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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 8 HIT数 5312
日付 2009/04/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -8- サザンを聴きながら
本文


 



-8-  サザンを聴きながら  

 


「…おかしい…」

ぼそっと美月が呟いた。


「どうした?美月 浮かない顔して」

S社編集部の隣の席に座っている秋山が声をかけた。


「う…ん、永瀬先生と連絡がとれないの」


「いつから?」


「今朝から」


「何だ」


「何だって何よ?」


「だって、まだ昼過ぎだぜ?…大袈裟じゃないか」


「え、でも 毎日、午前中には連絡取り合ってるもの」


「嘘だろ~?」


「嘘じゃないわ。
 毎日、先生とはメールか電話で原稿の進行状況とか話してるわ」


「それって、相手にしてみれば かなりうっとおしいんじゃないか?」


「え?」


「俺なんて 阿川先生とは一週間に2,3度しか話してないぜ。
 自宅には原稿を取りに行くぐらいだし…」


「秋山君は冷たいのよ。
 担当編集者なんだから、もっと愛がなくちゃだめよ」


「何だよ、愛って」


「何って…いちばん最初に原稿を読ませてもらうんだから
 大切に…こう、何て言うか愛と尊敬をこめて接するべきなのよ」


「まるで恋人に対して言ってるみたいだな。
 …もしかして、惚れたか?」


「ちっ、違うわよ!!!」

美月は興奮して立ち上がった。

秋山は驚いて目を丸くしている。


「もうっ、何でそうなるの! 
 これは編集者としての気持ちであって…」


「……」


「もういい!」

美月はそこまで言うと、秋山に背を向けて凄い勢いで編集部の部屋から出て行った。

 

「おーい、大野はどうかしたのかー?」

編集長の森田が声をかけてくる。


「いえ、何でもありません」

秋山は手を振りながら否定する。

そして、美月が出て行ったドアの方を見つめて呟いた。


「…これって、まずいんじゃないの~、美月さん」

 

 


何度、永瀬の携帯電話にかけても繋がらない。

留守電にメッセージを入れても返事は来ない。

美月の胸には不安が過る。

あのことがなければ、美月だってこんなに動揺しなかった。

永瀬のマンションに奈緒が訪ねた日から数日が過ぎていた。


もう先生は奈緒さんから結婚の事を聞いたかしら?

そうだとしたら…きっと、先生はショックを受けて…

もしかして一人で寝込んでる? 

…まさかね…

あの自信満々な性格からして 

…でも、そんな人に限って意外と脆かったりして…

じゃあ…ふらっと傷心一人旅?

冬の日本海の岸壁に佇んで…そのまま冷たい海の中に…

 

「そんなのダメーーー!!!」

美月は悲鳴を上げると 物凄い勢いで駆け出していた。

 


東京メトロの駅に向かう途中で、美月はまた別の相手に電話をする。


「…もしもし、奈緒さんですか? 大野です。突然、すみません。
 あの、永瀬先生と連絡が取れないんですけど 何か…ご存知ありませんか?
 あの事はもうお話になりました? すみません、こんなこと聞いて…
 でも、他に聞ける方がいないので…心配なんです」

美月は 足早に歩きながら早口でまくし立てる。


「…そうですか」

奈緒の返事を聞いた美月は 思わず立ち止まり、落胆したように答えた。

 

 

 

永瀬のマンションに来てインターホンを鳴らしても何の応答もなく
やはり、彼は不在のようだった。


どうしよう…本当に何かあったのかもしれない

ううん、違う! きっと、もうすぐ戻って来るわ…


美月は心の中で叫びながら エントランスに佇んだ。

そして、外の様子をうかがいながら これからどうしようかと考える。

少し落ち着いた美月は思い出していた。


そうだった

初めて永瀬先生に会ったのはここだったわ

突然、雨が降ってきて…先生はびしょ濡れでここに駆け込んできて…

何だかとても寒そうに見えた

横顔が寂しそうで…

わたしは何も言えないまま 先生を見ている事しかできなかった

…先生?

あの時 先生は何を考えていたんですか?

何か悲しい事があったんですか?

もっと先生のことが知りたい…

そう思うのは迷惑ですか?

