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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 11 HIT数 7688
日付 2009/10/07 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -10- 雨
本文





-10- 雨




うっとりと…永瀬に抱きついていたエキゾチックビューティーは
しばらくしてから、やっと 呆然としている美月に気づいて彼から体を離した。

彼女の美しい鳶色の瞳が美月をじっと見つめていたかと思うと
何か思い当たったように声を上げた。


「…"Bella Luna"?」

「ベッ…?」

「ラ・ベッラ・ルーナ! イタリア語でウツクシイ月という意味です。
 ナガセが言ってたとおりキレイな人デスネー!」

「にっ、日本語?」

「ハイ、ワタシのお父さんはニホン人なのでニホン語も得意デス。
 ね?ナガセー!」

「………」

やたら明るい声でニコニコしている彼女に対して 永瀬は無言で表情も変えない。


「ああ、ナガセったら またそんな顔してー!
 それじゃ女の子に嫌われますよ?
 あ、そうデシタ! ナガセの魅力は他の人は知らなくていいデスネー。
 ね、ナガセーー!」

美しい彼女はそう言うと 今度は永瀬の腕に両手を回して寄り添った。

永瀬は相変わらず無愛想だが その手を振り払おうとはしない。


「………」

美月は呆気にとられて目を丸くしている。

その様子に気づいた永瀬はゴホンと軽く咳払いをした。


「あ、ゴメンナサイ! ワタシまだ名前を言ってませんデシタ。
 榊ジェシカといいマス。
 お父さんがニホン人で、マードレはイタリア人なので ワタシはハーフデス」

ジェシカはそう言うとにっこりと美月に笑いかける。

「ワタシはイタリアでニホン人観光客向けに通訳のお仕事をしてまして
 一年前に団体のお客さんに観光案内をしてる時に 永瀬は一人でブラブラしてたデスネ」

「ブラブラ…って」

「はい、ここにシワを寄せて まるで世界中の悩みを全部しょってるってカンジで。
 ワタシは今までそんなタイプのオトコの人に会った事がないので新鮮デシタ。
 …それで ヒトメボレしてしまったんデスネー!」
 
「ひと目ぼれ…」


美月は早口で捲し立てるジェシカの迫力に押されて、彼女のお喋りの合間に
呟くのが精一杯だった。


「でも、ナガセは いつも冷たくてーーー 
 ワタシが通訳してあげようとしても そんなのいらないって
 こーんなコワいカオしてにらむんデス」

ジェシカはそう言うと 永瀬の真似をするように眉間にしわを寄せてじろりと睨んだ。

その顔を見た美月は 思わずぷっと噴き出した。


「そっそれって、そっくりかもーー!」

「ホントですか?
 かっこいいナガセにそっくりなんて ワタシうれしいデス!」

「…本当に先生のことお好きなんですね」

「はい、こんないいオトコはイタリアにもいまセン!
 だからナガセを追いかけてニホンまで来マシタ。
 あちこちのシュッパンシャを探して、やっと見つけマシタ。
 そしたらベッラルーナにも会えました」

「みつき、と呼んでくださいね」

「ハイ、みつきさんのことはナガセから聞いてマシタから
 会えて嬉しいデス!
 …でも、あなたはコイガタキだからフクザツなきぶんデス…」

「え…」

「ワタシがどんなにせまっても ナガセはニホンで待ってるヒトがいるからって…」

「え?」



「…まったくいつまで立ち話をするつもりなんだ!」


驚いた事に それまで黙ったまま冷やかな視線を送っていた永瀬が突然、声を上げると
ジェシカの腕を掴んだ。


「もう気が済んだだろう?
 空港まで送るからさっさとイタリアへ帰るんだ!」

「イヤです! まだ帰りまセン!
 ナガセのコイビトになるまではニホンにいますからーーー!」

「ばかなことを言ってないで、宿泊先はどこだ?」

「オバサンの家に泊まってるのでニホンにずっといられマス。
 お父さんの妹ですからイタリアの家族も安心して楽しんできなサイと
 言ってくれまシタ!」

「え……」

「だから ワタシ ずっとナガセのそばにいます。
 みつきさんには悪いデスケド ワタシ、あきらめませんから!
 コイガタキのみつきさんとは正々堂々とたたかいマス!」


