容量 : 39M/100M |
メンバー |
Total :732 |
Today : 0 |
書き込み |
Total : 898 |
Today : 0 |
|
|
D&J |
こちらは、ドンヒョク&ジニョンを中心としたお話の部屋です。
私なりに想像した二人のその後・・・というお話になります。
婚約時代から、結婚後、ファミリーのお話・・・とありますが、時系列がばらばらだったりして、読みにくい一面もあると思いますが、よろしければお付き合いくださいませ。
|
No |
307 |
HIT数 |
1091 |
日付 |
2009/03/05 |
ハンドルネーム |
Library Staff |
タイトル |
レオのつぶやき ジェイside by hant55 |
本文 |
orionnさんの世界を壊さない事を祈って・・・
『レオのつぶやき ジェイside
by
hant55』
「吸うか?」 俺はタバコを1本口にくわえると箱をジェイに差し出した。 ちょっと、面食らったジェイだが、くわえたタバコに火をつけてやった。
白い息とともに吐き出された煙は一瞬凍りついたように立ち止まり、混ざり合いゆらゆらと迷いながら夜の空に吸い込まれていった。
漢江の河川敷。 河に掛かる7号線の橋をヘッドライトとテールランプが埋め尽くしていた。 太いコンクリートの橋脚はライトアップされ、幾色にも混ざり合った光が川面に映り幻想的な光景が広がっていた。
車を止め、こんなところでなんだと俯瞰そうなジェイを促し、2人で河川敷に腰を下ろした。
今夜・・・ そろそろ今日は切り挙げるかと帰り支度を始めた時、オフィスの電話が鳴った。
RRR~~~ 「はい、そうです。私がパクです。 ・・・・警察!?」
警察署は繁華街の中央にあった。 玄関ホールに入り、立ち止まる。 そこは区役所のように整然としていたが、違うところといえば酔っ払いがイスで寝ている事ぐらいか。 カウンターに進み、当直らしい警察官に身分を告げた。
案内された大部屋の中をぐるりと見回すと、ジェイは部屋の隅で半ば放心したように座っていた。 左の拳に包帯を巻かれて・・・。
案内の警察官が一人の初老の刑事を連れてきた。 名刺を差し出すと、しげしげと眺め、あまりスプリングのよくないソファーを薦めてくれた。
「ご足労をおかけしました。 本当の弁護士さんでいらっしゃるんですね。
両親が海外出張中だとかで、誰も引き取り手がいないと。 迎えが来なければ帰れないぞ、というと『なら、オレの顧問弁護士を呼べ』なんて言いましてね。 ご迷惑だとは思ったんですが、連絡させて貰いました。 よろしかったですか?」
「ええ、間違いなくこの子は私が顧問弁護士をしている人物のご子息です。 何をしました?」
初老の刑事はファイルを取り出すと中身を読み上げた。
「被疑者、イ・ジョンオク(17歳)は、本日、午後7時20分ころ、ソウル市
江南区新沙洞 53-11先、路上にて、同じく新沙洞
50-1ソウルレコード店より、CD5枚を万引きし、同店店員キム・ソンヒ(27歳)に追いかけられているところを通りかかった、シン・ジェウォン(17歳)により取り押さえられた。」
なんだ、ジェイが何かしたんじゃないのか。 それまで肩に力が入っていた俺はほっとしてソファーの背もたれに身体を預けた。 「それなら立派な逮捕協力でしょう。何も連行されて親を呼ぶまでもないではないですか。」 「まあ、協力は協力ですが、協力の仕方を間違えましてね。」 「協力の仕方?」
初老の刑事は歯切れが悪そうに続けた。 「取り押さえたあと、少年をボコボコに殴っちゃったんですよ、これ、診断書。全治10日間の打撲。」
ファイルから1枚の紙を取り出し、テーブルの上に置いた。 中には「顔面、腹部、腰部打撲。全治10日の治療を要する。」と書かれていた。 バカだなあ、ハデにやりやがって。
「で、でも、相手が抵抗したら、反撃するでしょう、これだって立派な正当防衛ですよ。なんなら、私が弁護士としてジェイの弁護をしますか?」 いや、本当は過剰防衛を問われてもおかしくない。 逆に傷害罪で立件されたらどうする?
