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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 8 HIT数 5281
日付 2009/04/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -8- 素直になれなくて     
本文




-8-  素直になれなくて     

 


真由は 夢中で階段を駆け下りて外に飛び出した。

自宅の門の前に静かに佇む裕貴がいた。


「ヒロちゃん!」

「真由。」

「どうしたの? 何でここにいるの?
 どうして・・家に入らないの?
 何かあった? どうかしたの?」


興奮して矢継ぎ早に聞いてくる真由を見て、裕貴は思わず笑った。


「何もないよ。
 ただ 最近、真由と会ってないからどうしてるかと思って来てみたんだ。
 でも、もう時間が遅いと気づいたから やっぱり帰ろうと・・。」

「だめよ!このまま帰るなんて!
 ね、家に入って。ここはヒロちゃんの家なんだから
 ・・時間なんて関係ないわ。」


真由は必死で叫ぶと裕貴の腕を取った。

「ヒロちゃん、もうごはんは食べたの?
 まだだったら何か作ってあげる。」

「もう食べたよ。」

「じゃあ、お茶・・あ、ビール!
 ビール飲んでって。
 ね、ヒロちゃん、中に入って!」

「わかった、わかった。 だからそんなに引っ張るな。」

真由のあまりの必死さに 裕貴は負けてしまう。

そして、彼はしょうがないなと呆れたように笑った。

 

   * * * * * *

 

湯飲み茶碗にお湯を注ぎ、手で持てるぐらいまで冷ますと
茶葉をたっぷり入れた急須にそのお湯を入れる。
そして少し待った後、急須をゆっくり回して
何度かに分けて湯飲みにお茶を注ぐ。

真由のそんな仕草をじっと見ていた裕貴は 
感心したように笑みを浮かべた。


「はい、どうぞ。」

真由が裕貴の前に入れたてのお茶を置いた。


「・・いただきます。」

裕貴はいつになく真面目に応えると、
湯のみを手に取ってお茶を一口飲んだ。

新茶の爽やかな香りと甘みがふわりと体中を包み込む。


「うん、美味い。」

裕貴は満足そうに言うと真由に笑いかけた。


「良かった。」

真由は安心したように微笑む。
新茶の入れ方は 以前、かおりに教わったものだった。

そして、真由の視線は 湯飲み茶碗を持つ裕貴の手に向けられる。

その長い指は何度見ても綺麗だと思う。


昔、裕貴がまだこの家にいた頃はピアノを
弾く裕貴の手が好きだった。

いつも真由は、鍵盤の上を滑るように移動する
長い指をずっと眺めていた。


「真由?」

裕貴はずっと黙っている真由を不思議そうに見た。


「ヒロちゃん しぶーい!」

「え?」

「これで和服でも着たら茶道のお師匠さんみたいよね。」

「師匠?」

「あ、違う。家元・・師範だったっけ。」

「師範は武道だろう? 空手とか柔道とか。」

「じゃあ家元だね。 でも、ヒロちゃんはまだ若いから
 家元の息子で 遊んでばかりいる若旦那ってところかしら。」

「何言ってるんだ。」

呆れ返った裕貴を見て真由はくすくす笑う。


こうして何の他愛もない話をしてると以前と
変わらないような気がする。

このまま元気な妹でいれば、ずっと一緒にいられるのかもしれない。


「・・・ヒロちゃん。」

「うん?」

「杏奈さん・・って素敵な人ね。」

「何だ、いきなり。」

「杏奈さんってずっとパリに住んでたのね。
 ・・・ヒロちゃんとは遠距離恋愛してたんだ。」

「・・・・・」

「ヒロちゃんってば、いつも違う女の人と遊んでたから
 恋人なんていないと思ってた。
 でも、違ってた。・・本当は杏奈さんっていう人がいたのね。」

「・・・・」

「・・・ヒロちゃん・・。」

 

否定しない裕貴を見て、真由は思わず言葉に詰まってしまった。

胸の奥に痛みが走って、苦しくて苦しくて息が止まりそうになった。

真由は深く息を吸い込むと何とか続け始めた。

 

