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B.S.J.
B.S.J.(https://club.brokore.com/bsj)
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四月の雪せつなさ大賞!
四月の雪せつなさ大賞!
No 62 HIT数 2325
日付 2005/04/28 ハンドルネーム ottokke
タイトル 四月の雪(缶もとい、完)
本文 急のにわか雨のせいで、売店の傘は残り一本だけだった。
「それ一本ください」
と、言ってインスは傘を受け取り、小銭を店主に渡す。
傘の中でソヨンとインスは寄り添いながら見事に咲きそろった満開の桜を見上げる。
「透明だったらよかったのにね」
二人は見上げて少し笑った。
緑色のビニール傘を通してみる桜はくすんだグレーをしていた。

桜が咲く頃の気温は変わりやすい。
傘に落ちてくる雨の音が少し静かになった。
見上げると花びらのように空からひらひらと落ちてくるのは雪だった。
暖かい春に降る水分を多く含んだおおきな花びら。
それは緑色の傘に落ちると水になって流れた。
白い雪も薄いピンク色の花びらも緑色の傘の下からでは同じグレーに見える。
とけて水になれば雪、傘の上に貼り付いていくのは花びら。

花見をしていた人々は急に降り出したみぞれにあわてて持ち物をまとめ、
屋根の下に走る。慌ただしく人が行き交う中で二人はそこを動かずに
桜を見上げていた。
雪が本格的に降り始めた桜の下で二人は時間を止めようとするかのように
じっと桜とも雪ともいえない、あとからあとから落ちてくるものを動かずに見上げていた。
ずっと見上げていると自分が空に吸い込まれるような錯覚を覚える。
ソヨンはその錯覚で体のバランスを崩しインスに支えられた。
二人はそのまま抱き合うような姿勢のままやっぱりその場にいた。
動きたくなかった。



              *

「忘れもの、ちゃんとしてきました?」
とインスに言われ、ソヨンは「あなたこそ今日は大丈夫?」と返した。

タイムアウトと称して二人はたびたび気分転換に病院の外に出た。
それは、近くのドラッグストアに買い置きのタオルや石けんを買い足しにいったり、
駅前の屋台におでんをつつきにいったりと言った他愛のないものだった。
ソヨンと接していると気持ちがほぐれていくことをインスははっきりと自覚していた。
自分のみっともない姿もさらけ出してしまったし、
今更気取って接する必要もないのでありがたかった。
なによりお互いに置かれた境遇の、一番の理解者であった。

それぞれに、職場の同僚や主婦仲間などの見舞客が病院を訪ねてくれることが何度かあったが、
皆、当たり障りのない会話を選び慎重に接してくる。しかし、優しくかけてくれる言葉の影に好奇の目がまざまざと感じられてうんざりしていた。
そんなときに、タイムアウトという現実逃避が二人にとっては必要だった。

ドラッグストアからの帰りに通りがかった公園から桜の大木が見えた。
「きれいねー、まだ五部咲きくらいかしら?」
「見てきましょうか」
車を道の端に止めると二人は桜の大木へと歩いた。
まだ風は冬の温度を十分に残していて冷たかったが、陽の暖かさは確実に春だった。
子供が数人自転車を乗り回し、元気いっぱいに笑っている。
通りからは真ん中の大木一本しか見えなかったが公園の中には他にも桜の木が
何本か花をひらき始めている所だった。
「全部咲いたら綺麗でしょうね。」
・・・・・・・?
振り返るとインスの姿が見えない。
あたりを伺ってみると、少し離れた遊歩道の向こうからインスが
ソフトクリームを両手に持って戻って来た。
「・・・・・・・」
ソヨンは怪訝な顔をしながら一つを受け取る。
「ひょっとして嫌いですか?」
とインスは顔を見る。
好きとか嫌いとかそう言う問題ではない、この気温でこの風の中、このヒトはいったい何を考えているのだろう?という目である。
それを悟ったインスは「車の中から花見っていうのはどうですか?暖房つきです」
と提案してみる。
「そうしていただけます?」とソヨンは笑いながらいった。いい顔だ、とインスは思った。
やっぱりガラスを通してみる外の景色のほうが二人にはまだ居心地よかった。
車のエアコンに加え、外の明るい日差しで車内の温度はすぐに暖まった。
「ほら、ソヨンさん、融ける融ける、早く!」とソヨンの手元を指差した。
ソヨンはあわてて食べる速度をあげ、「いったーーーぃ」と眉をひそめた。
こめかみに電気が走る。
インスは笑いながらソヨンの押さえているこめかみをさすってやる。
と、今度はインスのほうのソフトクリームが流れて・・・・
春の昼下がり、車の中の二人は、端からから見ると中のよいカップルのように
楽しそうだった。
よくみるとソヨンは涙を目にいっぱい溜めながら笑っていた。
やがてそれはとどまっていられないほど重くなり、ほほをつたって流れた。
あとからあとから流れる涙を拭くこともしないで
ソヨンは声をころがして笑い続け・・・・そして、しまいに泣いた。
笑ったの久しぶりです。と、横を見た。
インスは微笑みながら黙ってうなずき、
そっとソヨンを自分の方に引き寄せて抱きしめた。
ぽたぽたと流れ落ちるソフトクリームもそのままに
ソヨンはインスのあたたかい腕の中で
自分の早鐘のようになる鼓動が聞こえてしまうのではないかとはらはらした。
・・・・車内にはバニラの甘い香りがただよっていた。

