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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 13 HIT数 4731
日付 2009/04/04 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -13- もう離さない
本文



-13- もう離さない

 


「成田の第一ターミナルよ。確か、正午発の便だったわ。
 今ならまだ間に合うわ。さっさと行くのよ!」

 

かおりの叫び声を背中で聞きながら、裕貴は家を飛び出していた。

車のハンドルを握りしめながら 頭の中は真っ白だった。

なぜ・・? どうしてこんな事になってしまったのか。

真由は何も言わずにパリに行ってしまうのだろうか。

確かに裕貴は 自分で決めろと言った。

“そう言うと思った”と真由は笑いながら答えた。


その答えがこれなのか?

俺に黙って一人で行ってしまうのか

真由はあいつを選んだのか 


裕貴の頭の中は混乱していた。


こんな事になるのなら あの時言ってしまえばよかった

いくらでもその機会はあったのに・・

言えなかった、いや ただ言わなかっただけだ

真由が俺から離れることはない

そんな事はしないと・・自惚れていた

 

 

 

 

夏休みに入った空港の出発ロビーは 
休暇を海外で過ごそうとする旅行客で混み合っていた。

裕貴は何度もぶつかりそうになりながら、人混みをかき分け走って行く。

そして、必死で真由を探す。

アナウンスがパリ行きの搭乗案内を告げる。

裕貴ははっとしてその場に立ち止まった。

出国ゲートの前でたたずむ真由を見つけた。

その隣には 真由に笑顔を向けている風間がいた。

 

 


  「真由!」

 

 

裕貴の叫ぶ声が響き渡った。


真由がゆっくりと振り向く。

そして、自分を呼んだのが裕貴だとわかると
真由は驚いて目を丸くした。

 

「ヒロちゃん! ・・え?  ・・どうしてここに?」

真由はまるで信じられないという顔をしている。


裕貴は真由のところに駆け寄るとその手を掴んだ。
そして、強引に引っ張って歩き出す。


「ヒロちゃん?どうしたの?」

真由が驚いて声を上げる。


「どうして、黙ってたんだ?」

手を掴んだまま振り向いた裕貴の顔が苦しそうに歪んでいる。


「え?」


「俺に黙って行くなんて!」


「ヒロちゃん?」


「だめだ! あいつと一緒に行くなんて許さない!
 お前は・・誰にも渡さない!」


「え?」


裕貴は真由の手を引き寄せて、その身体を抱きしめる。

強く激しく、動けないほどぎゅっと抱きしめて胸の中に閉じ込める。


「どこにも行かせない! 真由は俺の傍にいるんだ!」


「ヒロちゃ・・ん・・。」


きつく抱きしめられた腕の中で 真由の瞳に涙が溢れ出した。


「ヒロちゃん・・ヒロちゃん・・。」


真由は裕貴の胸の中で 何度も名前を呼びながら泣きじゃくった。

今までずっと恋焦がれていた裕貴が抱きしめてくれる。

この愛しい手に包まれたいといつも思っていた。


「これは・・夢じゃないの?
 ・・ヒロちゃんがわたしのこと・・・本当なの?」


「俺は・・真由を愛してる。」


「ヒロちゃん。」


「・・もうお前のこと・・妹だなんて言わない。」


「ヒロちゃん・・ヒロちゃん!」


真由は裕貴の胸に顔を押し付けると、彼の背中に手を回して
シャツをぎゅっと掴んだ。

裕貴もまた真由の華奢な身体をきつく抱きしめる。

真由はまた肩を震わせて泣き出してしまった。

裕貴は 自分の煮え切らない態度で真由を苦しめてしまったのだと初めて気づく。

 

「ごめん、真由。」


「ヒロちゃん・・。」


「もう泣くな。」


「うん。」


「・・ごめん・・。」


「うん。でもね、ヒロちゃん。」

 

真由はそう言うと裕貴の胸の中から顔を上げる。

涙でいっぱいの瞳を向けながら 真由は小さな声で言った。


「今日は見送りに来ただけなの。」


「え?」


「風間さんには・・一緒には行けないって言ったの。
 でも・・彼には感謝してるから・・風間さんのおかげで元気になれたから
 だから・・せめてお礼だけでも言いたくて。」


「え?」


真由の言うことを聞いて裕貴はただ驚くばかりだった。

見送り?お礼?・・・それって・・


「ヒロちゃん誰に聞いてここに・・?ママよね・・・。」


「・・・・・」


「ヒロちゃん?」


「あいつ・・かおりのやつ、また俺を騙したな!!!」

 

