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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 3 HIT数 6066
日付 2009/04/04 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -3- 一緒に本屋
本文

 



  -3-  一緒に本屋





― T大学 理工学部 ―


『・・・このように開発された銅合金はマンガンMnを添加した合金Cu-Mnであり・・・
 Mn酸化物層は隣接する材料との密着性を高めたり、原子が混じり合うことを・・・
 またこれが実現すると、全配線の抵抗を半減できるとともに・・・』

 

 

「・・おまえ 大学院研究科に進むんだって?
 専攻はもう決めたのか?」


大学の講義が終わった後 友人の山下が声を掛けて来た。


「金属フロンティア工学にしようと思って」

航平は前を向いたまま答えた。


「小沢研究室か・・先端マテリアル専門だな」


「うん。 講義が始まる前に教授に報告してきた」


「お前、誘われてたもんな。」


「うん」


「航平って女の子みたいにやわらかそうな顔してるのに 
 専攻はカチカチの金属だからな。
 ・・・どう見ても一致しない」


「顔は関係ないだろう?
 それに普段は硬くないつもりだけど」


「だよなー。 女の子に関しては かなり軟派だよな」


「そうか?」

航平がとぼけたように笑った時だった。

 

「航平せんぱーい!」

「今日、飲みに行きませんかーー?」

見ると少し距離をおいて数人の女子学生が手を振っている。


「ごめん、今日は駄目なんだ。 まだ実験が残ってるしレポートも仕上げるから」

航平はそう言うとにっこり笑った。


「いいんですー! 研究、頑張ってください!」

彼女達はきゃあっと歓声を上げると ひらひらと嬉しそうに手を振った。

 


「相変わらずモテるな」

「そうでもないよ」

「でも意外と付き合い悪いよな」

「あまり興味ないんだ」

「・・美月おねーさま一筋だもんな 航平は」

「わかってるじゃないか」

「どこがそんなにいいんだ?」

「全部」

「・・・・・」


山下は絶句するが、航平は笑って何度も頷いた。


相変わらず美月は 自分のことを全然相手にしてくれない

でも今は付き合ってる男もいないようだし・・


「・・・今度、誘ってみようかな」


航平は静かに呟くと ふわりと微笑んだ。

 

 

 

 

「・・・孝子さんががっかりしてたのよ。
 航平が一般企業に就職しないで大学の研究室に行くから
 美月ちゃんとの結婚もまだまだ先になりそうだわ、って 
 収入も少ないし、生活も安定しないから駄目だわって。
 だから、お母さんも言ってあげたのよ。
 うちの美月も仕事してるし、共働きなら何とかなるんじゃない?
 だから安心して!って」


母親の美沙子が御椀に味噌汁をよそいながら賑やかに言った。

珍しく早く仕事を終えて帰宅した美月が 夕食を取っている時だった。

“孝子さん”というのは 隣に住む航平の母親で 美沙子とも親しい間柄だった。

美月は御椀を受け取りながら眉をしかめた。


「お母さん? その、美月ちゃんとの結婚とか 共働きって
 一体、何のことなの?」


「あら、だって 二人はうちに同居するから家賃はタダだし
 美月だって結婚しても仕事はやめないでしょう?
 だったら生活していけるじゃない?」


「だ・か・ら、その同居とか結婚っていうのは どこからきたの?」


「だって、航平君はうちに入ってくれるって言ってたでしょう?
 お父さんも喜んでたし、お母さんも航平君が一緒に住んでくれるなら嬉しいわ。
 ・・・それに洋さんも了解済みなんですって。
 ありがたいことよね~!」


“洋さん”というのは 航平の父親で温厚な性格でいつもニコニコしてる・・・

美月ははっとして叫んだ。


「だから違うでしょう!!!
 わたしがいつ航平と結婚するって言ったのよー!
 そんな事ひと言も言ってないでしょう???」


「やーね、美月ったら。
 そんな事言って、本当は航平君のこと好きなんでしょう?
 4歳、いえ 5歳も年上の美月と結婚してもらうなんて
 航平君には何だか申し訳ないけど、今は女の方が寿命が長いし・・
 それに、何と言っても美月は精神年齢が低いからちょうどいいわ」


