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Milky Way Library
Milky Way Library(https://club.brokore.com/sunjyon)
「Hotelier」にインスパイアされた創作(written by orionn222)の世界です
サークルオーナー: Library Staff | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 732 | 開設:2008.11.22 | ランキング:51(8198)| 訪問者:139162/416573
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恋の雫
No 4 HIT数 1156
日付 2009/03/13 ハンドルネーム Library Staff
タイトル 恋の雫 3 cafe chocolat on Monday
本文
           『恋の雫 3 cafe chocolat on Monday』




「また来てもいいですか」

はっ!!

耳元にあの彼の声が響いて、私はベッドから飛び起きた。

ゆ、夢??

朦朧とする頭にはまだ彼の声が残っていて、私の体を震えさせる。

まるで、耳元で囁かれたようなリアルな感覚に、どきどきと心臓が喧しい音を立てていた。

夢だったのね・・・・・

枕もとの時計を見るとまだ午前5時だ。

なんて夢を見たのよ、私ったら・・・・
軽くため息をついて、夢を追い出すように頭を振った。

夕べなかなか寝付けなかった事だし、もう一度眠ろうとベッドに横になってみるものの、なんだか訳のわからない胸の高鳴りに眠れそうもなかった。

はぁ・・・と深い息をはくと二度寝は諦めてベッドを抜け出し、いつものように珈琲をセットしにキッチンへ立った。

コポコポと優しいコーヒーメーカーの音を聞きながら、まだ薄暗い窓の外を眺め、もう何度も思い返した夕べの出来事をまた埒もなく考えていた。

・ ・・・また来てもいいですか・・・・
あれは、どういう意味だったんだろう・・・

もちろん・・・うちの珈琲を気に入ってくれたという意味に違いない・・・
クーポン券ゲットは、軽い冗談の類・・・

でも・・・・本当に来てくれたら?
それとも・・あれは単なる社交辞令?


その時、堂々巡りの私の思考を破るように、シューっと一際高い蒸気の音を立てて、芳しい珈琲が出来上がった。

朝はミルクたっぷりのカフェオレで・・・・
これが、私の毎朝の日課
一日を始めるためのちょっとした儀式・・・

私は大振りのマグカップにたっぷりと淹れたカフェオレを片手に、ようやく白み始めた窓の外を眺めた。

この空の下にあの人も・・・・チャン・ジノssiもいるのね・・・
彼はもう起きているかしら・・・
それとも、まだベッドの中?

ただ同じ空の下にいるというだけで・・・ただそれだけで、私の胸は乱れた音を立て、いつもと同じ朝なのになんだか全く違う人生の1ページが始まったような気がする。

そんな不安とときめきを乗せて、彼方の空に真新しい太陽が昇っていった。


まだ早いわよね・・・・

私は開店2時間も前に、店に着いてしまった。

あれから、家にいてもなんだかそわそわと落ち着かず、結局こんなに早く店に来てしまった。

月曜日だし、たまには念入りに掃除しなきゃ。

そんな風に自分を納得させて・・・
とはいえ・・・・

床にモップをかけて、店中の窓を磨き上げ、カウンターやテーブルを念入りに拭き上げると・・・
それほど、用事はなくなってしまった。

もしかしたら昨日のように、開店前に立ち寄ってくれるかも・・・と、もう何度ポーチに置かれたプランターの花々に水をやったことだろう。

このままじゃ、ペチュニアが溺れちゃうわね・・・・

私はドアの前でもう一度振り向くと、視線を彷徨わせ夕べ彼が来た方向を辿ってみるけれど、いつものように車が忙しく走り去る風景が広がっているだけで、あのグランドチェロキーは見あたらなった。

馬鹿ね・・・美尋
何を期待していたの?

私は小さなため息を一つつくと、ドアにかけられたプレートをひっくり返し、closeからopenに変えた。

カララン・・・・コロロン・・・・

ドアチャイムが鳴って、お客様の来訪を告げる。
一瞬どきっとした私の目に、常連さんの姿が映った。

さぁ、美尋
しっかりしなさい。夢から覚めて・・・

「いらっしゃいませ、ヒロにようこそ」


本日の日替わり珈琲

月曜日の今日は、ブルーマウンテン
風味といい芳香といい全てに優れた甘みと酸味のハーモニィーが絶品の珈琲
元気がでそうでしょう?

1週間の始めに、ふさわしい珈琲


さぁ、私もがんばらなきゃ

私は気持ちを切り替えて、にこやかにお客様をお迎えした。


そして・・・・

忙しい一日が終った。

私はカウンターの中から、すっかり片付け終わった店内を見渡した。

結局・・・彼は来なかった。

今日一日、ドアチャイムが鳴るたびにドキドキと胸を高鳴らせていた自分が恥かしかった。

社交辞令をまともに受け取って、私ったら何を期待していたのかしら・・・

ふぅ・・と自己嫌悪のため息を一つ零して、私は妙に疲れた今日一日をなんとか気持ちよく終らせようと、自分の為に珈琲を淹れ始めた。

本日最後の日替わり珈琲

オーダー1

心の中で呟いて、ブルーマウンテンをドリッパーに量り入れた。

やがて芳しい香りがあたりに満ちてきて、私の一日がいつものように終ろうとしたその時、運命のようにドアチャイムが鳴った。

驚いてカウンターから身を乗り出すようにして、ドアの方を確かめる。

そこには・・・

チャン・ジノssi!

