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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1355582/1892823
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 6 HIT数 5450
日付 2009/04/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -6- 純 愛
本文

 



-6-  純 愛 

 



「いたたた…」

美月は頭を押さえながら冷蔵庫を開けると ミネラルウォーターを取り出した。

そして、ゴクゴクと水を飲むと大きく息を吐いた。


「この酔っ払い娘! 一体、どのくらい飲んだの!」

母の美沙子のかん高い声が家中に響き渡る。


「ちょっ、ちょっとお母さん…頭に響く…」

美月は顔を歪めて耳を押さえる。


「自業自得よ!
 もう、航平君が送ってくれなかったら 今頃どうなっていたか…
 その上 あんなことまで…」


「え?…あんなことって? 航平が送ってくれた?」


「本当に何にも覚えてないのね。
 麻美ちゃんから美月のことを聞いて 航平君が迎えに行ってくれたのよ」


「うそ…」


「泥酔してる美月を航平君がおぶって部屋まで運んでくれて」


「やだ、全然覚えてない」


「それだけでも申し訳ないのに…美月、あんたって子は!」


「え? わたし?」


「もう、お母さん 恥ずかしくて航平君に合わせる顔がないわ!
 まったく 美月、あんたはどうしようもない娘ね!」


大雑把で、いい加減で、何も出来なくて
その上 記憶を無くすほど飲んだあげく、あんなこと…
お母さん、これじゃ 航平君に美月をお願いなんて言えないわ

 

「ちょっと、お母さん? あんなこと…って わたし、何かした?」


きょとんとしてる娘を見て、美沙子は思いっきり睨みつけた。

そして、昨夜の美月の醜態を身振りを交えながら 
少し、いや かなり大袈裟に話し始めた…。

 

 

 

母親の小言を背中で受け止めながら 美月は自分の部屋に逃げ込んだ。

そして、力が抜けたようにベッドに倒れこんだ。


いたた…また頭がフラフラしてきた…


あ~あ、美月はため息とともにどっぷりと自己嫌悪に陥る。


ホントに…わたし…そんなことを?

しかも、何も覚えてない? 

そんなバカなーーー!

でも、お母さんがそんな嘘をつくはずないし…

うん、すごく大袈裟に言うかもしれないけど…まるっきり嘘は言わない

 

  ………

    ……………


ホントに…わたし…航平に…?


わーーーん、思い出せないよ……

 

 

しばらく、じっと考えていた美月は ゆっくりと起き上がると 
椅子の上に置いてあったバッグの中から携帯電話を取り出した。

 

「…もしもし、航平?」


『うん、美月ちゃん 大丈夫?』


「その…昨夜はお世話になったみたいで…」


『…やっぱり覚えてないんだ』


「う…ん、ごめん」


『いいよ。 その代わり、昨夜は美月ちゃんに愛情たっぷりのお礼をして
 もらったから』


「こっ、航平!それって…」


『美月ちゃんがあんな情熱的なキスをしてくれるとは思わなかった』


「こっ、航平、あのね」


『ごめん、美月ちゃん。 これから物理学の実験なんだ。
 終わったら電話するから、どこかで会おうよ』


「え、日曜日なのに大学にいるの?」


『うん、教授の実験の手伝いをしてるんだ』


…ってことは、あの…その近くにT大の教授とか、学生とかたくさんいたりして…


『うん、みんなこっちを見て笑ってる』


ああ、航平はそんな子だったわ…純粋無垢で屈託無くて

周囲が自分をどう見てるかなんて気にしないで

わたしには航平の嬉しそうな笑顔が目に浮かぶ


そして受話器の向こうで 航平は囁くのだった。


『じゃあ、美月ちゃん また後で。
 …大好きだよ…」


愛の告白の後に “ちゅっ”という キスの音が美月の耳元で響いた。

 

 