「じゃあ、もう杏奈さんも帰ってきたし
 これからはヒロちゃんも落ち着くね。
 だめよ、もうフラフラしたら。
 杏奈さんに嫌われちゃう。」

「・・真由・・俺は・・・」

「あ、だから・・ヒロちゃんはもうわたしに構わなくていいよ。
 今までみたいに突然、電話で呼び出したりしないから。」

「真由。」

「杏奈さんに悪いものね。・・・それに・・
 それに・・もう・・ヒロちゃんがいなくても大丈夫。
 ・・わたしにも助けてくれる人がいるから。」

「え?」

「今ね・・お付き合いしようと思ってる人がいるの。
 優しくて、誠実で・・とても温かい人なの。」

「真由・・・。」

「だから、大丈夫。
 ヒロちゃんと違ってとても真面目な人なのよ。」

「そうか。」

「うん。」

「真由のこと・・真剣に考えてる男なんだな。」

「うん。」

「・・・そうか・・・。」


二人は黙り込んでしまった。

話したいのはこんな事ではないのに・・
胸が何かで塞がれたように苦しくて言葉が見つからない。

もっと言いたいことがたくさんあるのに、
もう何も言えない。

 

「何、二人でしんみりしてるの。」

そこへ母親のかおりが入って来た。


「ママ。」

「真由、あたしにもお茶ちょうだい。」

「・・はい。」

「どうしたの、二人とも。暗いわよ!」

「かおりは何の悩みも無さそうでいいな。」

「何言ってるの。あたしは悩みを表面に出さないだけよ。
 じっと耐え忍んでるのよ。」

「・・・・・」

「何、その冷たい視線は。」

「何でもない。」
 
「二人ともそれぞれいい人と付き合ってるって?」

「聞いてたのか。」

「違うわ、聞こえたの。」

かおりがあっさりと言ったので、裕貴は苦笑いをする。


「しかし、お子ちゃまの真由と付き合いたいなんて
 変わった趣味の男もいたんだな。」

裕貴はやたら明るい声で笑い飛ばした。


「ふーんだ、とっても趣味がいい人なのよ。
 変人なのはヒロちゃんの方よ!」

真由は頬を膨らましながら悔しそうに言う。

 

そんな二人を見ていたかおりは呆れたように呟く。

「そう、そんな展開になってたの。
 それにしては裕貴も真由も冴えない顔してるわね。」

かおりはぶつぶつ言いながら何度も首を振った。

そして、このバカ息子!と心の中で叫んでいた。

 

 



   * * * * * *

 




カンフー映画を見て、イタリアンレストランで食事した後
風間と真由はコーヒーを飲んでいた。


「なかなか面白い映画でしたね。」

「ええ。すごく楽しかったです。
 あんな風に声を出して笑ったのは久しぶりかも。」

「僕は 真由さんがアクションシーンを見て
 あんなに興奮するとは思わなかったな。
 見かけと違って、意外と活発なんですね。」

「イメージ壊れました?」

「いえ、新しい魅力を発見したようで嬉しいです。」

「風間さんはわたしのことを買い被ってます。
 きっと、これから先 幻滅することが多いわ。」

「そうなんですか?」

「そうです。」

真面目な顔をして頷く真由を見て、風間は笑い出した。


「何かわたし変なことを言いましたか?」

「いえ、違います。
 ただ、嬉しかったので思わず・・。」

「嬉しい?」

「真由さんは今 これから先・・って言ったでしょう?
 それって、これからも僕とこうして付き合って
  くれるっていう事なのかなと思って。」

「あ・・。」

「そういう事なんですよね?」


それまで、穏やかな笑みを浮かべていた風間が
真顔になり真剣な目で真由をまっすぐに見つめた。


真由は少し戸惑ったように風間を見つめ返すと、
こくんと小さく頷いた。


「本当に?」

風間は驚いたように声を上げた。


「・・はい。」

真由は恥ずかしそうに頬を染めながら答えた。


「ありがとう、真由さん。嬉しいです。」

「いえ、こちらこそ感謝してます。
 あなたのおかげで・・わたし・・元気になれたから。
 ありがとう、風間さん。」


二人は顔を見合わせて笑った。


そして、真由は 風間の熱い視線があまりにも眩しかったので
少しだけ目を伏せて、また静かに微笑んだ。

 

 

 


真由を自宅まで送って来た風間は 車から降りて門の前に立った。

 

