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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 11 HIT数 4862
日付 2009/04/04 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -11- そばにいるよ
本文




-11-  そばにいるよ

 


昨夜の嵐が嘘のように、その日の朝は澄みきった青空が広がっていた。


窓から差し込む光を浴びて、真由は眩しそうに目を開けた。

ここは? いつもと違う場所だと気づいて真由は不思議に思う。
少し考えた後 はっと思い出した真由はすぐに右側に顔を向けて確かめる。

・・・そして落胆する。

そこにはもう、裕貴はいなかった。

昨夜は真由が眠りにつくまで傍にいてくれたのに・・。


「・・・もう、帰っちゃったんだ・・・。」

小さく呟く真由の声が悲しく響く。

 

 

「真由、起きたのか?」


「ヒロちゃん?」

真由は慌てて起き上がると隣の居間の方を見上げた。

髪をタオルで拭きながら、裕貴が現れた。

シャワーを浴びた後なのか、髪が艶々と濡れている。


「熱は?」

裕貴はそう言うと真由の額に手を当てる。

差し伸べた手から、その身体から ほのかにいい香りがする。


「もう下がったみたいだな。・・・何か飲むか?」

ほっとしたような裕貴の笑顔が眩しくて、真由は思わずうつむいてしまう。

そして、小さな声で 「・・ん、お水がいい」と答える。


裕貴はキッチンに行くとグラスを出し、冷蔵庫に入っていた水を注ぎ
それを真由の所まで運んで差し出した。

ありがとう・・真由はグラスを受け取ると水を飲んだ。

美味しい・・にっこりと微笑む真由。


真由の濡れた唇が裕貴の目に映る。

きゅっと胸を優しく掴まれたように痛んで、裕貴の息が止まりそうになる。

昨夜・・思わずキスしてしまった艶やかな小さな唇。

愛しくてたまらない・・裕貴の胸にそんな思いが溢れる。

 

「・・・真由。」


「ん?」


「お前に・・言っておきたいことがあるんだ。」


「え、何?」


「俺は・・」


その時、絶妙なタイミングで部屋の電話が鳴り響く。


「・・・・・」

裕貴は思わず黙り込んでその電話を睨みつける。


「・・電話・・電話・・。」

真由は電話に出ようと立ち上がろうとしたが、裕貴がそれを止めた。


「いいよ、俺が出るから。」

裕貴は不機嫌な顔で受話器を取り上げた。

 

「はい。」

この上ない無愛想な声が低く響き渡る。


『あら、裕貴? いたの?』

電話の相手は母親のかおりだった。

『もしかして、泊まってくれたの?』

やたら明るいかおりの声に裕貴はむっとする。


「・・今、どこにいるんだよ。」


『あら、言ってなかったかしら。・・ソウルよ。今ね、韓国にいるの。』


「韓国?」


『そうよ。次回作の取材でね。昨夜、着いたのよ。
 関西空港から二時間で来たわ。東京に帰るより近いのよ。
 すごいでしょう?』
 

「・・・何がすごいんだ。
 っていうか、何考えてんだ!
 真由が怪我したんだぞ。それなのに韓国だと?」


『やーね、そんなに怒らないでよ。
 真由の怪我は大したことないって聞いたから来たのよ。』


「大したことない・・って、俺にはそうは言わなかったぞ。
 真由が大怪我したから病院へ行けって、昨日 電話してきたよな?」


『あら、そうだった?
 そうそう、裕貴が真由の面倒を見てくれるって知ってたから
 あたしも安心してここに来られたのよ。
 ・・・実際、そのとおりだったでしょう?』