その時、裕貴の脳裏にかおりが勝ち誇ったように笑っている顔が浮かぶ。


“あら、あたしは嘘は言ってないわよ。
 真由は成田に向かった。パリ行きが早まったそうよ。・・風間君のね
 あ、それを言い忘れてたわね”
 

問い詰めた時のかおりの受け答えまで想像できた。

確かに、早とちりしたのは裕貴の方だった。

 

「阿川さん。」


ぐったりと疲れた裕貴に声を掛けてきたのは風間だった。

現実に戻った裕貴は はっとして顔を上げる。

そして、真由の隣に立ち ゆっくりと風間を見た。


「やっと・・来ましたね。」

風間はふっと笑うと裕貴に言った。


「ええ。・・・あなたには申し訳ないが、やはり真由を渡すことはできない。
 こいつは俺のものです。手放したりしない。」


「ずいぶん勝手なことを言いますね。
 真由さんを束縛できないと言って突き放したのはあなたじゃないですか。」


「そうです。でも、それは間違いでした。
 俺は真由を引き止めます。どこにも行かせない。
 一生、掴まえて離さない。」


まっすぐこっちを見ながら堂々と言う裕貴を見た風間は
今度は真由の方に視線を向けた。


「真由さんはそれでいいんですか。」


「え?」


「こんな傲慢で自分勝手な人と一緒で・・幸せになれますか?」


風間の問いかけに真由はこくんと頷いた。


「わたし・・きっと幸せになります。」


真由はそう言うと穏やかに微笑んだ。


ううん、わたしは今までもずっと幸せだった

不幸だと思ったことはないの

パパやママに見守られて、ヒロちゃんに助けられて

みんな本当の家族のように包んでくれた 


真由の笑顔を見て、風間は何度か頷いた。


「わかりました。
 真由さんが幸せならそれでいい。
 僕はもう何も言うことはありません。・・・が・・。」


「!!!」


突然、風間は裕貴に拳を上げた。

鈍い音とともに物凄い勢いで裕貴が吹っ飛んだ。

フロアーに倒れこんだ裕貴の顔から眼鏡が外れて投げ出された。


「ヒロちゃん!!!」

真由の悲鳴があがる。

呆然と口を押さえている裕貴に風間は言った。


「どうしてもあなたのことは許せない。
 今のは真由さんを苦しめた分です。」


裕貴は無言のまま風間を見上げる。

何も言い返すことはできなかった。

風間の言ってることは正しかった。


そして、少しすると・・

風間は裕貴に歩み寄るとすっと手を差し伸べた。

裕貴は少し躊躇った後、その手につかまる。

風間に引っ張られて裕貴はよろめきながら立ち上がった。

唇が切れて血が出ていた。


「・・・すみません。
 暴力は好まないのですが。
 人を殴ったのは初めてです。」

風間は眼鏡を拾うと裕貴に渡す。


「俺も初めてだ。親にも殴られたことはない。」


「本当ですか?」


「嘘だ。」


「・・・・・」


二人の男は顔を見合わせると静かに笑い出した。

 

「殴った方の手も痛いものですね。」

風間はそう言うと右腕をひらひらと振った。


甘いケーキを作ることにしか使ったことのない手・・


裕貴はまた笑うとうつむいた。・・面白い奴・・

 

 

「じゃあ、もう行きます。」


風間がそう言うと真由は複雑そうに見上げた。


「・・真由さん、お元気で。」


「は・・い。風間さんもお元気で・・頑張ってください。」


「もし、阿川さんに愛想を尽かしたら すぐにパリに来てください。
 僕はいつでも歓迎しますよ。」


風間は笑顔を向ける。

真由は困ったように笑う。

裕貴はムッとした表情になる。

 

その後、風間が乗った飛行機は 雲ひとつ無い大空へ飛び立って行った・・・。

 

 


  * * * * * *

 

 

