スジニが、ホゲのスポーツカーに乗って
出かけるところを目撃したパソンは、大騒ぎ。。。
「スジニが大変だ~。 何があったのか確かめなくちゃね。」
パソンは、商店街の中を走り、
肉屋のチュムチに声をかけた。
「チュムチ、見たかい? スジニが大変だよ。 今夜は、居酒屋『玄武』に集合だよ。」
「パソンの姉御、俺もさっきスポーツカーを 見たよ。スジニの隣で運転していた奴は この辺の奴じゃないなぁ。 どこの金持ちのぼんぼんだろう・・・?」
「そっか、チュムチも見たんだね。 スジニは、大丈夫かねぇ。」
「おう。。。スジニが心配だ。 無茶なことしなきゃいいけどよ。。。 パソンの姉御、今夜は『玄武』に集合だな。」
「チュムチ、じゃあ、あとでな。」
パソンは、肉屋の隣の魚屋のチョロにも
声をかけた。
「チョロ、あんたもさっきの見たかい? スジニが大変なんだ。 今夜は居酒屋『玄武』に集合しておくれ。」
「パソンの姉さん、僕もさっき目撃して びっくりしました。 スジニはいつの間に、あんな奴と 知り合ったんだろう? 了解!『玄武』に集合ですね。」
「ああ、やっぱりチョロも見たんだね。 『玄武』に集まっとくれ。 何がどうなっちゃったのか、 スジニに聞かなきゃ、落ち着かないよ。 あれでも、一応年頃の娘なんだからねぇ。。。 おっと、油ばかり売ってちゃ 商売にならないねぇ。 さぁさ、仕事、仕事・・・。」
パソンは、そう言うと、
軽トラックに乗り、
パシッ!っと、ドアを閉めて
エンジンをかけて、配達に出かけた。
その頃、スジニは、閑静な住宅街の中にある
一軒家を改装したお洒落なフランス料理の
レストランの中にいた。
ホゲと向かい合わせに座り、
メニュー表を眺めていた。
ホゲがスジニに話しかける。
「スジニちゃん、決まったかな?何を食べたい?」
「あのぅ。。。私、ホゲさんと同じもので・・・。」
「そう。何か飲む? 僕は車の運転があるから、アルコールは飲めないけど、 ワインとか頼もうか?」
「え、ええ。。。それじゃ、ワインをちょっとだけ。。。」
「グラスワインでいいかな? それとも、ハーフボトルにする?」
「じゃあ、グラスワインを。。。」
ホゲは、ウエイターを呼ぶと、
メニュー表を見ながら、慣れた様子で注文していく。
しばらくして、グラスワインと前菜が運ばれてきた。
「スジニちゃん、遠慮しないでたくさん食べてよ。」
「はい。じゃあ、いただきます。」
スジニは、慣れないフォークとナイフを持って
最初は少し緊張しながら食べていたが、
グラスワインをくいっと飲み干すと
手の甲で口元をさっと拭いて、
パクパク、ガツガツと食べ始めた。
スジニの食べっぷりに、ホゲは食べるのをやめて
見とれていた。
料理を食べずにスジニを見ているホゲに
気づいたスジニは、手を止めて
ホゲを見つめた。
「あの、何か・・・?」
すると、
ホゲが「プッ」と吹き出して
「アハ、ハ・・・。 君は面白い子だね。 僕の周りにはいないタイプだよ。」
「そうですかぁ。。。」
「スジニちゃん、面白いよ。」
ホゲは、飾り気のないスジニを見ていると
心が和んでいくのを感じていた。
「食べ足りなかったら、追加注文するけど、どう?」
「じゃあ、パンとお肉をもう少し。。。」
「OK。パンと肉料理追加だね。 ワインはいいのかな?」
「はい、夕方から仕事ですから、 やめておかないと怒られちゃいます。」
ホゲは、片手を軽く挙げて
ウエイターを呼ぶと
スジニのために追加注文をした。
それから、ホゲは豪快な食べっぷりの
スジニを楽しそうに眺めていた。
デザートとコーヒーもしっかりと
おなかにおさめたスジニは
「ホゲさん、ごちそうさまでした。」
と言った。
「おなかいっぱいになったかな? 見事な食べっぷりだったな。 おごりがいがあるよ。 じゃあ、そろそろ出ようか? 店まで送るよ。」
「お洒落なフランス料理なんて 初めてなんで、 つい食べすぎちゃいました。 あのぅ、店の前に横付けだと あのスポーツカーだと 目立っちゃうんで 商店街の近くで降ろしてください。」
「そっか。じゃあ、そうするよ。」
ホゲは、さっと伝票を持つと
会計に向かう。
財布からブラックカードを取り出して
スマートに会計を済ませて、
「スジニちゃん、行こうか。」
と声をかける。
「はい。本当に今日はごちそうさまでした。」
スジニは、商店街の手前で
ホゲのスポーツカーから降りると、
「ホゲさん、うちの店にまた来てくださいね。 お待ちしてます。 じゃあ、気をつけて。。。」
