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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1366639/1903880
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 3 HIT数 6839
日付 2009/10/07 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -2- 嘘
本文










-2- 嘘

 

 

 

『…今? 部屋にいるけど… 』


 

航平の声が美月の耳元で空しく響く。


『美月ちゃんは? もう仕事は終わったの?』


「う…ん」


何も気づかない航平は いつものように屈託のない様子で話してくる。

美月は必死で動揺する気持ちを抑えながら答えた。


『そうなんだ。
 ね、明日は仕事は休み?』


「…そうよ」


『良かった』


「え?」


『あ、何でもない。
 しばらく会ってないけど、元気?』


「うん、元気よ」


『あっ、ごめん 美月ちゃん!
 今、ちょっと忙しいから 後で…いや、明日の朝 電話するよ』


「…うん、わかった。 …じゃあね」


『うん、ごめん。 また明日…』


美月は携帯電話を切ると 力が抜けたように床の上に座り込んだ。



…航平が嘘をついた…


美月にとっては信じられない出来事だった。

航平が嘘をつくなんて…多分、初めての事だった。


「ばか…ね、航平は…」

美月は膝を抱えて顔を押し付けた。

「慣れない事して…嘘をつくのが下手なんだから…」


明日の朝まで電話できないって…今夜はもう帰って来ないってこと?

仲間との飲み会?説は消えたのね

だって、それなら隠す必要はないもの…

きっと、さっきの女の子と一緒なのね

小柄で茶色の巻き毛の…航平を見上げて 
航平はそんな彼女に微笑みかけていた…

 

“航平が浮気? まさか…”

“わからないわよ、彼だって男だもの”


友人の麻美の言葉を思い出した。


そうね、そのとおりかもしれない

わたしは 航平がそんな事するわけないと思い込んでいた


……………


   ……………


どのくらい時間が経ったのか…


暫くの間、美月はじっと座り込んで考えていたが
何か思い浮かんだのか ふらっと立ち上がった。

そして 旅行バッグを持つと玄関の方へ向かって歩き出した。


部屋から美月が出て行った後、ドアの鍵が閉まる音が空しく響いた…。

 

 

 

 

『…あら、航平なの?』

「うん、これから東京に帰るから」

『え?帰って来る?』

「今、最終の新幹線に乗るところなんだ。
 そっちに着くのは夜中になるかも」

『え?』

「突然帰って驚かせようと思ったけど、母さんには知らせておくよ。
 でも、美月ちゃんには内緒だよ」

『ちょっ、ちょっと! 航平、あなた 美月ちゃんに会ってないの?』

「え?」

『美月ちゃん、今日そっちに行ってるはずよ!
 突然行って驚かせるんだって!』

「え?」

『やだ! もしかして、すれ違い???
 それとも まだ着いてないの? 何かあったのかしら!』
 
 
航平は何も言えずにその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

京都の街は桜の木が多く見られる。

ちょうど見頃を迎えたこの夜は花冷えで 冬に戻ったような寒さだった。

黒と白の格子柄のワンピースに春物の薄手の白いコートを羽織った美月は
冷たい夜風を頬に感じて ぶるっと体を震わせた。

橋の上に立った美月は 川の辺に咲く桜をぼんやりと見ていた。

さらさら流れる川のせせらぎがBGMとなって ぼんやりと街灯に照らされた桜の花が
幻想的に浮かび上がっている。


こんな夜に 橋の上にひっそりと佇む女が一人

白いコートを着て しかも手には小さな旅行鞄…

久しぶりに会うから ちょっとお洒落してきたのに…

これじゃまるで 傷心の京都一人旅って感じ?


