ブロコリ サイトマップ | ご利用ガイド | 会員登録 | メルマガ登録 | 有料会員のご案内 | ログイン
トップ ニュース コンテンツ ショッピング サークル ブログ マイページ
aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1337814/1875055
開設サークル数: 1238
[お知らせ] 更新のお知らせ
容量 : 30M/100M
メンバー Total :297
Today : 0
書き込み Total : 957
Today : 0
シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 16 HIT数 4021
日付 2009/04/04 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -15-(終) いつか王子様が -後編-
本文
 


-15-(終)  いつか王子様が -後編-

 



 ―― 一ヶ月後 成田空港 ――

 


ブスッとした顔で 裕貴が空港のロビーに立っている。

彼の傍には なだめるように裕貴の顔を覗き混む真由が寄り添っている。


「・・あれほど言ったのに・・・。」

不機嫌なまま裕貴はぼそっと言った。


「ごめんね、ヒロちゃん。」

真由は困ったように裕貴の腕に手を回す。


「嘘つきなのは真由の方だ。」

まるで、駄々をこねる子供のように裕貴は拗ねている。


「そんなこと言わないで。
 ね、半年たったらすぐに行くから!」


「・・・半年も一人で暮らせって?」


「半年なんて、あっと言う間よ。」


「・・浮気してやる。」


「そんな事したら 即、離婚よ。」


「お、強く出たな。」


「浮気なんて絶対 嫌!・・そんな事したら許さないんだから!」
 

「真由が一緒に行けないって言うからじゃないか。」


「それはそうだけど。」


「嫌な予感がしたんだ。」


「だって・・幼稚園に行って子供達に言ったら
 わんわん泣かれて“まゆせんせー、やめないで”って止められて・・」


「真由にとって俺の存在価値は園児以下なんだ。」


「ヒロちゃん、子供みたい。」


「悪かったな、子供で。
 ・・わかった。 もういい、一人で行く。」


裕貴はそう言うと怒ったように真由に背を向けた。


「・・ヒロちゃーん・・。」


真由は泣きそうな顔で裕貴の背中に抱きついた。

そして、彼の胸にしなやかに手を回し、背中に顔を押し付けた。


「怒ったまま行かないで。
 ・・わかってる。わたしが悪いって、わかってる。
 もう離れないって約束したのに・・そう言ったのに・・!
 ごめんね、ヒロちゃん・・。ごめんなさい。」


裕貴の大きな背中で真由が声を震わせる。

だが、裕貴はまだ黙ったまま何も答えない。


「・・ヒロちゃん。」

ますます不安になった真由は後ろから裕貴をぎゅっと抱きしめた。



・・・まったく・・ ふうっとため息をつく裕貴。


「半年たったらすぐに来るんだよな?」


「え?」


「それなら待っててやるよ。
 でも、それ以上はだめだ。」


「ヒロちゃん。」


「少しでも遅れたら許さないからな。」


「うん!」


裕貴は身体の向きを変えると、今度は真由を前から抱きしめた。


「やっぱりこの方がいいな。」


「ヒロちゃんったら・・。」


「真由の顔も見えるし、どこへも逃げないように掴まえておける。」


「・・・・・」


「真由?」


「今日はヒロちゃんのお誕生日なのに・・
 こんな事になってごめんね。」


「まったくだ。」


「慌しくてプレゼントも用意できなかったから
 今度会った時に何でも聞いてあげる。」


「何でも?」


「ヒロちゃんが望むことなら。」


「待ちきれないな。」


え?と真由が顔を上げると同時に、裕貴はその唇に素早くキスをした。

真由は慌てて裕貴の胸を押して離れた。

彼女の頬は赤く染まっている。

裕貴は子供のように悪戯っぽく笑った。


「今年は真由をもらったから もう他には何もいらない。」

 

ますます真っ赤になった真由に 裕貴はじゃあなと軽く手を上げると
そのまま搭乗口の中へ消えていった・・・。

 

 

 

 

  * * * * * *

 

 

 

   ―― 9月 ――

 

パリの空の下


セーヌ川の辺。
川岸の並木道にには洒落たアパルトマンが立ち並んでいる。
屋根裏部屋の小窓や小さな煙突は パリらしい風情に溢れている。

3つのアーチから成る石橋の上に一人の男性が佇んでいる。

彼の憂いを含んだ黒い瞳がセーヌ川をぼんやりと見つめている。

彼が何度目かのため息をついた時、一人の女性が近づく。

すらりとしたその美しい彼女は薔薇の花のように微笑んだ。


「こんにちは、パティシエさん。今は休憩時間?」


「杏奈さん。」


「でも、今にもセーヌに飛び込みそうな思い詰めた顔してたわね。」


「そうですか?」


「何か悩み事かしら?
 パティスリーの方は繁盛してるみたいだけど。」


「そうですね。杏奈さんみたいに何度も来てくれるお客さんもいるし。
 ・・・店の事ではないんです。」


「じゃあ 恋の悩みかしら?」


「え?」


「あら、そうなの?」


「悩みと言うか・・
 実は 以前好きだった女性が最近、結婚したということを知って・・」


「まあ。」


「こうなる事はわかってたんですが
 実際、その話を聞くと やはりショックだったりして・・」


「・・・・・」


「すみません。 
 店でまだ何度かしか会ったことのない杏奈さんに こんな話をして・・。
 周りに日本語で話せる人がいないもので、つい・・」


「いいのよ。
 わたしの周りも皆フランス人だし・・
 パティシエさんとこうして話せて わたしも気が休まるの。」


「それならいいのですが・・
 あの、それで そのパティシエさんっていうのは照れるので
 名前で呼んでもらえたら、もっと嬉しいんですが。」


「わかったわ。
 えっと、風間さん?・・浩介さんって呼んでもいいかしら。」


「はい。」


「わたしの話も聞いてくださる?」


「ええ、もちろん。」


二人は穏やかに微笑みながらまたセーヌ川を見つめた。


そろそろ夕闇が近づき始めた川はオレンジ色に染まり 
ため息が出そうなほど美しかった。

 

