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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 5 HIT数 5748
日付 2009/04/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -5- 届かない告白
本文




-5-届かない告白  



雨はしとしと降り続き 街路樹を濡らしていた。

色とりどりの傘を差した人々が急ぎ足で通り過ぎる。

 

「・・・紅茶が冷めてしまいましたね。
入れ替えましょう。」

風間は 真由の前に置かれていたティーカップを
ソーサーごと手に取ると立ち上がった。

そして、カフェの奥の方に消えて行った。


後に残された真由はため息をついた。
そして、後悔していた。

まだ二人で話すようになって間もない風間に 
自分の本当の気持ちをぶつけてしまった。


交際を申し込んできた相手に 
他の男性への思いを切々と告白してしまうなんて・・
・・・わたしは何てひどいことをしてるのだろう。

今すぐにでもここから離れたかった。
でも、黙って帰ることなんてできない。


迷っている真由の前に風間が戻ってきた。

トレーの上には 白いティーポットとカップが二つ。

風間は真由のティーカップに紅茶を注ぎ込む。
白い湯気が立ち上って、辺りに芳しい紅茶の香りが漂う。


「・・どうぞ。 たくさん喋って喉が渇いたでしょう?」

紅茶よりも温かい風間の笑顔と声が真由を包み込む。


「・・風間さん。」


「さあ、今度は冷めないうちに飲んでください。」


「・・はい・・いただきます。」


真由は白いティーカップを手に取ると、両手で包み込んだ。
湯気がふわりと真由の睫毛の先まで届いて、
瞼が切ないくらい温かくなる。

そして、紅茶を一口飲むと 
優しくて温かい香りが真由の身体の中に染みていく。


「・・・美味しい・・。」


小さく呟く真由を風間はじっと見ている。


睫毛を震わせて儚く微笑む真由は 痛々しいほど綺麗だ。

そして、風間は 何か決意したように静かに告げる。

 

「・・・僕は・・待っています。」


「え?」


「あなたの中からその人の影が消えるまで・・
僕は待っていてもいいですか?」


「・・・風間さん?」


「僕が待っていることをあなたは許してくれますか?」


「そんな・・そんなこと言わないでください。
だめです・・だって・・わたしは・・」

「真由さん。」


「・・もう何年も、十年以上も彼のことを思ってきたんです。
もしかしたら諦めることはできないかも・・
永遠に片思いしてるかも・・だから、わたしは・・。」

「それでもいい。・・僕を利用してください。」


「え?」


「僕を利用して、その人のことを忘れられるかどうか
試してみてください。」


「そんなことできません。わたしは・・。」


「あなたはずるくなんかない。だって、僕に本心を話してくれた。
だから、僕も本当のことを言います。
僕は・・あなたのことを諦めることはできない。」

「風間さん。」


「その人のことを忘れられるまで僕は待っています。
だから、真由さんはもう一度、その人のことを考えてみてください。
あなたはどうしたいのか、どうすれば一歩先に進めるのか・・」
 
「わたしが・・先に進む・・?」

「今のままだと辛いでしょう?」


風間の言葉を聞いて真由ははっとする。



ずっと胸の奥に閉じ込めてきた裕貴への思い。

“わたしはヒロちゃんの妹じゃない!”
・・いつもそう叫びたかった。



真由の大きな瞳に涙が溢れ出し、白い頬を濡らしていく。

今まで張り詰めていた糸が切れたように
体中の力が抜けていくような気がした。


「真由さん?」


「・・わたし・・今までこの事で泣いたことなんかないのに・・変ですね。」


「すみません。・・僕が泣かせてしまったのかな。」


「いえ、違います。 風間さんがとても優しい人だから。
・・どうして?・・どうして、そんなに優しいんですか?」

「それは・・惚れた弱み以外、理由は見当たりません。」


「え?」


「・・あなたが好きだからです。」


風間はそう言うと穏やかに笑った。

そして、さあケーキも食べてみて、と 
真由の方へシフォンケーキの皿をそっと手で押した。

真っ赤な苺の甘酸っぱい香りが 
真由をやわらかく包んでいた。

 

 

 

* * * * * * * * * * 

 

 

 

―― あなたはどうしたいのか、考えてみてください ――

 

あの日から真由は 風間のその言葉を何度も思い出していた。


わたしは・・どうしたいの?