…恋敵…ってあの、別に先生とわたしはそんな関係では…


美月は引きつったように笑いながらそう言おうと思ったが
ふと隣にいる永瀬を見て口をつぐんでしまった。
 
 
どんなことにも動じないほど冷静沈着だった永瀬が 
半ば諦めたように、そして困惑した顔で立ちすくんでいた……。

 

 

 

 


「じゃあ、今日中に原稿を読んだら 早速、明日にでも永瀬先生の所に
 行って細かい打ち合わせをしてきてくれ」

編集長の森田はそう言うと 原稿の束を美月に渡した。


「あの、でも わたし 今 担当してる先生がお二人いらっしゃいますし…」

「川島先生の連載は来月で終わるだろう?
 それにこれは永瀬先生たっての希望なんだ」

「……」

「何だ浮かない顔して。
 以前、大野は先生のかなり熱心な編集者だったんじゃないのか?」

「それは、そうですけど…」

「じゃあ、頼む。
 何と言っても 永瀬聡、二年ぶりの新作だからな。
 それに他の出版社でなくうちを選んでくれたんだ」

「…編集長は原稿をお読みなったんですよね  …それで、あの…」

不安げな表情を浮かべる美月に気づいて、森田はニヤッと笑った。

「話題性は十分にあるし…これは原稿を読めばわかると思うが
 今までのエイタテイメント的な作風に加えて 揺るぎない精神と強い意志が
 文章に込められているような気がする」

「え?」

「俺は原稿を読んでみてそう思った。
 …とにかく大野も読んでみろ」

「…編集長…」


その時、美月は心の底から何か熱いものが湧き上がってくるような気がした。

もう一度、永瀬の書いた作品に真正面から向き合う事ができる。

森田の言う、強い意志が込められた文章…美月は感動し安堵していた。

二年前、永瀬が自分の作品の方向性を見失って執筆を休止した経緯を知っている
美月にとっては嬉しい限りだった。

 

その夜遅くまで編集部に残って 永瀬の原稿を読んだ美月は読み終えた原稿をデスクに置くと
深いため息をついた。

そのままじっとしていた美月だったが 気がつくと泣いていた。

自然に涙が溢れてくる。

周りに誰もいないので、美月は気兼ねすることなく余韻に浸ることができた。

まだ未熟な自分には上手く言い表せないことが歯痒かった。

それでも、ただ一つ言える事があった。

作家 永瀬聡が戻ってきたのだ。

…それだけは確信していた。

 

 


原稿をデスクの上に置くと傍にあった携帯電話が着信を告げた。

…航平? 思わず美月の顔にはやわらかな笑みが浮かぶ。


「もしもし?」

『あ、美月ちゃん! 今どこ?』

「まだ会社なの」

『今、話しても大丈夫?』

「うん、これから帰ろうと思ってたから」

『…美月ちゃん、何だか声が変だけど…どうかした?』

「ううん、何でもない。
 ちょっとね、今 原稿を読んでて…何ていうか感動しちゃって…」

『…それって  …永瀬さんの原稿?』

「どうしてわかるのー?」

『…わかるよ、そのくらい。
 永瀬さんに原稿を依頼したって言ってたし…
 美月ちゃんが泣くほど感動したって聞けば…』

「…鋭いわね、航平ったら」

『美月ちゃんのことなら何でもわかるよ』

「…そうだったわね。
 航平には嘘はつけないから、今のうちに言っておこうかな」

『え?』

「わたし、また永瀬先生の担当になったの」

『え…』

「…あ、航平ったら また不安になったでしょ?」

『え?  …そんなことない…』

「ごまかしてもだめよ。わたしだって航平の声を聞けばわかるんだから」

『………』

「…航平ったら」

『…美月ちゃん』

「ね、答えて。 …今朝、わたしがプロポーズした相手は誰?」

『………』

「わたしを航平の奥さんにしてって…結婚してって言ったのは誰なの?」

『…美月ちゃん』

「ずっと二人で一緒にいるって約束したでしょ?」

『…うん』

「それでもまだ航平は不安なの?」

『ごめん、美月ちゃん』

「航平」

『わかったよ。 …ごめん、美月ちゃん。
 もう大丈夫だから…もう不安になったりしないから…』

「本当に?」

『うん』

「…航平ったら 本当にしょうがない子ね」

『…ごめん』

「ふふ… でも、ヤキモチ妬きの航平も可愛いね」

『美月ちゃん!』

「傍にいたら頭を撫で撫でしてあげるのに…」

『子供扱いするなー!』

「はいはい、航ちゃんはもう立派な大人よね~」

『美月ちゃん!』

 


