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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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シュシュ
兄妹のように一緒に過ごしてきた裕貴と真由。                                             おたがいに思い合っているのに素直になれなくて…
No 9 HIT数 5464
日付 2009/04/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル シュシュ -9- 嫉妬 
本文




  -9-  嫉妬

 

 

「お兄ちゃん。」

「そんな風に呼ぶな! 俺はお前の兄貴なんかじゃない!」

「でも・・。」

「ずっと前から、お前のことが好きだった。
 お前のことを忘れようとして他の女とも付き合った。
 でも、やっぱりだめだったんだ。」

「わたしも・・わたしも・・ずっと好きだった。
 諦めなくちゃいけないのに、どうしても忘れられなかったの。」


涙で頬を濡らした二人はしっかりと抱き合った。

 

 

   ・・・・・・・・・・

 


「・・・何ですか、これは?」

神戸のホテルの一室で 出版社の編集担当の秋山は
怪訝な顔をしてその原稿用紙を見た。

「・・プロットの一部ですか? もしかして、先生の新作?
 え・・阿川先生が恋愛小説を書くとか?」


「そんなわけないでしょう。
 あたしが勝手に書いたメモみたいなものよ。
 そんな感じで展開していくと期待してたのかもね。」


「はあ。」


「ま、現実はそんな甘くないって事よね。」

かおりはそう言うとため息をついた。

そして、数日前に真由が自宅に連れて来た風間浩介のことを思い出した。

はにかみながら彼を紹介した真由の嬉しそうな顔が浮かぶ。

人を見る目はあると自負しているかおりから見ても、
風間は誠実で礼儀正しい好青年だった。


「・・・それに、なかなかいい男なのよねー。」

かおりはぼんやりと呟いた。


何のことかわからない秋山は首を傾げた。

 

「ところで、先生。」

「ん?」

「先生は恋愛小説には向いてませんね。
 ・・これ・・今時、こんなクサいセリフはウケませんよ。」

「・・おたくの出版社との付き合いもこれまでだわね。」

「わー! じょ、冗談ですー!
 さあ、先生 そろそろ出かける準備をしてください。
 飛行機に乗り遅れますよ。」

「そうね。色気の無い殺伐としたミステリーしか書けない阿川かおりは
 遊びじゃなく取材で飛び回って しこしこ書くしかないのよね。」

「機嫌直してくださいよ。
 それに、これから行くのは先生が前から行きたがっていた韓国ですよ。
 神戸とソウルで起きた連続殺人事件・・そこには意外な共通点があった・・。
 いいですねー。次回作、期待してますよ。」

「ソウルのホテルはウォーカーヒルね。」

「もちろん予約済みです。」


慌てる秋山を見て、かおりは満足そうに笑った。

その時に、かおりの携帯電話が鳴った。


「はい。そうです。・・ああ、幼稚園の・・え?・・真由が?
 それで怪我の具合は・・?
 ・・・そうですか。わかりました。
 申し訳ありませんが、今、出先なもので
 代わりにうちの息子を行かせますね。
 ・・はい、よろしくお願いします。失礼します。」


かおりは表情を曇らせたまま電話を切った。

秋山は心配そうにかおりの様子を伺っていた。

 

 

   * * * * * *

 


「大丈夫ですか?」

風間が心配そうに真由の顔を覗き込んだ。


病院の処置室でベッドに横たわっている真由は 何度か頷くと微かに笑った。

「大丈夫です。・・すみません、風間さんにまでご迷惑をかけてしまって・・。」

真由はそう言ってベッドから起き上がろうとするが
傍にいた風間が慌てて止めた。


「もう少し横になってた方がいいですよ。」


「・・風間さん。」


「勇太が滑り台から落ちて・・それをあなたが受け止めて・・
 病院に運ばれたと・・それを聞いた時は目の前が真っ暗になりました。」


「ごめんなさい、驚かせてしまって。
 あの・・勇太君は大丈夫ですか?怪我はしてませんか?」


「大丈夫です。何ともありません。
 家であなたのことを心配してると義姉が言ってました。」


「・・そうですか・・」

真由は少し安心して微笑んだ。


「今、園長先生が幼稚園に電話しに行ってますから
 戻って来たら帰りましょう。お宅まで送って行きます。」


「・・・風間さん・・。」


「・・大怪我じゃなくて良かった・・。」

そう言って風間が 真由の頬を撫でようと手を伸ばした時だった。

 


