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Milky Way Library
Milky Way Library(https://club.brokore.com/sunjyon)
「Hotelier」にインスパイアされた創作(written by orionn222)の世界です
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恋の雫
No 7 HIT数 1041
日付 2009/03/13 ハンドルネーム Library Staff
タイトル cafe chocolat on Thursday
本文
            『cafe chocolat on Thursday』




今日は木曜日

本日の日替わり珈琲はマンデリン

酸味の中に、深いコクが感じられる東洋テイストの珈琲

週末に向けて、こんな珈琲はいかが?


今日もまた早起きして、お店に来た。
掃除中、窓ガラスを磨きながらも、ふと手が止まる。

ぴかぴかに磨き上げ朝日を弾いているこのガラスが、夕焼けに染まりやがて夜の帳を下ろす頃、またジノssiに会えるかしら・・・・

何をしていても、ついジノssiの事を考えている自分に気付いて、我ながら呆れてしまう。

ほら、美尋
もうすぐお客様がいらっしゃるわよ。
急いで、急いで

私は、うーーんとひとつ背伸びをすると、カウンターでお客様をお迎えする準備を始めた。


やがて・・・

カララン・・コロロン・・・
ドアチャイムが楽しげな音をたて、お客様をお迎えする

「いらっしゃいませ、ヒロへようこそ」



そして・・・
また今日も忙しい一日が終った。

今日は、近くのホールで何かの会があったらしく、お洒落したたくさんのマダム達で午後は、目が回るほど忙しかった。

アルバイトのヒジンも「美尋ssi―――、マダム達の香水で、なんだか酔ったみたいー」って、ぐったりしていたっけ・・・

確かに、ちょっとまだ残り香が、あちこちに揺らめいているみたいだ。
これでは、珈琲の香りの邪魔になるわ・・・

私は、とっておきの・・・ジノssiの珈琲を淹れる前に、空気を入れ替えようと窓を開けた。

さぁ・・と新鮮な夜気が入ってきて、心地よく店内を通り抜けてゆく。

ふと通りを眺めると、ジノssiの車が見えた。
今日も来てくれた・・・
私は、はやる心を抑えて、急いで珈琲をセットした。

カララン・・・コロロン・・・

「こんばんは」
「いらっしゃいませ」

一陣の風を連れて、ジノssiがはいってきた。

「日替わり珈琲を・・・」
そう言いながら、ジノssiは、いつもの・・・・指定席のようになったカウンターの席に座った。

「はい・・・」
私は、薫り高い珈琲をそっとジノssiの前に置いた。

ゆっくりと最初の一口を味わうと、ジノssiの口から深いため息が漏れた。

「ああ・・・今日一日の疲れが融けてゆく・・・」
そこで、ジノssiは、くすっと笑った。

「なんだか、毎日同じ事を言ってるな。」
その言葉に私もくすっと笑った。

その時、そんな和んだ空気を切るように突然私の携帯がなった。

「すみません・・・」

私は、ジノssiにちょっと頭をさげて、カウンターの奥においてあった携帯を取った。

「もしもし・・」
「姉さん!」

「ジュンソ?」
「姉さーーん、助けてーー」

弟の情けない声が、受話器越しに響いた。

あまりに大声なので、ジノssiにも聞こえてるんじゃないかしら・・と気が気じゃない。

私は、小さな声で問い返した。

「ジュンソ、一体どうしたの?」
「来週から試験なんだけど・・・部屋はぐちゃぐちゃで、洗濯物は溜まってて、冷蔵庫は空っぽで、うわっ!ほこりの塊が天井からー」

「分ったから、もう、しょうがないわね」
「助かったーーー、で、いつ来てくれる?」

「明日、定休日だから行ってあげるわ。もう、本当にしょうがないわね」
「サンキューーー、あっ、それから姉さんの美味しい珈琲も飲みたいーー」

「デリバリーなら特別料金よ。」
「姉さんーー、可愛い弟の為なんだからさぁーー、よろしくー、じゃ、」

ガチャリ・・・

はぁ・・・全くジュンソったら、大学生にもなって、いつまで甘えるつもりかしら。