「ラブラブですねーー、桜庭君」

工学部教授の小沢がニコニコしながら航平に言った。


「はい、おかげさまでー!」

航平も嬉しそうに答える。


「もしかして、いつか君が話していた女性というのが 今の電話の相手ですか?」


「はい、そうです」


「君が好きな研究をするように勧めてくれたんでしたね」


「はい。でも、多分 本人は忘れてると思いますが」


「そうそう、何気なく言ったひと言が 相手の転機に過大に影響するというのは
 けっこうあることです」


「教授もそんな経験が?」


「はは、私は昔 家内に “人の役に立つ研究をしている貴方は素敵です”と
 言われたから この道に進んだようなもので、動機はかなり不純でした」


「そうなんですか」


「我々、理系の人間は論理的に物事を考えますが、その反面 
 一度 甘美な経験…恋愛をすると非論理的な感情に流されやすい傾向に
 あるようです」


「その感情はナノマテリアルよりも神秘的で複雑ですねー」


「そうそう、物理と恋愛は神秘的な出会いから始まるものなんですよ」


航平と教授の会話を聞いていた周りの学生達は この二人が何を話してるのか
さっぱりわからない、という顔をしながら首を傾げた。

 

 

 


  へえ、航平は算数と理科が得意なんだーー!


  うん 美月ちゃんは?


  あのね航平 小学校と違って高校の数学と物理・化学はすご~く難しいの


  そうなんだー


  航平も高校生になったらわかるわよ


  美月ちゃんと同じ高校にいきたいな


  残念でしたー その頃 わたしは卒業してるよ


  りゅうねんしない?


  …不吉なこと言わないでよ…っていうか何でそんな言葉知ってるの?


  お母さんとお兄ちゃんが騒いでた


  え、洋平ちゃん 大学留年しそうなのかな


  よくわかんない ねえ、美月ちゃんは何が得意なの
  音楽と体育? キャッチボールもうまいね

  
  あのね航平 わたしは勉強よりも本を読むのが好きなの
  だから将来は作家になりたいの…あ、これは他の人にはナイショね


  美月ちゃんの本なら僕が全部買ってあげる!


  あは、航平のおかげでベストセラーになるかもね
  あ、じゃあ 航平は大きくなったら好きな理科の博士になって!
  いろんなものを発明して、みんなを驚かせて


  そしたら美月ちゃんは僕のお嫁さんになる?


  ぷっ、航平ったら またそんなこと言って!
  小5のくせにホントにませてるんだからー。
  でも…そうね 航平が本当に博士になったら考えてもいいわよ
  何だかかっこいいじゃなーい?
  

 

美月はそう言うと大きな瞳をきらきら輝かせて楽しそうに笑った…

 


夕暮れの公園で なぜか二人でキャッチボールをしていた時

どうしてそんなことをしていたかも忘れたけど

あの時の美しい夕焼けと美月の笑顔は 今でもはっきり覚えている

 

これから先どうなるかなんてわからないけど

あの時から 僕の未来には美月ちゃんがいるのだと思うようになったんだ

美月ちゃんは ずっと僕の傍にいるのだと…

 

 

 

あの日と同じ晩秋の夕暮れ時になっていた。

高い梢からひらひらと黄金色の葉が舞い落ちてくる。

たくさんの落ち葉が風に流れるのを眺めて その中の一葉が
石畳の上に辿り着くまで 美月の視線が追い続ける。


風と夕日とイチョウの木 そんな風景に溶け込むように美月が佇んでいた。

 

「美月ちゃん!」


航平は駆け寄って そのまま美月を抱きしめた。

突然の出来事に美月は短い叫び声をあげる。


「こ、航平?どうしたの?」


「会いたかったんだ…美月ちゃんに」


「航平?」


「…美月ちゃん、頬が冷たいよ」


「うん、少し寒い」


「何でここで待ってるって言ったの?」


「今、T大のイチョウ並木が見頃だって聞いて
 それと…反省の意味も含めて 頭を冷やそうと思ったの」


「しょうがないな。それで風邪でもひいたらどうするんだよ」


「大丈夫よ」

美月はそう言うと航平の腕を解いて彼から離れた。

航平は自分の首に巻いていたマフラーを外すと
美月の肩にかけてゆっくりと巻いてあげる。


「いいわよ、航平が寒いでしょ?」


「僕は大丈夫、若いから」


澄ました顔で言う航平を 美月は軽く睨むとすぐにぷっと噴き出した。

 

