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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1355634/1892875
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 15 HIT数 4151
日付 2009/04/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -15-(終) 君はスペシャル
本文



-15-(終) 君はスペシャル

 





「…多分、僕の所に来るのは気が進まないと思ったので
 僕があなたの所へ来ました。
 ……図星でしょう?」

車のハンドルを握りながら永瀬は言った。


「…はい」

美月は遠慮がちに返事をすると 永瀬は静かに笑う。


「やっぱり最終話の原稿を書き上げてから言ったほうが良かったかな」


「…先生」


「僕が言ったことで あなたの仕事がやりにくくなったら困ります」


「いっ、いえ! 編集の仕事は今までどおりします!
 …あの、先生がお嫌でなければ…なんですけど…」


「僕が なぜ嫌がると?」


「…それは あの…」


美月が言葉に詰まってうつむいてしまったのを見て
永瀬はゆっくりとブレーキを踏んで車を左側の路肩に寄せた。
 

「…つまり、それがあなたの答えだと?」


「…はい。
 あの、昨日は わたし、言い方を間違えました。
 今 付き合ってる人がいます、ではなくて…愛してる人がいます…
 そうお伝えするべきでした」


「………」


「先生のことは好きです。とても尊敬しています。
 先生の担当をするように言われた時は わたし、飛び上がるほど嬉しくて
 担当になってからも少しでも先生のお役に立てたらと いつも考えていました。
 そして、お話しているうちに ますます素敵だなって思うようになりました」

美月はそこで一息つくと また語り始める。


「でも…わたしにはもっと大切にしたいと思ってる人がいるんです。
 今…わたしが抱きしめたいと思うのはその人なんです」


「大野さん」


「すみません……だから先生と一緒に行く事はできません」


そこまで言った美月は永瀬を見つめた。

永瀬は黙ったまま美月を見つめ返していたが
そのうちにふっと口元をほころばせた。


「……まいったな…」


「先生…」


「こんなに早く振られるとは思わなかった…」


「あの…」


「もう少しは悩んでくれるかと…」


「先生」


「わかりました。
 そこまではっきり断られると諦めがつきます」


「…すみません」


「もう謝らないで。 …でも、残念だな
 あなたと一緒に世界中を回ったら楽しいと思ってたのに…」


「え?」


「とりあえず最初はイタリア辺りに行ってみようかと思ってます」


「イタリアですか!」


「………」


「……」


「…もしかして 今 一瞬、後悔したとか…?」


「…はい いえ あの、ほんの少しだけ…」


「……」


「返事をするのが早まったかな…なんて思ったりして…」


もじもじしながら言う美月を見て 思わず永瀬は吹き出した。

そして 珍しく声を立てて笑い出した。


「先生、そんなに笑わないでください!」

美月は真っ赤になりながら叫ぶ。


「…面白い あなたは本当に面白い やっぱり見てて飽きない」


「それって、褒めてるんですか?」


「もちろん」

それでもまだ 永瀬は笑うのをやめられない。


「…だって イタリアなんて行ったことないし…
 ローマにフィレンツェ…それに美味しいものがたくさん…」

ぶつぶつ言う美月を見た永瀬の顔から笑みが消える。

彼は ゆっくりと美月を見つめて静かに言った。


「…僕は失敗したな」


「え?」


「“イタリア”を先に言えば良かった」


「先生」


「わかってます。あなたが気を使って わざとそう言ってるのだと」


「え…」


「どちらにしろあなたの答えは同じだから…
 そうでしょう?」


はい…美月は小さく頷く。


そんな美月を見て 一瞬、永瀬は顔を歪めるが

すぐに前を見つめ悲しげに微笑んだ……。
 



   * * * * * *




「ヴェネツィア…に ジェノヴァ、ボローニャ
 温暖で雨が少ない地中海性気候…
 へえ、ローマと東京の気温は年間を通じてほぼ同じ…そうなんだ…」

…じゃあ、寒がりの先生でも大丈夫かな…


美月は ノートパソコンのモニターを見ながら呟いている。


「美月ちゃん さっきから何見てるの?」

iPodのイヤホンを外した航平が 美月の後ろから覗き込んでくる。

「…イタリア政府…観光局ホームページ? 何かの資料集め?」

「うん、そんなもの」

美月は軽く応える。

 

