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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 4 HIT数 5824
日付 2009/04/04 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -4- 年下の彼とバツイチ男
本文

 



-4-  年下の彼とバツイチ男  

 




「え…?」


一瞬、時が止まったように 美月は動けなかった。


今、何て…?

妻? …今、先生は妻って言ったわよね…?


美月はまた胸の奥が微かに痛むのを感じた。

その様子に気づいた “妻”と呼ばれた彼女が呆れたように言った。


「…違うでしょう? 
 聡さんったら ちゃんと正確に伝えなきゃ。
 そちらの方がびっくりしてるわ」


彼女はそう言うと 笑いながら永瀬を睨みつけた。


「ごめんなさい。 正確に言うと、妻の前に“元”がつくの」

彼女は申し訳なさそうに美月を見た。


「聡さんの元の妻の…森下奈緒です。
 3年前に別れて…だから今は まるっきり他人なの」

奈緒はあっけらかんと言った。


「元…奥さん…」

美月はまだ動揺を抑え切れない…が 慌てて答える。


「あっあの…わたしは…S社編集部の大野美月と申します。
 永瀬先生の担当をさせていただいてます」
 

「まあ、聡さんの担当に?
 …それはお気の毒に…」


「はい?」

同情したような奈緒の言葉に、美月は戸惑った。


「だって、この人…頑固でしょう?
 無愛想だし、偏屈で…怒ると怖いし…」


美月はうんうんと相槌を打ちたかったが
隣にいる永瀬がどんよりとしてるのに気づいて 慌てて首を横に振った。


「い、いえ、そんな事は…
 噂に聞くよりも怖くないですし、とても真面目な方ですので」


「まあ、やっぱり“美月さん”っていう名前の女性は
 芯の強い方なのかしらね?」

奈緒はそう言うと、くすくす笑いながら永瀬を見た。

永瀬は黙ったまま首を傾げた。

 

ああ、この人も永瀬先生の作品を読んでるんだ

“美月”という女性が出てくる【硝子の雫】は確か去年の作品だもの

別れた後でも先生の作品は読んでるんだわ


美月は勝手に想像して、一人で納得していた。

 

 


暖かな日差しが降りそそぐ午後だった。

三人は書店の近くのオープンカフェに来ていた。

穏やかな風に吹かれて 木漏れ日がテーブルの上でゆらゆらと揺れている。

美月はティーカップを両手で包み込んだまま二人をちらっと見た。

永瀬は伏し目がちに静かにコーヒーを飲み
時折 奈緒は そんな永瀬に視線を向けながらやわらかく微笑んでいる。

美月は複雑な気分だった。

永瀬が 以前、結婚していたなんて思いもしなかった。

あの ガラスウォールの高級マンションの部屋は
合理的で無駄のないインテリアでコーディネートされていて
まるで生活の匂いがしなくて…
だから ずっと一人暮らしの男性の部屋そのものだと思い込んでいた。

 

別れた夫婦を目の前にして、一緒にお茶を飲むなんて…

ああ、何て居心地が悪いの~!

この微妙な空気の中 わたしはどうすればいいのーーー!


美月は心の中で叫びながら途方に暮れていた。


奈緒が お茶でもいかが、と誘ってきた時 美月は丁重に断ったにもかかわらず
彼女は明るく快活に言った。

「ね、お願い。
 だって、別れた元夫と二人だけなんて…何だか気まずいじゃない?
 …わかってくれるでしょ?」


あの…わたしはそんな経験はないので、わかりかねますが…

それに、そんなお邪魔をしたら先生に睨まれそうな気がして

相変わらず先生は何も言わずに黙ってるけど

後が怖いんです…

 