 

 

しばらくの間、美月がマンションのエントランスで途方に暮れていると
彼女の携帯が着信を告げた。

慌てて出ると、それは奈緒からの電話だった。


『…もしもし、美月さん? わたし、思い出したの。
 カレンダーを見てたら思い出して…もしかしたら…』


美月は携帯電話をぎゅっと握り締め 奈緒の言葉を聞いていた。

 

 

 

 

   * * * * * *

 

 

 


穏やかな波が砂浜に打ち寄せてくる。

永瀬は海岸に佇み 静かな遠浅の海を眺めている。

12月の夕暮れ時の海はさすがに寒く、頬に当たる冷たい風に永瀬は身体を震わせる。

…が、ここは日本海の荒波が打ち寄せる岸壁ではなく 
白い砂浜が広がる鎌倉 由比ヶ浜の海岸だった。


あまりにも寒かったので、永瀬は実家に戻ろうと振り向いた時だった。

 

「…永瀬先生!」

温かそうなコートを着て明るい空色のマフラーをした美月が
砂浜にブーツを履いた足を取られ、よろめきながら走ってきた。

すでに暗くなりかけたオレンジの背景の中で
彼女の周りだけは暖かな陽だまりに包まれたようだった。


「……」

永瀬は驚いて目を丸くした。

想定外の出来事に何も言葉が出てこない。


「良かったーーー!」

美月は息を弾ませながら叫ぶと、嬉しそうに顔を輝かせた。


「……どうして?」

永瀬は驚きを隠す事ができない。


「今、ご実家の方に伺ったら…ここにいるって…
 会えて良かったですーーー!」

よほど急いで走ってきたのか、美月の呼吸は荒く頬は紅潮している。


「…そうじゃなくて、なぜここに来たんです?」

永瀬はまだ動揺している。


「なぜって…今日はずっと先生と連絡が取れなくて。
 だからとても心配で…もしかしたら、奈緒さんのことを知ってショックを受けて
 冬の海に…なんて…」


「……」


「いえ、でも今日はご実家にいらっしゃるんじゃないかって…
 亡くなったお父様の七回忌だったんですね」


「……」


「もう、それならそうとおっしゃってくだされば
 こんなに慌てることなんてなかったのに」


「…奈緒…彼女に聞いたんですか?」


「あ、はい。
 奈緒さんは多分そうじゃないかって」


「それで なぜ、あなたはここに?」


「はい?」


「心配する必要はなくなったのに、なぜ?」


「はい、あの…それは…」
 

美月は何と答えていいのかわからず、戸惑ったように永瀬を見上げる。


「あの…そう言われてみれば…どうしてでしょうね?」


「……」


「なぜ、わたしは鎌倉まで…?」


美月は首を傾げてあれこれ考える。…夢中でここに来てしまった?


考え込んでいる美月を見て 永瀬はふっと笑う。


「……でも、ちょうど良かった」


「はい?」


「さっきからずっと寒くて…温まりたかったんです」


永瀬はそう言うと 美月の手を掴んで引き寄せた。

そして 彼女を腕の中に包み込んだ。

 

え…? 予期せぬ出来事に 美月は驚いて声も出ない。


永瀬はそのまま美月をきつく抱きしめる。

目を閉じて 美月の温もりを確かめる。

 

 

先生…?


やっぱり…思ったとおりだ…


え?


抱きしめたら きっと温かいと…ずっと思ってたんです…


先生…

 

美月を包み込んだ永瀬の腕は緩むことはなかった。


彼女はゆっくりと目を閉じて永瀬に身をまかせた。


そして 静かな波の音を聞きながら 美月は永瀬の胸の中で呟いた。

 


先生…


わたしが なぜ、ここに来たかわかりました


先生に…会いたかったんです


ただ…会いたかったんです……

 

 

 

   * * * * * *

 

 


海岸線に面したカフェ・レストラン「小椋亭」

落ち着いた照明が灯るカリフォルニアスタイルの店内には サザンの曲が流れている。


「お待たせしましたー!
 地魚のマリネ、海老とトマトのピザ、サーモンときのことレタスのパスタ
 ソーセージ…あ、これは自家製だからね。
 あと、名物の釜あげしらすのピラフ、美味いんだよこれが」
 

