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書き込み |
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No |
8 |
HIT数 |
1065 |
日付 |
2009/03/13 |
ハンドルネーム |
Library Staff |
タイトル |
cafe chocolat on Friday |
本文 |
『 cafe chocolat on
Friday』
今日は金曜日
週に一度のお店の定休日。
久しぶりにゆっくり朝寝坊でもしたいところだけど・・・
昨日弟からSOSの電話が入った。
しょうがないわねぇ・・・
私はベッドから起き上がると、弟の為に差し入れの用意を始めた。
えっと・・・珈琲も欲しいって言ってたわね・・・
全く・・・いつまでたっても子供で甘えん坊のジュンソには、物凄く酸っぱいモカでも淹れようかしら・・・ それともとびっきり苦い深炒りのマンデリン?
とはいえ・・・・
試験勉強中に、きっとがぶ飲みするに違いない。
やれやれ・・・・
私は、胃に優しいオリジナルブレンドを選んで淹れはじめた。
なにか差し入れでも・・と、料理を始めながら、昨日のジノssiの言葉を思い出す。
ジノssiも・・・こんな風にお姉さんに甘えているのかしら・・・
ふっと頬に浮かんだ微笑が、そのまま固まった。
弟さんの事を語ったジノssiの辛く悲しい横顔が浮かんできて・・
深くて切ないジノssiの声が甦ってくる。
・
・・今でも僕の撮る写真は弟への手紙なのかもしれない・・・
だから・・・・
だから、ジノssiはカメラマンになったのかしら・・
はぁ・・・
もう!ジュンソったら、人使いが荒いんだから・・・・
私は地下鉄に揺られながら、疲れた体をそっと撫でた。 片道2時間をかけて、弟の下宿先に行ってみれば、目も当てられないような惨状・・・
掃除機をかけて、拭き掃除をして、洗濯をしてキッチンに積み上げられた洗い物をして・・・ お風呂、トイレ、ベランダ、玄関まわり・・・
一通りを終える頃には、すっかり日が傾いていた。
ジュンソときたら・・・ ちゃっかり差し入れの料理を平らげて、食後の珈琲を満足げに飲んでいるだけ・・・
「助かったーーーー、命拾いしたよ。姉さん」 そう言ってにっこり笑われると、しょうがないわね・・ってつい許してしまう。
全く・・・上手なんだから・・・
夕食を作って部屋を後にする頃には、もう夕暮れになっていた。
「それじゃ、ちゃんとこのままをキープしてよね。」 そう釘をさして帰ってきたけれど・・・
一月もしないうちに、またSOSの電話をしてくるに違いない。 私は地下鉄の階段を登りながら、ふぅ・・とため息をついた。 バス停へ向かいながら通りかかった書店の前で、ふと足を止める。
もしかしたら・・・・
私は、書店に入ると写真雑誌のコーナーへと足を運んだ。
何か・・・・どこかの雑誌にでもジノssiの写真が載っていないかしら・・・
そんな思いを込めて、ちらちらと写真雑誌を見ている私の目に「チャン・ジノ」という文字が飛び込んできた。
月刊ニューライフ チャン・ジノ特集 急いで手にとってページを捲る。
『今最も注目を集める新進気鋭の写真家 チャン・ジノ 彼の世界を総力特集』とあった。 そして、ページを捲った私の息が一瞬止まった。
そこには・・・ 抜けるような青空・・・・
目の覚めるようなスカイブルーが一面に広がり、きらきらと陽の光が反射して、白い雲がふわりと泳いでいる。
それは見ているだけで、爽やかな気持ちになってくるような写真だった。
次のページは・・・ 息を呑むような雄大な夕焼け
広大な大地を焼いて、あたり一面を真っ赤に染めながら沈んでゆく太陽・・・・ なんだか壮大な気分になる。
その次のページには・・・ 道路の小さな水溜りに写った可愛らしい子猫の写真
それから・・・・ 深い皺の刻まれた外国の漁師、絢爛豪華で荘厳な教会、エキゾティックなモスクの前でチャドルを被った少女、最先端のファッションに身を包んだトップモデル、路地裏でサッカーに興じる泥だらけの少年達・・・・
