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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 7 HIT数 5317
日付 2009/04/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -7- 気になる存在
本文

 



-7-  気になる存在   

 

 

美月は目を閉じて 航平のキスを受け止めていた。

ふわふわとしてて温かな航平の唇にうっとりと酔いしれる美月。
 


「大好きだよ、美月ちゃん」


航平は静かに言うと また美月と唇を重ねてくる。

優しく、しっとりと包み込むように唇を合わせ

柔らかく舌先を絡めると 次第に口づけは濃厚になっていく。

 

  航平…


  何?


  だめ…こんな所で


  なぜ?


  だって…ここは航平の大学…

 

二人の唇が離れたわずかな合間に 美月がため息まじりの声で囁く。


誰も見てないよ…航平は短く答えると また美月の唇を奪う。

 

もう抵抗する事などできなかった。

まるで、そうする事が当然のように航平は美月を抱きしめ
キスを繰り返した。

美月の手は航平の背中に回り、同じように彼を抱きしめていた。


その時、美月にとって航平は もう

“弟”でも“弟みたいな子”ではなくなっていた。

 
秋の夕暮れ時 美月の身体が震えるのは寒さのせいではなかった。

航平の腕に包まれて 美月は目を閉じてその胸に抱かれていた。

 

 

 

 

 

美月は ぼんやりとガラスウォールから外を眺めている。

そして、ため息をついた後、自分の唇に指を当てて
何か思い出したのか 慌ててうつむいた。


永瀬は首を傾げて訝しげにそんな美月を見ている。


…赤くなった?  それに笑ってるし…

面白い
  

永瀬はずっと美月を観察していた。

今まで 元気で明るくて賑やかだった彼女がぼうっとしている。

うっとりと目を潤ませて遠くを見ている。

 

…これは…もしかして?

 

「大野さん」


永瀬は彼女の名前を呼んでみる。

返事がないので軽く咳払いをひとつ。

それでも気づかないので、もう一度 名前を呼んでみる。

美月ははっとして永瀬を見る。


「…大野さん、どうかしましたか?」


「は?いっ、いいえ!」


「今日はずっとうわの空ですね」


「すっ、すみません!」


「原稿を読むのも進まないようだし…つまらないですか?」


「いっ、いえ! そんなことありません!
 申し訳ありません、すぐに読みますから…」

美月は慌てて立ち上がり謝罪しようとしたが、その拍子に彼女の手から
原稿が滑り落ち 床の上にばさっと広がってしまった。


「すみません!」

狼狽した美月は床に屈みこんで原稿を拾おうとした。

そんな美月を見て、永瀬は冷やかな視線を向ける。

突然、彼の中に今までにない感情がこみ上げてきた


「大野さん」


「はい」


「僕はあなたのプライベートな事に口出しする気はありません。
 そんなことに興味はない。
 だが、仕事に私情を挟むのは止めてほしい」
 

「先生…?」


「少し外を走ってきます。
 その間に原稿を読み終えてください」


「は…い」


永瀬の静かな口調は かえって美月の心に棘のように突き刺さった。
  
だが、永瀬はそんな美月を気に留めることもなく部屋を出て行く。

後に残された美月は 力が抜けたように床の上に崩れ落ちた。

 

 


いつもよりスピードを上げて走っていた。

晩秋の冷たい風が永瀬の頬に当たってくる。

彼は自分がイライラしてることに気づいていた。

いつもと違う彼女の様子を見て苛立った。

今まで彼女は どんな時でもまっすぐに永瀬を見ていた。

二人で仕事をしている時には 他の事には目もくれずに永瀬の小説ことを
考えていた。


それが 今日は…


彼女が他の事に関心を持っているのがわかったから…苛立った?

他の誰かを思っている彼女が…面白くなかった?