永瀬先生がイタリアに行くから、なんて言えないわよね

航平ったら こんな顔して意外とやきもち焼きだし… 


美月はパソコンを閉じると航平の方を振り返る。


「航平は何を聴いてるの?」


これ…美月の部屋のベッドに寄り掛かって音楽を聴いていた航平は 
イヤホンを片方だけ美月に渡す。

どれ?…美月はぱっと笑顔を向けながらイヤホンを片方の耳に当てる。


「…ビヨンセ?」

ふ~ん、確かに綺麗でセクシーよね
確か わたしと同い年よ …なのにあの色気はなんなのー?


美月ちゃんのほうが綺麗だ


航平ったら


ホントだよ…美月ちゃんは特別なんだ


航平は美月と自分のイヤホンを外すと 彼女の腕を掴んで
胸の中に抱き寄せた。


…航平?


今夜はここに泊まってもいいよね?


え?


おじさん達、今日は帰って来ないんでしょ?


そうだけど でも…


美月ちゃんひとりだと危ないから ボディーガードになってあげるよ


う~ん、そっちのほうがもっと危ないかも

 

美月はそう言いながら 航平の胸から顔を上げて悪戯っぽく微笑んだ。

ふわり…すぐに航平の唇が美月の唇に降りて来る。

そっと触れるだけのキスが 次第に熱を帯びて深くなっていく。

長いキスを交わした後 しっとりと潤んだ美月に向ける航平の
いつもの天使の微笑みに美月はあっけなく降参してしまう。


ね、泊まってもいいよね?


う…ん


やった…


もう、航平ったら …うう、その顔には勝てないわ


ところで、今日は携帯の電源は切ってある?

 
あ、まだ切ってない…

 

美月がテーブルの上の携帯電話を取ろうとした時
ちょうど着信音が鳴り響いた。


え…
え?


美月と航平は驚いて顔を見合わせる。

…まさか…ね


「何だ、お母さんだわ」

着信画面を見た美月はほっとしてベッドに座って電話に出た。


「もしもし、お母さん? うん、家にいるわ。 
 仕事は早く終わったの。そっちはどう?
 結婚式はどうだった?…良かったね。 
 お父さんとゆっくりしてきて… え?
 大丈夫よ わたしは。やーね、子供じゃないのよ…」