「大野さんは入社して何年目なの?」

奈緒は 複雑な美月の思いに気づかないのか、屈託のない笑顔を向けてくる。


「あ、5年目になりました」


「編集の仕事は時間に不規則で大変でしょう?」


「はい。でも、好きなことなので楽しいです。
 あの…森下さんは 何かお仕事をしてらっしゃるんですか?」


「あ、ごめんなさい わたしったら。名刺をお渡しするのを忘れてたわ
 …はい、どうぞ。  フリーで本の装丁のデザインをしています」


「わあ、もしかしてイラストの方もやってらっしゃるんですか?
 うちの社の本も担当してくださったことも?」


「それが…S社とはまだなの。
 …だから、何か機会がありましたらよろしくお願いしますね」


奈緒はそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべながら頭を下げた。


「あっ、はい!こちらこそよろしくお願いします」

美月が恐縮していると、永瀬がコーヒーカップを静かに置いた。


「…出版社なら僕が紹介するのに…」

ぼやきにも似た永瀬の呟きに、奈緒はくすくすと笑い出した。


「やーね、聡さんに頼むなんて…そんなことできないわ」


「……」


「あなたに迷惑はかけられないもの」


それきり沈黙してしまった二人を見て、美月は慌てて立ち上がった。


「あのっ! わたし、そろそろ、社に戻らないといけないので失礼します。
 …永瀬先生 またご連絡しますね!
 では、お先に…失礼します!」

美月は早口でまくし立てると、ぺこりと頭を下げて足早にその場から立ち去った。
 
 
永瀬は 慌てて走り去る美月の後姿を黙って見ていた。

「…荷物持ちが逃げた」

彼はそう呟くと、ふっと笑った。


奈緒はそんな永瀬をまるで珍しいものを見たように目を丸くした。

そして、彼の横顔をじっと見つめる。


「驚いた…」


「何が?」


「あなたのそんな顔…久しぶりに見たような気がして」


「……」


「そうよね、わたしたち 別れる時、ドロ沼だったものね?」


「奈緒」


「冗談よ。 あっけないほどスッキリした別れだったわ」


奈緒はまた可笑しそうに笑った。

永瀬はうろたえたように顔を少し歪ませる。


「知ってる? あなたの その困ったような顔を見るの…好きだったの」

奈緒は静かに俯くと ティーカップに手を伸ばす。


そして、すでに冷めてしまったミルクティーを一口飲むと
諦めたように小さなため息をついた。

 

 

 

 

「つっ、疲れたーーー!」

美月は居酒屋のテーブルの上に突っ伏して声を上げた。


「何でそんなに疲れたの。
 あ、もしかして またあの作家先生の所に行って来たの?」

麻美はそう言うとサワーをごくっと飲んだ。

「いくらいい男でも、偏屈なのはパスだわねー!」

松本麻美は 美月の高校の時からの友人で 今は大手商社の社長秘書をしている。


「先生は偏屈なんかじゃないわ。
 それは…ちょっと変わってるし頑固だけど
 書くことが好きだから…真面目で純粋なだけよ」

顔を上げた美月はむきになって叫んだ。


「やだっ、美月ったら 何、怒ってるのよ!
 …もしかして、その作家先生に惚れた?」


「ほっ、惚れた~?
 ばかな事言わないで。わたしは担当編集者として、そう思ってるだけよ」


「そんな事言って、顔が赤いわよ」


「それは…ここに来てビールを一気に飲んだから」


「ふふん、美月がそのくらいで顔に出るわけないじゃない」


「と、とにかく違うの! 変な事言わないで」


「はいはい。 そうね~、何だかんだ言っても、美月にはあの可愛い航平君が
 いるものね」


「だから! それも違うって!」


「いいわね~、美月の周りにはいい男がたくさんいて。
 わたしの周りなんてメタボのおじさんばっかりよお~!」


麻美の嘆きなど耳に入ってこない美月は ぼんやりと考えていた。


永瀬先生と奈緒さんはどうして別れたのかしら

昼間の様子からすると 奈緒さんはもう先生のことは忘れたみたいに
明るく振舞っていたけど 先生の方はまだ…未練がありそう…

今でも“妻です”…って紹介してるし

そうよね、奈緒さんって大人の女性って感じだし
それに あんなに綺麗なんだもの…

だから、あんなに優しそうに微笑みかけたのよね…


「あー、もう! 何でこんなに気になるの!」

美月は声を上げるとテーブルの上にあったサワーをゴクゴクと飲んだ。


「ちょっと美月!飲み過ぎよ!」

「ほっといて!今日は飲みたい気分なの」


美月は叫ぶとグラスをテーブルに置いて頬杖をついた。

そして、両手で顔を覆って大きな溜息をついた。

 

 

 

 

   *  *  *  *  *

 

 

 

 

