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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 6 HIT数 5573
日付 2009/04/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -6- 離れてゆく愛しい手
本文




-6- 離れてゆく愛しい手  

 

 

5月の晴れ渡る空の下、薔薇のブーケが弧を描くように飛んできた。

かん高い歓声を上げながら伸ばされた数々の手をすり抜けて

ブーケは予期せぬ相手の手の中にふわり・・と落ちた。

その途端、周りではまた歓声が起こる。


「きゃ~! 真由じゃない!」

「もしかして 次は真由の番なの?」

「ショックー! あたしが欲しかったのに。」

賑やかな友人達が騒ぐ中、真由はぼんやりと手の中のブーケを見た。

そして、それを投げてくれた相手を見上げた。

純白のウェディングドレスを着た 眩いばかりの美しい花嫁が

ニコニコしながら“まゆ~”と手を振っている。

幸せそうに寄り添う新郎と新婦。

真由も嬉しくなって手を振りながら微笑み返す。

 


「・・・・・」

その時、ブーケを持った真由の頬が赤くなった。

真由は想像していた。

ウェディングドレスを着た真由。

そして、その隣で優しく寄り添っているのは長身の彼。

その愛しくて大きな手が真由の背中を支えている。

その相手の顔は見えないけれど、真由は心の中で願っている。

考えただけで身体がふわふわと軽くなってくる。

もし、本当にそうなったら・・きっと真由は嬉しくて泣いてしまう。

有り得ない事だとわかっていても、24歳の真由は夢見ている。

叶わない夢だとわかっていても 真由は彼への思いを捨てられない。

 

 

ホテルのロビーは 結婚披露パーティーを終えた招待客で賑わっていた。

真由とその友人達は 二次会へ一緒に行こうと主役の花嫁を待っていた。

5人は同じ短大の幼児教育学科に通っていた同級生だった。

卒業して4年 今はそれぞれが幼稚園教諭や保育士の仕事をしている。


「でも、美咲が一番に結婚するなんて思わなかった。」

「そうよね。 男なんていらないって言ってたものね。」

「そうよ。あたしは、真由が最初に結婚すると思ってた。」

「え、わたし?」

「そう? でも真由だって男の子に興味なかったじゃない。」

「ばかね、この子には心に決めた人がいるのよ。」

「そうそう、詳しいことは教えてくれなかったけどね。」

「真由は昔からその人だけなのよね。」

「きゃ~、真由ったら!今日こそ白状してもらうわよ。」

「え、でも・・あの・・。」

「やだ、何赤くなってるのよ。」

 

久しぶりに会ったはずなのに、まるで学生時代に戻ったように

彼女達の会話は弾んでいる。

同じ目標を持って、勉強して、遊んで、

時には喧嘩もしながら一緒に過ごした毎日。

その二年間は決して忘れられない充実した日々だった。

 


「ねえ、見て。・・あの人、モデルの杏奈じゃない?」

「え?パリコレとか出てる・・あの?」

友人の言葉に真由は何気なくその方に顔を向けた。


“杏奈”と呼ばれるモデルのことは知っていた。

多くのファッション雑誌の表紙を華やかに飾る話題の女性だった。

数年前から活動を国外に移してからは、

あちこちのファッションショーに顔を出し

日本でも名前が知られたトップモデルだった。


その彼女がロビーをゆっくりと歩いていた。

華やかですらりとした容姿は 周囲の視線を一瞬で集めてしまう。

躊躇うこともなく颯爽と歩く彼女の邪魔をしないように 

自然と人々は通り道を開けている。


「さすがにすごい美人だわね。」

「見て、あの足の長さったら・・。」


杏奈はロビーのソファの所まで来ると立ち止まった。

そして、そこに座っている男に話しかけた。

ゆっくりと男が顔を上げる。

杏奈は嬉しそうに微笑むと彼の腕を取った。

彼女に引っ張られるように男はゆっくりと立ち上がる。

 

真由は思わず息を呑んだ。


杏奈はうっとりとした顔で 静かに男の背中に手を回して抱きしめた。

まるで、映画のシーンに出てくるような美しい男と女。

何の違和感も感じられないほど自然な抱擁だった。

 

真由の手から薔薇のブーケが落ちた。
 

「・・・ヒロちゃん・・・?」

真由は信じられないようにその二人を見ていた。

 

 

   * * * * * * 

 


「・・・うっとおしいから止めろって・・。」

半ば呆れたように杏奈の手を振り解き、裕貴は歩き出した。


「待ってよ、裕貴。」

杏奈は笑いながら後を追って来る。


「どうしても話したい事があるって言うから来てみれば・・。」
 
「だって裕貴ったら、あれから連絡してくれないから・・。

 パリに帰る前にもう一度会いたかったのよ。」


杏奈の言葉に裕貴は足を止めて振り向いた。

「もう俺達は終わったんじゃないのか?

