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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 10 HIT数 4978
日付 2009/04/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -10- ホテルへ行こう
本文

 



-10-  ホテルへ行こう 

 


航平がゆっくりと近づいて来た。

そして、美月と永瀬の前に来ると 永瀬に軽く頭を下げる。


「…航平も 今、帰って来たの?」

美月が言うと、航平は小さく頷く。


「うん、…美月ちゃんも?」


「うん。…あ、紹介するね。
 こちらは永瀬さん。家まで送っていただいたの」


「初めまして、桜庭です」

航平が少しぎこちなく頭を下げる。


「あ、先生 航平…彼はうちの隣に住んでる幼なじみで
 T大の4年生なんです。とっても優秀なんですよ」


美月は自慢げに航平を紹介する。


「…大学生ですか」

永瀬は納得したように頷く。


「そうなんです。
 あのね、航平、永瀬さんは小説家なの。
 航平も知ってる…」

 

「…美月なの?」

その時、自宅の玄関の扉が開いて母親の美沙子が出て来た。

そして、美月と航平の傍に もう一人見知らぬ男がいるのに気づいて
目を丸くして驚いた。

 

 


「あの永瀬聡さん?直木賞作家の?
 ま、どうしましょう!そんな有名な方に送っていただいたの?
 あの、よろしかったらお茶でもいかがですか?
 ちょうど美味しい羊羹を頂いたので…」

「お母さん、何言ってるの? 永瀬先生は羊羹なんて…」

興奮して早口でまくし立てる母を見て、美月は慌てて止めに入った。


も~、恥ずかしいなお母さんは! ホントにミーハーなんだから

先生が羊羹なんて食べるわけな…い


「あ、はい じゃあ、お言葉に甘えて…」


 …え?


永瀬の返事に美月が驚いていると、もっと信じられないことに
彼は今まで見せたことがないような愛想の良い笑顔を見せた。

まあ…と思わず美沙子はぼうっとしてしまった。


「えーーーー!」

美月は再び驚きの声を上げてしまい 美沙子のとがめるような視線を浴びて 慌てて両手で口を押さえた。


「もう、美月ったらそんな声を出して。
 さあ、永瀬さん 狭い所ですけど どうぞ中にお入りになって。
 航平君もいらっしゃいな。 羊羹好きでしょ?」

美沙子はそう言うにっこり笑った。


美月は改めて思った。

この母親にこの世で怖いものなんてないんだわ……

 

 


「そうですかー!
 永瀬さんは あの作家の永瀬聡だったんですね」

いつもの明るさを取り戻した航平が 屈託のない笑顔を向ける。

さすが航平! 滅多に表情を変えない先生がわずかにたじろいでるじゃない?


「美月ちゃん、騒いでたよね? 憧れの作家の担当になったって
 …そういえば 美月ちゃんの部屋には永瀬さんの本たくさんあるね。
 新しい本が出る度に買ってたんだね…出版社が違うのに」


航平ったら そんなこと先生にバラさないでよ!
 

「君は彼女の部屋の中のことまで把握してるんですね」


「はい、何度も出入りしてるので。
 最近だと 酔っ払った美月ちゃんをおぶって部屋まで…
 そしたら…」


ちょっと、航平! まさかその先まで言うつもりじゃないわよね!


「こっ、航平!
 よけいなことは言わなくていいのよ」


「ああ、記憶をなくすほど飲んで失敗した…っていうのは
 その事だったんですか」


あの、先生もそんなこと思い出さないでください


「…失敗…?」


一瞬、胸がドキンとした

…だって そう呟いた航平がひどくショックを受けたような顔をしたから…


「…美月ちゃんは そんなことまで永瀬さんに話すんだ…」


もう、航平ったらいじけないでよ…


「違うのよ、航平!
 それは…記憶をなくすほど泥酔したのが失敗だったっていうことで
 その…他のことは失敗だなんて思ってない…から」



「本当に?」


たちまち、航平の顔が眩しいくらいに明るくなる。

ああ、やっぱりわたしは その愛くるしい笑顔にはかなわない…

そして 美月の視線の先には……航平の唇

また思い出してしまう あの日のキス

…いけない また、顔が熱くなってきた……

 


「……」

永瀬は黙ったまま美月を見ている。

そして、彼女の今の表情をどこかで見たことがあることに気づく。

あの時 永瀬の部屋で 彼女はうっとりと遠くを見ていた。


そうか

彼女が思っていたのは彼だったのか……


その時、永瀬は自分の表情が強張っていくのに気がつかなかった。

 

 

 

「……まさか、と思うけど これって、ひょっとして
 …三角関係??? …なのかしら?」


「…わたしもそう思うわ」


「やっぱり孝子さんもそう思う?
 さっきまで、あたしも一緒にお話してたのよ。
 それで、もしかしたらって思ったの。
 でも、鈍感な美月は 永瀬さんのことは気づいてないわね」


