容量 : 39M/100M |
メンバー |
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書き込み |
Total : 898 |
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No |
7 |
HIT数 |
1041 |
日付 |
2009/03/13 |
ハンドルネーム |
Library Staff |
タイトル |
cafe chocolat on Thursday |
本文 |
『cafe chocolat on
Thursday』
今日は木曜日
本日の日替わり珈琲はマンデリン
酸味の中に、深いコクが感じられる東洋テイストの珈琲
週末に向けて、こんな珈琲はいかが?
今日もまた早起きして、お店に来た。 掃除中、窓ガラスを磨きながらも、ふと手が止まる。
ぴかぴかに磨き上げ朝日を弾いているこのガラスが、夕焼けに染まりやがて夜の帳を下ろす頃、またジノssiに会えるかしら・・・・
何をしていても、ついジノssiの事を考えている自分に気付いて、我ながら呆れてしまう。
ほら、美尋 もうすぐお客様がいらっしゃるわよ。 急いで、急いで
私は、うーーんとひとつ背伸びをすると、カウンターでお客様をお迎えする準備を始めた。
やがて・・・
カララン・・コロロン・・・ ドアチャイムが楽しげな音をたて、お客様をお迎えする
「いらっしゃいませ、ヒロへようこそ」
そして・・・ また今日も忙しい一日が終った。
今日は、近くのホールで何かの会があったらしく、お洒落したたくさんのマダム達で午後は、目が回るほど忙しかった。
アルバイトのヒジンも「美尋ssi―――、マダム達の香水で、なんだか酔ったみたいー」って、ぐったりしていたっけ・・・
確かに、ちょっとまだ残り香が、あちこちに揺らめいているみたいだ。 これでは、珈琲の香りの邪魔になるわ・・・
私は、とっておきの・・・ジノssiの珈琲を淹れる前に、空気を入れ替えようと窓を開けた。
さぁ・・と新鮮な夜気が入ってきて、心地よく店内を通り抜けてゆく。
ふと通りを眺めると、ジノssiの車が見えた。 今日も来てくれた・・・ 私は、はやる心を抑えて、急いで珈琲をセットした。
カララン・・・コロロン・・・
「こんばんは」 「いらっしゃいませ」
一陣の風を連れて、ジノssiがはいってきた。
「日替わり珈琲を・・・」 そう言いながら、ジノssiは、いつもの・・・・指定席のようになったカウンターの席に座った。
「はい・・・」 私は、薫り高い珈琲をそっとジノssiの前に置いた。
ゆっくりと最初の一口を味わうと、ジノssiの口から深いため息が漏れた。
「ああ・・・今日一日の疲れが融けてゆく・・・」 そこで、ジノssiは、くすっと笑った。
「なんだか、毎日同じ事を言ってるな。」 その言葉に私もくすっと笑った。
その時、そんな和んだ空気を切るように突然私の携帯がなった。
「すみません・・・」
私は、ジノssiにちょっと頭をさげて、カウンターの奥においてあった携帯を取った。
「もしもし・・」 「姉さん!」
「ジュンソ?」 「姉さーーん、助けてーー」
弟の情けない声が、受話器越しに響いた。
あまりに大声なので、ジノssiにも聞こえてるんじゃないかしら・・と気が気じゃない。
私は、小さな声で問い返した。
「ジュンソ、一体どうしたの?」 「来週から試験なんだけど・・・部屋はぐちゃぐちゃで、洗濯物は溜まってて、冷蔵庫は空っぽで、うわっ!ほこりの塊が天井からー」
「分ったから、もう、しょうがないわね」 「助かったーーー、で、いつ来てくれる?」
「明日、定休日だから行ってあげるわ。もう、本当にしょうがないわね」 「サンキューーー、あっ、それから姉さんの美味しい珈琲も飲みたいーー」
「デリバリーなら特別料金よ。」 「姉さんーー、可愛い弟の為なんだからさぁーー、よろしくー、じゃ、」
ガチャリ・・・
