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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 2 HIT数 6265
日付 2009/04/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -2- ケーキの王子様
本文





 -2- ケーキの王子様

 

 

ここは都内でも珍しく緑の木々で囲まれた幼稚園。
登園して来る園児達の賑やかな声があちこちから聞こえてくる。


「まゆせんせー!」

園児の女の子が真由を見つけて嬉しそうに走ってくる。


「ななみちゃん、おはよう。」

真由は笑顔で女の子をぎゅっと抱きしめる。


「まゆせんせー、今日もかわいいしゅしゅしてる! ぴんくのみずたま~!」

女の子の小さな手が真由の束ねた髪を触っている。
真由はにっこり笑うと、女の子のやわらかな髪を優しく撫でる。

「ななみちゃんの髪飾りも可愛いわよ。赤いチューリップね。」

「こんなのこどもっぽくてやだ~。
まゆせんせいのみたいにおしゃれなのがいいのに・・
ななみのママはセンスがないの。
ねえ、まゆせんせいのしゅしゅはどこでかうの?」

「え、これは・・もらったの。」

「だれにもらったの~?・・コイビト~?」

「ち、ちがうわ。真由先生の・・お兄ちゃんがくれたの。」

「なあんだ、そうなんだー。・・だめだよ、
そういうものは かれからプレゼントしてもらうんだよ。
そうか~まゆせんせい、かれし いないのね?」

「そ、そうね。」

「どうしてかな。まゆせんせいはとってもきれいなのにね。」

「ふふ、ありがとう。」

「まゆせんせいのお兄ちゃんってかっこいい?」

「うん、すごくかっこいい。」

「いいなー、ななみのお兄ちゃんなんて泣き虫でこどもでいやになっちゃう。」

「・・・・・・」


子供って・・確かななみちゃんのお兄ちゃんは
小学一年生になったばかりのはず。

おませな園児の言うことに 真由は顔を引きつらせながら笑った。


「まゆせんせー!」

見ると、今度は男の子の園児が走って来た。


「勇太君、おはよう。」

真由が屈んで顔を覗き込むと、勇太は少し照れたように笑った。


「真由先生、おはようございます。」

勇太の後から、一人の長身の男が現れた。
彼 風間浩介は勇太の叔父だった。

「おはようございます、風間さん。勇太君を送ってらしたんですか?」

「ええ、今朝は勇太の両親が早くから出勤したもので。」

風間は穏やかな笑顔を浮かべると真由を眩しそうに見た。

それを見ていた勇太が叫んだ。


「まゆせんせー! コウおじちゃんは、
まゆせんせいのことが好きなんだよー!」

「え?」

「勇太!な、何てこと言うんだ!」

「ほんとだよ! だって、コウおじちゃんは毎日ぼくに
まゆせんせいのことを聞くんだ!」

「勇太!」

「だから、こんど ママがまゆせんせいにコウおじちゃんの
ことをどう思うかって聞いてみるって はりきってた!
だから、ぼくは言ってやったんだ。
まゆせんせいとけっこんするのはぼくだから だめだって!」

「ゆ、勇太君。」

「え? 勇太と僕はライバルだったのか?」

「え?」

「あ・・。」


真由は驚いて風間を見上げた。

風間ははっとして自分の口を押さえた。

「あ、あの! そうじゃなくて、いや、やっぱりそうなのかな。
いや、つまり・・僕は・・あの・・真由先生を・・いや・・
・・あ、そうだ! ケーキ!ロールケーキを作ってきたんです。
今、店にも出している桜のロールケーキ。・・けっこう好評なんで・・
あの、良かったら真由先生・・いや皆さんで召し上がってください!」

風間は慌てた様子で一気に叫ぶと白い箱を真由に手渡した。
そして、くるっと背を向けるとあっという間に走り去った。

「あ、あのっ 風間さん!!!」

突然の出来事に真由は慌てて呼び止めたが、
もうすでに風間の姿は消えていた。


それを見ていた勇太が呆れたように言った。

「まったく、おとなのくせにせわがやけるな。
あんなたよりないおじちゃんに、まゆせんせいはまかせられないな。」


またまた、おませな子供の言葉に 真由は笑うしかなかった。

 