自信満々なかおりの声を聞いて、裕貴は言葉に詰まる。


『いいこと? あたしはあと一週間こっちにいるから
 あんたはしっかり真由の世話をするのよ。
 何たって、裕貴は真由の頼りになるお兄ちゃんなんだから。』


「・・・・・」


『それから、くれぐれも変なことしないようにね。』


「!!!」


裕貴はカッと頭に血が上ってしまい、その勢いで思わず電話を切った。

ずけずけと物を言うかおりに腹を立て、そして自分の
気持ちが見透かされたようでよけいに腹立たしかった。
 


「ヒロちゃん、どうしたの?ママから?」

真由が不思議そうに裕貴を見上げている。


「あ、ああ。かおり、今 韓国にいるらしい。」


「うん、知ってる。」


「まったく、真由の怪我のことを知ってるくせに・・
 普通ならすぐ帰ってくるはずなのに・・何考えてるんだ!」


「ヒロちゃん、わたしは大丈夫だからいいの。
 ママはね、大好きな韓国の俳優さんと取材で会えるって楽しみにしてたの。」


「・・・・・」


「その俳優さんの写真を見せてもらったんだけど・・
 何だかね、ヒロちゃんと感じが似てるの~。
 だから、その人のファンなんだと思うわ。」


「・・・・・」


「会えば憎らしいことしか言わないけど 
 ヒロちゃんはママの自慢の息子なのよね。」


「かおりはいつも真由の自慢ばかりしてるけどな。」


「やだ、ヒロちゃんったら 拗ねてるの~?」


「そんなわけないだろう。」


「ママもヒロちゃんも素直じゃないのね。
 ・・・何だかかわいい~!」


「かわいいだと?」

 

むっとした裕貴が真由の方へ詰め寄ろうとすると 再び電話が鳴り響く。

また、かおりからの電話だと思い込んだ裕貴は眉をしかめながら電話に出た。


「しつこいぞ!もう、わかったから!
 真由の面倒はちゃんと見る・・・え?
 あ、失礼・・・・。」

怒鳴っていた裕貴は 突然、黙り込むと受話器を真由に差し出した。


「え?」

真由が驚いて見上げる。


「真由にだ。」

裕貴は短く言うと真由に受話器を渡した。
そして、そのまま黙って部屋から出て行った。

 

電話の相手は風間だったのだ。

真由は昨夜のことを思い出して動揺する。

 

『おはよう、真由さん。朝早くからすみません。
 昨夜のことが気になって・・
 あなたにもう一度、謝りたくて。』


「そんな、わたしの方こそごめんなさい。
 いつまでもはっきりしないで
 あなたにひどい事をしてるんですよね、わたしは・・。」


『それは違います。
 いつまでも待つと言ったのは僕です。
 なのに、それを破ってしまった。
 昨日、病院で 阿川さんに会って・・
 本人を目の当たりにして、僕は動揺してしまったんです。
 それで、嫉妬してあんなことをしてしまって・・。』


「風間さん・・。」


『まだまだ、男として修行が足りないなと反省しました。』


「修行・・ですか?」


『はい。』

電話の向こうで真面目な顔をしている風間を想像すると
真由の気持ちが和んだ。

 
『真由さん。』


「はい。」


『今日は幼稚園の方は休みますか?』


「はい。園長先生もしばらく休むようにと言ってくださったので。」


『じゃあ、早く怪我を治してまた会ってください。』


「え? でも・・わたしは・・。」


『・・・阿川さんは昨夜からそちらに?』


「・・はい、心配して昨夜、来てくれたんです。」


『僕が帰った後ですね。』


「・・・・・」


『真由さん、気にしないで。
 あの人はあなたの家族なんですよね。
 僕も気にしてませんから・・って、それは嘘かな。』 


「あの、風間さん・・」


『近いうちにお見舞いに行きます。』


風間は 真由が何か言いかけたのをまるで拒むように
“お大事に”と言って電話を切ってしまった。


真由は布団の上に座り込んだまま 窓から外を眺めた。

そして小さくため息をついた。

 


   * * * * * *

 


