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Milky Way Library
Milky Way Library(https://club.brokore.com/sunjyon)
「Hotelier」にインスパイアされた創作(written by orionn222)の世界です
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恋の雫
No 13 HIT数 1201
日付 2009/03/17 ハンドルネーム Library Staff
タイトル cafe chocolat on Sunday
本文
             『cafe chocolat on Sunday』




今日は日曜日

本日の日替わり珈琲は、モカ マタリ

独特の豊かな酸味とまろやかな香りとコクで、別名珈琲の女王ともいわれているこの珈琲が、休日にはお似合いじゃないかしら

結局、私は今日も朝早くからお店に来てしまった。

そして、早々とデリバリーの準備を始めた。

約束の時間は午後4時なのに・・・

私の手はキャニスターの上でふと止まった。

約束の時間・・・4時になれば、確実にジノssiに会える。

その事が、私の心を華やがせ、ふわふわと浮き足立たせていた。

なんだか、何をしていても、手につかないような気がして・・・・

何度となく、時計を気にしている自分に気付く。

やがて、開店の時間を迎えた。


カララン・・・コロロン・・・

今日もドアチャイムがお客様の来訪を告げる。

さぁ、落ち着いて、美尋
私は、絶え間なく乱れた鼓動を奏でる心臓に手を当てて、深呼吸をした。

「いらっしゃいませ、ヒロへようこそ」

今日は、時計の針の進み方が、やけに遅く感じる。
馬鹿ね、そんなことはないのに・・
アルバイトのヒジンからも指摘されてしまった。

「美尋ssi、どうかしたんですか?」
「えっ?」

「なんか、今日、5分ごとに時計見てません?」
「そ、そう?」

「あ、デリバリーの事、気になってるんですか?」
「えっ、ええ・・まぁ・・」

心の中を言い当てられて、一瞬どきっとした。

ヒジンは、「大丈夫ですよーー、ちゃんとお留守番してますから!」とガッツポーズで答えた。

その姿に思わず笑みがこぼれる。

「ええ、お願いね」
「あっ、でも・・・いざとなったら、お店closeしちゃってもいいですか?」

ちょっと申し訳なさそうに、付け加えた。

私がくすっと笑って頷くと、ヒジンは目を輝かせて「美尋ssi、しっかり見てきて、後で報告して下さいね!で、なんの撮影なんですか?」と聞いてきた。

「・・さぁ・・・」
「もう!駄目じゃないですか!もしかしたら有名人とか来てるかも!できたら、写メとか撮ってきてくださいねーー」

まったく・・・
そんなヒジンの言葉に苦笑いで答えた。

やがて、約束の時間が近づいてきた。

準備万端でそわそわと外を伺う私に、ヒジンも一緒になってそわそわしている。

時計の針はもう4時だ。
4時を20分ほど過ぎた頃、店のドアが開いた。

「すみませんーー、デリバリーをお願いしたものですがー」
どことなく、業界人っぽい若い男の子が顔を覗かせた。

「あっ、はい、ご用意できてます。」
「美尋ssi、有名人だったら、サインよろしく♪」

ヒジンにそう耳打ちされて、店を後にした。

駐車場に止められたマイクロバスに乗り込むと、荷物を運んでくれた若い男の子がちょっと頭を掻いた。

「あの・・・先輩には4時丁度に着いた事にしてもらってもいいすか?」
「えっ?・・ええ・・・・」

「絶対、4時ジャストに行けって言われてたんだけど・・・渋滞でちょっと遅れちゃって・・・ばれたら怒られるから」
「そうなんですか?」

「先輩、怒ると怖いからなぁ・・・いつもは穏やかで頼りになって俺達後輩の面倒も、よく見てくれる人なんだけど、
仕事に関しては超厳しいってか、ハンパねぇーから・・」

そう言うと、少し焦り気味でアクセルを踏んだ。

いつもや穏かに微笑んでいるジノssiの姿しか知らない私には、意外な彼の一面だった。

「あの・・・・今日のロケってどんなのですか?」
「えっと、今日のはスポーツブランドの広告の撮影っす。ほら、あそこの・・・」

男の子が口にしたブランド名は、私でも知っている名前だった。

やがて、車は小高い丘の上にある大きなスポーツ公園へと到着した。

何台ものロケバスが止められ、大きなテントがあちこちに張られる中を、たくさんの人たちが忙しく動き回っている。

白い大きなスクリーン、銀色に輝くレフ板、たくさんの機材、大きなパラソルの下には、メイクさんにお化粧を直されている数人のモデルさん達が座っていた。

大きな声があちこちに響き渡るその間を、幾人もの人が慌しく走り回っていた。

私は、興味深くあちこちを見渡しながら、案内されたテントの下で荷物を広げ、ちらちらと目の端でジノssiの姿を探した。

「やぁ、ご無理言ってすみません。」

声のした方を振り向くと、ジノssiより少し年上のジャケット姿の男性がにこやかに近づいてきた。

「今日の撮影のプロデューサーをしています、イ・ファンといいます。
ジノから聞いてますよ。とっても美味しい珈琲なんですってね。こんな現場で飲めるのは、本当にありがたいですよ。」