永瀬は思わず足を止める。

そして膝に手を当てて屈みこんだ。

肩で激しく息をしながら、永瀬は自分の中に芽生えた感情が何か考える。

永瀬は顔を上げて呟いた。


「…私情を挟んでるのは僕の方だ…」

 

 


原稿を読み終えた美月はそれをテーブルの上に置いた。

そして腕時計を見て大きなため息をついた。


「…先生、遅いな…」


また気分が落ち込んできた。


…ばかなことをしてしまった

先生の大切な原稿を読んでる最中に 他の事を考えてるなんて
こうして何度も先生の所に来て、話をして、少しはわたしのことを
信用してもらえるようになったんじゃないかと
最近になって やっとそう思えるようになったのに…


「あーー!もうっ、わたしのばか、ばか!!!」


それに甘んじて油断して 先生を怒らせてしまった

ううん、怒らせたんじゃなく失望させてしまったんだわ


とにかく先生が帰って来たら謝るしかない

一生懸命謝って許してもらうしかないんだわ

 

美月はもう一度原稿を読もうと手を伸ばした時だった。

インターホンが来客を告げた。

美月は戸惑いながらモニターを覗き込み、あっと声を上げた。

画面に映った人物は 永瀬の元妻の森下奈緒だった。

 


「あの、お久しぶりです。
 S社の大野です。先日、豊洲の書店でお会いした…」


「まあ、あの時の?」


「はい。…それで あの、永瀬先生は 先程、走ってくるとおっしゃって
 まだお戻りにならないんです。
 あ、でも 今 ドアを開けますから」


「あ、いいの。…聡さんがいない時に部屋に入ったりしたら叱られそうだし
 怒ると怖いのよ、知ってるでしょう?」

モニターに映った奈緒は明るく笑っている。


「でっ、でも、このままお帰ししたら もっと叱られそうですから!」

美月は慌てて言った。


「あら、そんなことないわ。
 今日はちょっと知らせたいことがあって来たんだけど
 事前に連絡もしないで突然だったから 仕方ないの。
 また出直して来ます。…えっ?」


「え?」


奈緒が横を向いたと思ったら、別の声が聞こえてきた。


「こんな所で何してるんだ、早く中に入りなさい」

少し威圧的な永瀬の声が響いてくる。

美月は思わず自分が緊張するのがわかった。

 

 

部屋のソファに3人が座っている。

うう…やっぱりこの雰囲気には慣れそうもない…と感じた美月は早々と
申し出た。

「せっ、先生! 今日はもう失礼しますね。
 もう一度原稿を熟読して、また明日、来ます」


「だめです。今日中にチェックして編集部に持ち帰ってください」


「え」


「聡さんったら、相変わらず厳しいことを言うのね」

奈緒が呆れたように永瀬を見て、その後 美月に笑いかける。


「いえ、あの わたしがミスしたせいなんです」

美月はしゅんとしてうなだれる。

「先生からいただいた原稿を読んでる最中に、ぼんやり考え事を
 してしまって…
 あの、原稿はとても良かったんです。決してつまらないなんてことは
 なくて…
 読者にも好評で…おかげ様で売り上げも伸びてまして・・
 珍しくわたしも編集長に褒められたりなんかして
 …あ、わたしが何かしてるってわけではないのですが」

美月はうつむいたまま指を弄りながら喋り続けている。
 

永瀬は驚いてそんな美月を見ている。


奈緒は唖然としていたが、そのうちにくすくすと笑い出してしまった。

そして面白そうに永瀬を見上げながら言った。


「聡さんったら、それで面白くなくて大野さんに意地悪したのね?」


え?と美月は顔を上げる。


「まるで小学生みたいに子供っぽいのね」

奈緒は明るい笑顔を向けながら永瀬の顔を覗き込んだ。


「…本当は気になるのに無関心なふりをするのよね?」

 

その言葉に永瀬は眉をしかめて黙り込んでしまった。


訳のわからない美月は きょとんとして永瀬と奈緒の顔を交互に
眺めていた。

 

 