美月はまた勝手に一人で想像していた。

こんな悲惨な状況の時にも どこか自分を客観的に見ている美月がいる。


「まずいわ、ここに立ってるとますます落ち込んでしまいそう」

この橋の上を見知らぬ女性と一緒に渡って行く航平を見てから
どのくらい時間が過ぎたのだろう。

ついちょっと前のような気もするし、数時間も経ったような気もする。


どうしてこんな事になってしまったのかしら

わたしは ただ航平を驚かしたかっただけなのに

やっと素直になって 会いたかったと言おうとしただけなのに…


美月は顔を上げると、ぼんやりと桜の花を眺めた。

いつもと変わらず 桜の花はうっとりするほど美しいのに 
今の美月の瞳には儚く寂しげに映るだけだった。


でも…ここで、こうしてても状況は変わらない …そうよね? 

「まずは、今夜泊まるホテルを探して…うん、そうしよう!」

美月は自分に言い聞かせるように口に出すと くるっと川に背を向けた。
 

 

「…え?」


美月は思わず声を上げた。

 

信じられない事に そこには航平が立っていた。

美月と同じように旅行バッグを持った航平が大股で歩いてくる。

驚いた美月はそのまま立ちすくんでしまった。

久しぶりに見た航平は 少し痩せたような気がして大人びて見えた。

やわらかそうな前髪から覗く黒い瞳が 苛立ちと悲しみを湛えたように揺らめき
それを見た美月は戸惑い、言葉をなくしてしまった。



「……」


「どこに行くつもり?」

航平はいつもより強い口調で まっすぐに美月に向かって聞いてくる。


「え?」


「一人でどこに?」


「あの…えっと、まずホテルを探そうと…」


「ホテル?」


「ホントはね、このまま東京に帰ろうかと思ったんだけど新幹線はもうないし
 それに おばさん達にも京都に行くって言ってきたから帰ったら変に思われるでしょ?
 だから、今夜はどこかホテルに泊まって 明日、航平の所に行こうかと…」

動揺を隠そうとする美月の口からは次々と言葉が出てくる。


「どうしてホテルに?
 スペアキー渡してあったよね?」


「それは…忘れてきちゃって」


「さっきの電話で僕は部屋にいるって言ったよね?」


「あ…」


「だったら、部屋に来ればよかったのに」


「……」


「…やっぱり、あの時 美月ちゃんは部屋にいたんだ」


「それは…」


「それなのに、どうして帰ろうと? 僕が嘘ついたから怒ったの?」


「違うわ。
 …航平だって男だからそういうこともあるって
 わたしは大人だから…こんなことで取り乱したらいけないと思って…
 だから知らないふりして…」


「何事もなかったように 明日、京都に来たことにしようと?」


「…わたしはずっと航平に優しくなかったから…」


「だから、一人でこんな所で?」


「………」


「ほとんど知らない場所なのに?」


「航平…」


「だめだよ、そんなことしたら…」


「……」


「美月ちゃんはいつも堂々としてなきゃ」


「え?」


「こんな風に惨めに夜の街を一人で歩いてるなんて 美月ちゃんじゃない」


「航平?」


「なぜ何も言わずに出て行くの?
 嘘をついた僕を責めればいいじゃないか!」


「仕方ないじゃない!」

それまで抑えていたものが一気に噴き出した美月は叫んだ。


「これは今まで航平を放っておいたわたしがいけないんだから!
 さすがの航平も冷たいわたしに愛想を尽かしたんでしょ?
 だから、あのままわたしが部屋にいたら 航平は自分が嘘をついたことを知って
 気まずくなるじゃない…。航平はますますわたしに遠慮してしまう…」


「…美月ちゃん」


「航平が浮気するのは嫌だけど、わたしから離れてしまうのはもっと嫌!」


「……」


「やっぱり、突然 連絡もしないで来るなんてことしなければ良かった。
 航平を驚かそうなんて…きっと、びっくりして でも喜んで笑ってくれる
 …なんて 可愛くて素直な女の子がするならいいけど
 わたしみたいに年上で可愛げのない女には似合わな……」