「おばさん、大丈夫です!
 今夜は僕がいますから安心して!」

美月が話してる横から割り込むように航平が叫んだ。


「きゃあ!航平ったら何をーーー!」

「だって ちゃんと言ったほうがおばさんも安心する…」

「なっ、何をー!」

『ちょっと、美月? そこに誰かいるの?』

「やだっ、違うわよ テレビの音よ!」

「おばさん!航平ですー! 美月ちゃんのことは僕にまかせて」

『そうね、航平君がいてくれるなら安心ね……って違うでしょ!美月?』

「お母さん! 航平はもうすぐ帰るから!」

「え、さっき泊まってもいいって言ったじゃないかー!」

「もう、航平は黙って!」

『ちょっと、美月? あなた また航平君に何かしたの???』

「まだ何もしてないわよ!」

『まだ?』

「ちっ、違う! とっとにかくもう切るわね お休みなさい!」

『ちょっと、みつ…!』


美月は はあはあと息を切らしながら携帯の電源を切った。

そしてくるっと振り向くと 真っ赤な顔をしてキッと睨みつけた。

「もうっ! 航平のばかっ! 何てことするのーー!」


美月は ものすごい勢いで両手を振り上げながら航平に向かって行ったが
すぐにその細い手首は航平に掴まれて阻止された。


「離しなさいってば!」

「嫌だ」

「あんな事言って!
 また親達が結婚式場を探し始めたらどうするのー?」

「大丈夫だよ、またすぐ静かになるから。この前もそうだったでしょ?」

「…そうだけど」

「だから大丈夫だよ」

「……」

「ね?」

「…何だかわたし 航平のその“ね?”に騙されてるみたいな気がする」

「え?」

「航平が笑顔でそう言うと怒れなくなるもの」

「そうなんだ…」

「あ、今 しめた!って思ったでしょ?」

「そんなこと思わないよ。
 …それより ね? …さっきの続きをしよう」

「う…」 早速、活用してるじゃない!

「ね、美月ちゃん?」

「……」


航平のやわらかな笑顔が優しく美月を見つめている。

ふわふわとした前髪の下からのぞく黒く澄んだ瞳。

 

ああ、もう!

そうよ もうずっと前からそうだった!

航平が生まれた時から 可愛くて可愛くてしかたがなかった

わたしは航平にはかなわない…

きっと これからも…


美月はゆっくりと手を差し伸べると 航平の首に両手を回して
そっと彼の唇にキスをした。

 


美月ちゃん?


ね、やっぱり怒れないでしょ?


うん、美月ちゃんの言ったとおりだ
 

ほんとに悪い子ね 航平は…

 

美月は笑いながら軽く睨むと ゆっくりと航平をベッドに押し倒した。


悪戯っ子の航平は罰を受けなきゃいけないの

だから わたしの言う事を何でも聞くのよ…わかった?


美月はそう言うと航平のやわらかな頬を両手で包み込んだ。

 

美月ちゃんの思うとおりに……


航平は 恋人の甘く幸せな罰を受け入れようとゆっくりと目を閉じた。

 

 

 


   * * * * * *

 

 

 

「…はい、確かに最終話の原稿をいただきました。
 先生  …お疲れ様でした。  …ありがとうございました」


美月はそう言うと深々と頭を下げた。

永瀬の顔を見ているだけで泣きそうだった。


「こちらこそ。半年間、ご苦労様でした。
 頑固な僕の担当は大変だったでしょう?」

永瀬は顎に手を当てながら面白そうに言った。


もう…先生ったら変わらないわね その皮肉っぽいところ…


「いえ、そんなことありません。
 ただ 出版記念のサイン会が出来なかったのは心残りですけど。
 あと誌上対談と先生のお写真を載せられなかったのも残念です」


「これでもう あなたに頼まれることもありませんね」

永瀬があまりにも安心したように言うので
憎らしくなった美月は少しだけ睨んだ。

「いいえ。 先生がお帰りになったら またお願いに参ります
 もっとしつこく、先生がうんと言うまで 何回でも…」


「いつになるかわからないのに
 僕が帰ってくるのを待っててくれるんですか?」


「はい。…ですから、もし復帰なさったら 
 最初の一作目は ぜひうちの出版社で」


「そうきましたか」


「優秀な編集者ですから」


「………」


「そうでしょ?」


「…それはどうかな」


「先生!」


美月は頬を膨らませて永瀬に抗議するが
二人の視線が合うと同時にぷっと吹き出してしまった。

 

 

   * * * * * *

 

 

