容量 : 39M/100M |
メンバー |
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書き込み |
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No |
5 |
HIT数 |
1109 |
日付 |
2009/03/13 |
ハンドルネーム |
Library Staff |
タイトル |
cafe chocolat on Tuesday |
本文 |
『cafe chocolat on
Tuesday』
今日は火曜日
本日の日替わり珈琲はキリマンジャロ
少し酸味が強くって甘い香りと上品な風味が特徴
super
Tuesdayになるかしら?
カララン・・・コロロン・・・
ドアチャイムがお客様の来訪を告げる
さぁ、今日も一日が始まった。
モーニングセットのパンケーキを焼いている時も、ランチのサンドイッチを作っている時も、デザートタイムのケーキを並べているときも・・・
私の心の中には、ずっと彼の事があった。
今日もまた来てくれるだろうか・・・ そして、それは・・・何かを意味するのかしら・・・・
つい手を止めてなんとなくドアの方を伺う私に、お客様から声がかかる。
「すみませんー、日替わり珈琲を」 おっと・・いけない
「はい、ありがとうございます。」 私は元気よく、そう返事すると、キリマンジャロと記されたキャニスターを取り出した。
そして・・・・
最後のお客様・・・・どうやら初めてのデートらしい初々しい大学生のカップル・・を見送った私は、なんとなく落ち着かずそわそわと店内を歩き回った。
今日も時間外に来られるかしら・・・ それとも・・・
私は、また一人分の珈琲を淹れ始めた。 まるで、おまじないみたいに・・・
この珈琲を淹れ終わる頃、また彼が来てくれるかもしれない。 そんな祈りを込めて・・・
芳しい香りがあたりに漂い始めた頃・・・
カララン・・・コロロン・・ ドアチャイムが鳴った。
彼だ!
一瞬鼓動を止めた私の心臓が、煩いくらいに高鳴り始めた。
「いらっしゃいませ」 「いいですか?」
「はい、どうぞ・・・」 彼は急ぎ足で店内を歩くと、またカウンターの席に・・・私の真正面に座った。
「今日も遅刻だな」 そう笑いながら・・・・
胸の高鳴りと頬の紅潮を隠すように、私は氷を浮かべたお水を差し出した。
来てくれた・・・・ ただその事だけで、胸が一杯だった。
「日替わり珈琲を」 「はい。」
私はすでにポットの中で良い香りをたてているキリマンジャロを、真っ白なカップに注ぎいれた。
「どうぞ・・・」 そっとカウンターに置いた。
彼の大きな手がカップを包み込む。 その手を見ただけで、もう心が弾けそうになる。
もしかして・・・私・・・・彼の事が・・・・ たぶん・・・いえ・・きっと・・・
「ああ・・・美味しい・・・」 彼の声にはっと我に返る。
「こうしていると、今日一日の疲れが消えてゆく。」 「今日も・・・今日も忙しい一日だったんですか?」
私はありったけの勇気を振り絞って話しかけた。 彼はちょっと苦笑めいた笑みを浮かべた。
「時々・・・我ながらなんでこんな仕事をしているのかと思うことがあるけど・・・ カメラマンなんて一種の自由業みたいに思われているかもしれないけれど、実際のところは過酷な肉体労働って所かな。」
「そうなんですか?」
「ただ自由に自分の撮りたいものを撮るって言うわけにもいかない。 そうするためには、依頼された仕事を完璧にやり遂げなくてはいけない。 クライアントの要望にいかに応えるか、そして、依頼された事以上の結果をどうやって出すか・・・ そんな事を毎日必死でやっているかな。 仕事は僕一人でやっているわけじゃないからね。 チームとして動いている以上、まずそれができない事には、はじまらないから・・・・ それが出来て初めて、僕は自分の撮りたいものを自由に撮れるんだろうな。」
真摯な彼の口調に引き込まれるように聞いていたけれど、私のようなものには、きっと全ては理解できていないのだろう。
「何故、カメラマンに?」 彼の真剣な眼差しに、ついそんな事を聞いてしまった。
「うーーん・・・そうだな・・・」 彼少し考えたあと、一口珈琲を飲んで話し始めた。
「僕は寂しがりやなのかもしれないな。」 「寂しがりや?」
意外な言葉に、つい聞き返す。
「うん、例えば・・・今僕の飲んでいるこの珈琲、とっても美味しい。そう思ったら、誰かに伝えたくなる。 一緒にこの美味しさを分かち合いたい。 そんな感じで、僕が見た風景や人や物・・・・雄大な大地や息を呑むような夕焼け・・・美しい女性や深い目をした哲学者・・・カラフルなポップアートや繊細なガラス細工・・・それを見た感動を多くの人と分かち合い共有し共感したい。 だからカメラマンになったのかな。」
彼の言葉の一つ一つがまるで染み入るように心に届いた。
「素敵な・・・お仕事ですね。」 こんなありきたりの事しか言えない自分が情けなかった。
「美尋ssiの仕事だって素敵だ。こんな美味しい珈琲が淹れられる。」 「私は・・祖父の代理です。まだそんなに上手じゃないし・・・」
「司書にはどうして?」 さらりと聞かれたが、彼が私の仕事を覚えていてくれた事に驚きとときめきを感じた。
「単純に本が好きだっただけなんです。もっと言えば、本というより本のある空間が好きだったのかも・・」 「本のある空間?」
「ええ・・・なんていうか・・透き通るような静寂とインクの匂いと、ささやきのようなページを捲る音やさらさらとすべる鉛筆の音・・・ そんな図書館の空気が大好きで・・いつも図書館にいると陽だまりにいるような気持ちになって・・それでなんです。」
彼の動機に比べたらあまりに単純な自分に心底呆れた。
「僕も好きだったな・・・図書室・・・」 彼がふっと懐かしい目をした。
「学生時代、僕もよく図書室に行ったな・・・もっとも授業をサボったり、昼寝をしたり・・・ あまり本来の意味で使わなかったけど、でも、僕のあの独特の雰囲気が好きだった。」
そう懐かしげに言うと、彼はまっすぐ私を見た。
「なんだか、ここは図書室に似ているな。」
どきり・・・・
彼の眼差しに、私の心臓が狂ったように乱れ始める。
一瞬の沈黙
「そうそう、忘れないうちに・・・」 少し張り詰めた空気を破るように彼はまたバックから例のスケジュール帖を取り出した。
「今日も美味しい珈琲が飲めたから。」 たくさんの予定が書き込まれていた今日の日付のところに、小さな珈琲カップが描き足された。
可愛らしいイラストに思わず笑みが零れる。
「また・・・明日も来てもいいですか?少し・・遅くなるかもしれないけれど・・・」 「お待ちしています」
言葉が勝手に溢れ出た。
彼はにっこりと微笑むと「それじゃ、また明日」そう言って席を立った。
こうして私達の火曜日が終った。
to
be continued
(2007/05/01 Milky WayUP) |
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