 お前だってそう言ったじゃないか。・・今さら何を?」

「・・やっぱり、最後の所であなたは冷たくなるのね。

 そんなところも変わってないわ。」

「そうだ。だから俺にはもう何も期待するな。

 ・・・杏奈ならわかってるはず・・・・」

 

裕貴は驚いて前方を見つめた。


真由が呆然とした顔で立っていた。

 

「・・真由・・。」

 
裕貴はすぐに真由の傍まで来ると、落ちていたブーケを拾い上げた。

そして、真由の方に差し出した。

大きくて綺麗な手が薔薇の花を包み込んでいる。

真由は慌てて受け取ると 戸惑いながら裕貴を見上げた。


「どうした?こんな所で・・何かのパーティーか?」

いつもとは違い、ふわりとした淡いすみれ色のシフォンワンピースを

着た真由を 裕貴は眩しそうに見つめる。


「うん・・短大の時一緒だった友達の結婚式だったの。

 ・・・ヒロちゃんは?・・ヒロちゃんはどうしてここに?」

真由はそう言うと不安げに裕貴を見つめた。


「ああ・・俺は・・。」


「・・裕貴。」

一瞬、戸惑った裕貴の後ろから杏奈が声を掛けてきた。

「・・裕貴の知り合いなの?・・わたしにも紹介して欲しいわ。」

彼女は華やかな笑顔を浮かべると裕貴の腕に手を回した。

そして、探るように真由を見つめた。

鮮明で意志が強そうな杏奈の視線に 真由は少したじろいだ。


「あ、あの・・初めまして。・・妹・・の真由です。」

「・・妹さん?」

「・・・はい。」

「そうなの? 知らなかったわ・・裕貴にこんな妹さんがいたなんて。

 ふふ、とても可愛い妹さんね。」

「・・・・・」


裕貴は何か言いたげに少し口を開いたが、そのまま黙ってしまった。


「初めまして、真由さん。わたしは・・」

「知ってます。・・モデルの杏奈さんですよね?

 あの・・雑誌とかでよくお見かけしますので・・。」

「ええ、本名は結城杏奈です。よろしくね。」

「はい、こちらこそ・・。

 ・・でも、やだ ヒロちゃんってば何も言わないんだもの。

 まさか・・あの杏奈さんとお付き合いしてるなんて知らなかった!」

真由はそう言うとからかうように裕貴を見上げる。

裕貴は戸惑ったように真由を見つめ返す。


「・・あら、違うのよ・・・え?」


微笑みながら言いかけた杏奈の腕を いきなり掴んだのは裕貴だった。


「杏奈、部屋に行こう。・・何か話があるんだろう?」

「え?」

「じゃあな、真由。あまり遅くならないように帰れよ。」

「う、うん。」

裕貴は真由に背を向けると 

そのまま杏奈の肩を抱き寄せるようにして歩き出した。


「ちょっと、裕貴ったらどうしたの?」

怪訝な顔をした杏奈の問いに答えずに 

裕貴は黙ったままロビーを進んで行く。

そして、そのまま二人はエレベーターに乗り込んだ。

 

 

吸い込まれるようにエレベーターの中に消えていった裕貴と杏奈。

トップモデルの彼女と並んでも、引けを取らない裕貴。

すらりと美しい二人はため息が出そうなほど似合っていた。

 

「・・・ヒロちゃん・・・。」

二人の後ろ姿を見送っていた真由は呆然としていた。


「真由!今の彼は知り合いなの?」

「あの男の人は杏奈の恋人なの?」

「素敵な人ねー! 彼もモデル?」

「真由とどんな関係なの?」

大騒ぎをして真由を取り囲む友人達。

真由はぼんやりと前を見つめたまま静かに言った。


「・・そう、あの人は・・杏奈さんは ヒロちゃんの恋人なんだって・・・。」


その時、真由の脳裏に浮かんだものは・・

杏奈の華奢な肩を抱きしめていた 裕貴の大きな手だった。

ずっと前から真由が包まれたいと思っていた 愛しい人の大きな手だった。 

 

 

 

エレベーターは緩やかに上昇して行く。

客室に向かう四角い箱の中にいるのは一組の男女だけ。

裕貴は目を閉じて腕を組んだまま壁に寄り掛かっている。


「裕貴。」

隣にいる杏奈が呼んでも、裕貴は黙ったままだ。

杏奈は静かに告げる。


「・・・彼女が裕貴の大切な人・・・なのね?」


「・・・・・」


「でも、妹・・って言ってた。」


「・・・あいつは・・妹なんかじゃない。」


絞り出すように答える裕貴を見て、杏奈はくすっと笑った。


「・・何か複雑な事情がありそうね。
 
 それにしても・・初めて見たわ。裕貴のそんな顔・・。」


「・・・・・」


「わからないわ。・・だとしたら、どうしてこんな事を?

