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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 7 HIT数 5580
日付 2009/04/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -7- 会いたい
本文




-7- 会いたい

 

 

真由は声を押し殺して泣いていた。

その細い肩を震わせ、悲しみに打ちひしがれていた。

他の男を思って泣いている彼女なのに・・
なぜか、それがいじらしくて、愛しくて・・
思わず真由の手を引き寄せて、そっと抱きしめてしまった。


風間は 今にも崩れ落ちてしまいそうな真由を
抱きかかえたまま、まるで子供をあやすように
真由の背中を何度も撫でた。

そして、真由の髪に顔を埋めながら 
何度も何度も“泣かないで”と囁いた。

そうしてるうちに、真由はやっと自分が
抱きしめられていることに気がつき
慌てて風間の胸を押すと彼から離れた。


「・・・ご、ごめんなさい、わたしったら・・。」


真由は風間から一歩下がると、動揺したままうつむいた。
そして、頬の涙を指で拭うとゆっくりと顔を上げた。

透き通った涙の膜が大きな黒い瞳を揺らしている。


「・・また・・あなたの前で泣いてしまって・・。」

「・・いえ、それは・・・・っ・・???」


その時、突然 風間の体がぐらっと動いた。

見ると、勇太が物凄い勢いで彼の体を押して
腰にしがみついていた。


「ゆっ、勇太・・???」

「コウおじちゃんのばかーー!!!」

「勇太?」

「まゆせんせいを泣かせるなー!」

勇太は真っ赤な顔をして必死で叫んでいる。


「勇太君 違うのよ。
 ・・コウおじちゃんは真由先生のことを慰めてくれてるの。」

真由は慌てて勇太の肩に手を置いた。


「・・・コウおじちゃん・・・。」

風間は引きつったように笑いながら言った。


「あ、すみません。」

真由は気がついて口を押さえる。


「いえ、確かに僕は勇太の叔父ですから。」

「まあ・・。」

少し拗ねたような風間を見て、真由は思わず笑い出した。

風間は照れたように頭をかいている。


「コウおじちゃん?・・まゆせんせー?」

勇太がきょとんとして二人を見上げている。
それに気づいた風間は屈んで雄太と向き合った。


「なあ、勇太。」

「なんだよ。」

「もう真由先生を泣かせたりしないから、
 先生と話をしてもいいかな?」

「え。」

「一応、ライバルの勇太にも聞いておかないとな。」

「・・・ちがうよ、コウおじちゃん。
 そーゆーことはまゆせんせいにきくんだよ。」

勇太の言葉に風間はにっこりと笑った。

「そうだな。最初に 真由先生に聞いてみないといけないな。」


風間はそう言うと立ち上がって真由を見つめた。

真由は戸惑ったように風間を見上げていた。

 

 


   * * * * * * 

 

 

スタジオにピアノの音が響いている。

その周りの床の上には数枚の楽譜が散らばっている。

鍵盤の上をしなやかに大きな手が滑るように移動してゆく。

優雅で繊細な指から透明感のある音がこぼれ落ちてくる。


ふとその長い指の動きが止まる。

彼は 譜面台に並んだ楽譜の一枚をつかみ
ペンを走らせてあっという間に音符を並べてゆく。


人の気配を感じて顔を上げると
いつの間に来たのか そこには北川が立っていた。

「・・・本当に阿川か?」

北川はからかうように言った。

「・・・・・・」

「阿川が真面目に曲を作ってる姿を初めて見たぞ。
 その方法は意外とアナログなんだな。
 さすが音大出身の・・正統派ってとこかな。」

「何だ、邪魔しに来たのなら帰れ。」

「・・・違う、違う。今日は良い知らせを持ってきたんだ。
 阿川、NYから正式にオファーが来た。」

「え・・?」

「あっちの制作会社の奴と共同作業になるようだが、
 ま、何しろ初めてだからな。こんなもんだろう?」

「・・・そうだな。」

「今回のが認められれば、次回もありって事になるから
 しばらくあっちに行って経験を積んでくれ。」

「それで・・NYにはいつ発てばいい?」

「来月にクランクインするから、8月頃には現地に合流するかな。
 ・・・撮影期間は一年だと。公開まで3年はかかるらしい。
 さすがハリウッドだな。規模が違う。」

「・・・8月か。」

「何だ、気が進まないって顔をしてるな。」

「・・いや。」

「何か日本を離れたくない理由でも?」 

「・・・・」

「・・もしかして女か?」

「そんなんじゃない。」

「いつだったか、AXのスタジオで杏奈とハデにやらかしたそうじゃないか。
 Keiが嘆いてたぞ。あれがなければ阿川裕貴は最高なのにってな。
 ・・・結局、杏奈とヨリを戻したのか。」