早口で捲し立てる美月の唇を 航平は指で押さえて止めさせた。
 
静かになった美月の顔を見つめながら 航平は悲しげに首を横に振った。


「…何でそんなこと言うの?」


「……」 


「美月ちゃんがそんな事考える暇もないように…って 
 ずっと大切に大事に守ってきたんだ。それなのに…」


「こう…へい?」


「美月ちゃんの事を傷つける奴がいたら許さない、って思ってきたのに
 結局、美月ちゃんを泣かせるのは僕なんだね」


「それは違う! 航平のせいじゃないの!」


「違わないよ、僕のせいだ」


航平は目を逸らしながら言うとくるっと美月から背を向けてしまった。

うな垂れて肩を落としている航平の後ろ姿を見て 美月は慌てて叫んだ。


「こっ、航平? 本当に航平のせいじゃないのよ!」


「……」


「ねえ、航平ってば、こっち向いて…」


「……」


「…航平… 泣いてる…の?」


「……」


「ねえ、泣かないで… 航平が泣いたりしたら わたし、どうしたらいいのか…
 …航平はわたしのこと大切に守ってくれたわ。
 わたしだって 本当は航平のことが大切なの…!」

返事をしないまま肩を震わせる航平を見て 美月は慌てて航平の前に回りこんで
彼の腕をつかんで見上げた。


「…え?」


航平はうつむいたまま 軽く握った手を口に当て笑いそうになる口元を
必死で押さえていた。

肩が震えていたのは笑うのを我慢していたからだった。


「こっ、航平? 騙したのね!」

頭に血が上った美月は勢いよく手を振り上げると航平に向かっていったが
彼は笑いながら美月をかわすと、その細い手首を掴んで引き寄せた。

二人の持っていたバッグが同時に手から離れて下に落ちた。

航平は美月を両手でくるみ込んで抱きしめた。

美月の細い体は航平の大きな胸の中にすっぽりとおさまって身動きできない。


「はっ、離して!」

怒りがこみ上げてきた美月は 航平の胸を両手で押しながら叫ぶ。


「何よ、嘘つき! …航平なんて大嫌い!」


「……」


「部屋にいるなんて嘘ついて! …女の子と遊んでたんでしょ!
 ……浮気なんて許さないんだから!
 今までみたいに 航平はわたしだけ見てなきゃいけないのよ。
 よそ見なんて許さないんだから!」


「……」


「航平のばか!」


「…やっと本音が出た…」


「え…?」


「美月ちゃんの本当の気持ち」


「あ……」


「“ものわかりのいい大人の女”なんて 美月ちゃんには似合わないよ」


航平の低い声が美月の耳元で響く。


「何よ…ばかにして…」


言い返す美月の体中から力が抜けていく。

それまで複雑に絡まっていた気持ちが 航平の腕の中でゆっくりと解けていく。

頑なだった気持ちが溶け出して ひとすじの涙となって零れ落ちていく。


「…何よ 航平なんて…  もう…」


「…京都駅にいたんだ…」


「え?」


「最終の新幹線に乗って東京に帰るところだったんだ」


美月が驚いて顔を上げると、航平は美月を抱きしめていた腕を解いた。


「美月ちゃんから電話がかかってきた時、新幹線のホームにいて
 発車のアナウンスとかメロディーが流れていたから慌てて電話を切って
 美月ちゃんには内緒で帰って驚かせようと思ってたから…」