「何がちょうどいい、のよ!
 言っておきますけど、わたしはまだ誰とも結婚なんてしないし
 航平とだなんて考えた事もないわ!」


「やだっ、美月ったら。
 これ以上先に延ばしたら、さすがの航平君も待っててくれないわよ?
 あの子、すごく女の子にモテるの。
 この前だって、お隣に女子大生が数人押しかけてきて・・
 孝子さんったら うちの航平には婚約者がいますからって・・
 ああ、本当にいい人なのよ 孝子さんって!
 彼女が姑になるなんて、美月、あなたは幸せ者だわよ~」


「だから・・婚約者とか姑って・・・」


「美月も今、お付き合いしてる人なんていないでしょう?
 そうよね~、毎日のように午前様で、食事も洗濯も親まかせで
 こんな大雑把で何もできない娘が彼女なんて
 お母さんが男だったらお断りだわ。
 だから、いいこと?航平君をしっかり掴まえておくのよ!」


美月は唖然としてしまった。

そして悟った。


・・・この母親の激しい思い込みとお喋りに勝てる人間はいない

 

ふと美月は想像してみる。

 

・・・考えてみれば 確かにこんな条件のいい結婚なんて滅多にないかも・・・

自分の親と同居するから 家賃はタダだし、炊事・洗濯・掃除もしてもらえるし
何と言っても、仕事はずっと続けられるし
しかも 舅・姑はすごくいい人で、結婚相手は将来有望な研究者で・・
眩しいくらい若くて、顔も性格も可愛くて・・その上 キスも上手で・・


・・・・・・・

    ・・・・・・・・


「・・だっ、だから、違うでしょうーーー!!!」


美月は興奮して立ち上がった。

そして、雑念を払い除けるように頭をぶんぶん振った。


わたしは・・何を考えてるの!

まだまだ、結婚なんてしないわ!

わたしは仕事に生きるんだから!

一流の編集者になるんだから!

 

 

 

   *  *  *  *  *

 

 


何度か永瀬のマンションへ訪ねて行くと、そのうちに美月も慣れてきて
頑固な彼を説き伏せるという無謀なチャレンジ精神も芽生えてきた。

持ち前の明るさと前向きな性格のせいもあったが
それ以上に 大好きな作家の作品編集を担当するということが
美月にやる気を起こさせていた。

 

「・・・駄目ですか?」

無駄なことだとわかっていても、美月はもう一度訊いてみる。


「駄目です」

永瀬は短く答えると、美月を冷やかに見る。

 

何だか以前にもこれと同じようなことがあったわね

そうそう、誕生日に航平がプロポーズしてきた時

あの時 航平は得意の上目遣いで可愛く懇願してきたっけ・・

・・・可愛く・・・?

 

「あの、どうしても駄目ですか?」

美月は精一杯、可愛くお願いしてみる。

“女の武器”を使うなんて軽蔑されそうだが、この際
そんな事にかまってられない。
必死なのよ、わたしは!


「・・・・・」

永瀬はただ黙っている。


お、これはもしかして、有効?

まさか、こんな単純な事でこの先生が落ちる?

もう一息! もう一押し!

 

「先生 お願いです」


「・・・大野さん」


「はい!」


「その上目遣い・・気味が悪いからやめてください」


「・・・・・」


気味が悪いって・・わたしは航平を見てもそんなこと思わなかったのに

わたしの上目遣いは男の航平より劣るっていうこと?


半分ショック もう半分は怒りでカッとしそうだったが 依頼している側という立場の弱い美月はぐっと堪える。


「・・・初めてうちの雑誌で連載が始まるので 作者紹介ということで
 先生のプロフィールとお写真を載せたいと思ったのですが・・」


「以前から言ってるように、写真はお断りです」


「どうしてですか?」


「嫌いなんです」


「なぜですか?」


「人様にお見せできるような顔ではないし・・」


「・・・それって誰も納得しない答えだと思いますが・・」


「作品のイメージが崩れるといけないので・・・」

永瀬はそう言うと横をむいてふっと笑った。


この人・・本当はそんな事 これっぽっちも思ってないわね・・
何だか憎たらしい

 