「あら、航平君じゃない」


その日、航平は大学のゼミ仲間との飲み会で居酒屋に入り
案内されたテーブルに向かう途中で声を掛けられた。

美月の友人の麻美だった。
彼女は会社の同僚らしい若い男女数人と一緒のようだった。
もうすでに飲んでいるらしく、彼女の顔はほんのりと紅潮している。


「こんばんは 麻美さん」

航平は立ち止まると明るく笑いながら言った。


「うふっ、相変わらずいい男ね、航平君は!
 どう?その後は…美月とはうまくいってる?」

酔って上機嫌の麻美はとろんとした目で話しかけてくる。


「はい、おかげさまでーー!」

航平は 屈託のない笑顔を浮かべながら嬉しそうに答える。


「まー、良かったわねー! 美月もやっと落ち着いたのね」

「え?」

「例の作家先生にプロポーズされた時はどうなるかと思ったけど…
 美月は航平君を選んだのだから、これで安心ね
 航平君を応援してたお姉さんは嬉しいわー!」

「………」

「作家先生はイタリアに行くらしいし…傷心旅行かしらね
 ふん、なんで美月ばかりモテるのかしら。ここにもっといい女がいるのに…」


ぶつぶつとぼやく麻美に 後輩が 麻美さん飲みすぎ!と呆れると
彼女は何よー!と絡みながら席に座った。


航平は黙ったまま その場に立ちつくしていた。

 

 

 

   * * * * * *

 

  

3月の初め いよいよ永瀬は旅立つ日を迎えた。

空港で見送ると帰りが寂しいので、と言い訳をして
美月は永瀬の自宅マンションの前に来ていた。

成田空港へ向かうタクシーの近くで、美月と永瀬は向かい合っていた。


「では、先生 気をつけて行ってらしてくださいね。
 あの、外国は危険なことが多いですから
 何かあったらご連絡ください。
 わたしに出来ることがあれば 何でもしますから」

美月は心配そうに永瀬を見上げる。


「…頼もしいですね」

永瀬が面白そうに笑う。

「でも、むやみにそんな事は言わないほうがいいですよ」


「はい?」


「彼が見ている…」


「あ」


「なぜ 彼がここに?」


「はい、あの …わたしが先生と一緒に行ってしまうのではないかと
 心配してるみたいなんです」


「………」


「だめだと言ったんですけど、どうしてもついて行くと聞かなくて…」


美月と永瀬が同じ方向に視線を向けると
二人から少し距離をおいた所に航平が立っていた。

二人に気づいた航平は軽く頭を下げる。


「やはり 彼はあなたに夢中なんですね」


「はい あ、いえ…」

永瀬の言葉につい頷いてしまった美月は 恥ずかしそうに頬を染める。

 

ふうん…それを見た永瀬はふと考えるように顎に手を当てる。

そして すぐに思いついたのか、突然、美月の腕を掴んで引き寄せて
あっという間に美月の唇を奪った。


え…?


永瀬の唇が離れた後 美月はぽかんと彼を見上げる。

彼はにっこり笑うと美月を見つめながら言った。


「今度、帰って来た時 もし、あなたがまだ一人だったら
 もう一度プロポーズします」


「はい?」


「やはり諦めることは出来ません。 …あなたは特別な人だから」


「はい?」


「じゃあ、行きます。…お元気で」


永瀬は満足そうに言うと そのままタクシーに乗り込んだ。

美月が何か言おうとする間もなく 車はその場から走り去って行く。


…… 永瀬は行ってしまった。

 

後に残された美月が呆然としていると 航平がものすごい勢いで駆け寄ってくる。

 

「美月ちゃん!! 今、キスされたよね?
 どこに? 唇、唇だった???」

航平は必死な顔で美月の腕を掴むみながら叫ぶ。


「美月ちゃん? 何でそんなに顔が赤いの?」

激しく動揺した航平は 美月を抱き寄せて顔を近づけた。

航平がキスしてくる…そのことがわかった美月は慌てて首を横に振って
唇を両手で隠した。


「だっ、だめよ 航平! 
 今、そんなことしたら永瀬先生と間接キスすることに…」

絶句する航平…  だが…


「かまうもんか!
 美月ちゃんが他の男にキスされたままなんて我慢できない!」

 
「ちょっ、ちょっとやめなさいってば! 航平ーー! やめっ…」

 

美月の抵抗する声は航平の唇で塞がれて はるか遠く水色の空に消えて行く。



 
3月のある晴れた日曜日 穏やかな風が春の訪れを告げていた……。 




 

 













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