美月と奈緒は森林公園の中をゆっくりと歩いていた。

すっかり秋めいて 赤や黄色に色づいた木々の葉が風に揺れている。

二人ともブーツを履いて かさかさと落ち葉を踏みながら肩を並べて歩いているのはどこか不思議な感じがした。

さらさらと、ストレートの長い髪を風に揺らせながら 
奈緒は思い出したようにくすくす笑い出した。


「奈緒さん?」


「あ、ごめんなさいね。 さっきの聡さんの顔を思い出したら
 何だか可笑しくなっちゃって」


「そうなんですか」

あの先生のことをからかって困らせるなんて、やっぱりすごい人かも…

そのまま黙ってしまった美月を見て奈緒は微笑んだ。


「…聡さん…いえ、永瀬とは彼の作品を初出版する時に知り合ったの」


「え?」


「その時、わたしも初めて装丁のデザインを担当する事になって
 お互いに新人で目標も同じだったからすぐに打ち解けて
 ブックデザインをどんなものにするか、熱くディスカッションしたりしたわ」


「わかります。ブックデザインって本のコンセプトも読みとって
 読者が手にとって見たくなるようなデザインも考えて
 ある意味、作家の方とのコラボレーションですよね」


「美月さんったらいいこと言ってくれるじゃない?
 そうね、永瀬とは仕事でのコラボは上手くいったけど
 私生活ではそうではなかったってことなんだわ」


「奈緒さん?」


「わたしは永瀬よりも仕事を選んだのよ」


「……」


「やだ、わたしったら!
 会ってまだ二度目のあなたに こんな込み入った話をしてしまって!
 ごめんなさいね、こんな話、聞きたくないわよね」


「いいえ、…でも、どうしてわたしに話してくれるのか わかりませんけど
 だって、わたしは ただの編集者で未熟者だし…」


美月はめずらしく弱気になっていた。


「美月さんがとても素直で明るい人だから…かな」


「え?」


「実はね、わたし 今度 結婚するの」


「え!」


「今日はね、その事を永瀬に伝えようと思って来たの」


「そうだったんですか…。おめでとうございます!」


「ありがとう」


「あ、それじゃ、今からでも先生に
 お伝えしたほうがいいんじゃないですか?
 …って、よけいなお世話ですね」


「ううん」


「でも、先生はきっとショックを受けるかも…」


「え?」


「先生はまだ奈緒さんのことを…」


「それは違うわ。 だって、永瀬は…」


「え?」


「わたしは…自分だけ幸せになっていいのかって思って…
 それで、そうなったらいいなと願ったのかも」


「はい?」


「ごめんなさい、わたしの方こそよけいなお世話だったわ」


「奈緒さん?」


「ううん、何でもないの。
 永瀬にはまた別の機会に話すわ」


「いいんですか?」


「それよりお腹が空いちゃった。
 何か食べていかない?
 会社に戻るにしてもお昼は食べるでしょ?
 あ、確かこの近くにパスタの美味しいお店があったはず」


「わあ、いいですねー」

やっぱり奈緒さんもパスタがお好き? 美月はふと思う。

きっと、先生は奈緒さんにも何か作ってあげたのよね…

美月は胸の奥が微かに痛むのを感じる。

 

「過去の失敗にも懲りずに、また結婚する気になった女の話を
 聞かせてあげる」

奈緒はさばさばした様子で言う。


「…相手の男性はどんな方なんでしょうね。」


「大らかで優しくて、いつも笑わせてくれるの。一緒にいて楽しい人よ。
 外見は…永瀬にはかなり負けるけど」


奈緒は明るく笑いながら言った。

美月もそんな幸せそうな奈緒を見て嬉しくなった。


秋も深まって感傷的になるはずだった。

でも、元気な二人の女性は美味しいものを食べてお喋りをするという予定に
心を躍らせていた。

 

 


その頃 永瀬は……

ガラスウォールから外の景色を眺めていた。


“本当は気になるのに無関心なふりをするのよね?”


さっきの奈緒の言葉が頭から離れない。

 

でも、どうして奈緒はここに…?

 


彼は眉をひそめ、一人で悶々と考え込んでいた……。












































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