「いえ、相手にも非はあります。少年の両親も告訴はしないと言ってます。」 「当然ですよ、万引きをして逃げていたんだ、捕まって少しくらい殴られたって本人のためです。」 良かった。これがヘンな親だったら、間違いなく告訴するぞ。 却って世間体を気にしてるほうが何事もなく穏便にと思うものだ、助かった。
「少しくらいならね。」 刑事は万引き少年に同情していた。
一言も話をしないジェイを連れて、警察署を後にした。 『両親が海外出張中』? 何をウソついてんだ。ボスもジニョンさんも今頃、帰りの遅いこいつを心配しているだろう。 とりあえず、オフィスに尋ねてきたジェイと食事をしている、と電話を掛けた。
タバコを1本吸い終る頃、初めてジェイが口を開いた。
「ごめん、わざわざ来て貰って。」 指で弾いた吸殻が放物線を描き、川面に小さな波紋を広げた。
何があった? 理由もなしにあんな事をするお前じゃないはずだ。
「夕べ、父さんから話を聞いた。 産みの親に捨てられて、アメリカに渡った話。
姉貴は前におじさんに聞いた事があるんだってな。 オレ、なんにも考えた事なかった。 父さんは時々辛そうに咳き込みながら話してたよ、具合も悪かったのかもしれない。
・・・ずっと一人で生きてきた。ジニョンに出会うまで、人を愛した事なんかなかった・・ ・・・親に捨てられた子供という事は僕にとってとても大きな弱点だった・・ ・・・生きる事に疲れて死にたいと思った事があったよ・・・
こんなショックな事ってあるかよ。 小さい頃からずっと、父さんは完璧な人だと思ってた。 いつも言われ続けてた「シン・ドンヒョクの息子」をどんなに捨てたかったか。 オレは父さんとは違う!オレはオレなんだ!って世界中に叫びたい時もあった。
到底、父さんのようにはなれないとはじめっから思ってたよ。 でも、夕べ、考えた。父さんだって最初から今の「シン・ドンヒョク」じゃなかったんだって。 迷い、傷つき、這い上がりそして母さんと巡り会った。
小さい父さんが味わった苦労に比べ、今のオレは何をしてるんだ、って考えながら歩いてたら、ヤツが必死で逃げてくるところにぶつかった。 『万引きだ!捕まえてくれー!』 自分で稼ぎもしないで欲しいものを手にしようとするヤツを見て無性に腹が立った。 気が付いたらヤツをボコボコにしてた。 本当は殴らなれきゃいけないのはオレ自身のはずなのに。
ごめん、おじさん。 夕べの父さんと母さんみたら、警察に来てくれって言えなくておじさんを呼んじゃった。」
そうか・・・。 ボスはこの子達に話をしたのか。 いつか、ボスの口からこの話を語り、この子達が理解する日がくるとは思っていたが、もう、そんなに大人になったんだな。 あんなにパパ、パパと言っていたジェイがだんだん親や俺から遠ざかり、どこに向かって走っているのかわからなくなっていた。 そうか・・・。 「シン・ドンヒョクの息子」でいる事が息苦しかったのか。
ボスがまだ、フランクでいた頃も、今のこいつみたいなナイフのようにとがった表情をしていた。 近寄るものを次々と切り裂くように容赦のない生き方。
だが、今は違う。
ジニョンさんと出会い、お前達を授かりやっと掴んだ幸せだ。 父と息子の確執? いいじゃないか、それも家族でいる証拠さ。 おおいに、悩め、ジェイ。 いつか、「シン・ドンヒョクの息子」から「シン・ジェウォンの親」と世間の奴らに言わせてやれ。
7号線の橋は相変らず、車がひしめき、皆家路を急ぐように渡っていく。