「美月ちゃん 起きて!」


翌日の日曜日 やはり、美月には二日酔いが待っていた。

べッドの中で美月がぐったりしていると 航平が部屋の中に入ってきて、彼女を揺り動かした。


「…休みの日ぐらい ゆっくり寝かせてよ」

まだ寝ぼけている美月は毛布をかぶったままぼやいている。


「ゆっくり…って もう10時だよ」


「う…ん こう…へいなの?」


「そうだよ。 せっかくの休みなんだからどこか行こうよ」


「……」


「美月ちゃんってば!」

航平はそう言うと美月の毛布をはぎ取った。

きゃあ!と声を上げて 美月は慌てて起き上がると 
航平の手から毛布を奪い取りまた頭からかぶって横になった。


「外はいい天気だよ。だから遊びに行こうよ」


「嫌よ。 まだ二日酔いで…そんな気分じゃない。
 それに…今日は午後から予定があるの。
 エステに行って…美容院にも…女を磨く日なの」


「エステなんか行かなくても美月ちゃんは綺麗だよ」


「……」


「本当だよ。 うちの大学の女子より ずっとセクシーだし可愛い」


「……」


「それに、美容院なら一緒に行くよ。美月ちゃんが終わるまで待ってるから」


熱心に誘ってくる航平の言葉を聞いて、美月は毛布からもぞもぞっと顔を出した。


「今、言ったことは…ホント?」


「え?」


「T大の女子より…わたしの方がセクシーで可愛いって?」


「うん!」


「…もう、航平ってば そんなこと言って…
 それは…女子大生よりはセクシーに決まってるけど…年上だし…
 でも 可愛いっていうのは…もう、正直なんだから航平は…」
 

すっかり機嫌が良くなった美月はゆっくりと起き上がった。

航平は ボサボサの髪とすっぴんの美月をいとおしそうに見つめながら
寝癖のついた彼女の髪を優しく撫でて、白い頬に手をよせる。

航平の大きな手に包まれ 綺麗な長い指で触れられて
美月は一瞬、胸の高鳴りを感じてしまう。


「本当だよ。…美月ちゃんは他の誰よりも綺麗だ」

航平はそう言うと またいつものようにふわりとした笑顔を向けるのだ。


そして、美月もまたその天使の微笑みに負けて 
貴重な休日の寝込みを襲われたことも忘れて 航平の甘い誘いに乗せられてしまうのだった。

 

 

 

 

“まあまあ、二人でお出かけ?いいわねー!
 二人で映画でも見て、美味しい物を食べてらっしゃい!
 今日は美月がご馳走するのよ。ピアスのお礼にね”


美月の母親の美沙子は、いそいそと二人を送り出した。

家を出て歩き始めると 隣の桜庭家の玄関の扉が開いた。

航平の母親の孝子は おそらく美沙子とつながった携帯電話を握り締めている。

彼女はニコニコ笑いながら手を振った。


“航平!うまくやるのよ!ファイティーン~!”


ファイティーン…って何?

それにしても こんないい年した娘や息子にデートのアドバイスをする親なんて他にはいないだろうな… 


美月と航平は呆れながら、同時に首を横に振った。

 

 

 

 

ガラス張りの明るい店内には 独創的なアートが飾られ
癒し系の映像と音楽が流れている。


「美月ちゃん、あっちで待ってるからね」


ゆったりとした気分になった美月の瞼が 自然と重くなってきた時
航平が彼女が座っている椅子に近づいて来た。

そして、鏡に映っている美月を見ながら笑いかけた。


一緒に美容院に来た美月と航平だったが、先に終わった航平は
ソファに座って美月を待つ事にした。


「素敵な人ね~。美月さんの彼氏?」

美月の担当の美容師が髪をカットしながら悪戯っぽく笑いかけた。


「違うわ、弟みたいな子よ」

美月は明るく笑い飛ばした。


「そう? でもまた連れて来てね。
 見習いの子達のシャンプーの取り合いになるかもしれないけど」


ふうん、と 美月は呆れたように唇を尖らせる。

そして ちょっと失礼しますね、と言って 美容師が席を外した時に 
何気なく美月は航平がいる方に目を向けてみた。

航平はソファに座って雑誌のページをめくっている。

たぶん“柔らかくて綺麗な髪ね~”と褒められながらカットされた航平の髪は窓から差し込む日差しを浴びてキラキラと輝いている。

その穏やかな横顔は天使のようで…


美月の視線に気づいたのか ふと航平が顔を上げて彼女を見た。

そして 嬉しそうに笑うと美月に向かってゆっくり唇を動かした。

え、何を言ってるの?と美月は首を傾げた。

航平はもう一度 唇を動かして自分の思いを美月に告げる。

  



 

  ス…キ…ダ…ヨ……   

 



















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