突然の機械の振動がバニラの香りを断ち切った。
インスの携帯だった。
「キム・インスさんですね?こちら市立病院の外科病棟です。
今、奥様が目を覚まされました。もしもお近くにいらっしゃいましたら病室にお戻りいただけますか?ご本人が会いたいとおっしゃっています」
・・・・・・・・・・
電話の向こうの声はそばにいるソヨンにもはっきりと聞こえた。
「忘れ物」が電話の声によってインスに全て届けられた。
妻が意識を取り戻した・・・・・・・・
ご本人が会いたいと・・・・・
頭の中で繰り返しながらインスは運転席の背もたれによりかかり目を閉じた。
どうしたらよいのかが全くわからなかった。





           *

雪の舞う桜の木の下で
ソヨンはインスの息が白く宙にまぎれるのをぼんやりとみていた。
あたたかくがっしりとした腕に包まれて。
気が遠くなりそうになる。
インスは一人で立っていられなくなっているソヨンの
壊れそうに細く柔らかな体を支えてやりながらやりきれない表情になる。
長い髪から冷たいしずくが流れ、インスの手をつたう。

・・・・・・これで最後。
明日から、というより、今、この桜の木の下を出たら二人は
もうタイムアウトの時間がきれる。
自分を頼りに生きていこうとする、それぞれの連れ合いが待つ家へと戻らなくてはならなかった。

ふと、ほんの一瞬、
感触も、肌のぬくもりも伝わらないような
小さなやさしいキスをソヨンにするとインスは傘の外に走り出した。
振り返れなかった。

ソヨンは、・・・ソヨンは倒れずにいた。緑色の傘を両手にもって
足はしっかりと地面をとらえ一人で立つことが出来た。


・・・・・そして、誰もいない公園の桜の木の根元に、

一本の緑色の傘が忘れ物のように置き去りにされていた。

そこからは二本の足跡がべつべつの方向に点々と続いていた。





おそまつ
*******************
三話かいてしまったらなんとなくヨン話にしたいじゃないですか?(笑)
で、最後のシーンまで書いてしまいました。
妄想劇場「なんちゃって四月の雪」・・・・・
辛抱強くお付き合いくださいました、お心の広い皆様、ありがとごじゃいます。

こんな話はそれこそどっかの木の根元に置いといて
本物の映画を楽しみにしましょうね~!
どんなインスに会えるのか、今から泣きそうです。
 
tarutaru
ジーンときました。ラストが本編と同じだったら、どうします?と心配になりました。すっごく良かったです。 2005/05/01 07:49
vanvan
ぐいぐい引き込まれて読ませて頂きました。はぁ~せつない。素敵なラストシーンです。 2005/04/30 09:29
josefine
ottokkeさん、ヨン部作にとっても癒されました。切ない気持ちには、切ないストーリーがよく効きます。気持ちが桜色になりました。 2005/04/30 01:57
josefine
私も雨の空見上げると、クラクラします。がっしりとした腕に包まれて、気が遠くなりたい・・・! 2005/04/30 01:54
ottokke
みなさま、妄想劇場におつきあい頂き、・・お疲れさまです。しかし作り話は難しい、アホスレがいかに楽かを改めて知りました。 2005/04/30 01:08
daisukibyj
満開の桜に雪が舞うなんてほんとに綺麗!ヨン話最高です!ottokkeさんのインスの絵も早くみたいです。 2005/04/30 00:32
トッポッキ
撮影撮り直しになるかも・・・妄想ピークに達しました。 2005/04/29 23:55
トッポッキ
撮影撮り直しになるかも・・・思わぬ方向に行く予感( 2005/04/29 23:51
ayu4
ottokke師匠の劇場楽しかったです。お疲れ様でした~。ヨン話でガッチリとハート捕まれました。実際も桜が登場すると良いな~♪ 2005/04/29 23:19
roses
おみごと~!!パチパチパチ!監督にこのネタそのまま送りたい~! 2005/04/29 10:49
ogako
余韻の残る最後の別れ・・。互いを思いあう優しさがほんとに切なく胸を打ちます。お見事! 2005/04/29 10:03
nirin
四月の雪、桜、公園、ソフトクリーム、緑色の傘、小道具がきいています。インス対する思い入れも。 2005/04/29 08:43
purinnssi
え~ん 四部作だったのですね。 桜と雪と インスとソヨンと とても綺麗で とても切ない。 2005/04/29 01:35
mike86
シーンが目の前に浮かんできますよね~ほんとにお見事です! 2005/04/29 00:24
moondrops
すごい・・・です。頭の中にしっかりとシーンが見えました。拍手~☆ 2005/04/29 00:03
ゆこまる
おみごと!切なさ大賞というより、監督にこの4部作で1本映画を撮っていただいたら? 2005/04/28 23:18
 
 

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