 彼女、わたしのことあなたの恋人だと思ってるわよ。」


「・・それでいいんだ。」


「え?」


「これで・・諦められる。」


「彼女が?・・それとも裕貴が?」


「・・俺に決まってるだろう。

 あいつは俺のことを兄貴としてしか見ていない。」


「そうかしら・・。」


「え・・・?」


「・・本当に・・裕貴って・・・。」


「杏奈?」


「・・何でもないわ。」


杏奈は静かに微笑むとうつむいた。


     本当に鈍感な人ね。・・・彼女だってあなたのこと・・

     裕貴を見つめる彼女のあの瞳を見れば すぐわかるのに

     ・・・でも、悔しいから 今は教えてあげない

     だから、もう少し悩んでね

     いいでしょう?そのくらいの仕返しは・・

     だって・・今でも裕貴のことが好きだから・・

     冷たくて傲慢で鈍感で・・そんなあなたが好きだったから・・

 


「・・裕貴。」


「うん?」


「今度こそ・・本当に・・さよならね。」


「ああ。」


「憎らしい人ね。最後ぐらい優しいことを言えないの?」


「・・・悪いが、今はそんな余裕がない。」


「・・・・・」


杏奈は驚いて裕貴を見上げた。


まるで大事な宝物を失くしたかのように沈み込んでいる横顔。

強がって自分でしたことなのに 後悔してため息をつく子供みたいな男。

今まで 杏奈には決して見せなかった隙だらけの・・阿川裕貴。


「・・・ずるいわ、裕貴。」

杏奈はそう呟くと、静かに笑った。

  ・・・そんな裕貴を見たら また忘れられなくなるじゃない・・?

 

 

杏奈は24階のフロアーに佇み

エレベーターの停止階のナンバーが点灯するのを見ていた。

裕貴を乗せたエレべーターはゆっくりと下降して行く。

杏奈は寂しげな微笑みを浮かべながら 反則だらけの男に別れを告げていた。

 

 

 


   * * * * * * * * * * * * 

 

 

 

「まゆせんせー!」

月曜日の幼稚園に元気な声が響く。


「勇太君、おはよう。」

真由は勇太に笑いかけると顔を上げて、後からついて来た相手を見た。

風間は真由を見て微笑んだ。


「おはようございます。」

「・・おはようございます、風間さん。・・今日はお早いんですね。」

「あのねー、コウおじちゃんが早くようちえんに行こうってうるさいんだ!

 ぼくはバナナを食べてたのに・・まゆせんせいに会いたかったんだよ、きっと!」

「勇太! 少しあっちで遊んでなさい。」

勇太はぶつぶつ言いながら中庭にある滑り台の方へ走っていった。

風間は困ったように頭をかいた。

 

「・・すみません、勇太の奴・・うるさくて。」

「いえ、勇太君はいつも元気でいい子ですよ。」

「それならいいんですが・・。」

「・・・勇太君を見てると・・わたしも・・元気になるし・・・・。」

「・・・真由さん?」

「・・・・・」


風間は 言葉につまって黙ってしまった真由を不思議そうに見た。


「真由さん・・?・・どうかしましたか?」

「・・いえ・・。」

「・・真由さん・・?」

「・・・・・」

「何かあったんですか?」


心配そうに顔を覗き込んでくる風間を見て、真由は動揺した。

 

「・・・風間さん・・わたし・・。」

「はい。」

「・・・わたし・・振られてしまいました。」

「え?」

「・・というか、彼には素敵な・・とっても素敵な恋人がいて・・

 やっぱり、わたしのことは妹としか思ってないということが

 はっきりわかりました。」

「・・真由さん。」

「・・ふふ・・。わたし、ばかですよね。

 彼の周りにはいつも女の人がいるけど、恋人はいないと

 思い込んでいたんです。

 だって、彼はいつでもわたしを助けてくれましたから。

 だから、自惚れていたんです。

 たとえ妹みたいでも、わたしが一番の存在なんだと・・

 心のどこかで思ってたんです・・。」


真由の大きな瞳に 涙の泉が揺れながら浮かんできた。

そして、それは見る見るうちに溢れ出して 真由の白い頬にこぼれ落ちた。

幾つもの透き通った涙の筋が真由の頬を濡らしていく。


「・・・真由さん・・。」


「本当に・・わたし・・ばかみたい・・。」

 

風間は静かに真由の腕を引き寄せる。

そして・・そっと包み込むようにその華奢な体を抱きしめた。

真由の頬の涙が風間の白いシャツを濡らしていく。

 

優しくて温かい腕の中で 真由は肩を震わせながら泣いていた・・・。





つづく…























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