 


イチョウ並木の石畳に落ちた黄金色の葉が かさかさと乾いた音をたてている。

ベンチに腰を下ろした美月と航平は 舞い落ちてくる枯葉を見ている。

 

「…それで、家に着いても 美月ちゃんは目を覚まさないし
 だから背負って そのまま美月ちゃんの部屋に運んだんだ」


「それで?」


「美月ちゃんをベッドに下ろして、そして…」


「そして?」


「せっかくだから おでこに軽くキスしようとして顔を近づけたら…」


「航平!」


「そしたら 美月ちゃんがいきなり起き上がって僕の肩を掴んで…」


「掴んで?」


「ベッドに押し倒して すごい勢いでキスしてきた」


「うそっ」


「本当だよ」


「…航平は抵抗しなかったの? その、押し退けるとか、突き飛ばすとか…」


「僕がそんなことすると思う?」


「う…」


「それは、突然だったから驚いたけど
 でもすぐに、ラッキー!なんて思ったりして」


「……」


「もう美月ちゃんのされるがまま、全ておとなしく受け入れて…
 でも、おばさんに見つかったのはまずかったかな」

航平はその時のことを思い出して笑い出した。

 

「ああ、もうわかった! もうそれ以上言わないで」

美月は頭を抱えてベンチでうずくまった。


“美月ったら 航平君を押し倒して強引に…してたのよ。
 純なあの子に何てことしたの! お母さんは恥ずかしい!”


母親の美沙子の言葉を思い出していた。


「もう、最低だわ わたし! 
 いくら酔ってたとはいえ…しかも全然覚えてないんだもの…」

絶望的な気分になって美月は泣きたくなった。


「ごめんね、航平」


「何で謝るの? 僕は嬉しかったよ」


「え?」


「白状すると 帰りのタクシーの中で 僕はこのまま美月ちゃんを連れて
 どこか遠くに行っちゃおうかと思ったりしたんだ」


「航平」


「でも すぐに家に着いちゃったから未遂に終わったけどね」


隠し事のできない素直な航平の告白が胸に響く。

美月は意を決したように言い始める。


「航平、あのね」


「わかってるよ。 僕のことは弟みたいにしか思えないんだろう?」


「わたし…航平のこと好きよ。
 だって、航平が生まれた時から知ってるもの」


「……」


「幼稚園の入園式も小学校の入学式の時のことも覚えてる。
 ランドセルを背負った航平は小さくてすごく可愛くて
 性格も素直で純粋で…頭も良くてスポーツも得意で
 一人っ子のわたしには自慢の弟だったの」


「美月ちゃん」


「だから…航平の気持ちを知ってても
 それ以上のことは考えられなくて」


「じゃあ、これから考えて」


「航平」


「これから僕の事を弟じゃなく一人の男として見て…
 美月ちゃんに認めてもらえるような男になるから
 僕の事をずっと見てて」


航平は美月の手を取ると 一緒に立ち上がった。

そして、正面から向き合うと美月の肩に手を置いた。

 

「航平…?」


「僕は…美月ちゃんのことを諦めない」


航平の真剣な眼差しに美月の心は囚われてしまう。

 

「ばか…ね、航平は…」


「美月ちゃん」


「わたしのどこが…そんなに好きなの?」


「全部」


「…こんなに欠点だらけなのに?」


「美月ちゃんの欠点? そんなの欠点なんかじゃないよ」


「航平はわたしに甘いわね」


「うん」


「もうっ」


「だから美月ちゃんも僕を甘やかしてくれないかな」


「え?」


「今、抱きしめてもいい?」


「え」


「キスはしないから」


「……」   …あ、しないんだ…


「…もしかして、がっかりしてる?」


「してないわよ!」


慌てて否定する美月を見て 航平はくすくすと笑い出した。

そして、いつものように天使の微笑みを浮かべながら言った。


「隠してもだめだよ。
 美月ちゃんは嘘をつくのが下手だね…」

 

 

…キスして欲しい…って思ってるよね?

 


航平は美月の顔を両手で包み込むと 優しくやわらかに美月と唇を重ねた……。




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