乗せて目を閉じる。


「ヒロちゃん・・香水の香りがする・・
やっぱり女の人と一緒だったんだ・・。」


「・・・・・」


真由の呟きが背中から聞こえてきたが、裕貴は黙ったまま歩き続ける。



「・・・ヒロちゃんは遊び人だね。いつも周りには素敵な人がいっぱいいるし。」


「・・・・」


「・・・でも・・大好き・・。」


真由はそう言うと裕貴の広い背中に顔を押し付けた。

そして、間もなく静かになった。


「・・真由・・・?」


呼んでも返事がない。どうやら寝てしまったらしい。


裕貴は顔を後ろに向けながらふっと笑った。


そして、真由の重みを受け止めながらゆっくりと歩き出した。

 

 

   ・・・・・・・・・・・

 



裕貴は真由をベッドに寝かせると毛布を掛けた。


真由は安心しきった顔ですやすやと寝息をたてている。


裕貴はその穏やかな寝顔をじっと見つめる。


真由の乱れた髪を直す。


裕貴の長い指は真由の額から頬をそっと撫でていく。

そして・・真由の唇の近くまで辿り着くと指がふっと止まる。


淡いピンクの花びらのような真由の唇。


裕貴の指はそこに触れることもなくぎゅっと握りしめられる。


ふうっと微かなため息が零れる。


迷いと諦めの入り混じった感情がこみ上げてきて裕貴は戸惑う。


裕貴はもう一度、真由の額を愛おしそうに撫でた。

そして、立ち上がると部屋の明かりを消し ドアを開けた。


 

   ・・・・・・・・・・・

 



「真由は寝たの?」


リビングに行くと、母親のかおりがソファでくつろいでいた。

右手に煙草を添えたまま裕貴の方を見た。


「ああ、もう熟睡してる。」


「そう、明日は二日酔いね きっと。あの子が酔っ払うなんて珍しいわ。」



かおりはそう言うとゆっくりと煙草を吸い、

唇を少し尖らせて煙を静かに吐き出した。

裕貴は黙ったまま向かい側のソファに座ると、
少し眉をひそめながら言った。



「相変わらずヘビースモーカーだな。」


「今は休憩中。今夜は徹夜で原稿を仕上げるからね。」


かおりは気だるそうに少し笑った。


「もういい年なんだから徹夜は止めろよ。」


「ほっといてちょうだい。
このスタイルでやってきたんだから今さら変えられないのよ。」


「・・・なあ、オフクロ。」


「その呼び方は止めてって言ったでしょう。」


「ああ、かおりさん。・・って、
何でだよ。真由にはそんな言い方しないじゃないか。」


「真由は“ママ”って呼んでくれるからいいの。
あの子はあんたと違って可愛くて素直だし
それに、あたしは独身の美人ミステリー作家で通ってるんだから 
あんたみたいな大きな息子がいるなんてイメージが壊れるでしょう?」

「酷い親だな。」


裕貴は呆れたようにかおりを見ると苦笑いをする。


「なあ、かおり。」


「何?」


「真由と俺達は家族なんだよな。」


かおりはまた煙草を吸うと煙を吐き出した。

そして目を細めながら言った。


「・・そうだね。血は繋がってないけどね。」


「・・・・・」


「今夜みたいに 真由は困ると裕貴を呼ぶし、
裕貴はそんな真由を放っておけない。
・・・どこから見てもあんた達は仲のいい兄妹だね。」

「それならいい。」


「裕貴?」


「真由が寂しい思いをしなければ・・それでいい。」


「そうだね。真由が結婚して本当の家族ができるまでは 
あたし達が真由の家族だからちゃんと守ってあげないと。
真由はあたしと同じで、か弱いからね。」

「・・・・・」


「何、その冷ややかな視線は?」


「・・・何でもない。じゃあ、俺はもう帰る。」


「泊まっていけばいいのに。真由ががっかりするわ。」


「俺も仕事が残ってるんだ。」


「偉そうに・・。」


「あまり真由のことこき使うなよ。家事は全部やらせてるんだろう。」


「あの子はね、そういうことが好きなの。
料理も上手いし、綺麗好きだし、素直だし、美人だし。
今すぐにでもお嫁にいけるよ、きっと。」

「・・・・・」


「だから、あたしは真由よりも裕貴の方が気がかりよ。
いつまでもフラフラしてて。そろそろ落ち着いたらどうなの。」


「俺のことはいいよ。」


「・・・何がいいの。」


「結婚なんて考えたこともない。」


裕貴はソファから立ち上がると、背中を向けたまま 

じゃあなと言いながら軽く右手を上げた。


かおりは呆れたような顔で黙ったまま息子が
部屋から出て行くのを見ていた。

 

 

   ・・・・・・・・・・・・

 



実家からマンションまでの帰り道は桜並木が満開だった。


音大を卒業すると裕貴は家を出て一人暮らしを始めた。

今までに住んだ部屋は いつも実家から
それ程離れていない場所にあった。

何度か引越しもしたが、結局 
選ぶ場所はいつも同じぐらいの距離の所だった。


傍にいるのは息苦しい。

かと言って、遠くに離れるのは心配でたまらない。



裕貴と真由のいる場所。

裕貴の真由への想い。


曖昧で複雑な距離感。裕貴はそんな自分の感情を持て余していた。





ふと立ち止まった裕貴は夜桜を見上げる。


そして携帯電話を取り出しデータフォルダを開いた。



♪♪♪♪♪~



桜の花びらが散る中、オルゴールのメロディーが流れる。


  ――“美女と野獣”の曲よ。ヒロちゃんにぴったりでしょう? ――



裕貴の耳元で響いた真由の声。


楽しそうな真由の笑い声。


真由が笑っていてくれるならこのままでいい。

 



裕貴は桜の花を見上げ、携帯電話を耳に当てて 

またそのメロディーを聴いていた・・・。




つづく…












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