「さあ、もうこの件は諦めてお帰りください」

永瀬はきっぱりと言うとソファから立ち上がった。


「でも、先生」


「しつこいですよ」

だんだん苛立ってきた永瀬は美月に背を向ける。


「・・・わかりました」

美月は渋々立ち上がるが、まだ納得できないのか 口の中でぶつぶつ言っている。

永瀬はそんな事には構わずに美月の方へ振り向いた。


「これから外出しますので」

「どちらにお出かけですか?」

「書店と図書館へ。調べたいこともありますので」

「お供します!」

「え?」

「先生がどんな本を読んでいるのか興味があるんです!」

「・・僕は一人がいいんですが」

「そんな事おっしゃらずに ご一緒させてください」


美月は目を輝かせながら言った。

「お邪魔しませんから!荷物持ちもしますよ。
 わたし、こう見えても力持ちなんです」


「こう見えても? ・・・それはあなたが華奢でか弱そうに見えるのに
 実は力強いという意外な事実を僕に伝えるための言葉ですか?
 だとしたら そんな必要はないと思います。
 大野さんは 十分、力強い女性に見えます」


「・・・・・」


「どうかしましたか」


「いえ、何でもありません。」


この人は・・こんなに涼しげな顔してるのに
何て理屈っぽくて嫌な人なのかしら 

 

美月はテーブルの上に出していたシステム手帳と携帯電話をバッグにしまった。
そして、にっこりと微笑んで永瀬に言った。


「さあ、先生 出かけましょうか」

「・・・話を聞いてませんね?」

「先生がおっしゃったように 見かけどおり力強いわたしは
 お役に立てるはずですよね?」

「・・・・・」

「ね?」

「・・・勝手にどうぞ」


永瀬は諦めたような顔をすると、またぷいっと背を向けた。 


勝った!・・・思わず美月はガッツポーズをした。

 

 

 

 


「せ、先生・・まだ買うんですか?」

「もちろん」

「でもっ、もう12冊も選んでますよ」

「今日は力強い荷物持ちもいるので・・」

「う・・・」

「大野さんについて来てもらって良かった」


永瀬は面白そうに笑うと、美月が持ち上げている本の上に
さらにもう一冊重ね上げた。


「お、重い・・・」

思わず美月は本を落としそうになったが、かろうじて持ち堪えた。
そして、両手に積み上げられた本を見る。


【行動経済学】・・・難しそう・・・

【赤めだか】・・・立川 談春? 落語家?

【四季の花】・・・花の図鑑? ふ~ん、こんな本も読むんだ

【愛の行方】・・・え、ハーレクインロマンス?

【篤姫】・・・ふ、ふ~ん

【神の雫 17巻】・・え?これって、コミック?
        あら、この表紙の彼、何だか永瀬先生に似てるじゃない?
        17巻を買うってことは今までのも揃ってるってこと?

 

バラエティーに富んだ本の種類に、美月はまじまじと永瀬の横顔を見つめた。


・・・先生、何だか楽しそう! 本当に本を読むのが好きなのね


でも、でも・・!

 

「あの、先生?」

「はい」

「・・こんなに選んでるのに、うちの出版社の本は一冊もないですよね?」


美月は心細げに尋ねた。


もしかして・・うちの本で欲しいものはない・・とか?


永瀬はゆっくり振り向くと 唇の端を微かに上げた。


「それは・・大野さんが持って来てくれるのでは?」

「はい?」

「今度、欲しい本のリストを渡します」

「はっ、はい!」


美月はぱっと顔を輝かせた。


「何冊でもおっしゃってください! 必ず探してきますから」


見る見るうちに元気になった美月はにっこり笑った。

永瀬は小さく頷くとまた前を向いて、また書棚から本を取り出した。


・・・って、まだ選ぶの?

か弱い女に平気で重い物を持たせるなんて・・


美月は自分が強引について来たのを棚に上げて、ぶつぶつ文句を言った。

 

 

「・・・聡さん?」


何気なく美月は その涼やかな声がした方に顔を向けた。

見ると 一人の女性が永瀬に向かって微笑んでいる。


「・・・奈緒・・・」

永瀬の深い声が響き渡った。


「久しぶりね、元気だった?」


「ああ。 ・・・奈緒は?」


「ええ、わたしも元気よ」


しっとりとした雰囲気の彼女は 花のように穏やかに笑っている。

永瀬も今までに見た事がないような笑みを浮かべている。


ズキン・・と美月の胸の奥が痛んだ。


「・・先生のお知り合いの方ですか?」


美月は上擦った声で尋ねた。

どうしようもなく 胸がざわついている。


それなのに、あっさりと永瀬は答えた。 いつものように平然と・・

 

 

「・・・妻です」

 












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