・・・・・・・・・・・


「へえ、やっぱりケーキの王子様は真由先生のことを好きだったのね。」

「えっ?」

「そうよ。風間さん、いつもここに来る度に
真由先生のことを熱い眼差しで見てたもの。」

「そうよね~、もうバレバレで。こっちが笑っちゃうくらい、はっきりとね。」

「え、そうだったの?」

「やっぱり気がついてなかったか。真由先生は本当に鈍感なんだから。」

「いいじゃな~い、真由先生。 “マリアージュ”と言えばこの辺では
けっこう有名な洋菓子店だわ。 そのオーナーの息子の風間浩介さんは
パリで修行中にお菓子のコンテストに入賞したほどの
将来有望なパティシエさんよ。」

「おまけに長身でハンサムで穏やかで・・
“ケーキの王子様”って呼ばれるのがぴったりよね。」

「真由先生にお似合いかもよ。お付き合いしてみたら。」

「え? そんな・・わたしは・・。」

「真由先生ったら・・。そうね、あなたはハンサムには見慣れてるものね。」

「あ、真由先生のお兄さん?居酒屋でお会いした?」

「あの方も素敵だったわねー!
風間さんとはまた全然違うタイプで・・
ワイルドでセクシー!っていう感じよね!」

「・・ちょっと真由先生、今度ご一緒させて。」

「そうそう、合コンするとしたら・・ミュージシャンばっかり?すごいわー!」

「そうよ、あなたには風間さんがいるんだから。お兄様はわたし達に!」

「あの、何だか話題がそれてきたような・・。」


園児が帰って保育の仕事が終わった幼稚園の先生達は 
桜のロールケーキを頬張りながら賑やかに雑談をしていた。

真由は 今朝の慌てた様子の風間浩介を
思い出してつい笑ってしまうのだった。



   ・・・・・・・・・・・



真由が勤める幼稚園から自宅まではバスで15分という距離だった。
そのバス停の近くに 風間がパティシエとして仕事をしている
“パティスリー マリアージュ”がある。

カフェオレのようなミルクブラウンを基調とした外観は 
お洒落で落ち着いた雰囲気で 店内のカフェでもゆったりと過ごせると評判だ。

辺りは夕闇に包まれ始めていたが、穏やかな明かりで照らされた
店内を 通りすがりに眺めるだけでもほっとした気分になる。


「真由先生!」

真由がバス停に行こうとすると、突然 声を掛けられた。
見ると パティシエの白い服を着た風間が
マリアージュの店内から出てきたところだった。
彼は急いで駆け寄ってきた。


「風間さん。」

真由は少し戸惑ったように風間を見上げた。


「良かった。そろそろバスに乗るんじゃないかと思って。」

「わたしが来るのを待ってたんですか?」

「はい。」

「もしかして、仕事をさぼってました?」

「はい、さぼってました。」

「まあ・・。」

真由が驚いた顔をすると、風間ははにかんだように笑った。


「すみません。どうしてもあなたに話しておきたいことがあって・・。」

「風間さん。」

「今朝は・・勇太のおかげで・・その・・とんでもない展開になって
真由先生もびっくりしてしまったんじゃないかと思って。
勇太に先に言われてしまって悔しい気もするんですが
・・その、あれは・・本当のことなんです。」

「え?」

「僕は・・ずっと以前からあなたのことが好きでした。
一年前に幼稚園に勇太を迎えに行った時に初めてあなたに会って・・
本当に優しく綺麗に笑う人だなと・・ひと目惚れです。」

「・・風間さん・・・。」


風間の熱い眼差しでまっすぐに見つめられて、
真由はどうしていいかわからない。
突然の告白に顔が赤くなるのがわかってうつむいてしまった。

「真由先生は付き合ってる人がいるんですか?」

「い・・いえ。」

「では僕と付き合ってくれませんか?」

「あ、あの・・でも、わたし・・突然のことで
・・今までそんなこと考えたこともなくて。」

「じゃあ、これから考えてもらえませんか?」

「え?」

「返事は急がないので・・ああ、でも あまり待たされると、
また仕事が手につかなくなるかな。」

「風間さん。」

真由は困ったような顔をしたので、風間はやわらかく微笑んだ。


「嘘ですよ。大丈夫です、ちゃんとケーキは作ります。」

「・・早くお返事しないとオーナーさんに営業妨害で訴えられますね。」

緊張していた真由も 風間の包み込むような
笑顔に安心したのか、ふふっと笑い返した。
風間ははっとして また真由を見つめる。


「あ、そうだわ! あの・・ロールケーキ、ご馳走様でした。
とても美味しかったです。皆でいただきました。
塩漬けの桜入りの生クリームがすごく美味しくて・・ 
スポンジもふわっと柔らかくて・・あのケーキなら甘いものが
苦手な人でも美味しいって言うと思います。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。
・・でも、真由先生は甘いものが苦手でしたか?」