「ああ、スジニちゃん、今日は楽しかったよ。 ありがとう。 また飲みに行かせてもらうよ。 またね。」
スジニはホゲのスポーツカーを
見送ると居酒屋『玄武』に戻った。
そっと裏口のドアから中に入る。
スジニが帰った事に気づいたヒョンゴが
スジニに声をかける。
「スジニお帰り。 どこ行っていたんだ? 俺が買出しに行ってる隙に 誰かと遊んできたな。」
「あっ、師匠ただいま。 ちょっとお昼ご飯食べてきただけだよ。」
「おお、そうか。それならいいが、 おまえ、何か隠してないか?」
「えっ。。。別に何もやましいことしてないし。 師匠に報告するほどのことは何も。。。」
「そうかな。。。」
その日の夜、商店街の面々が
居酒屋『玄武』に集まり
カウンター席に陣取って
酒を飲んでいる。
パソンがスジニを問い詰める。
「スジニ、正直に答えなよ。 みんな、あんたのこと心配してたんだからね。」
「パソンオンニ、わかったよ。 みんなも心配しすぎだよ。 ただお昼ごはんをおごってもらった だけだから、やましい事何にもしてないよ。 本当だからね。」
パソンの隣で焼酎を飲んでる
チュムチもスジニに問いかける。
「スジニ、どこのお金持ちのぼんぼんだい? いつの間にあんな奴と知り合ったんだ?」
「いつの間にって。。。 常連のタムドクさんのお連れさんで ホゲさんって言うんだけど、 昨日携帯電話を店に忘れていったんだよ。 それで、今日ここに取りに来たんで 渡しただけなんだけど。。。 お昼ご飯をおごってくれることになっちゃって。。。」
「携帯電話を返しただけで、お昼をおごるって 下心あるんじゃないのかい?」
とパソンが突っ込む。
「オンニ、別にそんな風には見えなかったけど。 あっ!正確には朝昼兼だからブランチなんだ。」
「スジニ、軽すぎだよ。 いくらいい人に見えても 男なんて、みんな狼なんだから 気をつけなよ。」
「そうかなぁ。。。」
「うん、うん、パソン姉さんの言うとおりだよ。 スジニちゃんは、もっと気をつけなきゃ。 隙がありすぎるから、心配だな。」
と、チュムチの横で飲んでいたチョロも
スジニに忠告する。
「みんな、心配してくれてありがとう。 これからは、気をつけるよ。 でもさ、ホゲさんって、本当にすごい お金持ちなんだよ。 ブラックカード持ってるんだもん。」
「こら、スジニ、お金持ちになびくんじゃないぞ!」
カウンターの中で話を聞いていたヒョンゴが
隣にいるスジニの頭に
”ゴツン!”と一発
ゲンコツを落とした。
「うっ!痛いなぁ。師匠。ごめんなさ~い。」
「そうだよ、スジニ、お金持ちに憧れるのは わかるけどさ、所詮私らとは住む世界が 違うんだからさ、遊ばれて捨てられるだけだよ。」
「パソンオンニ、そうだね。わかったよ。 反省してます。。。」
「わかりゃいいんだよ。スジニ。 この話はこれでおしまいにしよう。 さあ、今夜は飲むよぉ~。 ほれ、焼酎追加だよ。 スジニ早く持っておいで。」
「はい。はい。」
居酒屋『玄武』でスジニの話題を肴に、
盛り上がってる頃、タムドクは、
自宅のリビングのソファーに座り
缶ビールを飲んでいた。
タムドクは、父が病室でつぶやいた言葉を
思い出していた。
キハのことを気に入ってる父が
「おまえのそばにいてくれたら、 わしは、安心なんだがな。。。」
と言った言葉が、
頭の中でぐるぐると回っている。
キハを想う自分の気持ちを
素直に父に言えなかった自分が情けなかった。
空手の稽古の後に勇気を振り絞って、
キハを食事に誘ったけれど、
キハへの想いを今度の食事の時に
言えるだろうか・・・?
これから先も、ずっとそばにいてほしいと言ったら、
キハは受け入れてくれるだろうか?
タムドクは、夕方、空手道場を出て行く時の
キハの笑顔を思い出しながら、
缶ビールを飲み干した。
そして、ノートパソコンを開くと
水曜日に食事する店を調べ始めた。
その時、タムドクの携帯電話のメールの
着信音が静かなリビングに響いた。
タムドクが携帯電話を開くと
ホゲからメールが届いていた。
『今日、面白い子とブランチしたよ。 詳しいことは、また今度教えるよ。』
なんだろう?
タムドクは、手短に返事を打った。
『ホゲ、また新しい彼女ができたのか? 楽しそうでいいな。また今度な。』
その時、スジニは居酒屋『玄武』のカウンターの中で、
”くしゅん!”と小さなくしゃみをした。
~つづく~
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