手伝いますよ・・
というファンssiの手を借りて、私が珈琲の準備を始めたその時、少し遠くで幾人かの言い争う声がした。

驚いて声のした方を見ると、数人の人の中にジノssiの姿があった。

「それは、納得できない!」
ひときわ大きくジノssiの声がした。

「やばい、ジノの奴、なんかトラブッてるな。ちょっとすみません」そう言うなり、ファンssiが駆け出していった。

しばらくその場で言い争いが続いていたが、やがてファンssiに引っ張られるように、ジノssiがこちらのテントに向かってきた。

その間も、激しく言い合っている。
周囲の人たちは、困惑した表情で二人を遠巻きに見ていた。

「打ち合わせと違う。」
「ジノ、現場で変わる事ぐらい、当たり前じゃないか」

「ヒョン、仕事のクオリティを上げるための変更なら何度だって構わない。そんなことを言ってるんじゃないのは、ヒョンだってわかってるだろう?」
「それは・・そうだが・・・今回はスポンサーとモデル事務所の絡みもあって・・・そこのところは、まぁ・・」

「それなら、この仕事はできない。」
「ジノ・・・スポンサーはお前をご指名なんだよ。だから、まぁ・・そこは・・大人になれよ。」

「ヒョン!」

二人は丁度私のテントの前で睨みあうように足を止めた。

見たことのない険しい表情と厳しい声音のジノssiの姿に、珈琲を注ぐ手が思わず震えた。

息の詰まるような空気の中を、私の注いだ珈琲の香りが、睨み合う二人の間に流れ込んだ。

二人が同時にこちらを向いた。

その瞬間、私に気付いたジノssiの表情が、一瞬驚きに固まり、次の瞬間苦笑いに変わった。

そんなジノssiの気配を感じ取ったのか、ファンssiが大きな声で休憩を告げた。

「おーーーい!!!みんなーーーー、お待ちかねの珈琲が届いたぞーーー、休憩だーー!!」

その途端、ぴんと張り詰めた緊張が解けたように、周りからわっと歓声が上がり、大勢の人たちがテントに群がった。

私は、一気に目の回るような忙しさに見舞われた。

「あ、オレ、ミルクたっぷりで」
「馬鹿野郎、そんなのは自分で入れろ!」

「すみませーーん、あっちへ配ってくるので、5杯お願いします。」
「うわっ、これ本物だ!まじ美味いっす!」

「香りから違うねぇ・・・」
「ちょっと、そこどきなさいよ。あ、あたしはこれに入れて」

「マイカップ持参すか?」
「だって、昨日からジノにさんざん聞かされてたんだもの。そんなに美味しい珈琲なら、ちゃんとしたカップで飲まなきゃ失礼ってものよ、ね?」

「あ、ありがとうございます。」

さすがに辺りにいたスタッフの人たちは手馴れたもので、上手にサポートしてくれ、なんとか全員に珈琲を配り終えた。

はぁ・・・・

思わずため息が口から零れ落ちたとき、「お疲れ様」と、優しい声音が響いた。

ジノssi・・・

「お疲れ様でした。大変だったでしょう?」
「あ・・・いえ・・・」

「僕の分も残ってる?」
「もちろんです。」

ジノssiは、にっこりと微笑むと、小高い場所に置かれたベンチを指差した。

「あそこで休憩しましょう。美尋ssiの珈琲もあるかな?」
「ええ・・・」

私達は珈琲を手に、眼下に街が一望できるベンチに腰を下ろした。

ふと辺りを見回すと、みんな珈琲を片手に寛いで談笑している。
先ほどの緊迫した空気が、和んだ事が嬉しかった。

街を見下ろしながら、珈琲を一口飲む。
豊かな酸味がふわっと広がり、私の口を軽くした。

「お仕事では厳しいんですね。」
私の言葉にジノssiがふっと苦笑した。

「見られたか。」
ジノssiは、珈琲を一口飲むと、満足げなため息を漏らした。

「僕は弱い人間だから・・」
「えっ?」

「僕は弱い人間だから、一度まぁいいか・・と許してしまうと、後はきっとなし崩しになってしまう。
だから、絶対に譲れないラインをしっかりと張っておきたいんだ。」

その真摯な口調と、厳しい横顔に胸が震えた。
ジノssiはそういうと、また珈琲を口にした。
そのまま優しい静けさが訪れた。

やがて、ゆっくりと日が翳り、あたりに夕方の気配が満ちてきた。

「こうしていると、心が落ち着くな。美尋ssiのお陰でクールダウンできた。」
「私はなにも・・・」

ジノssiはちらっと私を見た後、目の前の景色に目を戻した。
そこには、綺麗な淡い夕暮れが広がっていた。

