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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1349401/1886642
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 4 HIT数 5853
日付 2009/04/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -4- 大切なひと    
本文






-4-  大切なひと  


カーテンの隙間から柔らかな日差しが差し込んでくる。


杏奈はゆっくり起き上がると、気だるそうに長い髪をかき上げた。

そして、ベッドから降りてローブを羽織り 煙草に火を点けた。
軽く尖らせた唇の隙間から 紫煙が緩やかな線を描いて吐き出される。

杏奈はその煙草を 一晩・・情熱的に過ごした相手の唇に差し入れた。


「・・変わってないな。他の男にも同じ事をしてるってことか。」

裕貴は煙草を口から離すと面白そうに笑った。


「あら、もしかして妬いてるの? ・・・って、
そんなはずないわね。」

くすくす笑う杏奈の瞳が 何か思いついたようにきらっと光った。


彼女はベッドに片膝を乗せて身を屈めると
ベッドヘッドに寄り掛かっている裕貴に軽くキスをした。

そして、杏奈は裕貴の指から煙草を取り返し、灰皿に押し付けて火を消した。


「・・・裕貴にはもっと素敵なことをしてあげる。」


誘うように潤んだ杏奈の瞳を見て、
裕貴はその細い手首を掴んで引き寄せた。

そして、乱暴に彼女の頭を抱え込むと強引に唇をふさいだ。

杏奈の濡れた花びらをもっと赤く染めたくて 
裕貴は激しく彼女の唇を貪った・・・。

 





「・・裕貴も変わってないわね。」

裕貴の胸に頬を寄せた杏奈の声は少し擦れていた。


「もう、あれから3年も経ったのよね。
なのに、二人ともまだシングルってことは 
お互いにあの時以上のパートナーが
見つからなかったってことかしら?」
 
「・・・・・」

「・・・違うわね。
裕貴は わたしではない“誰か”よりも 
大切に思える相手が現れなかったのよね。」

「・・・・・」

「嫌な人ね。・・こんな時は嘘でもいいから 
おまえ以上の女は現れなかったって言うものよ。」
 
「・・杏奈以上の女は現れなかったよ。」

「遅いわよ。」


杏奈はまたくすくす笑い出した。

そして、諦めたようなため息をひとつ・・。


彼女は起き上がりベッドから降りると またローブを羽織った。


今度はそのまま 裕貴の方を振り向くこともなく
バスルームへと消えていった。

 

 


   * * * * * * *  

 

 


振り返ると、そこには巨大な超高層ホテルがそびえていた。


“ 一ヶ月の予定で、撮影の仕事があるから帰国したの。
終わったらまたパリに戻るわ。
それまで、このホテルに滞在する予定なの。
また気が向いたら連絡して。
・・・かまわないわ。だってわたしたちはそんな関係だったじゃない?
3年前も今も同じ。
・・また、あなたと寝て思い出したの。
裕貴にとってわたしはそんな存在だってことをね ”

 


  ―― 裕貴は わたしではない“誰か”よりも 
     大切に思える相手が現れなかったのよね 

     そんなところも変わってないわ あなたは ――


裕貴は杏奈の言葉を思い出していた。


確かにそうだ。
何も変わってない。自分はいつも迷っている。
3年前・・いや、もっと以前から。

 

 
事故で両親を亡くした真由が 阿川の家に引き取られた時
彼女はまだ2歳になったばかりだった。

寂しくて泣いてばかりいた真由を慰めてくれたのは 
阿川夫婦とその一人息子の裕貴だった。
陽気な阿川家の人々に囲まれて、
真由は次第に明るくて優しい娘に育っていった。

6歳年上の裕貴は優しくて頼りになって、
真由は彼を兄のように慕った。

 


いつも裕貴の後をくっついて来た可愛い妹。
小さくて、一生懸命で、泣き虫だった真由。
色白で、くりくりっとした大きな瞳で裕貴だけを見ていた真由。
6歳離れているせいか、真由が可愛くて可愛くて仕方がなかった。