ヒロちゃんに わたしの本当の気持ちを話して・・それから・・

妹としてじゃなく一人の女として見て欲しい・・って言うの?


・・・そんなこと・・言えるの?


もし、ヒロちゃんがわたしの気持ちを知ったら
きっと 驚いて、困って、
辛くなってわたしから離れていく。


今までのようにヒロちゃんが傍にいなくなったら

わたしはどうなるのだろう。


彼がいなくなっても わたしは・・生きていけるの?

 

 

 

* * * * * * * * * * 

 

 


「・・・まゆ・・? どうした? 真由。」


名前を呼ばれて真由ははっと顔を上げた。
裕貴が心配そうに見つめている。


その日、東京NKホールでY2のライヴが開催されることになっていた。
裕貴と真由は ガラスの吹き抜けホールの中を
人混みに流されるように歩いていた。


「あ、ううん、何でもない。」


「ぼんやりして、どこか具合でも悪いのか?」


「ううん、大丈夫。 ・・・・あっ!」


そう言ってる矢先に、真由はカーペットに足を取られ転びそうになった。

慌てて裕貴は真由の腕を支えて引き寄せた。

そのまま真由は身体ごと裕貴の胸の中に抱きとめられた。

 

「まったく、しょうがないな真由は。
どうして何も無いところで躓くんだ。」

裕貴はそう言うと真由の背中を軽く叩いた。


「う、うん。ごめんなさい。」


真由は慌てて裕貴から離れると顔を上げる。
頬がほのかに赤く染まっている。


「ほら。」

裕貴は左腕を真由の方へ向ける。


「え?」


「ここに掴まれ。」


「え?」


「また転ぶから。」


「う・・ん・・。」


真由は少し遠慮しながら裕貴の腕に両手を回し、
すがるように身体を寄せた。

そして、肩先に頬を寄せて目を閉じた。
ジャケットから ほのかにいい香りがしてくる。

大好きな裕貴の匂い。


「真由、それじゃ歩けないだろう?」


「うん。」


呆れたような裕貴には構わず
真由は裕貴の肩に頬を押し付けたままでいる。


「真由?どうした、眠くなったのか?」


「え?」


「真由は子供だからな。もう寝る時間か?」


「違うー!そんな子供じゃないもん。」


「じゃあ行くぞ。」


裕貴が歩き出したので、真由も引っ張られるように動き出した。


腕を組んで歩く二人。
裕貴は真由に合わせるように少しゆっくり歩いている。
真由の顔には恥ずかしそうな笑みが浮かんでいる。

 

  ねえ、ヒロちゃん。・・わたし達って こうしてると何に見えるのかな。
  ・・・兄妹じゃなくて恋人同士に見えるよね、きっと。
  わたし達・・今夜はデートしてるのよね。

 

 