はぁ・・・全くジュンソったら、大学生にもなって、いつまで甘えるつもりかしら。 ため息をつきながら電話を切った私に、ジノssiが、笑いながら聞いてきた。
「弟さん?」 「ええ・・・聞こえてましたか?」
「うん」 ジノssiは、くすっと笑った。
「SOSみたいだね」 「弟・・ジュンソっていうんですが、大学に入って一人暮らしを始めたんですけど、未だにこうやって甘えてくるんです。」
「耳が痛いな」 ジノssiが苦笑いを零した。
「僕にも3つ違いの姉がいるんだけど、未だに甘えてばかりだ。ついこの前も食料を差し入れしてもらったばかりだし・・・」 「まぁ、ジノssiもですか?」
「うん・・・なんていうか・・弟はいくつになっても姉さんを頼りにしているって事かな」 「まぁ、随分と都合のいい話」
そう言うと、私達は一緒に笑った。
「お姉さんがいらっしゃるんですね」 私は気軽な気持ちで聞いた。
「うん。姉と・・・それから・・」 ジノssiはそこで言葉を止めた。
「・・・弟が・・いた。」
弟が・・・いた? はっとジノssiを見る。
ジノssiは、頬杖を突くと、ちょっと遠い目をして黙り込んだ。 なんだか・・・余計な事を聞いてしまったかしら・・・ しばらくの沈黙の後、ジノssiはおもむろに口を開いた。
「弟は・・・チュニョンは、僕とは10歳も歳の離れた兄弟だった。生まれつき体が弱くて・・ でもとても明るくていつも前向きな子だった。」
ジノssiはそこで言葉を切ると、まっすぐに私を見た。
「前に、何故写真家になったのかと聞いたよね。」 「・・・ええ・・・」
「あまり外で遊べないチュニョンの代わりに、僕はたくさんの写真を撮って、それを見せながら、色んな話を聞かせたんだ。 ベッドで横になりながらも、チュニョンはいつも目を輝かせて聞いていた。 眠る時も、ベッドの上に僕の撮った写真を置いて、何度も何度も飽きずに眺めていた。 でも・・僕が大学生の時・・・亡くなった。」
亡くなった・・・・ あまりの事に、私は言葉を失った。
「今でも僕の撮る写真は弟への手紙なのかもしれない。」
弟さんへの手紙・・・・・
初めて見るジノssiの辛そうな悲しそうな表情に、私はただただ胸が締め付けられるだけで、何も言うことが出来なかった。
「この珈琲も、チュニョンと一緒に飲みたかったな。」 そう言うと、ジノssiはがらっと表情を変えて、にっこりと微笑んだ。
「だから、僕がチュニョンの分もたくさん飲みますよ。しっかり味わって、いつかチュニョンに話してやれるように・・・」 ジノssiはそっと珈琲カップを前に差し出した。
「お代わりを・・・」 「はい・・・」
私は、胸が一杯でそれしか言うことが出来なかった。
きりきりと痛む胸を押さえながら、ゆっくり丁寧に珈琲を淹れた。
真っ白なおおぶりのカップに一杯 少し小ぶりの淡いブルーのカップに一杯 二つのカップにそっと珈琲を注ぎいれると、ジノssiの前に置いた。
「どうぞ・・・」 ジノssiは、ゆっくりと珈琲を口にした。
「チュニョンが、苦いよ、兄さん・・って言ってる」 そう言うと、優しくちょっと切なげに微笑んだ。
それから、ジノssiは例のスケジュール帖を取り出すと、今日の日付のところに、また珈琲カップを描いた。
大きいのと小さいの・・・ 今日は二つ描かれた。
「ありがとう。ご馳走様でした。」
席を立ったジノssiは、じっと私の顔を見た。
「昨日言っていた事、やっぱり本当だったね。」 「えっ?」
「ただ黙って聞いてもらっただけで、僕も満ち足りて笑顔で帰る事ができる。」 「ジノssi・・・・」
「また明日・・・って言いたいところだけど、明日はお休みでしたね。それじゃ、土曜日に・・・・」
遠ざかってゆく大きな背中を見送りながら、私の胸には数々の感情が渦巻いていた。
切なさ・・・愛しさ・・・ときめきや痛みや憧憬・・・
こうして私達の木曜日は終った。
to
be continued
(2007/05/03 Milky WayUP)
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