「……困ったわ…
 永瀬聡がライバルなんて……うちの航平じゃ到底かなわないじゃない?
 どうしましょう~! 美月ちゃんをお嫁さんにできないかも……」


「まあ、孝子さんったら!そんなことないわよ。
 だって、やっぱり息子にするなら航平君よ!
 気心が知れてるし、素直で可愛いもの」


「ありがとう、美沙子さん。
 あなたにそう言ってもらえると嬉しいわ~」


「まあ、確かに 永瀬さんは…いい男だけど
 気難しそうだし、一緒にいたら緊張そうよ」


「そうかしら?でも、本当に素敵な人ね」


美月と航平の母親二人は キッチンからリビングのほうをうかがいながらヒソヒソ話をしている。

と言っても、興奮した二人の内緒話は次第に大きな声になっていく。

 

「それに、美月はやっぱり航平君のことが好きだと思うのよね」


「そう?」


「そうよ。あの子は自分の気持ちに気づいてないのよ。
 きっと本心は航平君のこと…でなきゃ、あんなことは…」


「あんなこと?」


「ごめんなさい、孝子さん。
 あたし、その まだあなたに言ってない事があって
 実はね…………」

 

 

 

「…お母さん?何してるの、こんな所で。
 あら、おばさんも来てたの?」

キッチンで座り込んでいる母親達を見て、美月が驚いた。


「あ、あら、美月ちゃん!
 作家の永瀬さんがいらしてるって聞いたから その
 そう、この本にサインをいただこうかと思って…」

孝子が慌てて持っていた本を見せる。


「サイン?…してくださるかしら。
 …うん、一応頼んでみるけど。
 おばさんもお母さんもこっちに来て一緒に話して。
 …何だかね微妙な雰囲気なの」


それは……微妙でしょうね… 

美沙子と孝子は同時に呟く。


「二人ともあまり話さなくて……
 航平も最初はいつものようにニコニコ笑ってたんだけど
 途中からおとなしくなっちゃって…変でしょ?
 どんよりした空気が漂ってるのよね。
 仕方ないからわたし一人で喋ってるの」

 

空気が読めないのねこの子は…

でも なんて幸せな子…

二人は同時に思う。


「だから、ね。 こっちに来て一緒に盛り上げてよ。
 そういうの得意でしょ?」

美月はそう言うと 座り込んでいる二人ににっこりと笑いかけた。


「…美月、あんたって子は ホントに……」

美沙子はそこまで言うと 呆れたように大きなため息をついた。

 

 


今度は帰ることになった永瀬を見送ろうと 美月は彼の車の傍に立った。

車のシートに座った永瀬はウインドーを下げて美月を見上げる。

美月はそんな永瀬に近づいた。


「じゃあ、先生 気をつけて運転してくださいね。
 今日はありがとうございました」

永瀬は小さく頷くと 「じゃあまた来週」と言って
そのままゆっくりと車を動かし立ち去った。


「…やっぱり素っ気ない人よね……」

美月はそうぼやきながらも、口元に笑みが浮かぶ。

 


まさか、永瀬が美月の家に上がりこんで話をするとは思ってもみなかった。

その上、母親達の願いを聞き入れてくれるなんて予想もできなかった。

永瀬は 彼女達の差し出す本にあっという間にサインをすると
やわらかく微笑みながら どうぞ、とそれを手渡した。

 

“そうです! 先生、それが“サイン会”です!
 それで にっこり笑って握手していただければ完璧です
 やればできるじゃないですかーー!”


思わず心の中で叫んでしまった美月の表情が 期待で生き生きしてることに気づいた永瀬は 彼女が思っていることをすぐに察知した。


「僕はサイン会とかはしませんので
 あまり見映えのしないサインですみません」


「まあ、それじゃこのサインは貴重ですわね!
 ありがとうございます、永瀬先生」


「………」

大喜びする母親達を見て、美月は黙ったまま永瀬を見上げる。

彼は口元に満足そうな笑みを浮かべながら 美月をちらっと見た。


はあ~、やっぱり…サイン会なんて 夢のまた夢ね…


美月ががっかりしてうなだれると、それを見た永瀬は
また面白そうに笑った。

 

 