「おじさん、弁護士になるためにはどうしたらいい? もちろん、勉強して大学いかないといけないのはわかってるけど、オレ、どうしたらいい?」 「弁護士に?ジェイが?なんで?」 「なんでって、おじさん、オレが小さい時からずっと言ってたじゃないか。 『ジェイ、お前はおじさんのあとを継いで弁護士になれ』って。 刷り込みっていうの?あんまり言われつづけてたから、何をしようか、何になりたいか考えてもそれしか浮ばないんだよ。 これって、おじさんの計算?」
計算・・・世の中計算通りに事が運べば苦労はないな。 でも、お前は計算外の賜物か。
刷り込み。 そうだよ、赤ん坊の時から眠っているお前の頭をなでて言い聞かせていたもんなあ、 『ジェイ、大きくなったらおじちゃんの後を継いで弁護士になれ』 そのたびにボスは呆れたような、迷惑なような、同情するよう目で俺を見ていた。 こんな上々の結果になるなんて思ってもみなかったぞ。 そうか、ジェイ、弁護士になる気になったか。
「いいか、俺達の仕事は依頼者のあらゆるニーズに迅速・的確に対応するため、何が必要か即時に判断する力が要求される。 有益な結果を導き出すには、法律だけじゃない、金融や特許に関する分野、海外投資に向けた知識。 また、それを発揮する交渉術も不可欠だ。 どうだ、やれるか? そこへ行くまでは、まだまだ遠いな。 まず、大学へ入れ、できればボスと同じところで同じ感覚を味わって欲しい。 それは、きっと、ボスにも喜んで貰える事だと思う。 俺だけいい目を見ちゃ、悪いしな。」
「ハーバード・・・。」 はあ~と大きく溜息をつき、肩を落とした。
何、弱気になってる。 「シン・ドンヒョクの息子」じゃないか。 おっと、これは禁句だったな。
「今夜、おじさんのとこ泊まっていいかな? こんなんじゃ帰れないしな、母さんに騒がれるのは目に見えてるから。」
シップを当て包帯を巻かれた手でボクサーのようなファイティングポーズをとった。
まあ、それをジニョンさんが見たらただじゃあ済まないな。 明日になれば腫れも引くだろう。 よし、今夜は泊まっていけ。
そういえば・・・。 小さい頃、ジェイはよく俺のウチに泊まりたがった。 機嫌よく遊んで、一緒に風呂に入ってもいざ、寝る時になるとお家に帰ると泣いたっけ。 今日は絶対泣かないと約束しても、決まって寝る時になると泣くんだ、やっぱりお家に帰るって。
そのたびに送って行く俺にジニョンさんは何度も頭を下げ、途中、車で寝ちまったジェイを受け取るボスは満足そうな笑みを浮かべていたなあ。 どんなに懐いてくれて、可愛がったところで実の親には叶わないって思い知らされたよ。
「なんだよ、思い出し笑いなんかして。 あ、昔の事思い出してた? まさか、帰るなんていわねぇよ」
「それよかさぁ、まだ、あれ、あんの?」 「あれって?」 「あれだよ、こきたないカメのぬいぐるみ。ベッドの横に。」 「悪いか、あれは5歳の誕生日におふくろが買ってくれたんだ。」 「てか、なんでカメなの?もっとなかったのかよ?ほら、テディ・ベアとか、なんかかわいいのが。」 「ちょうど、飼ってたカメが死んで悲しんでる俺を慰めるために買ってくれたんだ、 余計なお世話だ。」
ジェイは呆れたように首を振り、天を仰いだ。
「おじさん」 「なんだ?」 「久しぶりにチェスをしよう!」
チェス・・・。 最後にこいつに勝ったのはいつだ?・・・
そう、2人でパーティーを抜け出し、ボスに誘拐と間違われ、スワットに取り押さえられ・・・。 よほど悔しかったとみえて、必死になってボス相手に腕を磨いてたっけ。
あれから・・・一度も勝ってないな・・・。
「心配すんなって、手加減してやるから。」 そういうと、立ち上がり、俺の肩をポンと叩いて車の方へ歩いて行った。
冴え渡り、凍てつく寒さの中でも冬の夜空には温かな星が瞬き、月は優しげな光を投げかけていた。
(written
by hant55 2005/11/20 Milky WayUP)
|
|
|