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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1368871/1906112
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 1 HIT数 6672
日付 2009/10/03 ハンドルネーム aoi32
タイトル また会えるね -遠距離恋愛の始まり-
本文




また会えるね ー遠距離恋愛の始まりー  

 


待ち合わせしたカフェの中をそーっと覗いてみた。

いたいた! 窓際のいちばん奥のテーブル。

…やっぱり、どこにいても目立つのね。

頬杖をついた綺麗な手の上に顎をのせて 
ぼんやりと外の景色を眺めている横顔は はっとするほど端正だけど 
今日のあなたはちょっと物憂げな感じ…

どうしたの 航平?


何となく胸騒ぎがした。

わたしは店内に入り航平がいる場所まで進んで行く。

今、ちらっと思ったのは気のせいだったと確かめるために…

 

テーブルの傍に立つと航平が顔を上げてわたしを見た。

途端にその表情がぱっと明るくなり笑顔の花が咲く。


「美月ちゃん」

「ごめんね、待った?」

「いや、僕もちょっと前に来たところなんだ」


いつものように屈託のない笑顔で眩しそうにわたしを見る航平。

やわらかな癒し系の眼差しを向けられただけで 
わたしはふんわりと春の日差しに包まれたように気持ちよくなるの。


「いつもと同じのでいい?」

向かい合わせで座ったわたしに航平は問いかけてくる。

うん、とわたしが頷くと航平はカフェの店員にミルクティーを注文してくれた。

紅茶が運ばれてくると きっちりと砂時計で時間をおいて
綺麗な手で優雅に丸いポットからティーカップに注いでくれる。

ぽこぽこと音をたてながら まろやかな茶色の液体が白いカップに
なみなみと注がれると 辺りにふわっと湯気が立ちこめて芳しい香りが広がっていく。


「はい、どうぞ」

「ふふ、ありがと」

ソーサーごと差し出された紅茶を見たわたしは 思わず笑みがこぼれる。


「最初の一杯はストレートよね」

わたしは香りを楽しみながら紅茶を一口飲む。


美味しい! わたしの反応を確かめた航平は満足そうに頷く。


「お代わりは濃い目のミルクティーで」

航平が教えてくれたのよね。


ティーカップからゆっくりと視線を航平に向けると 彼はにっこりと笑い返してくる。

天使のように可愛くてキュートな笑顔…

まるで ロイヤルミルクティーを飲んだ時みたいに贅沢でほっとする瞬間だわ。


…やっぱり、気のせいだったのね… 

わたしは安堵して胸を撫で下ろした。

物憂げな航平? 

…見間違いに決まってるじゃない!

わたしは ほんの少し前感じたことが誤解だったと納得した。

 

「今日はドライブしようか」

航平はわたしの顔を覗き込むように言った。


「え?」

「兄さんの車を借りてきたんだ」

「そうなの?」

「うん。 だからどこかに行こうよ」

「そうね」

「どこがいい?」

「えっと…ね」

「美月ちゃんが行きたい所ならどこでもいいよ」

「じゃあね…横浜に行きたい」

「OK」

「嬉しい!航平と一緒にドライブなんて久しぶり!」


わたしははしゃいで声を上げた。

そして、両手を合わせながら 横浜…どこがいいかな~と
あれこれ考えていた。

だから気づかなかった。 

その時、一瞬だけ航平の表情が曇った事を……

 

 


土曜日の夕方だから きっと混んでるわね、と覚悟していたが
それほど渋滞もせずに首都高に入ってからも車は順調に走っていた。
このまま湾岸線を走れば レインボーブリッジも横浜ベイブリッジも通って行ける。

わたしは何気なく 隣でハンドルを握っている航平を見た。

相変わらず端整で綺麗な横顔だった。

艶々とした栗色の髪、長い睫毛、黒い瞳
ややぷくっとしたやわらかそうな唇、すっとして綺麗な顎のライン。

理知的で論理的思考をする理系だけど
中身は意外と言うか かなりロマンティスト。

白衣を着て複雑な実験ばかりしてるけど
普段は素直で可愛い性格なのよね。

去年、航平はT大の理工学部を卒業して 同じ大学院の研究科に進んだ。

金属フロンティア工学…という わたしには理解できない分野の研究に励んで
もうすぐ一年が経とうとしていた。

…ということは 航平とわたしがちゃんと付き合い始めてから一年過ぎたのね。

ずっと隣に住んでいる幼なじみ。
航平が生まれた時から知っていて わたしは彼のことをずっと弟のように思ってきた。

それがいつの間に かけがえのない存在になって…

わたしはまた 航平の横顔を見た。

彼がいつもより大人びて見えるのは気のせいなの?