「いや、あいつはまたパリに戻った。」

「ふうん、じゃあ 阿川を引き止める女っていうのは彼女じゃないのか。」

「だから、そんなんじゃない。」

「そうか?」

「・・ただ・・まだやり残してる事があるような気がして。」

「え?」

「何だかすっきりしない。・・すっきりしないんだ・・・。」


裕貴はそう言うとため息をついた。

そして、またピアノに向かい弾き始めた。

まるで、迷いを振り払うように裕貴の長い指から軽快な音が溢れ出す。

北川はそのメロディーを聴いて目を見張った。

さっき聴いた曲とは違うものだった。


「・・・“Beauty and the Beast 美女と野獣”?
 阿川がディズニー???
 しかも・・ジャズヴァージョン?・・マジかよ。」
 
 

 


   * * * * * * 

 

 

  ―― パティスリー・マリアージュ ――

 

「・・ふっふっ・・浩介さあん。」

「・・何ですか、義姉さん。変な笑い方して。」

風間浩介は兄嫁の愛子を困ったように見た。
愛子は幼稚園に通う勇太の母親だ。


「だって、最近 毎日のようにいらしてるみたいじゃない?」

愛子はそう言うと探るように風間の顔を覗き込んだ。


「え?」

「隠してもだめよ。お店の子達に聞いたんだから。
 ・・真由先生よ。最近、幼稚園の帰りにお店に
 寄ってお茶を飲んでいくって。
 そして、そんな真由先生を浩介さんはいそいそと
 お迎えしてるって・・」

「あ・・。」

「良かったわね~、浩介さん。
 あなた真由先生にひと目惚れだったものね。
 でも、シャイだからなかなか言い出せなくて。
 わたしが何とかしてあげようと思ってたけど余計なお世話だったわね。」

「ね、義姉さん。」

「いいのよ、いいのよ。
 でもね、真由先生はすごく人気があるから、
 しっかり掴まえておかなきゃだめよ。」

「・・真由先生と僕はそんなんじゃないんですよ。」

「あら、隠すことないのに。」

「本当です。・・僕は傷心の彼女を慰めてるだけなんです。」

「え?」

「いや、それよりも彼女の弱みに付け込んで
 慰めてる振りをしてるだけなのかな。」

風間の表情が曇る。

彼は気がついていた。

真由を優しい言葉で慰めてる一方で
実は、心のどこかで彼女に男のことは忘れて欲しいと
願っている自分がいることを・・。

 

「・・・浩介さんったら・・。
 あなた・・本当に正直なのね。」

「え?」

「・・あなたは真面目過ぎるのね。
 でも、そこが浩介さんの良い所よね。
 誠実で、自分よりも相手の事ばかり考えて。」

「義姉さん。」

「いいこと? 真由先生だって、相手があなただから心を許してるのよ。
 だから、毎日あなたの所へ来るんじゃない。
 何とも思ってない人に会いに来たりしないわよ。」

「・・・・・」

「だから、これからも大らかに受け止めてあげて・・
 そして時が来たら押して押して押しまくるのよ!
 女は強引な男に弱いものよ。・・わかった?
 ・・・あ、噂をすれば・・
 真由先生ーー!こんばんはー!」


愛子は 店のドアを開けて入って来た真由を見つけて駆け寄って行った。

 

「・・あ、勇太君のお母さん こんばんは。」

真由は賑やかに声を掛けてきた愛子を見て頭を下げた。

そして、愛子の後ろから困ったように笑っている風間が
姿を表わすと真由も少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「・・・風間さん、こんばんは。」