 

 

 


  * * * * * *

 

 


  ―― 3月 ――




朱色の小紋の着物に濃紫の袴で装い 艶やかな黒髪を
和風の桜模様のシュシュでまとめた真由がいた。

彼女は 無事に卒園式を終えた園児や保護者と一緒に
写真を撮ったり挨拶を交わしている。

真由は笑顔で子供達を抱きしめながら別れの言葉を告げる。


「勇太君、卒園おめでとう。元気でね。」

「まゆせんせいはアメリカにいっちゃうの?
 ようちえんをやめちゃうの?」

「うん、そうよ。
 でも、いつかまた帰ってくるから。
 その時、勇太君は小学校の3年生ぐらいかな。」

「そうなんだー!
 そしたらまた会える?」

「うん。でも、勇太君はその時まで真由先生のこと覚えてるかな。」

「おぼえてるよー!だって、ぼくはおおきくなったら
 まゆせんせいとけっこんするから。」

「そ、そうなの?」

「ゆうたくん、なにいってるのー?
 まゆせんせいはもうけっこんしちゃったんだよ。」

「ななみちゃん。」

「しってるよ。だからぼくがおとなになったら
 まゆせんせいはまたぼくとけっこんするんだ!」

「ゆうたくんがおとなになったら
 まゆせんせいはおばさんになってるよ。」

「お、おばさん・・・・。」


無邪気な子供の言葉に真由は絶句する。

勇太君が二十歳になった時、わたしは・・え?

さんじゅう・・・きゃー、どうしよう!


真由は思わず目眩がしそうな時だった。

 


「ねえ、あの方はどちらのお子さんの保護者?」

「見たこと無いわ。」

「あんな素敵な人いたかしらねー?」


園児の母親達のざわめきが次第に広まっていく。

興奮した彼女達は遠巻きに同じ方向を見てそわそわしている。

真由も何気なく同じように視線を向ける。

 

・・・え・・・???


「・・うそ・・」

真由は自分の目に映ったものがまるで信じられなかった。

そこにいるはずのない人がいたからだ。

すらりとした長身の男が静かに佇んで 真由の方を見ていた。

スーツを完璧に着こなしてネクタイまでした彼は 
真由にとっては初めて見る裕貴の姿だった。

 


「ヒロちゃん!」

 

袴姿で草履を履いた真由が駆け寄る。

慌てていたので、今にも躓きそうになる。

 

「相変わらず何もない所でも転びそうだな。」

裕貴は呆れたように真由に笑いかける。


「ヒロちゃん! どうしたのー? どうしてここに?
 今はロスにいるんじゃなかったの?」

真由は興奮して裕貴を見上げる。


「真由を迎えに来たんだ。」


「え?」


「また あと一年待って、なんて言われたら嫌だからな。」


「ヒロちゃん・・」


「わざわざ この俺が迎えに来てやったんだから 
 もう、行かないなんて言わせないからな。」


「ヒロちゃん。」


裕貴は真由を軽く睨むとふっと笑った。

見る見るうちに 真由の大きな瞳から涙が溢れ出す。

裕貴は笑いながら両手を大きく広げる。

真由はその広い胸の中に崩れるように身をまかせる。

逞しい腕に抱きしめられると 真由は肩を震わせて泣き出した。

 

ずっとこうして欲しかった

こんな風に裕貴に抱きしめられたかった

裕貴に会いたかった

ずっとずっと会いたくてたまらなかった

 


子供達のきゃあ!という声が響き渡る。

まゆせんせいがチューしてる!
まゆせんせい しらゆきひめみたい!
おうじさまがおひめさまをむかえにきた!

抱き合う二人の周りをぐるぐると賑やかに駆け回る子供達。

 


初春の 穏やかに晴れたその日


裕貴と真由は幸せな再会を果たした・・・。

 

 




 

ヒロちゃん? どうしてスーツなんて着てるの?


卒園式に真由先生を迎えに行くんだから
あまり目立たない方がいいと思って


・・十分 目立ってる・・


そうか? でも、これなら野獣には見えないだろう?


うん、白雪姫を迎えに来た王子様みたいだって


・・・・・・・


じゃあ、携帯の着メロも
“美女と野獣”から“いつか王子様が”に替えなくちゃね


またディズニーかよ


・・・ヒロちゃん 


うん?


わたしは 野獣のヒロちゃんも王子様のヒロちゃんも
どっちも大好きよ


・・・知ってる











      -おわり- 














 
前の書き込み シュシュ その後の二人 ― Mayu's theme ―
次の書き込み シュシュ -15-(終) いつか王子様が -前編-
 
 
 

IMX