「真由!」

驚くほど慌てた様子の裕貴が中に駆け込んできた。


「ヒロちゃん!」

真由は思わず起き上がってしまった。


「真由!・・大丈夫か!・・怪我・・って
 どこを怪我したんだ!どうして・・こんなことに・・。」

青ざめた顔の裕貴は、今までに見たことがないほど動揺していた。

裕貴は屈んで真由の顔を覗き込んだ。


「大丈夫よ、ヒロちゃん。
 大したことないの。足を・・右足を捻挫しただけなの。
 湿布してもらったから、もう大丈夫よ。
 後は、安静にしてればいいんだって。」

真由はそう言うと安心させるように明るく笑った。


「・・本当に?・・本当に大丈夫なのか?」

 
「うん。でも、どうしてヒロちゃんがここに?」


「かおりから代わりに行ってくれって、連絡があったんだ。」


「え・・・。」

真由は大きな瞳を揺らせて裕貴を見た。

怪我は大したことがないとわかった裕貴は やっと安心したように息を吐いた。

ふっと力が抜けた裕貴は 思わず真由の乱れた髪をそっと撫でてしまった。

真由はどきんとして慌ててうつむいた。

また迷惑をかけてしまった。

だが、その一方で真由は 以前と同じように
すぐ裕貴が駆けつけてくれたことが嬉しかった。

 

「・・あの・・。」


それまで二人の様子を黙って見ていた風間が声をかけた。

「申し訳ありません。真由先生はうちの勇太をかばって怪我をしたんです。
 すみませんでした。」

頭を下げる風間を見て、慌てて真由が言った。

 
「風間さん、それは違います!勇太君のせいじゃないんです!」


「真由?」


「雨上がりで遊具は滑りやすくなってるから
 園児が近づかないように見てなきゃいけないのに
 つい目を離してしまって。・・だからわたしがいけないの。」

 
「真由、わかったからそんなに興奮するな。」

裕貴は真由を落ち着かせようと、彼女の肩に手を置いた。

「・・・ところで、あなたは・・・?」

裕貴は 神妙な様子でそこに立っている男を訝しげに見た。

真由がこの男に気を使っているのは確かだった。

そのことが裕貴の胸の中をざわつかせる。

もしかして、真由が付き合ってるのは この男なのか?


「申し遅れました。
 僕は 風間といいます。
 甥の勇太が真由先生にお世話になってます。」


「そうでしたか。」


「・・あなたは・・真由先生のお兄さんですか?」


「え?」


「真由先生のお母さんの代わりに息子さんが迎えに来ると
 園長先生にお聞きしてましたので・・。」

 
「そうです。俺は・・阿川かおりの息子です。
 でも、真由の兄ではありません。」


「え?」


風間が驚いて裕貴を見た。

同じように真由も はっとして顔を上げた。 


思わず裕貴の口から出た言葉。


なぜ、こんなことを言ってしまったのか・・・

一番、驚いていたのは 真由でも風間でもない、裕貴自身だった。

今まで感じたことのない思いが心の奥底から込み上げてきて
それが裕貴を どうしようもないほど苛立たせていた・・。

 

 

   * * * * * *

 


「やだ、ヒロちゃんったら!・・そんなこと言って。
 また驚かそうとしてるのね?
 ・・風間さん、違いますよ。
 ヒロちゃんはわたしの兄です。
 いつも、こんな冗談を言って周りを驚かせてるの。」


気まずい雰囲気を打ち砕くように、真由が明るく言った。

裕貴ははっとして真由を見た。


「・・もしかして、ヒロちゃん 妬いてるの?
 可愛い妹に彼氏ができてショックだったりして・・
 お兄ちゃんってそういうものなのかな。」

真由の明るい笑顔が眩しくて、裕貴は思わず目をそらす。


「あのね、この前 話したでしょう?
 今、お付き合いしてる人がいるって・・。
 その人が・・風間さんなの。」


「・・真由・・。」


「だからね、もうわたしに構わなくていいよ。
 今日も・・風間さん、心配して駆けつけてくれたの。
 家にも送ってもらうから・・ヒロちゃんは仕事に戻って。」
 

「・・・・・」


「もう大丈夫だから・・。
 ・・・ヒロちゃんも・・あの人のこと・・大切にしてあげて・・。」


真由の大きな瞳が揺れる。

胸の奥が少しだけ痛む。

それを打ち消すように 真由はまた溢れるような笑顔を裕貴に向けた。

 

 


   * * * * * *

 

 

風間に支えられながら自宅に戻った真由は 居間のソファに腰を下ろした。
その隣に風間は座る。
どうしても聞きたいことがあった。


「・・あの人が真由さんの好きな人なんですね。」


「え?」


「・・阿川裕貴さんは、真由さんのお兄さんじゃないんでしょう?」


「風間さん。」


「以前からおかしいと思っていたんです。
 真由さんのお母さんは“阿川かおり”なのに、どうしてあなたは“竹内”なのかって。
 そして・・あの人も“阿川”だと知って・・少しわかったような気がします。」