「こんばんは。」

「あの・・また来てしまいました。」

「いらっしゃい。今日もケーキを召し上がりますよね?」

「はい。」

「店に置いてあるケーキを全種類制覇・・するんですよね?」

風間は面白そうに真由を見つめる。
真由は笑いながら頷く。

「はい。」

「今日で8個目。今は、20種置いてあるから・・。」

「あと12種類ですね。」

「いいえ。」

「え?」

「これから新作を作りますから、当分 終わらないと思います。」

「え?」

「あなたがこれからもずっと来てくれるように、
 頑張って新作のケーキを作り続けます。」

「・・・風間さん・・・。」

「真由さんは全種類食べ尽くすまで、
 毎日ここに来なくちゃいけませんよ。」


真由は驚いたように風間を見上げた。

風間はガッツポーズをすると明るく笑った。

真由もつられて楽しそうにくすくすと笑い出した。

 

そんな二人を ずっと傍で見ていた愛子は満足そうに何度も頷いた。

そして、“かっこいいわよ、浩介さん!”と小さく呟いて拍手を送った。

 

 

   * * * * * * 

 


自宅に帰った真由は 二階の自分の部屋に入ると窓を開けた。

外から涼しい風が入り込んでくる。

初夏の清々しい緑の匂いを思いっきり胸に吸い込む。

 

 

  ―― ケーキを食べに来ませんか ――


風間の胸の中で泣いてしまったあの日、彼は言った。


  ケーキを食べると誰もが元気になる・・
  そう思ったから僕は 将来、パティシエになろうと決心したんです
  僕のケーキを食べた人が笑顔になるのを見たくて・・
  

  真由さんの元気な笑顔が見たい
  子供達に向ける あの明るい笑顔をもう一度見たいんです

 

その日から、真由は毎日のようにマリアージュを訪れた。

風間は押し付けることなく、ごく自然に接してくれた。

幼稚園の庭にある紫陽花の花が少しだけ色づき始めたとか
その日、園ではこんな事があったとか
もうすぐ公開されるカンフー映画は面白そうだとか

そんな他愛もない話をしながら紅茶を飲んで、ケーキを食べた。

綺麗なケーキをフォークですくって口に入れると 
甘い香りが体中に広がって真由を優しく包んでくれた。

 

  紫陽花か・・ケーキに出来ないかな
  ブルーベリーソース・・とか使えるかな

  カンフー映画?痛快アクションコメディー? いいですね
  それなら思いっきり笑えるかも

  今度、一緒に観に行きませんか?
  

  風間の優しい笑顔に思わず真由は はい、と頷いていた・・・。 

 

 


部屋にあるアップライトピアノ。

真由は静かに鍵盤蓋を開けると白い鍵盤に指を置いた。

ポロン・・と遠慮がちに音が鳴る。


♪♪♪♪♪~~~~


ぎこちない“美女と野獣”の旋律が流れる。


あの日から鳴らなくなった携帯電話のその着信メロディー

ホテルのロビーで 杏奈と一緒にいた裕貴と会った日から
電話とメールが途絶えてしまった。


もう裕貴には電話をしてはいけないような気がして
真由からも掛けることがなくなっていた。


ふと、バッグから携帯電話を取り出す真由。

そして1のキーを押す。・・・が、すぐに止めてしまう。

真由はベッドに寝転んで目を閉じる。


  ・・・瞼の奥には裕貴がいる。

 


   ・・思うことはただひとつ・・・

 


     ヒロちゃんに会いたい

     ヒロちゃんの声が聞きたい

 


その時、開け放した窓から風がびゅうっと吹き込んできて
カーテンをふわりと舞い上げる。

突然の強い風に真由の願いが跡形もなく消えてしまった。

 

諦めた真由は窓を閉めようと 
ゆっくりとベッドから起き上がり窓際に立った。

そして、何気なく外を見下ろした真由は思わず自分の目を疑った。


街灯に照らされた後姿。

ベージュのジャケットと無造作に束ねられた長い髪。

ほのかな明かりだけでも、顔が見えなくても 
それが誰なのか、真由にはすぐわかった。

 

「・・・ヒロちゃん!」


真由の抑えた叫び声に彼はゆっくりと振り向いた。

そして、迷うことなく真由の部屋の窓を見上げる。

   


裕貴と真由


たった今 会いたいと思っていた人が・・・そこにいた・・・。







つづく…









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