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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 5 HIT数 5598
日付 2009/04/04 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -5- 恋するパスタ
本文

 



 -5-  恋するパスタ





  おはようございます。
  今朝、無事に原稿を受け取りました。
  これからじっくり読ませていただきますね。
  先生の小説を誰よりも先に読ませていただくなんて光栄です。
  また後ほどご連絡いたします。
  取り急ぎご報告まで。 ありがとうございました。
                      S社編集部 大野

 

 

ジョギングの後 シャワーを浴びた永瀬は濡れた髪をタオルで拭きながらパソコンのメールを見ていた。

昨日の深夜に 編集部の美月のパソコンにメールで送った原稿を
出社した彼女が確認したのだろう。

とりあえず安堵した永瀬に パソコンがまた新着メールが届いたことを知らせる。

 


  再び、大野です。
  早速 原稿を読ませていただきました!
  素晴らしいです。いきなり冒頭から引き込まれてしまいました。
  ヒロインの心理描写が細やかに表現されていて…
  すみません、ぴったりの言葉が出てきません。
  確認したいこともありますので またお伺いしてもよろしいですか?
  ぜひ、例の件もご了承していただきたいのですが。
  よろしくお願いします。

 


例の件…? 作者紹介と写真のことか…

何度も断ってるのに なかなかしぶといね

 

そんな事を思いながらも永瀬の顔には微かな笑みが浮かぶ。

ミネラルウォーターを飲んで一息つくとガラスウォール越しの風景を眺める。

秋が深まるとともに 近くの森林公園の木々が色づき始めている。

澄みきった青空の下で それは鮮やかに映えて街並みを
味わい深いものにしている。

 

 

“あなたの笑ってる顔を久しぶりに見たような気がして
 …それは今の彼女のせい?”


大きな瞳をくるっと動かしながら、悪戯っぽく笑っていた奈緒がいた

あの優しい笑顔は出会った頃のものと同じだった

小説を書くことだけに夢中になって振り返ることもしなかった日々

いつも自分の後ろには彼女がいたのに

奈緒がそこにいるのは当たり前だと思っていた日々

彼女はいつも自分の冷たい背中だけを見ていたんだ

一度でも振り返って奈緒を見れば その笑顔の中に寂しさが満ち溢れていると

出会った頃の笑顔とは変わってしまったと 気づいたはずなのに…

 

 

…なぜ 今さらこんな事を?


永瀬はふっと笑うとうつむいた。

その時 ガラステーブルの上に置いてあった携帯電話が着信を告げた。

着信画面に“大野”という文字が出ていた。

 

「はい」

『おはようございます!大野です。
 もう起きてらっしゃいましたか?
 これからお伺いしてもよろしいでしょうか。
 頼まれていた本もお持ちしますね!
 あと、何か召し上がりたい物とかありませんか?
 差し入れをしたいと思いまして
 ケーキとか甘いものはお好きですかーー?』

 

受話器の向こうから聞こえてくる声は賑やかで元気だった。

明るく輝くような美月の笑顔が浮かんでくる。

永瀬は笑いを堪えながら言った。

 


「…何もいらないから早く来てください」

 

 

 


「わあ、いい香り…」

永瀬のマンションの部屋に入ると同時に 美月は声を上げた。

明るい光が差し込むリビングルームに 永瀬が奥のキッチンから現れた。

彼は両手で皿を2つ運んで来て テーブルの上のランチョンマットの上に置いた。


「先生?」

美月は驚いて永瀬を見た。


「昼食はまだでしょう? 少し早いですが、どうぞ」


「あの…」


「海老とみず菜のパスタ バジル風味です。 嫌いですか?」


「いえ! そんなことはないですけど…あの、これは
 先生がお作りになったのですか?」


「他に誰も作ってくれる人はいないので」


「あの、いつかお会いした家政婦さんは?」


「一日おきに来てくれますが 今日は来ない日ですね」


「そうなんですか」


「冷めないうちにどうぞ」

 


「あ、はい。…では せっかくですのでいただきます」

美月は神妙な面持ちでその椅子に座った。

 

 