久しぶりに車を運転している そのゆっくりと落ち着いたハンドルさばきと
その上に置かれた手の綺麗な指のせいで そんな風に見えるの?

そんな事を考えてるうちに、夕闇が迫ってきて フロントガラスの
向こうに都会のイルミネーションが広がって行った。

 

横浜ベイエリアにあるイタリアンレストランに着く頃には時刻はすでに7時を過ぎていた。

この店には以前、一度だけ来たことがある。

その時は航平の兄の洋平ちゃんが運転する車に乗って 
将来、彼の奥さんになる真紀さんと航平とわたしの4人で…
周りから見て わたしたちはどんな関係に見えたかしら。

あの時 航平はまだ高校生で…可愛かったわね。

ビュッフェスタイルの料理は品数も豊富で味も抜群に美味しかった。

育ち盛り、食べ盛りの航平は わおっと目を輝かせ その驚くほどの食欲を満足させるくらい
何度も料理を取りに行って、 何種類もの品数を食べ尽くした。

かといって、豪快に食べるだけではなく 航平は綺麗に しかも、とても美味しそうに食べるので 
わたしたちは彼を微笑ましく気持ちよく見ていたのだった。

 

 

「ワインでも飲む?」

窓際のテーブル席に座ると 航平が聞いてきた。

それは もう高校生の少年ではなく大人の男性のセリフだけど
ちょっと首を傾げて悪戯っぽく笑う仕草はとても愛らしいと思ってしまう。


「ううん、だって車でしょ?」

「うん。でも、美月ちゃんは飲んでもいいよ」

「だめよ、一人で飲んでも楽しくないもの」

「じゃあ 今日はホテルに泊まろうか?」

「え?」

「そうすれば一緒に飲めるでしょ?」

「……」

「ね、そうしようか?」

「…もしかして、車で来たのは 航平の策略なの?
 こうなるってわかってたんでしょ」

「…まさか」

「本当に?」

「本当だよ。今、思いついたんだ。
 でも、名案でしょ? これなら美月ちゃんも大好きなワインを飲める」

「失礼ね、わたし、そんなにお酒好きに見える?」

「…嫌いじゃないでしょ?」

「もう」

「ワイン飲みたいよね?」

「う…」

「じゃあ、決まり!」

「航平ったら…」

「うん?」 

「やっぱり知能犯ね…」


わたしが軽く睨むと航平は嬉しそうに笑い声を上げた。

しょうがない子ね…わたしはぶつぶつ言いながらも本当は嬉しくて 
つい、航平につられて笑ってしまうのだった。

 

 

 