「いえ、わたしは好きなんですけど。
・・わたしじゃなくて・・ヒロちゃ・・いえ、兄・・・わたしの母と兄は
辛党なので・・ケーキとかあまり食べないんです。
でも、あの桜のロールケーキなら食べてくれるかなと思って。」

「そうでしたか。」

「・・あの、風間さん。」

「はい?」

「もしよろしかったら、あのケーキのレシピを教えていただけませんか。
・・すみません、プロのパティシエの風間さんに
こんな事お願いするなんて失礼だと思いますけど。」

・・・やっぱり失礼だわ、こんなこと。
真由は思わず言ってしまったことを後悔した。


「いいですよ。・・あ、そうだ。それよりも、実際に作ってみますか?
作り方を教えますから。 早速ですが、来週の月曜日はどうですか?
定休日なんです。
真由先生には仕事帰りに店に寄っていただければ・・。」

だが、風間はあっさりと承諾した。


「え?そんなご迷惑をかけるわけには・・。」

「迷惑なんて・・そんなことはありません。」

「でも・・。」

「大丈夫です。それを条件に付き合ってくれだなんて言いませんから。」

「え?」

「二人きりになるのが心配なら勇太も連れて来ます。だから、安心して。」

「まあ。」

真由は思わず笑い出してしまった。
風間は照れたようにに頭をかいている。
 
真由は風間の好意に甘えて、ケーキを作ることにした。
その日は穏やかな時間を過ごせるような気がしていた。









  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







♪♪♪♪♪~~~←ポチッ!してみてください。



“美女と野獣”のメロディーが流れる。

真由は慌ててバッグから携帯電話を取り出した。
電話に出た真由の顔がぱっと明るくなる。


「もしもし?ヒロちゃん?」

『ああ、真由。今どこにいる?』

「バス停よ。これから家に帰るところなの。」

『そうか。気をつけて帰れよ。』

「うん。ヒロちゃんは?まだお仕事中?」

「ああ、今レコーディングの真っ最中。夜中までかかりそうだな。』

「そう、大変なのね。がんばってね。」

『うん。・・それで今日電話したのは、コンサートのチケットが手に入ったから
知らせようと思って。Y2のライヴに行きたいって言ってただろう?』

「え?ほんとにーーー?」

『ああ、なかなか手に入らないんだからな。感謝しろよ。』

「ありがとう、ヒロちゃん!大好きーー!」

『調子いいな、真由は。』


電話の向こうで裕貴が笑っている。
真由の笑い声も重なる。


『じゃあ、二枚あるから誰か誘って行って来いよ。』

「え?ヒロちゃんが一緒に行ってくれるんじゃないの?」

『え、俺?』

「うん。」

『まだ、そのあたりのスケジュールがどうなるかわからないよ。』

「そうなんだ・・。」

『何だよ、一緒に行ってくれる男もいないのか?』

「そんな人いないもん。」

『そうか、それじゃ仕方ないな。俺が連れてってやる。』

「やった!」

『・・そんなに嬉しいか?』

「だって、ヒロちゃんと一緒ならママも安心するし、美味しいものを
ご馳走してくれるし 帰りは家まで送ってもらえるもの。」

『わかった、何とかするよ。しょうがないな、真由は。』

 

電話の向こうで呆れたように笑っている裕貴がいる。

それを想像しただけで真由は体中が温かくなって自然と笑みがこぼれる。

その笑顔は さっき風間に見せたものとはまるで違うことに真由は気づかない。


携帯電話を切ると、真由はそれを頬に当てて目を閉じた。

低くて甘い裕貴の声がまだ聞こえてくるような気がする。


彼とずっとこんな風に過ごしていけるのならこのままでいい。


ずっと傍にいられるのなら わたしはいつまでも彼の妹でいい。


真由はその温かな余韻を消さないように、静かにたたずんでいた。


そして、ぼんやりとしたまま自分が乗るはずのバスを見送っていた・・・。




つづく…













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