オーナーの小椋が賑やかに料理を運んでくる。

美月は目を丸くして驚き、永瀬は眉をしかめる。


「…こんなに注文した覚えはないが」


「俺の奢りだ、永瀬! 遠慮しないで食べてくれ!」

小椋は日焼けした顔に白い歯をのぞかせて豪快に笑うと 永瀬の肩をぽんぽんと叩く。

永瀬は黙ったまま冷めた目で小椋を見上げる。


「ったく、相変わらず無愛想な奴だな。
 永瀬が久しぶりに女、いや女性連れで来たからお祝いだ。
 それも、こんな美人! 大歓迎だね」


「あ、あら 美人だなんて」

美月は照れたように笑う。


「お、いいねー!
 ネクラで回りくどい永瀬には あなたみたいに朗らかな人がいいんだよね」

小椋はにっと笑うと、今度は永瀬の肩をバシッと叩いた。

うっ、と うめき声を上げた永瀬はじろっと小椋を睨みつける。


「永瀬、女性の前でそんな怖い顔をしてはいけない。
 もうすぐ深沢も来るから、久しぶりに一緒に飲もう!
 あ、お前は車だから酒はだめだな。残念!」


「深沢もこっちに来てるのか?」


「ああ、ちょうど嫁さんと一緒に実家に遊びに来てるらしい。
 お前がここにいるって知らせたら、すぐに来るってさ。
 …あいつ、優ちゃんも連れてくるかな。可愛いんだよなー!」
 

「…葉子が睨んでるぞ」


「え?あ、葉子ちゃーん! 今のは嘘だよ。
 葉子ちゃんのほうがずっと可愛いぞー!」


小椋は慌てながらカウンターにいる妻の葉子の方へ戻っていった。

永瀬はまた呆れたように笑う。

美月もくすくす笑い出した。


「とても楽しい方ですね。お付き合いは長いんですか?」


「小椋と葉子は小学校からの付き合いです。
 高校生の時に深沢をこの店に連れて来て
 …そうですね、もう長い付き合いですね」


「…奈緒さんもここに…」

そこまで言って 美月は口をつぐんだ。


「…さっきから気になっていたんですが」

永瀬は訝しげに美月を見た。

「奈緒のことにショックを受けて冬の海に…とか言ってましたね。
 それは、僕が海に飛び込むかもしれないということですか?」


「それは…  そうです。
 奈緒さんが結婚すると知って、先生がショックで失踪したと…
 それで、日本海の岸壁から飛び降りるかと…」


「………」  …なぜ、日本海限定なんだ?


「あの、先生?」

うつむいて黙り込んでしまった永瀬を見て、美月は遠慮がちに言った。

「すみません。…でも、心配だったんです」


永瀬は大きなため息をつくと顔を上げて美月を見る。


「何だか不安になってきました」


「はい?」


「あまりにも…あなたの発想は貧困すぎる。
 それに、こんなとんでもない勘違いをする人が編集の担当者だなんて
 僕の小説は無事に連載を終えられるんだろうか」
 
 
「大丈夫です!」


「どうかな」


「本当に大丈夫です!
 あの、担当者を変えてくれだなんて編集長に言わないでくださいね!
 わたし…頑張りますから。
 資料集めもちゃんとしますし、取材にもついていきますから
 だから…やめさせないでください」

美月は必死になって懇願する。泣きそうな気分になっていた。


「………」

永瀬は黙ったまま美月を見ていたが そのうちに静かに笑い出した。


「先生?」


「冗談ですよ。ちょっとからかっただけです」


「はい?」


「あなたみたいな人は僕の周りにいないから見てて飽きないし
 面白い人間観察ができる。 それに…  」
 

「それに?」


「それに…傍にいるだけで温かいから 冬には貴重な存在です」


「わたしはカイロ代わりですか?」


「…そうですね」


「あの…使い捨てじゃないですよね?」


「また面白い…というか、恐ろしい事を言いますね」
 

永瀬はまた笑い出した。


美月もつられてくすくす笑い出し、永瀬と目が合うと思わずうつむいた。


カイロかあ…

確かに便利で実用的だけど…あまり色っぽくないし可愛くないな…


美月は少し拗ねながら顔を上げると こっちを見ていた永瀬と視線が合った。

慌ててまた美月はうつむいた。

 


  …頬が熱い

 


やっぱり わたしって体温が高い?

だから傍にいるだけで温かいのかしら…

そうだとしたら 寒そうな先生を暖めてあげられのかな

 

 

 


   …………

   四六時中も好きと言って

   夢の中へ連れて行って

   忘れられない Heart & Soul

      声にならない……

 

 

店内にはサザンのバラードが流れている。


この曲のタイトルは何だったかしら…


美月はぼんやりとそんなことを思いながら 

さっきからずっと熱い頬を冷やそうと 両手でそっと顔を押さえた……。 

 






 























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