「ああ・・・綺麗だな」
ジノssiが独り言のように呟くと、私も小さく頷いた。

「この景色のように・・・・・見ているだけで心が落ち着くもの・・・そこにいるだけで心が解けて落ち着くような・・・
景色や場所や・・人・・そういうものってあるよね」

えっ?
その言葉の真意に思いをめぐらせ、全身がかっと熱くなった。

でも、ジノssiの方を向く勇気がわかず、私は目の前の景色から目が離せずにいた。

「よーーーしーーー!!そろそろ休憩は終わりだーーー、撮影再開―――――!!」

ファンssiの大声が響き渡った。

ジノssiは、シャツのポケットからスケジュール帖を取り出すと今日の日付のところにいつものように珈琲カップを描いた。

『目標達成!クーポン券ゲット!』

そのコメントを見て、私は慌ててバックからクーポン券を取り出した。

「あの・・・これなんですが・・」
ちょっと申し訳ない気持ちでそっと差し出した。

そこには、『ヒロ 珈琲クーポン券 お好きな珈琲を特別価格でおかわり自由 café chocolat付』と記されている。

「café chocolat?」

ジノssiの言葉に私はバックから小袋を取り出した。

「あの・・これです。」
ジノssiにそっと手渡す。

「珈琲豆を丸ごとチョコレートでコーティングしたお菓子なんですけど・・」
「へぇ・・・おいしそうだな。食べてみてもいい?」

「ええ、どうぞ」

ジノssiはびりっと小袋を破ると長い指で一粒café chocolatを摘んで、ぽん・・と口に放り込んだ。

「うん、美味しい・・・甘くてほろ苦くて・・・」
そこにファンssiがやってきて、声をかけた。

「ジノ・・・お前の言うとおりに調整した。今日はこれでやってくれ」
「ヒョン・・・わかった。ありがとう」

ジノssiはcafé chocolatの小袋を私の手に戻しながら、「それじゃ・・・美尋ssi、今日はどうもありがとう。ご馳走様でした。気をつけて帰ってください。」と、にこやかに微笑んだ。

「こちらこそ、ありがとうございました。」
「じゃ、また明日」

そう言うと、ジノssiは足早に歩き始めた。

遠ざかる大きな背中を切なく見つめていた時、突然くるりとジノssiが振り向いた。

「そうだ、明日のオーダーをしておきますね。珈琲はM-ヒロスペシャルで」
そう言うなり、駆け出していってしまった。

どきどきどき・・と早鐘のようになる私の胸に、その笑顔を焼き付けて・・

「今日はありがとうございました。」
ファンssiが優しく労をねぎらってくれた。

「ジノの奴、随分落ち着いたな・・・貴方の珈琲のお陰ですよ。」
「いえ・・そんな・・」

「あいつ、なんていうか・・頑固で一途で・・仕事に関しては一切の妥協を許さない。
そこがいいところでもあるんですが・・・こういった業界では、やれどこの絡みだとか、事務所の力関係だとか、コネや金やプロダクション同士の貸し借りだとか・・
そんなものが幅をきかす世界でもあるんです。
でも、あいつにとっての物差しは、いい作品を創るという事だけなんです。そうはいっても、なかなか難しいのが現状なんですが・・
実際、何度か揉めて仕事を降りたこともある。
今日もどうなるかとハラハラしてたんですが・・・」

そう言うと、忙しく立ち働くジノssiの姿を目で追った後、優しく言葉を繋いだ。

「貴方の珈琲で現場の雰囲気も和んだし、ジノの気も静まった。」
そこで、まじまじと私を見た。

「珈琲というより・・・もしかして貴方のお陰かな」
「えっ?」

かっと頬を熱くした私を微笑ましげに見ると、ファンssiは、笑いながら去っていった。

私は手の中に残されたcafé chocolatを一粒摘むとそっと口に入れた。

かりっ・・・

甘いチョコレートが口の中に広がり、そのあとにほろ苦い珈琲の豆が砕けた。

甘くて、ほろ苦くて・・・

これは、恋の味だろうか・・・





                                                              to be continued




(2007/05/06 Milky WayUP)

 
 
 

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