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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1366773/1904014
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 4 HIT数 7069
日付 2009/10/07 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -3- 恋人
本文










-3- 恋人

 



 

パジャマは持ってこなかったの…


…必要ないから? 


荷物はなるべく少なくしたかったし
それに…航平のシャツを借りればいいかなと思って


わおっ 嬉しそうに声をあげる航平。


え、わたし 何かまずいこと言った?


航平は悪戯っぽく笑うと美月の顔を覗き込む。


そうだね、どうせ着る暇もないし…


航平は美月の肩からすうっと長い指でなぞり胸までくると
その下のやわらかな膨らみを大きな手でそっと包み込んだ。

思わず声を漏らした美月を見て 航平は愛おしげに美月を見つめ優しく囁いた。


美月ちゃんが寝る時は僕がパジャマ代わりになるよ…


うっとりと、美月は航平を見つめ返す。


そんなとろけそうな笑顔であっさりと言われたら
わたしは胸がきゅんとしてしまうじゃない…


赤くなった顔を見られたくなくて 美月は航平の胸に頬を押し付けて隠した。


「やっぱり美月ちゃんは最高だな」


航平は嬉しそうに笑いながら額にキスをして また強く美月を抱きしめた。


「…何が最高なの?」


「言って欲しい?」


「…ううん、やっぱりいい…」


「そう?」


うん、航平がそう思ってくれるなら、それでいい…


美月はそう言うと航平の方に手を伸ばして彼の体に抱きついた。

航平の肌に触れ、優しい温もりを感じると 
体の奥深くから 切ないほど彼を求める気持ちが溢れてくる。


航平…もっと抱いて もっと…キスして


美月の濡れた瞳とやわらかな唇が航平を誘っている。

航平は優しく見つめながら少し顔を斜めにすると そっと唇を重ねた。

二人は 何度も何度も濃密なキスを繰り返す。

そして、航平の長い指が肌を彷徨い始めると

美月は身も心も恋人に委ねるように目を閉じた……。 

 

 



 

…航平…


うん?


わたし…すごく眠い…の


うん


このまま寝ても…いい?


いいよ


じゃあ…少しだけ


いいよ ゆっくり眠って


…う…ん…



ベッドの上で二人 シーツに包まって…

ほのかに甘く漂う疲労感とまどろみの中で 美月はうわ言のように呟き
航平はそんな美月の額に唇を当てながら応えた。

ほどなく美月から静かな寝息が聞こえてきた。

 

 


…………………

 

   …………………

 

 

翌朝、目を覚ました美月はぼんやりと周りを見渡した。

そして そこが航平の部屋であることを思い出した。

…そうだった、昨夜わたしは京都に来て…航平と…

隣で寝ているはずの航平の姿はなかった。

気だるい体を何とか起こした美月は 
枕元にきちんとたたんで置いてある白いシャツを見つけた。

パジャマの代わり? 美月は微笑んだ。

航平のシャツを羽織るとやはり美月には大き過ぎたが 
コットンの肌触りが気持ちよくて
ふわりと清潔な石鹸の香りが体中を包んだ。

「航平?」

名前を呼んでも航平の返事はなかった。

いないの? 美月がベッドに座ったままぼんやりしていると
マンションのドアの鍵が開けられる音がして航平が外から戻ってきた。



「航平?どこに行って来たの?」

「ああ、美月ちゃん 起きたの? おはよう」

「おはよう…」


朝一番に向けられた航平の笑顔が眩しすぎて 思わず美月は目を細めた。

航平はニコニコしながら美月のところまで来ると、紙袋を差し出した。

香ばしい香りがして すぐにその中身は焼きたてのパンだとわかった。


「パンを買ってきたの?」

「うん。東京に帰るつもりで何もなかったから」

「いい匂いね~」

「近所にベーカリーができたんだ」

「そうなの?」


美月はガサガサと紙袋を開けて中を覗き込むと 嬉しそうに声を上げた。

美味しそうな焼きたてパンの袋を抱えて上機嫌の美月を見て
思わず航平も笑みがこぼれる。


「美月ちゃんの好きな紅茶もあるから入れてあげるよ」

「ふふ、ありがと 航平」


航平は美月の隣に座り そっと手を伸ばして彼女の乱れた髪を手で撫で付けた。


「よく眠れた?」

「ええ」

「それなら良かった」

「腕…痺れなかった?
 わたし、航平に腕枕してもらったまま寝ちゃったような…」

「大丈夫だよ」

「ほんと?」

「うん。 …美月ちゃん」

「ん?」

「来てくれてありがとう。…すごく嬉しいよ」

「わたしも…航平に会えて嬉しい…」


やわらかな朝の光の中で、航平のぶかぶかのシャツを着て
自分のほうにしっとりとした眼差しを向けている美月を見ただけで
航平はどうしようもないほど胸が熱くなる。

愛しくて、恋しくて…その気持ちに容量はない。

たまらなくなって、両手でそっと白い頬を包み込んで顔を近づけると
睫毛をパチパチさせながら ふふっと悪戯っぽく美月が笑う。



またキスするの?