「いいってば、ヒロちゃん!」

真由は真っ赤になって首をぶんぶんと横に振る。


「いいから、汗かいて気持ち悪いだろう?
 シャワーを浴びてさっぱりしないと。
 一人で入るのは危ないから俺が手伝ってやるよ。」


「てっ、手伝うって、何を???」


「それはもちろん、身体と髪を洗うのと・・それから・・。」


「きゃー!!!やめて、ヒロちゃんってば!
 そっ、そんなこと出来るわけないじゃない!」


「どうして? 昔はよく一緒に風呂に入ったじゃないか。」


「そんなの大昔の話じゃない!今はそんなっ、そんなことーー!」

 
「・・・冗談だ。」


「はあ?」


「ばかだな、真由は。
 ちょっとからかってみただけだ。」


「ヒロちゃん!!!」 


ますます真っ赤になって怒り出した真由を見て、裕貴は笑い出した。

「マジで怒った真由の顔はやっぱり子供みたいで面白いな。」


「ヒロちゃんのばかーー!」


真由は拳を振り上げて裕貴の方に食って掛かろうとする。

裕貴は笑いながら そんな真由の手首を掴み動きを止めさせる。


「もう! 放してよ!」


「嫌だ。放したら叩かれるだろう?」


「そんな事しないもん!」


「真由。」


あっと小さく声を上げる真由。

裕貴は真由の手首を掴んだまま引っ張って、強引に抱きすくめる。

そして真由を両腕で包み込んだ。


「ヒロちゃん???」

裕貴の胸の中で真由は激しく動揺する。


「真由。」


「ヒロちゃん、どうしたの?」


「黙って。」


「ヒロちゃん?」


「もう一緒に風呂には入れないけど
 昔のように 隣に寝転んだり、こんな事はまだ出来るだろう?」


「・・・・・」


「これもだめか?」


「ううん。  ・・・だめじゃない。」


「そうか。」


真由の頭の上で裕貴が笑っているのがわかる。

裕貴は真由を抱きしめて 背中を何度も撫でる。

真由は裕貴の胸に頬を寄せて その温もりを確かめる。

 

そうだった。

まだ子供だった頃、泣いてばかりいた真由を
こんな風に抱きしめて慰めてくれたのは裕貴だった。

時々、意地悪なことを言って突き放されたこともあるが
結局 最後に優しくしてくれた。

 

その時 真由はふと思い出す。

 

「ねえ、ヒロちゃん。」


「うん?」


「さっき言ってた わたしに話したいことって何だったの?」


「ああ、あれは・・また今度にする。」


「え?」


「真由が元気になったら・・怪我が完全に治ってから話すよ。」


「・・・それっていい話?」


「どうかな。」


「すごく気になる。どうしても今はだめ?」  


「ああ。」


「いじわる。」


真由は裕貴の胸の中で不服そうにぼやく。

裕貴はふっと笑い、また真由をぎゅっと抱きしめる。

 

 




ねえ、ヒロちゃん

どうして こんなに強く抱きしめてくれるの?

話したいことって何?

早く教えて欲しい

そうでないと わたし・・期待してしまう

昨夜からずっと傍にいてくれて 優しくしてくれるから

ヒロちゃんにとって わたしは一番大切な存在なんだと勘違いしてしまう

だから・・だから・・あまり優しくしないで

 



 

真由

もし、今 この気持ちを告げたら お前はどんな顔で俺を見るんだろう

いっそのこと言ってしまおうか

でも、今はだめなんだ

俺はまだ 真由の怪我が治るまで傍にいたいから

真由に気まずい思いをさせたくない

だから・・俺がいなくなっても大丈夫になるまで

俺は兄貴のままで ここにいるよ

その時まで・・黙って傍にいるよ

 

 

 




「真由。」


「なあに。」


「俺は真由が好きだ。」


「知ってるわ。」


「そうか。」


「だって、わたしも同じだもの。」


「そうだったな。」

 

裕貴と真由は静かに抱き合う。


二人の顔には子供のような笑顔が浮かんでいた・・・。






つづく…















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