次々とページを捲る私の目は釘付けだ。
凄い・・・なんていうか・・・
上手くいえないけれど、見ている者の心をすっと引き込んで、まるで自分がそこにいるかのような気持ちにさせてくれる・・
そして、その写真の向こう側に・・・写っていないものまでにも思いを巡らせ、想像の翼を広げて飛んで行きたくなる。
そんな写真の数々だった。
写真の事はよくわからないし、技術的な事は全く知らない。 それでも・・・ジノssiの写真は、何度も何度も見返してみたくなるような写真だった。
感動に震える指で次のページを捲ると、有名な女優さんの写真があった。
芸能界にあまり詳しくない私でも知っている人だ。
凄いわ・・・・こんな人ともお仕事されているのね・・・
この女優さん・・・アン・ヨンヒssiは、確か先日何かの映画の制作発表をしていなかったかしら・・・
えっと・・・・ああ・・きっとヒジンなら知っているわね。 私は自らミーハーを名乗るアルバイトのヒジンを思い出してくすっと笑った。
ジノssiは、その映画のスチール写真を撮ったみたいだ。
真っ赤な絹の海に沈みこむように、上半身裸で・・・・もっとも大切な部分はシルクで巧みに覆われている・・・誘いかけるような瞳で写っているヨンヒssiは、女性の私でもドキっとするくらいセクシーで綺麗だ。
でも、猥雑な感じは微塵もなく、とってもノーブルだ。
この女優さんって、こんなに綺麗だったかしら・・ ついそう思って何度も見返してしまうくらい、美しさが際立っていた。
そこには、ヨンヒssiのインタビュー記事も掲載されていた。
『ジノssiとの撮影はとっても自然で心地いいものです。 意味のない騒々しさや、軽々しい褒め言葉、そんなものは一切なく、とてもナチュラルでリラックスできる空気の中で撮影するんですけれど、 まるで大自然の中にいるみたいで、自分を開放できますね。』
記事の合間に掲載されている写真の数々・・・ ジノssiが撮ったものね・・・・ どれも、とっても自然で綺麗だわ・・・・
『今回映画のスチール写真を撮ってもらいましたが、女優としてまた新しい一面をお見せできたのではないかと思います。 いずれ写真集を出したいと思っていますので、是非ジノssiに撮っていただきたいですね。』
映画・・・・女優さん・・・写真集・・・
私が知らなかっただけで、ジノssiは、実はとっても高名な写真家だったのかもしれない・・・
そう思って、目を転じてみると、聞いたことのある写真誌ファッション誌のあちこちにジノssiの名前があった。
チャン・ジノの撮るパリコレ オーストラリアの魅力総力特集 撮影チャン・ジノ 神秘の宗廟 photo by
チャン・ジノ
ぱたん・・・私は手に取った写真誌の数々をそっと棚に戻した。
なんとなく、心がざわめく。 ジノssiの事を、もっと知りたいような、知りたくないような・・・
でも・・・
私は躊躇いながらも、1冊・・・「空の写真館」と題された写真集を手にした。
四季折々の空、朝焼けから漆黒の夜空までをジノssiを含む数人の写真家達が撮った写真集だ。
写真集を手に家路を辿りながら、私は夜空を見上げ遥か遠くの星々を眺めた。
急に・・・・ジノssiと私の距離が遠くなったように感じた。 毎晩、カウンターのこちらと向こう側・・
手を伸ばせば届く距離にいたけれど・・・実は私とジノssiの距離は冥王星より海王星よりも遠いのかもしれない・・・・
近くで輝いているように思えても、その存在は遥か彼方のあの星々のように・・
寝る前に、ミルクたっぷりのカフェオレを手に、キッチンの窓枠に寄りかかりながら、遠くに輝く星を見上げる。
ジノssiが撮った夜空に似ている・・・ まるで夜空を焦がす流星のように、熱いカフェオレが胸まで焼いて流れていった。
こうして、私の・・金曜日は終った。
to
be continued
(2007/05/04 Milky WayUP) |
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