うん


昨夜から何度もしてるのに?


これは朝のキスだから


昨夜のキスとは違うの?


いいから黙って…


………



はっとするほど綺麗な航平の顔が 触れそうなくらい近づいてくると
自然と美月の瞳は閉じられる。


ふわふわの焼きたてパンと まろやかなミルクティー

そして とろけるように甘い航平のキス


何て贅沢な朝ごはんなの…



朝の光と愛おしい香りに包まれて 美月はうっとりするほど幸せだった……。

 


 

 

その日の午後 美月と航平は観光名所の清水寺で満開の桜を眺めながら歩いた。

土曜日で桜もちょうど見頃の時を迎えていたので 辺りは大勢の人で賑わっていたが
溢れるほど満開の桜に囲まれて、美月は嬉しそうに歓声を上げた。

薄ピンクの花びらが春の明るい日差しを浴びて眩しいほど輝いている。


「本当に綺麗ねー!」


美月は嬉しそうに言うと航平の腕に両手を回して寄り添った。

昨日から美月は 今までになかったような甘えるような仕草で接してくると
航平は思っていた。


「美月ちゃんは桜が好きだね」

桜の花びらが美月を包んでいる。


淡い桜の花も綺麗だけど、美月ちゃんのほうがもっともっと綺麗だ…

航平は美月に頼られているのが くすぐったいくらい嬉しくて
幸せいっぱいの笑顔を向けると 美月もふわりと微笑みを返す。


「うん?そうね、そういえば去年も見たわ。
 えっと、円山公園だったわよね?
 あそこは枝垂桜で…すごく綺麗だった!」

「後で行ってみる?
 夜になるとライトアップされて、かがり火も焚かれるらしいよ」

「かがり火? うん、行く!」

「わかった。でも、まだ時間があるね」

「お土産店を見て、湯豆腐を食べて…お酒もちょっと飲んだりしてれば
 あっという間に日没になるわよ!」

「お酒?」

「あ、ほんの少しね」

「今日も同じ所に帰るから、酔っ払ってもいいよ」

「いえ、そんなことしたらまたお母さんに何言われるか…」


美月はそう言うと大きなため息をついた。

航平はそれを見て 昔 泥酔した美月を背負って家まで送った事を思い出した。

さすがの美月ちゃんも懲りたのかな…航平はぷっと吹き出した。

 


風情のある京料理店で まったく懲りてない美月は
お猪口の日本酒をぐいっと飲みほした。


「甘くておいしー! 航平、お代わりー!」

「大丈夫?」

「大丈夫よ、これくらい。ほら、注いで」

「はいはい」

「ふふ、航平にも注いであげるね」

「ご機嫌だね、美月ちゃん」

「うん、すごく楽しいもの」

「それならいいけど」

「今日は ずっと航平と一緒で、お花見して、お酒を飲んで、美味しいものも食べて
 すごく楽しかった!」


お酒を飲んでほんのり赤く染まった美月は何となく艶っぽくて
そこはかとない色気を醸し出している。


「…航平も楽しかった?」

「うん。…これでまた当分の間、頑張れるかな」

「……」

「何、しんみりしてるの?」

「航平 …あのね…」

美月が何か言い出そうとした時だった。

 


「…桜庭さん?」

 

一人の女性が美月たちのテーブルの所で立ち止まって声をかけてきた。

何気なくその方を見た美月は思わず声を上げそうになった。

その彼女の栗色の巻き毛には見覚えがあった。

昨夜、航平のマンションに行く途中 タクシーの中で見かけた
航平と一緒に歩いていた女性だった。

小柄な彼女が隣にいる航平を懸命に見上げていたのを 美月は鮮明に覚えていた…。

 

 

 

 


―― 1年前 ――


相沢結衣が航平と初めて会ったのは K大理工学部の教授である父の研究室だった。

同じ大学の文学部3年生の結衣は その日の講義を終えた父の車に乗せてもらって
帰宅しようと期待しながら部屋の扉をノックした。

父の返事を聞き、ドアを開けた途端に目に飛び込んできたのが彼だった。


ゆっくりと振り向いた すらりと長身の彼は驚くほど端正な顔立ちで
薄いフレームの眼鏡が理知的でクールな印象を受けたが
教授の相沢の口から 結衣が娘だと紹介されると 彼はにっこり微笑んだ。

わぁ…思わず結衣は息を呑んでしまい、次に顔が熱くなった。


…なんて綺麗に笑うの~!