「・・・わたしは・・幼い時に両親を事故で亡くしました。
 そして、両親の友人だった阿川の父と母に引き取られたんです。
 ・・・ヒロちゃんはその二人の息子さんです。」


「そうだったんですか。」


「小さい頃からずっと一緒でした。
 わたしは・・いつも彼の後を追いかけて・・気がついたら
 彼のことばかり見つめていました。」


「・・・・・」


「でも、彼はわたしのことを妹としか見てくれなくて
 素敵な恋人もいるし・・だからもう追いかけるのはやめたんです。」


「・・でも、彼はあなたのこと・・。」


「え?」


「・・本当に、あなたのことを妹としか見てないんでしょうか。」


「風間さん?」


風間は黙り込んでしまった。

あの時、病院で見た 阿川裕貴の目が忘れられなかった。

真由を見つめる 彼の真剣な眼差しが頭から離れなかった。

“もう大丈夫だから”と真由に告げられた時の彼の戸惑いが
同じ相手を思う風間には痛いほど理解できた。


阿川裕貴は真由を愛している。

風間はぼんやりとそう思った。


「風間さん?・・どうかしたんですか?」

何も気づいていない真由の無邪気な瞳が、不思議そうに風間を見ている。


「・・いえ・・何でもありません。」

風間は首を横に振った。

まだ、認めたくはなかった。


「やだ、わたしったら お茶も出さないで。
 ・・・今、入れてきますね。
 コーヒーがいいですか、それとも紅茶?」

真由はそう言って立ち上がろうとした。

すかさず、風間がそれを止めて真由の腕を掴んだ。


「お茶はけっこうです。怪我をしてるんだから、そんな気を使わないで。
 ここに座ってください。」


真由は はい、と頷いてまた風間の隣に座った。

風間はそんな真由を見つめると静かに彼女を抱き寄せた。


「・・風間さん?」

真由は抱きしめられた腕の中で風間の名前を呼ぶ。


「・・・真由さん・・。」


「どうかしましたか?」


「・・僕は・・あなたを愛してます。」

真由を抱きしめる風間の腕にぐっと力が入る。


「風間さん・・。」

真由は顔を上げると風間を見た。


「初めて会った時から ずっとあなたが好きだった。
 その気持ちは変わらない。
 いや、その時よりももっと真由さんのことが好きになってる。」


「・・・わたしも・・。」


「・・真由さん。」


「わたしも・・風間さんのことが好きです。」


「あの人よりも?」


つい口にしてしまった言葉に、真由の表情が強張ったように動かなくなる。

風間はひどく後悔した。そして、もう一度真由を抱きしめる。

胸の中で真由は声を震わせる。


「・・わたし・・わたしは・・・」


「・・答えなくていいです。」


風間は まるで真由の返事を拒むようにその唇をふさいだ。

そして、真由の頬を両手で包み込んで、何度も何度も口づける・・。

真由は小さく震えながら風間のキスを受け入れる。


今夜のキスは以前のものとは違っていた。

何度も重ねて、重なり合っているうちに 真由の唇の隙間から
柔らかくて優しいものが中に入り込んでくる。

驚くほど強引に、溢れる情熱のままに真由を求めてくる唇。


真由の身体は震えて・・どうにかなってしまいそうな気がした。


風間は真由をゆっくりとソファに押し倒した。

 

風間さん・・?

あなたを誰にも渡したくない・・

 

風間は真由を組み伏せると、彼女のブラウスのボタンを外していく。

彼は真由に覆い被さり また口づける。

混乱した真由はどうしたらいいのかわからず
すがるような瞳で風間を見つめる。

今までに見たことも無い彼が真由を見つめ返している。

激しい嫉妬に駆られたような、それでいて泣きそうな・・
悲しげで不安そうな黒い瞳・・


・・・風間さん・・・?

怯えたような真由の瞳が風間の理性を奪う。

彼は 真由の大きく開いたブラウスの胸元に唇を押し当てる。

あ・・   真由の唇から声が洩れる。

彼女の透き通るように白くて滑らかな肌に触れて 風間の熱情が溢れ出す。

真由は動揺して、思わず顔を横に背けた。


その視界の中に飛び込んできたものは・・

L字型に置いてあるグレーのカウチソファ。


数日前にはそこに裕貴がゆったりと座ってお茶を飲んでいた。

湯飲み茶碗を包み込んでいた裕貴の大きくて綺麗な手。

真由が入れてくれるお茶は美味いな・・そう言って褒めてくれた裕貴。

いつもと同じように、笑いながら真由を子供扱いした裕貴。


そして、今日

病院で 黙ったまま心配そうに真由を見ていた裕貴。

 

 

ヒロちゃん!・・ヒロちゃん・・ヒロ・・ちゃん!!! 

 

真由の大きな瞳から涙が溢れ出した・・・・・。







つづく…












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