ホテルの部屋に入りカーテンを開けると 目の前には宝石を
散りばめたような美しい夜景が広がっていた。

照明を落とした部屋の中は 
ルームスタンドのほのかな明かりだけが辺りを照らしている。

窓際に佇んで ぼんやりと外を眺めている航平の後姿を見たわたしは
ふいに衝動に駆られ、彼の背中から両手をまわして ぎゅっと抱きしめた。


「…美月ちゃん…」

「…航平、何か話があるんでしょ?」

わたしの問いかけに航平の体がびくっとしたような気がした。


「…わかってた?」

「航平と何年付き合ってると思うの?」

「…そうだね」

「どうしたの? 何かあった?」

「……」

「なあに? そんなに言いにくいこと?」

「……」

「もしかして別れ話だったりして」

「……」

「えっ、そうなの?」

「…京都に行くんだ」

「え?」

「来月になったら京都に行くことになって」

「京都? 研修か何かで?」

「今度、K大と合同研究することになって…」

「合同研究? すごいのね。それで期間はどのくらい?
 1ヶ月ぐらい? それとも3ヶ月とか?」

「…短くても1年… 多分 2年ぐらいになると思う」

「え…」


航平の体に回していた腕の力が思わず抜けてしまった。

わたしの方に振り向いた航平の顔は真剣で悲しそうな目をしている。

本当なのね…


「…そうなんだ… 2年…も…」


最後まで言い終えないうちに航平の腕が伸びてきて そのまま抱きすくめられた。

いつもと同じ清潔な香りがする航平の胸の中。

いつもと同じ居心地がいい胸の中にすっぽりと包まれて わたしは目を閉じる。


そうか…この場所がなくなってしまうのね…

今まで手を伸ばせば すぐそこにあった航平の大きな胸

大きくて温かくて心の底から安心できた 大好きな航平の胸。


わたしは 彼に抱かれながら ぼんやりとそんな事を考えていた…。

 

 

 

航平はいつも優しい。

わたしのことを大事にエスコートしてくれる。

わたしは航平より年上なのに つい甘えて頼ってしまう。

そして、他愛もない話をしたり、食事をしたり、デートする時も優しいけど
わたしを抱く時はもっと優しい。

特にその夜の航平は今までよりももっと優しくて情熱的だった。

まるで大切な宝物を扱うように優しくわたしを抱きしめて 何度も口づけた。

わたしの全てに触れて、確かめて、まるで記憶に留めようとするかのように
指で、唇で 体中を愛撫し続けた。

唇を離した時は わたしの頬を長い指で撫でていとおしそうに見つめている。

幸せそうに、切なそうにわたしだけを見つめている。

 

こう…へい…

うん?

京都に行っても頑張ってね

…やっぱり…

え?

美月ちゃんは一緒に来てくれないよね?

航平…

わかってる…でも 僕は…

…何回目か覚えてる?

え?

今までに航平がわたしにプロポーズした回数…

えっと、確か…

19回よ 

……

20回目はわたしからするからね

え?

航平が京都から帰って来たら…

……

そしたら、航平はすぐにYESって言うのよ?

美月ちゃん

少しでも迷ったりしたら許さないんだから

うん

だから、頑張って 航平の夢を叶えて

え…

人の役に立つような研究をするんでしょう?

美月ちゃん、それって

航平の子供の頃からの夢だもの…応援するわ

覚えてたんだ

当然でしょ?

美月ちゃん

感動した?

うん、すごく感動した

わたしのこと ますます好きになったでしょ?

うん

わたしも航平のことをもっと好きになったわ

美月ちゃん

だから… 行ってらっしゃい

 

わたしの言葉に 航平は頷き嬉しそうに笑った。

やっぱり、航平の笑顔は最高にかわいい!

だから、航平

その笑顔を無くさずに これからも夢に向かって進んで欲しいの

いつまでも キラキラと輝いていて欲しいの


でも…ね

これから先、そのやわらかな微笑みが見られなくなっても
わたしは大丈夫なのかな…? 

航平がいなくても ちゃんと生きていけるかしら…


大丈夫よね?

うん、きっと大丈夫!

わたしは強いもの!

 

 

 

 


2週間後

航平は行ってしまった。

わたしは “さよなら”ではなくて“またね”と告げた。

航平も笑顔で “また会えるね”と言った。

航平が乗った新幹線が見えなくなった後も 
わたしはホームに佇んでいた。


うん、また会えるね…
 

わたしはゆっくりと隣を見上げながら呟いた。

いつもそこには航平がいた。

ああ、そうね …航平はもういないのね

 

胸の奥が締め付けられたように痛くなって 目の奥がつんとした。

目の前がぼやけてきて 慌てて瞼を閉じたら温かい雫がこぼれて頬を伝わった。


やだ、わたし…泣いてるの…?


今頃泣くなんて…

でも、航平には見られなかったから…いいよね?

偉いわ、美月! よく我慢したわね!

だって、わたしは大人の女だもの…


わたしは頬の涙を指ですっと拭うと顔を上げた。

暖かい春の日差しが潤んだ目にゆらゆらと揺れて映った。

 


桜の花が咲き始めたその日 

航平とわたしの 甘くてほろ苦い“遠距離恋愛”が始まった……。
















 


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