「航平……」


「前みたいに 美月ちゃんの部屋に押しかけて寝込みを襲って
 美月ちゃんのびっくりした顔が見たくて」


「もう……」


「だから 嘘ついたんだ」


「……」


「…ごめん」


「航平…」


「…許してくれるよね」


「ホントにばかなんだから…」


「美月ちゃん」


「航平と同じ事を考えてたわたしもばかだけど…」


「そうだよ、二人して同じ事を考えてたなんて…」


「子供みたい」


「だから気が合うんでしょ?」


「え?」


「だから 美月ちゃんと僕は相性がぴったりなんだよ」


「…そうなの?」


「そうだよ」


真剣な顔で頷く航平を見て、美月は笑い出した。

やっと見られたいつもの笑顔に 航平は嬉しそうに微笑んだ。

ずっと見たくて堪らなかった美月の眩しい笑顔が 満開の花のように広がっていく。


「じゃあ、行くよ」

航平はそう言うと下に落ちた旅行バッグを二つとも片手で持ち上げて
もう一方の手で美月の腕を取って歩き出した。


「え、どこに?」


「僕の部屋に決まってるでしょ?
 今夜…明日の夜も泊まっていくんだよね?」


「あ…」


「楽しみだな、美月ちゃんと一緒に寝るなんて久し振りだ」


「!」


「何しようか」


「わっ、わたし やっぱりホテルを探そうかな」


「だめだよ、一人でホテルなんて。そんなことしたらおじさん達に怒られる」


「う…」


「両親公認の仲っていうのはいいね」


「ありえないわ…両親公認のお泊りなんて…」

少したじろぐ美月を見た航平は ふっと笑うと彼女の手を握った。


「こんなに冷えきって…寒かった?」


「今夜は…花冷えだから」


「熱くなるくらい温めてあげるよ」


「え…」


耳元で航平の囁きを聞いた美月は この後のことを想像して頬を赤く染めた…。

 

 


航平に肩を抱かれたまま部屋に入った。

手に持っていた二つのバッグを床に置くと 
航平はゆっくりと美月のほうを振り返り にっこりと笑いかけた。

さっき、ここに入った時はひんやりとした空気が美月を包んでいたのに
航平が傍にいるだけでほわっと優しい雰囲気になるのはなぜだろう。


「あ… やっぱりマンションの部屋って暖かいわね!」

 

美月は動揺を隠すように部屋の奥まで進みカーテンを少しだけ開けた。

春の夜空にうっすらとした朧月が見える。

航平が近づいて来る気配を背中に感じながら 美月はそのまま外を眺めた。

美月ちゃん…名前を呼ばれ ふわりと後ろから抱きしめられる。

邪魔だね…着ていたコートを脱がされ、今度はぎゅっと抱きしめられる。

髪に、うなじに航平の熱い吐息を感じて美月はくすぐったそうにうつむいた。


「航平もあったかいね…」


ぽつりと呟いた美月の声に反応するように 航平は彼女の体を自分の方に向かせると
肩を抱き寄せてそっと唇を重ねてきた。

懐かしくてやわらかな感触が美月の唇を包み込む。

何度も何度も繰り返される口づけは次第に深く濃厚なものに変わっていく。

ずっと欲しかったやわらかな唇と優しい温もり。


「こう…へい…」


「…会いたかった…」


「わたしも…会いたかった」


しばらく見つめ合ってお互いの視線を優しく受け止める。

航平の手が美月のうなじにあてがわれ、またキスが始まる。

航平のキスが美月の唇から白い首筋へ移動していくと
美月の唇から甘い吐息がこぼれた。

そして、美月のワンピースのファスナーが下ろされて床の上にストンと落ちると
透き通るように白くてほっそりとした肩が現れた。

しなやかな腕と細い腰周りに比べ 豊かな胸の膨らみが
優雅で女らしい体のラインを描いている。


「…やっぱり綺麗だ…」


航平の口から感動にも似た称賛のため息がこぼれる。


「やだ…」


恥じらいながらうつむく美月が愛しくてたまらない。

そして その後 潤んだ瞳で見上げられるとじっとしていられない。

航平…と甘えるような涼やかな声で囁かれると もう何も考えられなくなる。

大切に大切に守ってきた宝物…それが美月だった。



…寒いわ 航平


美月は ひんやりとした空気にさらされて震えそうな自分の肩を両腕で抱え込んだ。



…わたしを温めて 航平… 


航平は眩しそうに美月を見つめると そのほっそりとした体を引き寄せて
両腕でくるんで熱く抱きしめた。




美月は まるで陽だまりのような航平の胸の中で ゆっくりと目を閉じた…。

 

 

 






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