裕貴はそんな真由を守ることが当然だと思っていた。

裕貴と真由は誰が見ても仲の良い兄妹だった。
二人もまた同じように思っていた。

だが、いつの間にか裕貴の中に それまでとは違う感情が芽生えてきた。
高校生になってどんどん綺麗になっていく真由が眩しくて、
傍にいると息苦しくて その華奢な身体を抱きしめたいという
感情に駆られるようになった。

耐え切れなくなった裕貴は音大を卒業すると、
すぐに家を出た。

その日から裕貴は真由と微妙な距離をおいて接してきた。
そして、真由が必要な時にはすぐに駆けつける優しい兄を演じてきた。


 ―― ヒロちゃんがお兄ちゃんで良かった ――


真由の何気ない言葉が、優しく鋭く裕貴の思いを胸の奥に封じ込めた。

 

自分がどうしたいのかわからなかった。

あれからずっと裕貴は迷っていた。

 

 



「・・真由・・・?」

マンションに帰るとエントランスに真由が立っていた。


「ヒロちゃん、お帰りなさい!」

真由は嬉しそうに裕貴の所へ駆け寄ってきた。


「昨夜も徹夜でお仕事だったの? 大変ね。」


「あ、いや・・。それより、どうした?こんな時間に。」


「あのね、ロールケーキを作ったから持って来たの。
ほら、昨日 メールしたでしょう?
あの後、すぐ作ったの。それで、幼稚園に行く前に寄ってみたの。」

「そうか。連絡くれればもっと早く帰って来たのに。」


「いいの。もし、いなかったら管理人さんに預けようと思ってたから。」


「・・部屋のスペアキーを渡しとけばよかったな。」


「・・・いらない。」


「え?」


「だって・・ヒロちゃんがいない時に部屋に入って、
そこに、ヒロちゃんと女の人が一緒に帰って来たら嫌だもの。」

「ばかだな、真由は。
・・俺は今まで部屋に女を入れたことはない。」


「嘘。」


「嘘じゃないよ。あの部屋に入ったのは真由だけ。」


「本当に? でも、あの、わたしも一応、女なんですけど。」


「真由が女?」


「そうよ。」


「違うだろう。まだまだミルクの匂いがしそうな子供だよ、真由は。
精神年齢は幼稚園児と大して変わらないだろう?」

「もう、ひどい!ヒロちゃんの意地悪!
・・いいわ、もう行く。・・はい、これ ケーキ。
意地悪したから罰として全部食べるのよ!
・・・残したらもう口を利いてあげないんだから!」

「こんなに食えないよ。」


「だめよ、全部食べるのよ。じゃあ、もう行くね。」

「車で送っていこうか?」


「ううん、大丈夫。バスもあるし。」


「そうか、気をつけて行けよ。急いで転ぶなよ。」


「だから子供じゃないってば。」


むきになる真由を見て裕貴は笑い出す。

背を向けて歩き出した真由が、ふと途中で振り向いた。


「・・・ヒロちゃん。」


「うん?」


「・・昨夜は徹夜で仕事じゃなかったのね。」


「え?」


「付いてる・・。」

「え?」


「・・胸元に・・赤いしるし・・・。」


「・・・・・・」

思わず裕貴はシャツの襟を合わせる。


「だめよ、ヒロちゃん。そういうのはちゃんと隠さないとね。」

真由はそう言うと、からかうように笑った。


「じゃあね、ヒロちゃん バイバイ。」


真由は手を振った後、背を向けてずんずん歩き出した。

歩く速さがどんどん速くなる。

少しでも早く、その場から離れたかった。


マンションが遠ざかると、それまでの笑顔は消えていた。

見る見るうちに、真由の顔は悲しい色に歪んでいった。


 

   * * * * * * *  

 