「美味しい!」

またまた美月は驚いて声を上げた。

「海老がプリプリしてて、みず菜もシャキシャキしてて…
 このバジルの香りが何とも言えないくらい良いです!」

感動している美月の言葉に、思わず永瀬は吹き出しそうになった。


「…あの、わたし…また何か変な事言いましたか?」

美月は決まり悪そうに 向かい側に座っている永瀬を見る。


「いえ、何だかグルメ番組のレポーターみたいだなと思って」


「え、そうですか?」

美月は思わず顔が熱くなった。


「でも、先生がこんなにお料理が上手だなんて思いもしませんでした」


「このくらいは誰でもできますよ」


「……」


えっと… わたしは自信ありませんけど…

料理は ほとんどしたことがないので、って自慢してる場合じゃない?


美月は内心、焦っていた。
今さらながら 母親まかせの生活を送っていることが恥ずかしくなってきた。


「学生の頃から一人暮らしをしてたので
 自炊するしかなかったんです」


「先生はK大の文学部のご出身ですよね。
 …あの、実はわたしもそうなんです」


「…専攻は?」


「社会学科です」


「じゃあ、准教授の深沢のことは知ってますか?」


「深沢先生ですよね。わたしが在籍してた頃は講師になって 
 間もない頃でしたけど 今は准教授になられて
 相変わらず研究熱心な方のようです
 あの、先生のお知り合いですか?」


「彼とは高校も同じで 今でも付き合いがあります」


「同級生だったんですね。じゃあ、深沢先生の奥さまにもお会いした事が?」


「ありますよ」


「そうなんですかー? 素敵な女優さんですよね。
 きっと実物はTVで見るよりもっと可愛いんでしょうね」


「そうですね。なかなか魅力的な人です」


「…先生はどうして…」


「はい?」

                                                                                                                                                                                                            
美月はそこまで言って、慌てて口を押さえた。


「いっ、いえ!何でもありません。
 …それにしても、ホントに美味しいわ~、このパスタ」


永瀬はフォークを動かす手を止めて 黙ったまま美月を見ている。

視線を感じた美月は 顔を上げて永瀬を見つめ返した。


「…でも 先生はずるいです」


「何が?」


「こんな風に美味しいランチをご馳走になったら
 わたし、先生にお写真の事とか…しつこくお願いすることができなくなります」


「……」


「あ…もしかして、これは先生の作戦ですか?」


「違いますよ」


「じゃあ…」


「先日、重い荷物を持ってくれたお礼です」


「え?」


「途中で逃げられましたが」


「あ…」

美月は思い出して決まり悪そうに笑った。

「すみません、荷物持ちをすると言って 無理について行ったのに」


「いえ、あの状況だったら僕も逃げ出したと思いますから」


「…先生?」


美月は驚いて永瀬を見つめた。


「…僕は以前にも逃げ出したことがあるんです」


永瀬は静かに言うとひんやりと微笑んだ…。

 

 

 


   *  *  *  *  *

 

 


「…で、恋に落ちたってわけね」

美月の友人の麻美が顔を覗き込んだ。


「違うわ。…ただ先生の横顔が寂しそうだったから
 …あんな顔を見たのは初めてだから」


「だから?」


「傍にいてあげたい…って思ったの」


「だから 恋ではなく同情だと?」


「同情だなんて」

美月は言葉に詰まる。

同情なんかじゃないわ …ただ、どうしても聞けなかった

“先生は どうして奥さまと別れたのですか?”

 


「美月、人が恋に落ちる時って、どんな時か知ってる?」


「え?」


「意外性に出会った時…
 いつも頑固で無愛想な男が 美味しいパスタを作ってくれたり
 寂しそうな顔をした時…?」


「…それじゃまるで食べ物に惹かれたみたいじゃない」

美月はくすっと笑うとうつむいた。

そして、聞こえないくらい小さな声で呟いた。


「…でも、それもあるのかな」
 

 

でもね、麻美


わたしは 永瀬先生と初めて会った時に


雨に濡れたあの人が泣いているように見えたのよ


もしそれが “意外性のある出会い”だとしたら


わたしは あの時にはもう恋に落ちてたの…?