「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました。」

「また誘ってもいいですか?」

「はい。」

「困ったな。」

「え?」

「家に帰ったら すぐに誘いの電話をしてしまいそうだ。」

「まあ。」

「冗談です。
 毎晩遅くまであなたを連れ出したりしたら、
  お家の方に叱られそうだ。」

「そんなこと。
 あ、そうだわ。 お茶、お茶でもいかがですか。
 母はまだ仕事してると思いますので 紹介します。」

「え?」

「こんな時はそう言って誘うものなんでしょう?」

以前の事を思い出して、それをまた忠実に
再現してる真由の言葉に風間はまた笑い出した。


「面白い・・真由さんって本当に不思議な人ですね。」

「はい?・・わたし、また何かおかしい事言いました?」


慌てる真由を見て風間は微笑んだ。

「違いますよ。とても素直な人だと褒めてるんです。
 ただ、せっかくの誘いですが、今夜はもう遅いので
 後日、改めて挨拶に伺います。」

「風間さん?」

「だから今夜はこのまま帰ります。」

「わかりました。気をつけて帰ってくださいね。」

「ええ。 ・・じゃあ、真由さんは中に入って。」

「いえ、先に風間さんを見送ります。」

「今夜は僕が見届けますから、どうぞ入って。」

「でも・・・。
 ・・・わかりました。 じゃあ・・お休みなさい。」


真由がそう言って背を向けようとした時だった。


「真由さん。」

呼び止めた風間の声に真由が顔を向けた。


一瞬の出来事だった。


風間は 真由の腕を引き寄せ、そのまま抱きすくめた。


え? ・・突然の出来事に真由は混乱した。


驚いて顔を上げた真由に風間の顔がゆっくりと近づいてくる


・・風間さ・・ん?

彼のやわらかな唇が静かに真由の声と重なり合う。


不意を突かれて、真由は何が起きているのかわからなかった。


だが、風間に抱きしめられながら その優しいキスを受け止めると 
真由は震えながらもゆっくりと目を閉じていた・・・。
 

 

 

   * * * * * *

 

 

真由はベッドから起き上がると窓際に立って、
そっとカーテンを開けた。

家の前の街灯を見下ろしてみる。

数日前にはそこに裕貴が立っていた。

真由は サイドテーブルに置いてあった携帯電話に
手を伸ばすとそのキーを静かに押した。

あの着信音のメロディーが裕貴の傍で流れているのかと
思うだけでなぜか胸が熱くなる。

そして・・何度かのコールの後、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 


『・・真由? どうした?』


「ヒロちゃん・・もう寝てた?」


『いや、起きてたよ。 それより何かあったか?』


「ううん。 ごめんね、こんな夜中に電話して。
 ヒロちゃん・・今・・一人?」


『ああ。 ばかだな、真由は。変に気を回すな。』


「だって・・。」


『俺は 今までと同じように真由からの電話はちゃんと出るから
 遠慮なんかするな。いつでも電話してこいよ。』


「・・うん。」


『それで?何かあったのか?』


「ううん、何もない。・・・ただね、何だか眠れなくて。
 そしたら・・ヒロちゃんの声が聞きたくなって。」


『変な奴だな、俺の声なんか聞いてどうするんだ。』


「うん。ヒロちゃんの声を聞くと安心して眠れそうな気がしたの。」


『俺の声は子守唄か。』


「うん。・・だから、何か歌って、ヒロちゃん。」


『嫌だ。』


「え、どうしてー? ヒロちゃん、音楽プロデューサーでしょう?」


『だからって歌えるとは限らない。』


「ぷっ・・。」


『今、笑ったな?』


「笑ってないよ。・・・でもそうなんだ。
 そういえば、ヒロちゃんが歌ってるところ見たことないわ。
 苦手なことがあるのね、ヒロちゃんも。」


『当然だ。いい曲作ってヴォーカルまで完璧に
  こなしたら、俺は自分で自分が怖くなる。
 だから、このくらいで丁度いいんだ。』


「あ、開き直ったのね。相変わらず“オレ様ヒロちゃん”なんだー!」


『くだらない事言ってないでさっさと寝ろ。
  明日、起きられないぞ。』


「うん、ヒロちゃんと話してたら眠くなってきた。 もう、寝るね。」


『ああ、寝冷えしないようにな。』


「だから、子供じゃないってば!」


電話の向こうで裕貴が笑っている。

 

「じゃあ、お休みなさい。」


『お休み。』


   ・・・・・・・・

 

切れた後の携帯電話に向かって、真由は話し続ける。

 

“あのね、ヒロちゃん

 わたし今日 風間さんとキスしちゃった

 とっても優しくて胸が震えるようなキスだった

 でも、わたし 何だか泣きそうになったの

 どうしてなのかな  

 教えてよ ヒロちゃん”

 

   ・・・・・・・・・

 

もう裕貴は答えてくれない。

真由は諦めたようにため息をつくと立ち上がった。

そして、また 窓際に立って夜空を見上げた。

ぱちんと切った爪のような三日月が ぼんやりと真由を見下ろしていた・・・。

 






つづく…






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