「・・阿川じゃないか。」


突然声を掛けられて、裕貴の足が止まる。
真由もその声の方へ顔を向ける。


「何だ、お前も来てたのか。」


「当たり前だろう? 俺はY2の企画・宣伝担当だぞ。」


男は笑いながらそう言うと裕貴を見て、真由の方へ視線を移した。


「これは、これは・・。
お前に脅されて用意したライヴチケットはこのためだったのか。」


まるで特ダネでも見つけたように顔を輝かせると、
男は真由に笑いかける。


「・・・にしては、今までの阿川の周りにはいないタイプだな。
どうした、趣味が変わったか?」


「誤解するな。こいつは妹だ。」


裕貴の言葉に 腕に回している真由の手が微かに緩む。

そして、さっきまでの陽だまりの中にいたような暖かさはなくなり
気分は暗く沈んでいく。


「妹? 嘘だろう?」


「お前に嘘ついてどうする。」


「何だ。そうだったのか。
・・どうも、AXレコードの北川です。
阿川に妹がいたなんて知らなくて・・失礼しました。」

北川は気まずそうに頭をかいた。


「いいえ。・・初めまして。妹の真由です。
・・兄が・・お世話になっています。」

真由は何とか笑うとお辞儀をした。 


「可愛いなー! 本当に阿川の妹なのか?
・・真由ちゃん、良かったらこの後、俺と付き合わない・・。」

「おい、こいつに手を出したらただじゃおかないからな。」


「わかってるって。ジョークだ、ジョーク。
・・ったく、怖い兄貴だな。
これじゃ彼氏もできないね、真由ちゃんは。」

北川はニヤニヤしながら裕貴と真由を交互に見る。


「ばかなこと言ってないでさっさと消えろ。
 今夜は仕事で来てるんだろう。」


「はいはい、邪魔者は退散しますよ。
 じゃあ、真由ちゃん ライヴ楽しんでください。
 ・・で、阿川は後で控え室に顔出してくれるのか?」


「いや、今日は完全なプライベートだから よろしく言っておいてくれ。」


「わかった。・・あいつら阿川が来てるって知ったら緊張するな。」


北川は手を軽く上げるとそこから去っていった。
 

「・・・ったく、軽い奴だな。」

裕貴の呟きに真由はぷっと吹き出す。


「・・何だ?」


「だって・・ヒロちゃんがそんなこと言うのも可笑しいなと思って。」


「・・・・」


「北川さんって面白い人ね。ヒロちゃんのお友達なんだね。」


「ただの仕事上の付き合いだ。」


「はいはい。」


「返事は一度でいい。」


「はい、わかりました! お兄ちゃん。」


「・・・・・」


「・・・・・」


真由のたったひと言で裕貴の足が止まる。
身体も動けなくなって胸の奥が重苦しくなる。


戸惑いと諦めの入り混じった裕貴の表情を見て 真由は悲しくなる。


  どうしてそんな顔をするの?
  “お兄ちゃん”って呼ばれるのが嫌なの?

  でも・・ヒロちゃんだって、わたしのことを“妹だ”って
  ・・あんなにはっきり紹介したじゃない・・

  “こいつは妹だ”って言ったじゃない。

 


真由の胸の中に涙が零れ落ちる。
でも、その涙は真由の頬を濡らすことはない。


裕貴の前では 明るくて元気な妹を演じてきた。

ずっと前から真由は 裕貴の前では泣き顔を見せまいと心に決めていた。

 

 

 


Y2のライヴは最高潮の時を迎えていた。

大歓声の中、ダンスナブルなナンバーが流れる。

会場はライヴの大音響と眩いばかりの照明で
アーティストのパフォーマンス以外 何も聞こえず何も見えない。


真由は隣の裕貴を見上げる。

音楽大好きの裕貴は楽しそうに目を輝かせている。
仕事抜きのライヴを最高に楽しんでいる。
その横顔は子供のように無防備で嬉しそうだ。


真由も楽しかった。
笑顔の裕貴の隣にいられて幸せだった。

真由は やっぱり裕貴が好きなんだということを実感する。


真由の視線を感じて裕貴が“何?”という顔をする。

優しく覗き込んでくる眼鏡の奥の黒い瞳。


“何でもないわ” ただ笑って首を振る真由。


そして、真由はまた前を向くと両手を口に当てて、
ステージに向かって叫んだ。

 

「わたしはヒロちゃんの妹なんかじゃない!!!
 ヒロちゃんのこと・・愛・・してる・・
 愛してるのーーー!!!」




その告白は 大歓声にかき消されて裕貴には聞こえない。

真由のすぐ隣にいるのに 裕貴には届かない。









つづく…









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