 

 

 

 

 

「あ、航平君!ここよ!」


麻美は手を振りながら大声で叫んだ。

いつもの居酒屋で話し込んでいた美月と麻美だったが 
美月はいつにも増して ビールやサワーを何杯も飲みまくった。

その挙句、酔っ払ってテーブルに突っ伏して寝てしまった。

そんな美月は携帯電話が鳴っても起きる気配がなく
着信画面に“航平”とあったので代わりに麻美が出たのだった。


「航平君が来てくれて助かったわ。
 あたし一人で この酔っ払いをどうしようかと思ってたの」

麻美は テーブルに近づいてきた航平を見て笑いかけた。

そして、寝込んでいる美月の頭を指で突っついた。


「すみません、ご迷惑をかけました。
 後は僕が家まで連れて行きますので…」

航平は頭を下げると、美月の隣に座り美月の名前を呼んだ。


「美月ちゃん、家に帰ろう」


航平は美月の肩に手を置くと静かに揺り動かした。

だが美月は何も答えない。どうやら熟睡してるらしい。


「もう少し意識が戻ってからの方がいいかもね。
 きっとビクともしないわよ、この子」


「しょうがないなあ、美月ちゃんは」

航平は美月の寝顔を覗き込むとふんわり…と微笑んだ。

そして 彼女の髪を何度も優しく撫でた。


「…航平君ったら、本当に美月が好きなのね。
 何だか、見てるだけでこっちも切なくなるわ」

麻美は さっきまで違う男のことで悩んでいた美月を思い出して
航平に同情すら覚えた。


「…なのに、美月ったら…蹴っ飛ばしてやりたくなるわ」


「え?」


「ううん、何でもない。 美月は幸せだわ、こんなに思われて。
 でも、本人はちっともわかってないのよね」

 
「それは…まだ僕がまだ頼りないから。
 早く一人前になって美月ちゃんをまるごと受け止められる男にならないと
 だめなんです」


「うっ、何て けなげな…」

麻美は純粋な航平を見てうるうるしてしまった。


「よし、わかった! わたしは航平君の味方よ!
 お姉さんは 純な君を応援するわ!
 じゃあ、航平君の恋が成就するように乾杯しよう!
 すみませーん! ビールをお願いねー!」

麻美は大声でビールを注文すると、航平に笑いかけた。


「……」


やはり酔っている麻美の迫力に負けそうな航平は 一瞬 困ったような表情を
見せたが すぐに気を取り直して はい!と天使のように微笑んだ。


「ううっ、やっぱり、かわいいーーー!」

麻美は両手で頬を押さえて、ハート型の視線を航平に向けた。

 

 


帰りのタクシーの中でも 美月は目を覚ます事もなく航平に寄りかかっていた。

航平は美月の背中に腕を回して 彼女の身体を抱き寄せた。

美月は眠りこけたまま航平に身を預けている。

航平は美月の顔を手で引き寄せて髪に顔を埋める。


「美月ちゃん」

耳元で名前を呼んでも返事はない。

 

彼女のあどけない寝顔を見てるだけで 航平の胸には熱い思いがこみ上げてくる。


このまま美月を抱いてどこかに連れて行ってしまいたい


今までプロポーズしてきたのは本気なんだと告げたい


そして きつく抱きしめて、キスをして、もっと強く抱きしめて、またキスをして
美月の全てを自分のものにしたい


いつも優しい航平も やはり一人の男だった。


今、この瞬間 彼の腕の中にいるのは 無防備でやわらかくてしなやかで 
航平が愛してやまない たった一人のひと…美月だった


甘い香りがする髪 長い睫毛 白くてすべすべした頬


そして…やわらかそうな唇

 

 

「美月ちゃん…起きないと襲っちゃうよ」 


「ん…」


「またキスしちゃおうかな」


「う…ん」


「あれ?してもいいの?」


「う…ん」


思わず 航平の口元にやわらかな笑みが浮かぶ。


しょうがないな 美月ちゃんは…

また呟く そして 揺れる…切ない瞳

 

その時 無情にもタクシーがゆっくりと滑るように停車する。

 

どうしてこんなに近いんだ?

もっともっと 美月の家が遠ければいいのに…


街灯に照らされた美月の自宅を見て、航平はがっかりしたように項垂れた。


そして、もう一度 彼の腕の中にいる片思いの恋人に囁く。

 

 

「美月ちゃん…着いたよ」

 











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