マンションの部屋に戻った裕貴はケーキの箱を開けた。

桜色のロールケーキ。
無造作に、指で少しだけつまんで口に入れる。

口の中にふわりとした甘さと、ほのかな塩味が広まっていく。

真由の桜色の指先と同じ色のケーキ。


「・・・甘い・・。」

つぶやく裕貴の脳裏に真由の顔が浮かぶ。
くるくると表情を変えながらケーキ作りに奮闘している真由がいる。


昨夜は杏奈と一緒だった。

部屋に入れるのは真由だけだと言ってスペアキーを渡そうとした。


俺はどうしたいんだろう。

真由をもっと遠ざけたいのか・・ずっと傍に置いておきたいのか。


それとも・・

真由の気持ちを無視して、そう思うこと自体が傲慢なのか。

俺はいつも迷ってる。

 

裕貴は また、やわらかなケーキを指でつまむと口に入れる。


真由に口を利いてもらえなくなったら・・
自分はどうしたらいいかわからなくなってしまう。


どんなに真由から離れようとしても 心は真由に近づいている。

 

 




   * * * * * * * * * * 

 

 




雨が降り出していた。

夕方、幼稚園の仕事を終えて 真由はいつものようにバス停に向かっていた。
そして、パティスリー・マリアージュの前に来ると立ち止まった。
淡いピンクの傘を差したままぼんやり店内を見ると、
ちょうどガラスケースの前にいた風間と目が合った。

風間は真由に気がつくと嬉しそうに笑って、店から出てきた。


「真由さん!」


「・・こんばんは。」

真由が少し戸惑い気味に頭を下げた。

ケーキを作って自宅まで送ってもらってから一週間が経っていた。


風間から交際を申し込まれて、その返事をしなければと思っていたが
何となくその機会がなかった。


「よかったら寄って行きませんか?
一緒にお茶でもいかがです?」


「でも、まだお仕事中では?」


「いえ、今日の分のケーキは作り終わりましたから。
カフェが閉店するまでは暇なんですよ。」

風間はそう言うと、真由を明るい店内へ招き入れた。

 

カフェの一番奥の席に座って、二人は向かい合っていた。
真由のテーブルの上には紅茶とケーキが置かれている。

綺麗な淡いピンクの生クリームに真っ赤な苺がのっている。


「苺のシフォンケーキです。」

パティシエの服を着替えた風間は少し照れたように笑った。


「・・美味しそう・・。」


「真由さんにぴったりなケーキでしょう?
このケーキを作る時はあなたのことを思い出したりするんですよ。」


「・・わたしは・・こんなに可愛くありません。」

真由は睫毛を伏せると小さな声で言った。


「わたしは・・このケーキみたいに繊細じゃないし、ずるいし、
どうしようもないくらい弱虫なんです。」


「真由さん?」


「・・風間さんに付き合って欲しいって言われて・・
本当はすぐにお断りしなくてはいけないのに
返事を延ばして・・
あなたがすごく優しいからつい甘えてしまって。」


「すぐに断る・・って、どうしてですか?」


「・・わたし・・好きな人がいるんです。」


「・・・・・」


「でも、片思いで その人はわたしのことを
手のかかる妹みたいにしか思ってくれなくて・・。」


「真由さん。」


「その人は風間さんみたいに誠実じゃないし
いつも周りに女の人がいて遊んでるし、無愛想で・・
でも、わたしには優しくて、困った時にはいつも助けてくれるんです。」
 
「・・・・・」

「でも、それは・・わたしが妹みたいだから。
だから・・もし、わたしが本当の気持ちを告白したら・・
きっと彼は困ってしまう。わたしのことを女として見られないから、
きっと彼は遠くに行ってしまう。」
  
「真由さん。」

「それなら、ずっと妹のままでいようと思いました。
彼の傍にいられるのならそれでいい。 
大切な人だから苦しめたくないんです。
だから、何度も諦めようと・・。
このまま風間さんとお付き合いすれば
忘れられるかな・・なんて・・思ったりして。
わたし・・ずるいんです。」

一気に胸の内を話すと、真由は深く息を吐いた。
そして、睫毛を震わせて悲しそうにうつむいた。


「・・ごめんなさい。」


真由の大きな瞳から涙がこぼれ落ちた。


目の前の紅茶はとっくに冷めてしまっていた。


外はすっかり暗くなり 雨がしとしと降り続いていた・・・。

 

 



つづく…













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