彼だった。


まるで全速力で走ってきたかのように、息を切らし髪を乱しうっすら汗をかいた彼を目にした瞬間、私の視界から他の全てが抜け落ちた。

魅せられたように彼を見つめる。

「まだ・・・やってますか?」

荒い息で彼は聞いた。

「あっ・・ええ・・ど、どうぞ」

今朝の夢のままのような声を耳にして、私はしどろもどろに返事をした。

「よかったー。間に合わないかと思った。」

彼は早足で店内を歩くと、どさりとカウンターの席に腰を下ろした。

・ ・・そこ・・ですか?

今日も私の目の前に座る彼に、心臓が煩いくらいに音を立て始めた。

「ロケの帰りだったんだけど、この先で事故があったらしくて渋滞して・・・」

彼は私の出した冷水を一息で飲み干した。

「なかなか進まないから途中で降ろしてもらって走ってきたんだ。」

「あ・・それは・・その・・」

そんな彼の行動に私はなんて言葉をかければいいのか分らなかった。

・ ・ありがとうございます・・・と言うべき?
それとも・・・そんな無理をしていただかなくても・・・?

彼はそんな私の逡巡など気にもとめずににっこりと笑った。

「日替わり珈琲を」
「はい」

そう言葉を交わした私達二人の前には、丁度淹れたての一人分の珈琲が湯気をたてていた。

「まるで僕を待っていてくれたみたいだな」

彼が冗談めかして楽しげに笑った。

ええ、そう・・・・
私、待っていたのかもしれない。

私はポットの珈琲をカップに注ぎいれながら、心の中で返事をした。

だって・・・

だって、営業時間はもうとっくに過ぎているのに、ドアプレートはまだopenのままだったのだから・・・

もしかしたら・・・と、一縷の望みを抱いていたのだから・・・

「どうぞ・・」
そっとカップを彼の前に置く。

「ありがとう」
彼は、慈しむようにカップを両手で包み込むと、そっと口に運んだ。

「美味しい・・・」
彼が小さく囁いた。

「い・・今までお仕事だったんですか?」
なんとなく落ち着かず、意味もなくカウンターをクロスで拭きながら聞く。

「ええ。忙しい一日でした。」
そう言うと、またゆっくりと珈琲を味わう。

「ああ・・こうしていると今日一日の疲れが解けてゆくようだ・・・」
彼が独り言のように呟いた。

「今日一日の・・・イライラや憤り、失敗や失言、なかなか進まないスケジュール、何度も変更になるコンセプト、迫りくる締め切り、意味のない打ち合わせ・・・そういったものが全部消えて、穏やかに今日を終る事が出来そうだ・・・うん、あれはもうしかたない。また明日頑張ろう。」

思わず、くすっと笑いが零れた。

「そんなに大変な一日だったんですか?」

彼も笑いながら答えた。

「僕の毎日はいつもこんな風なんですよ。我ながら情けないけど・・・でも・・」
「でも?」

「でも、こうしてとびっきり美味しい珈琲を飲めたから、差し引きゼロ、いや、確実にプラスで終われる。」

まっすぐに私の目を見て彼は言った。

その言葉に、見詰め合ったお互いの顔から一瞬笑顔が消えた。

「あ・・いえ・・・あ・・・ありがとうございます・・・」
慌てて目を逸らしそう言った。

しばらくの沈黙

すると、彼は大きなバッグの中からあのスケジュール帖を取り出した。

私の方をちょっと悪戯っぽい目で見ると、ページを開き今日の日付のところになにやら書き出した。

思わず覗き込んで見る。

珈琲カップ!

「今日は美味しい珈琲を飲めたから」

彼はそう言いながら、可愛らしい珈琲カップのイラストを描いた。

そして、私の顔をちらっと見ると、その横に、『目指せ!クーポン券Get』とコメントを書き足した。

思わず笑いが零れ出る。

彼の描いた可愛らしいカップのイラストを眺めながら、二人の間を優しい時間が流れた。

ふと腕時計に目を落とした彼は「もうこんな時間だ。今日も遅くまですみません。」と立ち上がった。

ドアの方に向かう彼を見送るように私もカウンターを出た。

レジを済ましてドアを開けながら、彼はゆっくりと振り返った。

「明日もこんな時間になるかも・・・」

「あの・・無理なさらないで下さい。クーポン券なら・・」


そう言う私を穏やかに手で制すると、彼は柔らかく微笑んで「また明日」と去っていった。


こうして私達の月曜日は終った。









                                                                      to be continued




(2007/04/30 Milky WayUP)

 
 
 

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