ため息をつきながら電話を切った私に、ジノssiが、笑いながら聞いてきた。

「弟さん?」
「ええ・・・聞こえてましたか?」

「うん」
ジノssiは、くすっと笑った。

「SOSみたいだね」
「弟・・ジュンソっていうんですが、大学に入って一人暮らしを始めたんですけど、未だにこうやって甘えてくるんです。」

「耳が痛いな」
ジノssiが苦笑いを零した。

「僕にも3つ違いの姉がいるんだけど、未だに甘えてばかりだ。ついこの前も食料を差し入れしてもらったばかりだし・・・」
「まぁ、ジノssiもですか?」

「うん・・・なんていうか・・弟はいくつになっても姉さんを頼りにしているって事かな」
「まぁ、随分と都合のいい話」

そう言うと、私達は一緒に笑った。

「お姉さんがいらっしゃるんですね」
私は気軽な気持ちで聞いた。

「うん。姉と・・・それから・・」
ジノssiはそこで言葉を止めた。

「・・・弟が・・いた。」

弟が・・・いた?
はっとジノssiを見る。

ジノssiは、頬杖を突くと、ちょっと遠い目をして黙り込んだ。
なんだか・・・余計な事を聞いてしまったかしら・・・
しばらくの沈黙の後、ジノssiはおもむろに口を開いた。

「弟は・・・チュニョンは、僕とは10歳も歳の離れた兄弟だった。生まれつき体が弱くて・・
でもとても明るくていつも前向きな子だった。」

ジノssiはそこで言葉を切ると、まっすぐに私を見た。

「前に、何故写真家になったのかと聞いたよね。」
「・・・ええ・・・」

「あまり外で遊べないチュニョンの代わりに、僕はたくさんの写真を撮って、それを見せながら、色んな話を聞かせたんだ。
ベッドで横になりながらも、チュニョンはいつも目を輝かせて聞いていた。
眠る時も、ベッドの上に僕の撮った写真を置いて、何度も何度も飽きずに眺めていた。
でも・・僕が大学生の時・・・亡くなった。」

亡くなった・・・・
あまりの事に、私は言葉を失った。

「今でも僕の撮る写真は弟への手紙なのかもしれない。」

弟さんへの手紙・・・・・

初めて見るジノssiの辛そうな悲しそうな表情に、私はただただ胸が締め付けられるだけで、何も言うことが出来なかった。

「この珈琲も、チュニョンと一緒に飲みたかったな。」
そう言うと、ジノssiはがらっと表情を変えて、にっこりと微笑んだ。

「だから、僕がチュニョンの分もたくさん飲みますよ。しっかり味わって、いつかチュニョンに話してやれるように・・・」
ジノssiはそっと珈琲カップを前に差し出した。

「お代わりを・・・」
「はい・・・」

私は、胸が一杯でそれしか言うことが出来なかった。

きりきりと痛む胸を押さえながら、ゆっくり丁寧に珈琲を淹れた。

真っ白なおおぶりのカップに一杯
少し小ぶりの淡いブルーのカップに一杯
二つのカップにそっと珈琲を注ぎいれると、ジノssiの前に置いた。

「どうぞ・・・」
ジノssiは、ゆっくりと珈琲を口にした。

「チュニョンが、苦いよ、兄さん・・って言ってる」
そう言うと、優しくちょっと切なげに微笑んだ。

それから、ジノssiは例のスケジュール帖を取り出すと、今日の日付のところに、また珈琲カップを描いた。

大きいのと小さいの・・・
今日は二つ描かれた。

「ありがとう。ご馳走様でした。」

席を立ったジノssiは、じっと私の顔を見た。

「昨日言っていた事、やっぱり本当だったね。」
「えっ?」

「ただ黙って聞いてもらっただけで、僕も満ち足りて笑顔で帰る事ができる。」
「ジノssi・・・・」

「また明日・・・って言いたいところだけど、明日はお休みでしたね。それじゃ、土曜日に・・・・」

遠ざかってゆく大きな背中を見送りながら、私の胸には数々の感情が渦巻いていた。

切なさ・・・愛しさ・・・ときめきや痛みや憧憬・・・

こうして私達の木曜日は終った。






                                                              to be continued




(2007/05/03 Milky WayUP)


 
 
 

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