いきなり心を鷲づかみにされてしまった…ってこういう事を言うのよね。

ステキ!ステキ!ステキ! 

久しぶりに 最高のイケメンを見つけたってカンジ?

それに…声もいいわあ! 低くて甘くて…

T大の大学院生なの?うわあ、優秀なんだー!

顔も頭も良くて…うん、性格も良さそう~!

理工学部の人って、みんな理屈っぽくて苦手だったけどね

ふ~ん、桜庭航平さんっていうのね。可愛いなあ…

付き合ってる人は…いるわよね。

きっとモテるんだろうな……


こうして 女子大生の結衣は 会って間もない航平に
ひと目ぼれしてしまったのだった。


それからは 何かにつけて父の研究室や実験室を訪ねては
航平の姿を探し、彼がいると嬉々として近づいて話しかけた。

実験中は部外者は立ち入り禁止だと父にきつく戒められると
結衣は渋々と退散したが、それを見ている航平の眼差しは優しくて
きっと彼も自分に好意をもっているのだろうと感じていた。

だから父が 東京から来て一人暮らしをしている航平を自宅に呼んで
一緒に食事をと誘った時は、結衣は嬉しくて飛び上がりそうなほど喜んだ。

普段は食事の支度の手伝いなどしない娘が、いそいそとキッチンに立ってるのを見た母は
“よほどステキな人なのね”と からかいながら笑った。

そして、実際に初めて航平と会った母はやはり その彼の素直で礼儀正しさを
ひと目で気に入ってしまった。

4人で食事をしながら会話が弾んでくると その話題は自然と航平のプライベートな部分に
移って行った。


「桜庭さんはきっと東京にお付き合いしてる方がいらっしゃるんでしょうね」

そう母が切り出した時には結衣は内心ドキンとした。

航平に直に聞いてみたかったが出来なかったことだった。


「これほどの好青年なんだから、いるに決まってるじゃないか」

相沢は苦笑いをしながら、妻と娘から航平に視線を向けた。

日頃の娘の言動を見て、航平に好意を持っている事を薄々と、いや、はっきりと
感じていた相沢にとっても、彼の答えには関心があった。

旧知であるT大理工学部教授の小沢から 優秀な人材だから面倒を見てやってくれと
頼まれた時には内心面倒だと思ったが 実際に会った航平の稀に見る視点の鋭さと
真面目で研究熱心な人柄が気に入っていた。


「はい、います。
 将来はその人と結婚したいと思ってます」


だが、3人の思惑をよそに 航平は何の迷いもなくあっさりと答えた。

航平があまりにもあっけなく、素直に言ってのけたので 皆、拍子抜けしてしまい
3人揃ってぽかんと口を開けた。

航平はその様子にきょとんとして首を傾げて目を丸くした。


「まっ、まあ! やっぱりね! …きっと可愛らしい方なんでしょうね」

相沢の妻は慌てて切り返すと、娘のほうをちらっと見た。

 

「はい、僕にとっては最高の女性です」


親しみやすい笑顔を向けながら言う航平の素直さに 一瞬言葉を無くすが
少し経つと相沢は声を上げて笑い出した。


「それはいいね、桜庭君 ぜひ今度、その女性に会わせて欲しいものだ」

「はい」

「はい、って これは参ったな」


相沢はますます豪快に笑い出した。

その時、娘の結衣はショックで何も言えず どんよりと落ち込んでいた……。 

 

 

 

 


「桜庭さん、東京に帰ったんじゃないんですか?」


結衣は 航平と一緒にいる美月の存在に気になりつつも彼に問いかけた。

昨夜、自宅に帰る途中に会った航平は これから最終の新幹線に乗るのだと言っていた。

そして、今夜 彼女は友人とこの京料理の店に来て帰ろうとした時
航平を見かけたのだった。


「そのつもりだったんだけど、手違いがあって…」

「そうなんですか。 …あの、それで…」


結衣がそう言いながら美月に視線を向けたので
航平はニッコリしながら紹介した。


「こちらは 大野美月さん。
 前にも話したことがあるよね? 僕が結婚したいと思ってる人です」


「え…?」


言葉を無くした結衣は 呆然とその場に立ち尽くした……。

 

 

 


 


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