拗ねて口を尖らせている航平の顔が浮かんできて 美月は楽しそうに笑い出した。

そして、受話器の向こうで航平の笑い声も重なって聞こえてきた。
 

 

 

 

 

翌日

地下鉄の階段を上がると、外は雨が降り出していた。

しとしとと静かに空から落ちてくる透明な雫を見上げながら
このくらいの雨なら大丈夫、と美月は走り出した。

公園を抜けていけば永瀬のマンションまで近道だった。

原稿が入っているバックは濡れないようにしっかりと抱え
美月は急ぎ足で進んで行く。

二年前にも何度か訪れた永瀬のマンション。

彼の担当編集者として またこんな風に来るようになるとは
思ってもいなかった。

だが、心のどこかで それを切望していた自分に気がついていた。

胸が痛くなるくらい懐かしい  …でも、どこか不安。

そして 一人の作家に対する崇拝にも似た尊敬の気持ち…


複雑な思いを抱えながら 美月はいつの間にか目的の場所に佇んでいた。

しっとりと雨に濡れた懐かしいその高層マンションは 以前と変わりなく
美月を静かに迎えてくれた。

 

 

 


吹き抜けのリビングルームは 床面近くから天井までガラスウォールが立ち上がり
目の前のパノラマウインドウには 淡いグレーに煙る景色が広がっていた。

透明の雨粒が窓ガラスにぶつかり なだらかな雫となってゆっくりと下に落ちていく。

 


「…雨に濡れましたね…」

 


口元に微かな笑みを浮かべながら静かに永瀬は言った。

そして、真っ白なタオルで美月の頭を包み込んで
ゆっくりと濡れた髪を拭き始めた。


「あの…自分でやりますから…大丈夫です」

美月は慌ててタオルを押さえようとしたが 永瀬の手に触れてしまい
思わず自分の手を引っ込めた。


「いいから じっとしててください」


「え? あの…」


永瀬の手は止まることなく美月の髪から水滴をふき取っていく。


「連絡してくれれば迎えに行ったのに…」


戸惑いながら永瀬のされるままになっている美月の頭の上で
少しとがめるような声が響く。


「…そんな…」

ますます困惑した美月は俯いたまま 弱弱しく呟いた。

辺りには静寂が漂っている。

 


「…そういえば…」


不意に永瀬が言った。


「…あなたと初めて会った時も雨が降っていましたね…」

 

思いがけない言葉に美月は驚いて顔を上げた。


「…そうでした。 あの時は先生が雨に濡れていました」


「あの年は突然の豪雨が多くて…ジョギングの時に
 何度かびしょ濡れになりました」


「そうでしたね…」


美月はその時のことを思い出していた。


突然の雨に降られてマンションのエントランスに飛び込んできた永瀬。

全身がびっしょり濡れて彼の髪から雨の雫が滴り落ちていた。

何の感情も読み取れない端正な顔、そして孤独な黒い瞳…

 

「…霧雨…」


また、永瀬が呟いた。


「イタリアの …ミラノに長く滞在していたのですが
 その時は霧雨がよく降りました。
 激しい雨ではなくて細かな霧が辺りにたちこめて
 何日も、本当にこのまま永遠に降り続くのではないかと思うくらい…」


静かに…どこか遠くを見つめながら語る永瀬。

美月はその声をぼんやりと聞いている。

何のBGMもない、雨の音も聞こえない静かな部屋の中で
永瀬の深くやわらかな声が響き渡る。


「…そんな雨を眺めている時は あなたのことを思い出しました…」


え…?  


美月は顔を上げる…まっすぐに美月を見ている永瀬の眼差し。


二人の視線が交差して、美月は戸惑う。


目を逸らそうとするが まるで永瀬の黒い瞳に囚われてしまったように動けない。


そして…畳み掛けるように永瀬は告白する。

 

 

「…僕は…あなたを忘れる事はできませんでした…」











 


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