そんな事を思い出しながら 永瀬の車が見えなくなるまで
佇んでいた美月を 突然、後ろから誰かが両腕をすっと回してきた。

きゃっ!と声を上げる美月。

だが、やわらかな頬の感触といつもの香りに気づいて
美月はほっと安心する。


「…航平? どうしたの?」


「美月ちゃん……」

元気のない航平の声が耳元で響く。


「航平?」

航平に抱きしめられたまま、美月は顔を後ろに向けようとするが
彼の腕の力が強すぎて身動きできない。


「動かないで」


「航平、どうしたの?」


「今、僕は…きっと酷い顔をしてるから
 …美月ちゃんに見られたくない」


「航平?」


「やっと…美月ちゃんに近づいたと思ったのに…
 もう 美月ちゃんの弟ではなくなったと…
 そう思ったのに……」


「…航平…」

たちまち美月の胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛んで、切なくなる。

まっすぐに自分の思いを告げる航平に嘘をつくことはできない。


「美月ちゃんはあの人が好きなんだね」


「航平…」


「僕にはわかる」


「……」


「そうだよね?」


「…よくわからないの。
 とても…気になるけど でも、先生のことが好きなのかわからないの」


「美月ちゃん」


「ただ…寂しそうで寒そうな先生の傍にいてあげたいって
 そう思うことがあるの」


「僕のことは?
 …僕の傍にいたい…とは思わないの?」


「航平……」


返事ができない美月を見て、航平は落胆する。

どんどん気持ちが沈みこんで息苦しくなってくる。

ゆっくりと…航平は美月から腕を解くとそのまま足早に立ち去った。

美月は隣の家に入ってしまった航平の後を追いかける。

玄関を開け、階段を駆け上ると航平の部屋のドアを開けた。

明かりも点けない暗闇の中、廊下のライトを背中に受けて佇んでいる航平がいた。

 

「…航平」

肩を落としたその背中に恐る恐る声をかける美月。


「…本気だったんだよね?」

航平の絞り出すような声が部屋に響く。


「え?」


「あの時…大学の並木道でキスした時
 美月ちゃんも本気で僕を受け止めてくれたんだよね?」


「航平……」


「僕はもう美月ちゃんの弟なんかじゃない!」


航平はそう叫びながら振り向くと 美月に近づき彼女の腕を掴んだ。

そして、強く引き寄せると乱暴に美月の体をかき抱いた。

美月が声を上げる間もなく 航平が唇を塞いで来た。

荒々しく、強引に航平は美月の唇を包み込む。

美月の叫び声はかき消されて言葉にならない。

身動きできないほど強く抱きしめられた美月は
そのままベッドの上に押し倒された。

その時、初めて航平の唇が離れた。


「航平っ、やめ…!」


だが、容赦なく また美月の唇は塞がれてしまう。

必死で抵抗する美月の両腕は強い力で押さえつけられ
体の上には航平が伸し掛かっていて動けない。

抑えきれない熱情が溢れ出すように 航平は美月を深く求めていく。


航平……


美月ちゃんは誰にも渡さない!


そこにはいつもと違う航平がいた。

航平の中に 今まで感じた事のないような激しい嫉妬の炎が燃え上がっていた。

そして そのキスを受け止める美月の体も次第に熱くなっていく。

全身の力が抜けていくのと同時に 美月はゆっくりと目を閉じる。

航平に唇を塞がれて、求められて、頭の中が真っ白になって
何も考えられなくなってしまいそうだった。

 

  ……………

     ………………

 

美月がその情熱に押し流されそうになった時、はっと我に返る。

 

わたしったら! 何を……
このままだと航平と…? ここで? そ、そんなのダメーーー!

 

そう思った美月はありったけの力をこめて 航平の足を蹴った。


「うっ…」

美月は航平がひるんだ隙に 自由になった両手で思いっきり彼の体を押した。

そして よろめきながら立ち上がると ベッドから転げ落ちた航平に向かって叫んだ。


「航平のばか!!! 何考えてるのーー!」 

息も絶え絶えになりながら美月が叫ぶ。

「ここは航平の家でしょ?
 おっ、おじさん、とか… 洋平ちゃん達もいるのよ!
 ばっ、場所を考えなさいよ!!!」


「え……?」

床に座り込んだ航平が驚いて美月を見上げる。


「あ……」

美月は自分の言ったことの意味に気づいて口を押さえた。


「…美月ちゃん、それって…」

航平の目が こぼれ落ちそうなほどまん丸になっている。


「………」


「場所を考えれば美月ちゃんもOKってこと?」

 

可愛い… 航平ったら声が上擦ってるじゃない

のん気な美月は こんな時さえもそんなことを思っていた。
 



「…じゃあ、今度一緒にホテルに行ってくれる?」


「そっ、そんな露骨に……」


「いいんだよね?」


航平の瞳が眩しいくらいに輝いている。

ああ、その嬉しそうな笑顔には弱いのよね……

航平ったら ホントに幸せそうな顔をするんだもの

それじゃ もう拒絶することなんてできないじゃない

 

 

「…あの時のキスは…本気だった。
 あれから航平の事を弟だなんて 一度も思ってない」


「…美月ちゃん」


「それに…! 
 航平はいつもわたしの傍にいてくれるから…
 わたしも航平の傍にいるのは当たり前のことだから
 傍にいたい、なんて思ったことはない!」


美月はそこまで言うと くるっと航平に背を向けて部屋から出て行ってしまった。

自分の言ったことで赤くなっている顔を見られたくなかった。

慌てて階段を駆け下りていく美月に 航平が声をかける。

 

「美月ちゃん、約束だよ!
 どこのホテルがいいか考えておいて!」


今まででいちばん元気で嬉しそうな航平の声が響き渡る。


「ばっ、ばかー! 何言ってるのよーーー!」

慌てて振り向いた美月の顔は真っ赤になっていた……。

 

 


















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