真由は車のハンドルを握る裕貴をチラチラと見ている。

前方を見たまま、裕貴がふっと笑う。


「何だ?」


「え?」


「俺の顔に何かついてる?」


「う、ううん。」

真由は慌てて首を振ると、心なしか顔を赤くしてうつむいた。

「ただ・・唇が切れて赤くなってるから・・。
 ・・痛かった・・よね?」


「ああ、すごく痛かった。」


「ごめんね、ヒロちゃん。」


「真由には責任を取ってもらわないと。」


「責任って・・何をすれば・・。」

しゅんと悲しそうな顔をする真由を見て、裕貴は笑い出した。


「嘘だよ。真由は何も悪くない。
 ぐずぐずしてた俺の方が悪いんだ。」


「ヒロちゃん。」


「それに、真由に意地悪して愛想尽かされたら困るし。」


「そんなこと・・。」


「もうどこへも行くな。」


「ヒロちゃん。」


「わかったな?」


「う・・ん、わかった。・・もう、どこへも行かない。」


真由はうなずくと恥ずかしそうに笑う。

とても嬉しいはずなのに目の奥がつんとして泣きそうになる。


「泣くな。」


「だって・・。」


「今日は真由が行きたい所へ連れて行くから。」


「これから?」


「ああ。」


「どこでもいいの?」


「今日中に帰れる所なら。」


「じゃあ、ディズニーシーへ行きたい!」


「え・・・?」


「行こうよ~!せっかく千葉まで来たんだもの。
 成田から一時間!っていうポスターが貼ってあったわ。」


「どこでそんなもの・・。」


「ディズニーランドは中学生の時、ヒロちゃんに連れて行ってもらったのよね。
 でも、シーはまだ一緒に行ったことない!
 だから行こうよ。・・どこでも行きたい所へ連れて行くって言ったよね。」


「わかったわかった。だからそんな大声で騒ぐな。」


「やった!」


「・・・またディズニーかよ。」


「うふっ・・今からなら スターライトパスポートで入れるかな。」


裕貴は思わずため息をついた。

夏休みのディズニーシー・・人混みを見に行くようなものだな

だが、真由のとびきりの嬉しそうな顔を見て、裕貴は“ま、いいか”と呟いた。

 

 


 ―― 東京ディズニーシー ――

 【インディ・ジョーンズ/クリスタルスカルの宮殿】

 

「120分待ち?ふざけるなー!」

「今が“旬”だからよ。映画も公開されたし。」

「そんなに並んでられるか!どこか違う所へ行こう。」

「えー、ここがいい。他も混んでるわよ。」

「じゃあ、適当に見て回ればいいじゃないか。」

「それじゃ嫌!・・せっかくヒロちゃんと来たのに。
 ああもう、ヒロちゃんが短気だってこと忘れてた。
 ・・・わかったわ、ファストパスを取りに行くわ。」

「何だ?それは。」

「・・・・黙ってついて来ればいいの。」


強気な真由に裕貴は目を丸くした。

そんなことには気も留めずに、真由は裕貴の手を掴んだ。

そして楽しげに裕貴を引っ張って歩き出した。

 

 


 【メディテレーニアンハーバー】


ディズニーシーのハーバーで 裕貴と真由は
火と水のスペクタルなナイトショーを見ていた。

色とりどりのライトに照らされた噴水と激しい炎が高く噴き上がる。

神秘的で幻想的な空間の中で美しいハーモニーが響き渡っている。

真由は裕貴にぴったりと寄り添ってそのショーを見ている。

二人はずっと手を繋いだままだった。


「綺麗ねーー! 火の精と水の精が出会って恋に落ちるんだって・・
 ロマンティックだわ・・音楽もいいよね。」

真由がうっとりした瞳で裕貴を見上げて笑いかける。


「ああ、そうだな。」

裕貴もそう言って真由に微笑み返す。


「・・・・・」

真由はドキンとして思わずうつむく。

 

ずっと片思いだと思ってきたのに
ヒロちゃんもわたしのこと“愛してる”って言ってくれた

それがわかったからますます意識してしまう
今まで兄妹のように過ごしてきたから、どうすればいいのかわからないの

でも本当はね・・もっとヒロちゃんに近づきたい
そしてまた ぎゅっと抱きしめて欲しいの 


わたし・・そう願ってもいいのよね?

 


「真由。」

じっと黙っている真由に 裕貴が声をかけた。


真由はゆっくりと顔を上げて裕貴を見る。

 


   え・・・・・・?

 


スローモーションのように裕貴の顔が近づいたかと思うと

ふわりとやわらかなものが真由の唇に降りてきた。


瞬きもできなかった。

あっという間の出来事だった。

周囲の歓声がだんだん遠退いて行く。

 

裕貴と真由。


その短いキスは 二人を兄妹から恋人に変えた瞬間だった・・・。








つづく…












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